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TPP参加を必ず阻止する!
前農林水産大臣・山田正彦×立教大学教授・郭洋春
http://gekkan-nippon.com/?p=3013
『月刊日本』3月号
TPPは農業だけの問題ではない。食品や医療、保険、果ては自動車の安全基準まで、それは国民生活に直結する問題である。TPPに参加すると日本は一体どうなるのか。それには米国とのFTAに批准した、お隣の国・韓国の現状が参考になる。本稿では、前農林水産大臣の山田正彦議員と、アジア経済の専門家である郭洋春・立教大学教授に、韓国経済の実情も踏まえてTPPについて多面的に語っていただいた。
アメリカ国民の大半がTPP反対だ
―― 1月8日、山田議員は「TPPを考える国民会議」米国調査団の団長として訪米し、アメリカ政府関係者や業界団体らとTPPについて情報交換をされた。アメリカではTPPについてどのように考えられているのか。
【山田】 まず、はっきりと申し上げておく必要があるが、民主党政府はTPPに参加するとは表明していない。あたかも日本がTPPに参加することが決定事項であるかのごとく国内や海外で報道されているが、それは間違っている。
野田総理も国会で、交渉参加を前提としない事前協議であると述べている。しかも、国会議員の365人がTPP反対の国会請願を出している。おそらく日本がTPPを批准することはない。私はアメリカの政府関係者に対してもそのように述べてきた。
さて、私は訪米するまで、アメリカは国を挙げてTPPに賛成しているかと思っていた。しかし、現地に行き、それが間違いであることがわかった。アメリカではTPP以前に、FTAなどの自由貿易そのものに対する不信感が強くなっているのだ。
2010年9月に行われたNBCニュースと『ウォールストリートジャーナル』の世論調査によれば、69%のアメリカ人が「米国と他国のFTAは米国の雇用を犠牲にしている」と答えた。その一方で、FTAがアメリカに利益を与えてきたと答えたのは、たったの17%であった。
このような世論の反応はあまりにも当然のことだ。というのも、彼らには自由貿易協定について苦い経験があるからだ。
アメリカにとっては、自由貿易協定はTPPやFTAが初めてではない。カナダとメキシコとの間で結ばれ、1994年に発効されたNAFTAがその始まりである。
しかし、NAFTAはアメリカ国民にとって何一つプラスにならなかった。NAFTAは、アメリカがカナダやメキシコから富を収奪する仕組みであると考えられているが、NAFTAで利益を得たのは多国籍企業などの大企業だけだ。アメリカ国内の企業が賃金の安い労働者を求めて工場をメキシコに移すといったことが頻発し、アメリカ国内で100万人の雇用が失われたと言われている。
米韓FTAやTPPによってアメリカ国民の雇用が奪われるのではないか、一部の大企業が儲かるだけではないのか――こうした不信感がアメリカの一般国民の間で広がっている。ウォール街占拠運動もその表れであろう。
オバマ大統領もそうした世論の動向に気づいている。オバマ大統領は年頭教書演説で、TPPについて直接言及していない。TPPが次の大統領選で有利に働かないとわかっているからだ。
反対しているのは世論だけでない。アメリカ議会の中にも反対派はいる。リード農水委員長は、TPPはアメリカの農業にとって有利と言われているにも関わらず、反対派である。ピーターズ下院議員は14名のTPP反対の署名を集めて大統領に申請書を出している。上院でも30名の署名を集めている方がいた。
要するに、アメリカでTPPに賛成しているのは、大企業と、その意向をくんだ政治家たちだけなのだ。それは日本で経団連がTPPを強く推進しているのと同様である。
TPPの危険性については、先に結ばれた米韓FTAを見ればよくわかる。実際、アメリカのマランティス次席通商代表やカトラー通商代表補に対して、TPP交渉においてアメリカは日本に何を求めるのかと尋ねると、米韓FTAを見てください、日本に求めるものがそこに書かれている、と言われた。
また、アメリカ国務省からは、米韓FTA以上のハイレベルなものを求めると言われた。
このように、TPPの是非について判断するためには、日本国民は米韓FTAがどのようなものであるかということをしっかりと認識する必要がある。
韓国の国家主権はアメリカに奪われた
―― そこで郭教授にうかがいたい。米韓FTAは不平等条約とまで言われている。米韓FTAは韓国にとってどのようなものなのか。
【郭】 韓国は米韓FTAによって、国家主権を維持できるかどうかの瀬戸際に立たされることになった。今後FTAが発効されれば、韓国国内でアメリカの企業が自由に振舞い、韓国国民が築いてきた国富が奪われる危険性がある。
具体例をあげると、外国人投資家による韓国企業の買収が加速する可能性が高い。現在、韓国の上場企業の時価総額のおよそ3割は外国人投資家によって握られている。これを3割程度で抑えることができているのは、公正取引法によって外国人投資家の株式保有の上限が定められているからだ。
しかし、米韓FTAによって、この上限が撤廃されることになった。それが外国企業の自由な活動を阻害していると判断されたからだ。これにより、外国人投資家は韓国企業の株式を100%保有することができるようになる。
韓国人が育ててきた韓国企業の富が、株式配当という形で外国人投資家に巻き上げられていく。これが果して健全な姿と言えるだろうか。
また、米韓FTAでは「未来最恵国待遇」が定められている。これは、たとえば韓国が日本とFTAを結び、日本に対してアメリカよりも有利な待遇が提供されている場合、韓国はこれをアメリカにも拡大適用する義務がある、というものだ。
しかし、自由貿易協定というものは、それぞれの国情や産業の状況に基づいて結ぶものだ。日韓間ではお互いの利益になるような貿易協定だったとしても、米韓間では韓国にとって大きな損害をもたらす、ということは大いにあり得る。
しかも、米韓FTAでは、一度合意してしまった規定については、いかなる場合にも元に戻すことができないことになっている。これをラチェット条項という。
そして、最大の問題点は、日本の国会でも大きな話題となったISD条項だ。ISD条項とは、ある国家に投資していた外国人投資家がその国家の政策により不利益を被った場合、世界銀行傘下の国際仲裁センターという第三者機関に訴えることができる制度だ。
しかし、世界銀行の総裁は設立以降一貫してアメリカ人が就いている。また、世界銀行の議決事項については、出資の割合で議決の割合が決定されるが、最大の融資国はアメリカで17%を占めている。このように、世界銀行はアメリカの大きな影響下に置かれているのだ。
実際、NAFTA内で起きた紛争事案46件の内、アメリカ政府は15件の訴えを起こされたが、1件も負けていない。逆に、カナダ・メキシコ政府を訴えたアメリカ企業はいくつかの事案で賠償金を得ている。
こうしたISD条項について、韓国の司法権を侵奪するものであるとして現職の裁判官が反対運動を起こし、多くの裁判官がこれに同調している。
【山田】 アメリカでTPPを研究している大学教授に、なぜアメリカはISD条項による裁判に負けないのか、と尋ねてみた。
その教授の話によると、彼の友人の元国会議員が仲裁員になった時、メキシコ企業がアメリカ政府を訴えるということがあった。その友人はメキシコ企業の訴えに理があると思っていたが、国務省から呼び出されたため、アメリカ政府を勝たせたという。
このように、ISD条項による裁判は、最初からアメリカが負けないように決まっているのだ。
アメリカに操られる日韓のマスメディア
―― なぜ、それほどの不平等条約を韓国は結んでしまったのか。
【郭】 韓国政府にとっては、アメリカと友好的な関係を築くことが最も重要な外交政策である。北朝鮮という国家がある限りアメリカに頼らざるを得ない、といった冷戦体質から、韓国はいまだに抜けることができていない。
米韓FTAの協議が始まったのは2005年である。その後、わずか1年足らずで大統領間で合意に達することとなった。
この2005年がどういう年であったかというと、韓国は盧武鉉大統領、アメリカはブッシュ大統領の時代であり、この時の米韓関係は非常に悪化していた。
というのも、盧武鉉大統領は北朝鮮に対して太陽政策で臨んでおり、その一方で、ブッシュ大統領は北朝鮮に対して強硬姿勢で臨んでいたからだ。対北朝鮮政策という点で、二国間に大きな溝ができていたのだ。
このように悪化した政治的関係を修復するためには経済的関係を好転させるしかない。そうして考え出されたのが米韓FTAなのだ。実際、盧武鉉大統領も当時の施政方針演説でそのように述べていた。
しかし、この時は、アメリカで米韓FTAに対する反対運動が起こった。当時考えられていた米韓FTAは現在のような不平等条約ではなかった。そのため、賃金も安く、品質も高い韓国産業に対してアメリカ市場が開放されれば、自動車や農業など、アメリカの多くの産業が衰退すると考えられていた。
そこで、先ほども述べたように、アメリカは自国にとって徹底的に有利な、韓国の主権を奪い取るような米韓FTAを結ぶことで、国内の批判をかわそうとしているのだ。
【山田】 実際、米韓FTAはアメリカの大勝利であると、アメリカの議員たちは勝ち誇っていた。
―― 米韓FTAによって韓国の主権が奪われてしまうのではないか、といった議論は韓国国内では起きなかったのか。
【郭】 当初はほとんど起きなかった。戦後の韓国の経済成長の原動力は輸出であり、その最大の市場がアメリカだった。そのアメリカがTPPを結ぶことになったが、そこに韓国は参加していない。これでは韓国はアメリカ市場から排除され、経済発展が停滞してしまうのではないか。こうした危機感があったため、マスコミも米韓FTAを好意的に論じ、サムソンやヒュンダイなどの輸出産業もそれを支持した。
対外依存度が高い韓国は、どうしても外国の政策に左右されてしまうところがある。輸出先が閉じてしまう前に、そこに入って行かざるを得ないのだ。
【山田】 日本では、韓国が米韓FTA参加したのを見て、バスに乗り遅れるな、という議論が起こった。その一方で、韓国においても、日本が菅内閣の時にTPPに参加すると表明したのを見て、バスに乗り遅れるな、と議論された。
榊原英資教授が事務方として日米構造協議に臨んだ時の経験についてお話されていたが、交渉内容について日本のマスコミから批判されることが多々あった、アメリカは外交交渉を有利に運ぶために日本の世論操作をしていた、とおっしゃっていた。
今回のFTAやTPPについても、日本や韓国のマスコミに対してアメリカによる操作がなされていると考えていいだろう。日本と韓国がお互いの経済政策を見て焦り、拙速に参加へと踏み切るように誘導する、しかし利益があがるのはアメリカだけ。こういう仕組みがあるのだろう。
【郭】 もっとも、韓国の民主労働党がISD条項の危険性に気づき、国会で何度も取り上げたため、国内でもTPP反対の国民運動が起こり、野党も強硬に反対した。
その結果、与党ハンナラ党は単独で強行採決に臨まざるを得なかった。しかし、連日にわたる、「批准無効」や「大統領退陣」を訴える集会やデモが続いたため、発効は4月以降にずれ込むと言われている。
日本の食卓にBSE牛肉が並ぶ日
―― 仮に日本がTPPに参加することになった場合、遺伝子組み換え食品など、安全基準に極めて問題のある食品が日本に大量に流入してくると言われている。
【山田】 アメリカの小麦協会の会長に話をうかがった時、これまでは大豆やトウモロコシなど家畜が食べるものに対して遺伝子組み換えを行っていたが、今後は人間が食べる小麦についても遺伝子組み換えを行うと言っていた。
また、オーストラリアやニュージーランドでは遺伝子組み換え食品について表示義務があるが、TPPによってこれの撤廃が求められている。現に、韓国では米韓FTAによって表示義務が撤廃されることになっている。
それに加えて、アメリカは、日本がTPPの交渉参加したいのなら牛肉の輸入規制を緩和するように求めている。日本はこれまで、BSE感染例がほとんどない月齢20カ月以下の牛肉に限って輸入していたが、TPPに参加すればこの規制が緩和され、危険な牛肉が流入する恐れがある。
さらに、遺伝子組み換え成長ホルモンを使って育てられた牛も流入してくるだろう。ヨーロッパでは、この成長ホルモンは発がん性があるとして禁止されている。
そのため、私個人としては、トレーサビリティのないものは日本に入れるべきではないと考えている。トレーサビリティとは、物品の流通経路を生産段階から最終的な消費段階まで追跡できる制度である。これにより、食品の原料原産国などが全て明らかとなり、消費者が安全なものを選択することができるからだ。
【郭】 TPPにはラチェット条項が盛り込まれることが確実視されているため、一度牛肉の輸入を決定してしまえば、仮にBSEが発生したとしても輸入を禁止することができなくなる。BSEが特定された牛肉だけを排除すればよい、ということになってしまう。
【山田】 また、アメリカでは、収穫後のジャガイモに放射線を当てて芽が出ないようにしている。日本はそれを禁止しているが、これも非関税障壁であるとアメリカから撤廃を求められているため、今後こうしたジャガイモも日本に入ってくる可能性がある。
―― TPP賛成派は日本の農業が過度に保護されていると批判している。
【山田】 日本の農産物の平均関税はEUよりも低く、既に十分に開かれていると言える。米の関税は770%ほどだが、ミニマムアクセス米を75万トン輸入し、また商社間の自由な取引を10万トンほど認めているので、事実上は300%ほどの関税だ。
しかし、この関税を撤廃するとなると、稲作は完全に崩壊する。畜産や砂糖なども同様だ。
かつて木材の関税をゼロにした時に、日本の林業は壊滅的打撃を受けた。大きな50年物の檜一本と、だいこん一本の値段が一緒になった。それから毎年1兆円近いお金を林業再生のためにつぎ込んできたが、20年たった今でも山は荒れたままだ。
そもそも、TPPに参加すると、GDPの押し上げが10年間で2兆7000億、1年間で2700億円と言われているが、関税を撤廃すると関税収入が年間で8000億円減少するのだ。このように、TPPによって失われるものは多いが、得るものなどほとんどない。
*本稿は編集部の許可を得て投稿しています。
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