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http://www.data-max.co.jp/2012/02/02/post_16433_ny_1.html
<ディープ・セキュリティ>
今年(2012年)は、マヤ暦では「世界の終わり」とか、「これまでの世界からの一新」が5000年に一度行なわれる年に当たるらしいが、今年の元日に日本で起きたのは、東北地方と関東地方を襲ったやや大きな地震だった。1月の終わりに近づいて、今度は28日に富士五湖直下の震源でマグニチュード5.4の、東京地方でもドスンと感じられるほどの大きな地震があった。いずれも、去年の東日本大震災とはまったく比べ物にならないし、被害もほとんど出ていないが、ここ最近の地震の多発は年初からあまり縁起が良いものではない。
また、同じ時期に東京大学地震研究所が「マグニチュード7クラスの(南関東)首都直下型地震が4年以内に発生する確率は70%」と発表した。これまでは、政府の地震予知連が「東南海地震の30年以内の確率は70%程度」と発表していたが、首都圏直下型地震は東大に言わせれば4年以内に発生する可能性が高いという。もちろん、地震学会における地震予知というのは研究予算目当てに行われているのであって、余地はそもそも当たらないという批判もある。
ただし、東日本大震災で言えば、政府の地震予知連は、去年のはじめの段階で宮城県沖地震に関して「長期予測評価で今後30年以内に99%の高い確率で発生する」と想定していた。その意味で言えば、東日本大震災は宮城県地震を含んだより広範囲で起きているが、予測は当たったということになる。
年末年始に読んだ本に、ジョゼフ・クーパー・ラモというアメリカの政治学者の『不連続変化の時代』(講談社)というのがある。著者のラモは、キッシンジャー・アソシエイツの幹部だが、この本によると現代の世界は「想定外危機(Unthinkable)の時代」ということである。ラモによれば、現在の予測の能力を持ってしては、危機が起きる可能性があることまではある程度の範囲で予測できるにしても、それが確実にいつ起きるのかは予測しがたいという。
ラモは、「システムの規模がある大きさになると、不安定な"臨界"状態に達することが多い。そうなると、さまざまな混乱が生じ、砂の山の崩壊のような現象が起きる」と語っている。それはちょうど、砂の粒を落とし続けていったときに、砂の山がいつ崩壊するかが予測不可能であると同じイメージで語られる。このような世界は、「意味のない偶然性」に溢れているばかりではなく、ただ新しい思考法を必要とする、とラモは言う。いかなる種類の人間も、ある程度の合理性に基づいて行動する。しかし、それはこれまでに起こったことの経験則から来る「限定合理性」であり、砂の山の崩壊の予測不可能な事件には対処できない可能性が高い。ラモが言っているのと同じことを、アメリカの投資家であり、リーマン・ショックを予測した、ナシム・ニコラス・タレブは「ブラック・スワン」という言葉で表現した。
つまり、「砂の山はいつかは崩壊する。しかし、それがいつになるかはわからない」という現実に直面して取るべき方法は、「崩壊を避けるために無駄な努力をする」のではない。「崩壊することを前提に動くということだ」とラモは言う。これが、ラモの言う「ディープ・セキュリティ」という概念で、「脅威は封じ込めるものという考えを捨て、その代わりに自分たちの社会をより弾性のあるものにして、衝突時の衝撃を少しでも弱めるようにすること」が重要なのであるという。
<時間稼ぎにしかならない、現在のギリシャ支援>
現在のユーロ危機も、日本の巨大震災への危機への備えについても、このような思考法で見ていかなければならない。
現在、EU首脳の間では、ギリシャの債務危機の救済のパッケージについての議論が行なわれている。1月末現在で焦点になっているのは、3月20日に償還期限が来る145億ユーロのギリシャ国債の償還原資の手当ての問題である。この償還原資はEU、欧州中央銀行(ECB)、IMFのいわゆる「トロイカ」による、金額にして1,300億ユーロの支援パッケージによるギリシャの財政の安定化によってカバーされることになっている。
ただし、そのための条件として、ECBや各国中央銀行が危機対応のために保有するのではなく、投資目的で保有されている全体(3,500億ユーロ)の6割(2,000億ユーロ)の金額を占める民間のギリシャ国債保有者(民間投資家)が、保有するギリシャ国債の額面の半額の損失を負担(元本の半額カット)しなければならない。民間債権者団体を代表する国際的な銀行家のロビー団体IIF(国際金融協会)というのがあって、この代表のチャールズ・ダラーラ専務理事が、民間債権者の代表として銀行家や年金基金らの意を汲んで、ギリシャ政府との債務減免交渉に臨んでいる。
もともと、ギリシャ国債の債務削減では、金融機関が自主的に国債の価値の21%カット案を受け入れていた。しかし、それでもギリシャの政府債務が減らないので結局、去年の10月暮れにカット率を大幅に引き上げることでEUと金融機関側が合意していた。このカット率でも、ギリシャの債務が減らない。ギリシャは、すでに受け入れた第一次支援、現在交渉中の第二次支援の条件として、大胆な緊縮財政政策を実行することを受け入れた。デフレ下での財政再建・緊縮財政は、景気をさらに悪化させる。したがって、削減すべき債務もふくれあがってしまうという悪循環に陥っている。
現在の交渉では、その債務残高のGDP比を当初目標にしていた「2020年でGDP比120%」を実現するために、今度は元本カットの結果として旧国債との交換に発行される新国債の利回りを低くすることで、実質6割カットにするようにギリシャ側が求めている。なお、新国債は償還期限も超長期の30年債となることが合意されている。
いったい、どこまで民間投資家が損を被る必要があるのかということで、ダラーラ専務理事も「いい加減レッドラインを決めてくれ」という怒りをあらわにしている。トロイカの一角を担うIMFも、「民間投資家だけではなく、残り4割のギリシャ国債を保有する、ECBや各国中央銀行も元本カットなどの損失を負担するべきではないか」と、ラガルド専務理事が要求するようになった。
さらに、先週末から今週初めにかけて、欧州の重債務国支援に一貫して慎重な姿勢を取ってきたドイツが、「第二次支援を実行するのであれば、欧州委員会のなかにギリシャなど重債務国の予算編成権を持つ役職を設置すべきだ」と主張し始めた。これにはギリシャの財務省が大反発しており、年を越してようやくまとまりかけていた、民間債務者との債務減免交渉が再度、最後の欧州首脳会議でご破算になる可能性も浮上してきた。
このように、ギリシャの債務危機は2009年10月に発覚して以来、何度も決着への合意を迎えると報道してきたが、結局は交渉がまとまらないということも繰り返しだ。この間、EU、ユーロ圏首脳会議など何十回も首脳陣が集まり会議を開いてきた。仮に、今回のギリシャ第2次支援がまとまっても、いずれギリシャの景気がさらに悪化することで債務返済の計画が狂い、結局は第三次支援に追い込まれるのではないかとも懸念されている。要するに、今のギリシャ支援は時間稼ぎにしかなっていないのだ。
<金融危機を考える際の2つの区別>
金融危機を考えていく際に重要なのは、その危機は「流動性」に基づく危機なのか、「ソルベンシー(支払い能力)」によるものかを明確に区別することである。流動性危機というのは、突発的な資金繰り悪化などによる金回りの危機だが、ソルベンシーによる危機とは違って、中央銀行などの金融政策で封じ込めることができるものである。ギリシャ支援は、この2つの危機を混同していることで、泥沼になっているという見方をする金融関係者が多い。
サブプライム危機を予測して当てた、ニューヨーク大学教授のヌーエル・ルービニもまたその一人である。彼は、去年9月にFT紙に寄稿したコラムのなかで、「速やかにギリシャがユーロを自発的に離脱すべきだ」と述べているが、そのなかでこの2つの区別を行なっている。
彼は、インソルベント(債務支払い能力のない)国家群とそうではない国家群を分けている。前者に該当するのが、ギリシャとポルトガルであり、後者に属するのがイタリアやスペインだという。事実、欧州中央銀行(ECB)が去年の年末に実施した、期間3年の4,890億ユーロになる緊急資金オペの効果が数週間かかって回ってきたこともあり、イタリア国債の利回りは、去年の11月では7%だったのが、大幅に低下している。
ロイターの報道では、27日の10年債利回りは5.92%。前回、12月末の10年債入札でつけた7%付近を大幅に下回る水準になっている。結局、ECBが実施した巨額の資金オペによって、ユーロ圏のイタリア、スペイン、フランスといった南欧国家の銀行は各国の国債を買う資金を得た。だから、国債の利回りが急低下した。ECBは直接にはこれらの国々の国債を買ってはいないが、融資を受けた銀行が代わりに国債買いをした。民間企業には資金は回らないが、国債市場はこれで支えられるということのようだ。ただ、それでもギリシャに次いで危ないとされているポルトガル国債の利回りは、このECBの資金供給オペのなかでも上昇を続けている。ルービニ教授の言う通りに、流動性危機国家とそれ以外の明暗が分かれているということだ。
ルービニ教授は同じコラムのなかで、ギリシャ支援は無駄金(wasted)だとさえ言う。それよりも、「ギリシャのユーロ圏離脱」を前提にして、そのことによって生じる危機から流動性危機だけにとどまっている国々を隔離する(リングフェンス、ring fence)ための資金の増強に回すべきだと主張している。
このリングフェンスとなるべき基金が、EFSF(欧州金融安定化ファシリティ)やそれと並行して今年の半ばには設立されるESM(欧州安定メカニズム)である。これは、別名「欧州版IMF」と言われるもので、これによって重債務国の国債格下げや価格下落による欧州大銀行の大幅な損失による自己資本比率の低下などの際に、資金を手当するパッケージの基金となる。EFSFの資金力の裏付けになっているのは、ユーロ圏6カ国のトリプルAの国債の信用だったが、1月15日にフランスとオーストリアが格下げされたことで、融資枠が当初4,500億ユーロだったのが、2,700億ユーロに縮小してしまった。
基金の資金力を補うのは欧州各国だけではなく、IMFにも期待されている。今のところ、米国は「資金拠出はしない」と言っており、そうなると中国と日本が出資を迫られることになりそうだ。だが、中国は欧州各国の価値ある企業群を買収することに興味があっても、国債には興味がない。そうなると、奉加帳(ほうがちょう)は結局、日本に回ってくるのかもしれない。
<追い込まれていく日本国民>
いずれにせよ、遅かれ早かれ、ギリシャの債務不履行は避けられない。これまで何度となく、「危機は終わった」と世界はだまされてきた。しかし、ソルベンシー危機を抱える国家債務は、遅かれ早かれ破裂するのである。それは、大地震と同じで、いつ起きるかは正確にはわからない。しかし、それが起きることが確実である以上、政府当局は「ディープ・セキュリティ」の考え方に基づいて、危機が起きることを前提にした対応策を考える必要がある。
1月29日まで、ここ数年低調が続いているダボス会議が、今年もスイスで5日間にわたって行なわれていたが、今年はさらに低調を極めた。議題となったのは、イラン危機とこの欧州危機で、緊急資金オペで流動性危機に蓋をしたECBのドラギ総裁がヒーローになった一方で、ギリシャ支援に慎重な姿勢を崩さないのは、メルケル独首相。ドラギの得意満面の表情とメルケルの不満顔を、現地スイスからの写真は伝えている。
メルケルは「ユーロ圏を救うためにドイツがこれ以上の犠牲を払うことは難しい」との姿勢を明確に示し、さらに、ESMと残りのEFSF資金を統合し、総額7,500億ユーロ(約1兆ドル)規模の基金とすべきだと訴えているほかの首脳陣の提案についても、慎重な立場を崩さない。メルケルのお国のドイツ国内では、さらなる支援基金拡充に対する反対派となるキリスト教民主同盟(CDU)の議員たちがいる。
日本の野田佳彦首相は国会対応のために、今年のダボス会議出席を取りやめたが、都内から国際中継で参加し、消費税率の引き上げを含む「税と社会保障の一体改革」をやり抜くと発言した。野田首相はこのなかで、「先の国会演説でも"決められない政治"からの脱却を強く申し上げたが、先送りしない政治を実践し、同じような政治情勢に悩む世界各国のフロントランナーになりたい」と述べたのだが、消費税増税前に、現在の政権にはやるべきことがあるのではないか。
野田首相は、日本が消費税増税を先送りすることで、日本がギリシャ化を招くと懸念しているようだ。ただ私は、現在の野田政権が進めている拙速な消費税増税路線こそが、結局は日本のギリシャ化を招くのではないかと懸念している。というのは、ギリシャの債務危機を悪化させた一つの要因として、ギリシャが役人天国だったことがあげられるからだ。何とギリシャは、2010年になって初めて公式に公務員の数を数えたのだという。それによれば、勤労者の4人に1人が公務員らしいという。要するに、ギリシャは日本以上の「役人天国」。ギリシャで去年起きたデモの参加者には公務員も多かったという。
翻って日本でも、消費税増税がひたひたと一方的に進められていくなかで、役人天国の温存がしっかりと実行されている。1月30日の日経新聞では、公務員の年金が会社員の1.2倍であるということが報じられている。同記事によると、公務員には1960年まで全額公費の恩給というものがあり、この公費を今も年間1兆数千億円、本人や遺族に支払っているという。公務員は給与においても民間には準拠してないと批判されており、野田政権はこれらの問題に手をつけていない。政治主導が官僚主導になった結果、消費税増税だけを実施する腹だ。
消費増税のために民主党は、社会福祉の充実を言い始めた。財政再建と福祉拡充は、問題の方向性がまったく違う。すでに「再増税」が囁かれている。実際のところ、「公的福祉のこれ以上の充実の否定」こそ、今、私たちが求めることかもしれない。
私は、今の経済状態では消費税増税をすることには反対であるが、百歩譲ってそれをやるにしても、まずはこういう「ギリシャ化」の温床となり得る役人天国の打破が求められていくはずである。民主党は、公務員組合(自治労)を支持母体にしているので、こういう改革には着手できない。野田政権の悪質なところは、批判に対して居直ることである。国民は、野田首相の口癖である「誠心誠意」であることよりも、多少手荒くとも、自民党政権時代にはできなかった官僚制度改革を、民主党政権に対して求めていたはずである。
ところが、野田首相は重要な官僚制度改革を抜きにして、消費税増税だけを行なうことを、ダボス会議の場で国際公約として表明してしまった。このことは重大である。世界の投資家や投機家たちは、日本の国内事情についてそれほど詳しく知らず、メディア報道を通して知るだけだ。
そのメディアでは、「日本の首相が増税と財政赤字の削減を表明した」と伝える。仮に、これが実現しなかったり、反対という民意によって頓挫したりすると、投資家は「日本の政治家はやっぱり嘘つきだった」と失望することになるだろう。時には「口をつぐむ」ということも政治家の作法として必要なのだが、野田首相は英雄気取りで、国民に犠牲を強いることに耐えている自分の姿に快感でも覚えているのではないか。
日本国債は国内消化がほとんどであり、米国や欧州のように外部に依存しているわけではない。いずれ中長期的に見れば、人口動態的に見て、間違いなく危機はやってくる。だが、今は震災からの復興が第一である。
それなのに、わざわざダボス会議の場で国際的な投資家に向けて、「増税をやり抜く覚悟だ」と野田首相は表明してしまったのである。わざわざ言わなくてもいい場所で、言わなくてもいいことを言う。「巧言令色鮮し仁」とはまさにこのことだ。自ら国際投資家の標的になりに行くとは――。"不退転の決意"と言えばかっこいいのかもしれないが、その決意を聞いて笑っているのは日本の官僚機構(霞が関)であり、ユーロ圏から次なる獲物を物色している、ハゲタカのようなヘッジファンド投資家たちだろう。
このようにして、国民は追い込まれていく
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