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http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE81K17R20120130
田巻 一彦
[東京 30日 ロイター] ギリシャ債務交渉と橋下徹大阪市長の政治的躍進─。一見、何のつながりもないような二つの出来事が、実は日本のとるべき道を決める複雑な数式を構成している。世界経済がかつてない危機に直面する中、橋下勢力の拡大に揺れる国内政局は一段と混迷の度を深めつつある。政権延命をかけた解散に踏み切るか、それとも緊急経済対策を優先するか。野田佳彦首相は、解が導きにくい難解な連立方程式に取り組まねばならない。
日本国内の政治情勢は、消費税率引き上げ法案の取り扱いをめぐり、解散含みの展開が予想されているが、ギリシャ危機が最悪の展開になれば、首相は解散よりも緊急対応策の策定を優先すべきだろう。もし、ギリシャ政府と民間金融機関との債務削減交渉がまとまらなければ、ギリシャの債務不履行(デフォルト)をきっかけとした金融市場の大混乱への懸念が高まる。
<ギリシャ問題、真の焦点はファンド勢の動向>
実際にその最悪シナリオは現実味が増しており、ギリシャ債務問題は、30日になっても決着の見通しが立っていない。1月中の決着という観測が何回か出てきているが、先行きは予断を許さない展開となっている。
交渉こう着の理由は、現在の国債を新しい国債に乗り換える際の表面利率にあるとの報道が多いが、本当の問題は別のところにありそうだ。ギリシャが発行した約2600億ユーロの国債のうち、欧州中銀(ECB)が保有している約550億ユーロを除いた約2050億ユーロが民間保有分とされている。複数の市場関係者によると、このうち700億ユーロはヘッジファンドなど非銀行勢が保有。その中の500億ユーロ分を保有するヘッジファンドなどは、新国債への乗り換えに反対しているとみられている。
ギリシャ政府と民間債権者の代表を務める国際金融協会(IIF)との交渉が合意に達したとしても、この約500億ユーロ分を保有するヘッジファンドなどがデフォルトを宣言し、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のトリガーを引く決断をすれば、これまで封印されてきたギリシャ国債のCDS請求権がCDSの売り主である欧米投資銀行などに発動されることになる。となれば、銀行側に膨大な保証金支払い義務が生じる。
その際に国際金融市場で、どのようなことが起きるのか。政策当局を含めて、現段階で正確に予見できる者は皆無だろう。CDSトリガーの発動に消極的だった銀行勢が、トリガー発動に傾く可能性を否定できない。それだけ"危ない橋"を欧州連合(EU)とギリシャは渡ろうとしていると言えないだろうか。
<ドイツの危険な賭け>
さらに危険な兆候がある。ロイターの取材に対して関係筋は、ドイツはギリシャに対し、財政政策に関する権限の一部を欧州の機関に委譲するよう求めていると明らかにした。ビルト紙はレスラー独経済相が、ギリシャは改革を実行できないなら、財政権限を手放すべきだと発言したと報道した。これに対し、ギリシャのベニゼロス財務相は29日に声明を発表。ギリシャは約束を履行する能力があると反論した。
もし、ドイツを中心にギリシャへの財政権限の委譲で圧力が強まって、ギリシャが拒否すれば、全面的なギリシャ国債のデフォルトが発生し、約2050億ユーロの民間保有国債の全体でCDSトリガーを引くことになりかねない。国際金融市場の表面上の静穏さとは裏腹に、浪間の下では大きなうねりが海面上に出現しようとしている。
<解散風強まる永田町>
一方、国内政局に目を転じると、通常国会は始まったものの、野田佳彦首相が政治生命を賭けている消費税率引き上げ法案は、成立のメドが全く立っていない。自民、公明両党は民主党との政策協議に応じる気配がなく、野党が多数を握る参院で可決され、成立する見通しは今のところゼロパーセントに近い。
そこでささやかれているのが、衆院解散を材料にした話し合い解散のシナリオだ。落選議員の多い自民党の中には、早期解散を何よりも望んでいる勢力が多く、民主、自民の話し合いで消費税率引き上げ法案を成立させた後に解散する展開だ。だが、争点がぼけて自民に不利との声もあるようだ。
野田首相にとって、強行採決も辞さずに消費税率引き上げ法案を衆院で可決し、参院で野党が否決した場合には、衆院を解散して信を問うシナリオもありそうだ。16日の民主党大会で、野田首相がこの手法をにおわせるような発言をして以来、永田町の"解散風"は着実に強まっている。
<橋下氏の影響力、侮れない規模に>
私は、橋下大阪市長が次期衆院選に大量の候補者を擁立する意向を示している点が、解散時期に影響を与えると指摘したい。民主、自民に不満を持っている無党派層を中心にした中間層は、受け皿不在の政治情勢に対し、相当のフラストレーションを持っている。先の大阪府知事選、大阪市長選では、そのマグマの膨張ぶりが鮮明になった。
もし、橋下氏の率いる「大阪維新の会」の候補者擁立が進み、中部圏で河村たかし名古屋市長を中心にした勢力、首都圏でみんなの党やその他の新興政党と連携すれば、大きな衝撃が政界に走る可能性がある。この3大都市圏での衆院小選挙区の配分比率が高いだけに、「第3極」として二大政党への批判票が集まれば、民主、自民を脅かす勢力に急拡大する可能性がある。
そうした点を勘案した場合、政府・与党側に橋下氏の準備が整わないうちに解散するという戦術が浮上してもおかしくないと考える。常識的には通常国会終盤の6月解散の可能性が高そうだが、3月ないし4月の解散の可能性がそこそこあると予想するのは、こうした選挙戦術も見え隠れするからだ。
<世界的経済混乱なら、解散できない可能性>
だが、国内政局ばかりみていると、想像もつかない突風が襲来するのではないかと予想する。それがギリシャ危機の深刻化をきっかけにした欧州債務危機の深刻化であり、CDSトリガーの発動をきっかけにした米金融市場への危機波及の展開だ。米系投資銀行がCDS請求の支払いによって収益減に直面した場合、米銀株の下落を伴って、リーマンショックのような金融・資本市場の混乱もあるだろう。
その時に日本の国内だけが、政策対応なしに衆院を解散できる状況にあるのかどうか──。リーマンショックかそれ以上の大きな打撃が日本経済に及べば、その対応が喫緊の政策課題となって、衆院解散は回避され、日本国内も危機対応モード一色になるのではないか。
欧州債務危機も国内政局も、今の時点で1つのシナリオに見通しが収れんできるほど単純ではない。しかし、欧州債務危機の展開を無視して、国内政局の動向を語れないのは明白だ。私がこの状況を解散と欧州債務危機の「連立方程式」と呼んだのは、そのためだ。
明晰な回答を出すのは難しいが、1つだけ言えそうなのは、動脈瘤(りゅう)を抱えるような欧州債務危機が結果的に破裂した場合、野田内閣は解散権を封じられ、急速に政権基盤の弱体化が進みそうだという点だ。ギリシャ問題の動向は、野田首相の命運も大きく左右する。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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