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円安・クリーピングインフレ政策こそが、現在のデフレスパイラルの苦境から脱出して、構造改革を実施するためには緊急不可欠な要件であると言うこと。
(本稿2003.05作成)
2003年4月28日、日経平均株価終値は、バブル崩壊後の最安値、¥7,603を付けた。2001年4月小泉政権発足時の日経平均株価¥14,000が半減して、2年間で、東証一部上場株だけで、約150兆円の資産が消えたことになる。これは、抜本的な景気対策を講ずることなく、構造改革を進めれば、内需拡大は不可能であり、デフレスパイラルが加速することは必定であると、市場が認識していることの証左に他ならない。税制をいじる等のミクロ的な小手先の手法では、株価対策としての効果は期待出来ないことは明白である。
デフレスパイラル下の今日の日本経済を救うためには、マクロ的な視点に立った、抜本的な経済政策の実行が必須不可欠である。つまり、その殆どが投資に向けられることなく、郵便貯金や銀行預金等に徒に眠っておる個人金融資産1400兆円を債権や不動産投資に向けさせて、資産の活性化を図る他はない。
そのための具体的な方策としては、
1. ペイオフ全面解禁の実行。決済性預金をペイオフの例外とする小泉政権の方針は、実質的なペイオフ再延期となるので、金融機関に公的資金を投入して自己資金を充実させたうえで、約束どおり実行する。
2. 需要創造のための大型補正予算を編成する。
3. 政府は、インフレ目標を設定・宣言して、政府・日銀一体となった金融政策を実行する。
以上の3項目を政府が早急に実施する必要がある。
さて、構造改革をして、グローバル化する世界の資本主義経済体制に順応した日本を創る事は、必要不可欠の重要課題であるが、デフレスパイラルに入った今日、構造改革を強行すれば、企業倒産や、リストラによる失業者が急増して、デフレスパイラルが益々加速して日本経済が破綻することは必定である。
* 企業業績・株価低迷
* リストラ問題
* 個人消費低迷
* 不良債権問題・金融システム問題
* 財政赤字問題
* 年金問題
これらの問題は、円安・インフレによって解決するより他に方策はない。つまり円安・インフレ政策というカンフル注射をして体力を回復してから、構造改革を実施する必要がある。なお、ここに云うインフレとは、例えばインフレ目標を3〜4%に設定して、政府の円安誘導により招来される緩やかなインフレ所謂クリーピングインフレを云う。因みに米国は公表はしていないが、暗黙のうちに、3%のインフレ目標を設定しているものと思料される。
以下に、その理由を簡潔に論述する。
1. インフレになれば企業実績が上がる。
企業は基本的に、銀行から金を借りたり、社債を発行したりして、借金をして活動している。インフレになれば借金を楽に返すことが出来る。更に原料を仕入れて製品にする過程においてインフレが進行していれば高い値段で製品を売ることができる。業績が良くなれば株価も上昇する。業績を伸ばす為の設備投資として工場を新設すれば、地価も上昇する。リストラも緩む。「雇用不安がある時は、人は決して金を使わない。」という鉄則の呪縛から国民は解放されて、GDPの60パーセントを占める個人消費も回復する。つまり企業実績の向上は景気回復の第一歩となる。
2. インフレになれば不良債権問題も解決する。
インフレという言葉がマスコミで喧伝されると、人は土地を買い始め、株を買い始める。通貨の流通量が潤沢過ぎる程になると、通貨の価値は下がる。人は通貨を物に替えようとするし、企業は早めに材料を手当てしょうとする。つまり人は土地や株を買ってインフレに備えようとする。因みに、個人金融資産は、1400兆円と言われている。土地や株の資産価値は更に上昇することになる。日本は土地担保主義のため、不良債権問題は、土地の下落が止まらない限り抜本的な解決は在り得ない。地価の上昇は、金融システム不安解消という以上にもっと積極的に日本経済回復の原動力になる。地価の上昇は信用を拡大させる。つまり、銀行の信用創造機能を担保することになり、銀行の融資が増えることになる。
3. 財政赤字問題はインフレでしか解消できない。
国・地方併せて690兆円を超える累積財政赤字問題を解消する方策としては四つの方法が考えられる。
A.政府が、「日銀に国債を買い上げさせたのち、政府の日銀に対する債務を免除する。」という特別法を立法する。これはインフレを招来することにもなる。この方策は国家財政の危機を救うための緊急避難的な措置であるが、モラルハザードを助長することになるので、容認することに抵抗がある。
B.景気を良くすることで税収を上げ、借り入れ元本を減らす方法。この方法ではバブル時の税収が60兆円であったことから、現在の税収50兆円から、10兆円程度の税収の増加しか期待できない。更に、景気が良くなれば金利が上昇して、支払い利息の急増を覚悟しなくてはならない。つまりこの方策は実効を期待できない。
C.増税政策
所得税を減らし、消費税を増やすという直間比率の是正は、構造改革上不可欠であるが、比率の是正はともかく、差し引き大増税ともなると、更なる消費の減退を招くので、政治的にも経済的にも困難であると考えられる。
D.インフレ政策
以上のA・B・Cの政策が何れも不可であるとすれば、インフレ政策しかない。インフレになれば、政府としては100万円の国債は、通貨の価値が下がっても100万円返済すれば良い。一方税収は上昇する。消費税など、インフレによる名目売上価格上昇にそのままリンクする。物納された土地も高い値段で売れる。円が強すぎるから、労賃も世界一になり、企業は安い労働力を求めて海外へ進出してしまうことになる。インフレになれば輸入農産物問題も解決する。
4. インフレの弊害について
以上簡潔に論述したようにインフレになれば多くの問題が解決する。スパイラル的に悪化していた景気がスパイラル的に良くなっていくのである。然しながら、インフレの弊害は「インフレ政策を採用すると、景気が良くなり、構造改革の必要性を忘れてしまうこと。」に在る。年金生活者の救済は、年金額をアップすることで可能であるが、構造改革を怠ると、世界経済のグローバル化に対応することが出来なくなり、我々の子供の代の日本が、経済的な破綻に追い込まれることになる。
5. 円安がインフレを招来する。
自国通貨を安くすれば景気が回復するのは、今日では世界の常識である。米国主導で1985年9月にG5により実施された「プラザ合意」で実証済みである。そして、米国は1987年2月にG7による「ルーブル合意」で過度なインフレを抑止して、今日の経済繁栄を招来することが出来たことは周知の事実である。因みに、「プラザ合意」当時1ドル=250円であったのが、「ルーブル合意」の時点では1ドル=150円までドル安となっていた。
6. 円安導入方策について
今日欧米先進国及びアジア諸国は、真摯に日本の経済破綻・金融危機の波及を憂慮しているのが実情である。日本の経済危機の原因は、日本の実体経済に比して、円があまりにも強すぎる点に在る。そこで、日本政府は上述の「プラザ合意」「ルーブル合意」を範とした、「円安誘導に係る国際合意」を早急に成立させるべく、国際社会に対して強力に働きかける外交政策を採るべきである。その他の円安導入方策としては、「日銀がインフレターゲット実現を約束する証左として、長期国債の買いオペを大量に実施する。」・「日銀法を改正して、日銀による米国債を購入する。」・「短期ドル建て日本国債を発行する。」などの金融政策が考えられる。
上述の提言を要約すると、今日の経済学は、ケインズ経済学を修正したニューケインジアンが主流であるが、これまでの経済学では、現在のデフレスパイラルからの脱出は不可能である。時代は新しい経済学を必要としている。具体的には、インフレ目標を3〜5%に設定して、政府の円安誘導によりクリーピングインフレを招来することにより、個人金融資産1400兆円を債権や不動産投資への消費行動に向けさせる。更に円安による輸入拡大を計ると共に、対外純資産140兆円を使って輸入も拡大して輸出入収支のバランスをとる必要がある。このような経済政策を採ることで、はじめて日本は長い不況のトンネルから脱出する事が出来る。
なお上述の提言を補足すると、 1999年度の、ユーロー圏の国内総生産(GDP)は約6兆6000億ドルで、米国(GDP)約7兆8000億ドルに次いで世界第2位。これに日本(GDP)約4兆2000億ドルを加え、世界経済は3極体制を鮮明にする。米国経済の景気減速が目立つ中で、欧州の経済パワーが、米国依存型の世界経済を安定させることになる。(提言8参照)
世界第二の経済大国である日本の円も、ユーローに倣って、アジアの基本通貨として、アジアの平和に寄与出来るような、政治的な進展が望まれる所以である。その為には、例えば「200円=新1円」のデノミを実施して、「1円≒1ドル≒1ユーロ」とすることによって、円の国際化を図る必要がある。今後、日銀の量的金融緩和と超低金利政策の継続並びに金融機関の不良債権処理の進展に伴い、インフレと円安を招来することが予想されるので、タイミングを捉えて、デノミを実施することで、有効需要の拡大や雇用創出の、セーフティネットの構築に寄与出来るメリットがある。(提言8参照)
更に追記補足すると、現在、日銀はゼロ金利政策に加えて、精一杯の金融緩和政策を継続している。今日迄の日銀の金融政策であれば、当然インフレになっているはずなのに、インフレにならないのは何故か?
その根本的な理由は、本来貯蓄性向の強い日本国民が、将来の不安が払拭しきれないため、財布の紐を固く縛って消費しない為である。1400兆円もの金融資産の殆どが眠っている為である。
ここに、景気の動向は国民心理に左右される面が大である。よって、政府が日本経済の将来の展望(ビジョン)を国民に判り易く示すことで、国民の不安を払拭する必要がある。次に、具体的には、インフレ目標を設定且つ宣言して、ペイオフを断行する。かくする事で、証券市場・不動産市場に金が廻り、株価・地価が上昇する。これを契機として日本経済を活性化することが、政府が直ちに実施するべき喫緊の経済政策である。ここに、インフレ目標設定策と資産価値下落防止策・総需要増大策とは何れも同意義と理解することが重要である。
勿論、インフレターゲットとその達成時期を宣言しただけではインフレにはならない。例えば、日銀がインフレターゲット実現を約束する証左として、長期国債の買いオペを大量に実施することが必要である。因みに長期国債の総額は現在約400兆円にも達している。
小泉政権の経済政策は、資産デフレを加速させる政策だけを採っている。その為、株価・地価は際限なく下落を続ける結果となった。デフレを解消しない限り、金融機関の不良債権処理は永久に終わらない。小泉総理の「痛み無き改革は有り得ない」という供給面・企業のリストラを優先させる経済思想だけでは駄目である。つまり「経済成長・失業率抑止」の政策を最優先させて、緩やかなインフレとした後に、不良債権処理を行うべきである。
今日の証券市場に於いては、持ち合い解消の売り圧力のみならず、確定給付企業年金法に係る、厚生年金基金の代行返上に伴う売り圧力が需給関係を悪化させ、株価の上昇を妨げている現実を政府はどのように捉えているのか。
デフレが進むなかでは、失業は増える以外にはなく、経済全体の実質所得は減る以外にはないことは、マクロ経済学の鉄則である。
現在、日本企業の構造改革は進展しており、構造改革が進んだ企業の業績は上向きである。今後、企業の収益力が回復しない限り、つまり、企業のファンダメンタルズ分析結果が向上しない限り財政再建は有り得ない。日本企業は付加価値創造に向けて絶えず前進しなくては生き残れないことは当然の鉄則である。日本国民は、日本経済が故障しているのは供給面だけではない、需要があれば動く、総需要不足こそが最大の問題であると認識して、過度のインフレ罪悪論を払拭するべきである。
総需要は、個人消費・民間投資・公共投資・政府支出・輸出・輸入といった諸項目、つまり国内需要及び海外需要から形成されているが、総需要の6割は個人消費によって占められている。
国際通貨基金(IMF)は4月9日、日本政府のデフレ対策の無能振りに業を煮やして、日本政府に対して、「日銀が中期的に十分高いインフレ率を目標にすることが望ましい」として、初めてインフレ目標導入も念頭に入れてデフレ解消に取り組むよう要請した。そして、日銀が「短期的にはインフレを復活させるため、必要なあらゆる措置を講じると宣言する」よう促がし、金融政策の総動員を求めた。至極もっともな要請である。
IMFは更に、世界の景気回復が米経済に大きく依存している点を「リスク」と指摘し、先進各国に内需主導の景気回復に向け適切な政策を取るよう求めた。これも正論である。
日本政府は、IMFの要請を好機と捉えて、円安誘導に基づく海外需要拡大だけに頼らないで、国民に日本経済のビジョンを明示すると共に、インフレ目標を設定且つ宣言して、国内需要拡大を図るための、あらゆる政策を採ることが喫緊の課題とされる所以である。
http://www12.bb-west.ne.jp/matuoka/
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