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新帝国主義時代の日本の進路(前篇)
作家 佐藤優
http://gekkan-nippon.com/?p=1678
『月刊日本』12月号
―― 2011年も終わろうとしている。今年の総括と、来年の展望をお伺いしたい。
佐藤 2011年は日本史においては、3・11大震災、福島第一原発事故の年として記憶されるでしょう。しかし、世界史の視座においては、「2012年の前の年」として記憶されることになります。2012年は世界史的大転換の年であり、今年はその胎動にあたる年だったのです。
問題は08年リーマン・ブラザーズの破綻から始まっていました。一部の学者やメディア、アメリカの政府やエコノミストもまたリーマンショックを克服できたと考えていたフシがある。しかしユーロ危機に端的に現れているように、金融資本主義は危機的状況にあります。
こうした危機下において、国家が生存本能として取るのが保護主義政策です。自由貿易、規制緩和の論理はある特定の条件下で現れる資本主義の一面に過ぎません。資本主義そのものは自由主義と保護主義との間を振り子のように行ったり来たりするのです。
たとえばEUを考えてみましょう。EUは当初、域内での経済統合、人・モノの自由な移動という自由主義的理念を掲げてスタートしたのですが、ユーロ危機を迎えた現在では、その存在理由は変質しています。ギリシャ、イタリアという火種を抱えた状態でEUという枠を維持するためには、通貨ダンピングを行うしかありません。つまり、ユーロ安を誘導することによってEU域外への輸出を増やし、EU域内経済を守るという広域帝国主義政策を取らざるをえない。すなわち、EUは圏内では自由貿易でありつつ、通貨ダンピングによって圏外から収奪を行う保護主義・ブロック経済圏に変質しているのです。
同じように、元来自由貿易体制を目指していた地域協力経済圏の多くが、形は変わらないもののその内実は保護主義へと変化しつつあります。この世界経済のダイナミズムを見極める必要があります。ロシアのプーチン首相はいち早くこの変化に対応して、ユーラシア同盟という理念を打ち出しました。これはロシアを中心とするブロック経済圏を作り、EUと対抗するということです。
こうしたブロック経済化、通貨ダンピングは、いわば不況を輸出する「近隣窮乏政策」で、これは第二次世界大戦前の世界と同じ状況なのです。
今年はこうした世界経済システムの変質が露骨に、目に見える形で現れてきた年でした。世界は確実にブロック経済、保護主義へと向かっています。その中で我々は2012年を迎えるのです。ロシア、中国、おそらく北朝鮮、アメリカ、韓国という、日本を取り巻くほとんどすべての国において、12年、選挙などの形で指導者が交代し構造転換が行われます。それはブロック化してゆく世界経済にどう対応するかという転換になるでしょう。
12年を読み解くにあたって基本書となるのがフリードリヒ・リストの『国民経済学体系』です。イギリスという巨大な自由主義貿易を推し進める帝国に対抗するために、ドイツはヨーロッパ大陸の諸国家と連携して保護貿易主義を取るのですが、リストはここで、「やがてイギリスの覇権もアメリカに譲らざるを得なくなるだろう。その時に、同じプロセスがまた繰り返され、再び、組み替えられた形でブロック化が行われるだろう。こうした形で世界の均衡は保たれる」という見通しを述べていますが、現在、まさにこの状況が繰り返されているのです。
あまりにも肥大化した現代の世界経済において、一国単独による保護主義政策・国家機能強化は不可能です。一国ではEUやユーラシア同盟のような巨大な経済圏に対抗することはできないのです。すると、選択肢としては広域的保護主義経済圏をつくるしかない。太平洋地域の諸国について見ると、韓国やオーストラリア、フィリピンは簡単で、地政学的にも経済規模的にもアメリカに従属していくいくしか生き残る道はありません。
唯一、わが日本は不況とは言え、まだまだ国力があり、一見、選択肢があるように見えます。しかし、この国力は衰退していく方向にあることを忘れてはいけません。
それではその選択肢とは何か。それは、アメリカと中国、どちらの経済圏に属するかという選択です。
中国という国家の特徴は、国際社会のゲームのルールを認めようとしないことです。サイバーテロなどは国際ルールに明らかに違反するのですが、彼らはそれを違反だと思っていない。なにしろ中国は、自分たちがルールを作る側になろうとしているのです。後発の覇権国家が国際社会で影響力を拡大しようとすれば、当然、こうしたルールの変更をめぐる争いにならざるを得ません。問題は、その時に日本が中国の設定するルールに所属するのか否かなのです。
それでは日本に中国と手を組むという選択肢はあるでしょうか。現実的にありえないというのが私の認識です。まず、数年以内に中国は空母を保有するようになり、軍事的な拡張主義を隠そうとしていません。また今年は、三菱重工、川崎重工、国会や外務省に対するサイバーテロが頻繁に行われましたが、これらのサイバー攻撃に中国政府が関与していることはインテリジェンスの世界における常識です。軍事的野心を持ち、実際にサイバーテロを仕掛けてくるような既存の国際秩序を一方的に改変しようとする国家とは手を組めるわけがありません。
すると日本には残るもう一つの選択肢、すなわちアメリカとの経済ブロック構築しかありません。そこで問題となるのがTPPなのです。(以下略)
*本稿は編集部の許可を得て投稿しています。
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