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http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20120113/296209/
秒読みに入った公的年金崩壊 ――解決には緩やかなインフレへの転換が不可欠
森永卓郎
2012年 1月17日
ようやく物価スライド実施に取り組む厚労省
2011年11月23日、行政刷新会議の「提言型政策仕分け」の中で、年金給付が本来よりも高い水準で支払われていることへの批判が相次いだ。このため、小宮山洋子厚生労働相は、次年度から3年間で年金給付の引き下げに取り組む考えを表明した。
公的年金では、物価変動に対応するため、消費者物価に応じて給付水準を調整する「物価スライド」という仕組みが採られている。本来、物価が上昇したときに年金の価値が目減りするのを防ぐための仕組みだが、逆に物価が下がった時には年金が減額されることになっている。
しかし、高齢者の反発を恐れた政府は、デフレが続いたこの10年で、何度も年金水準の引き下げを見送ってきた。その結果、現在の年金給付は物価スライドを実施した場合の本来の水準より2.5%も割高になっている。これまで、物価スライドを完全実施しなかったことによる過剰給付の累計は7兆円にも及んでいる。
小宮山大臣の発言は、これを3年間で本来の水準に戻すというのだ
年金改革の本丸はマクロ経済スライド
それはそれで正しいのだが、実は公的年金制度が本来の機能を発揮していない、もっと大きな問題が残されている。マクロ経済スライドだ。
2004年に導入が決まったマクロ経済スライドは、高齢化が進んでも、年金制度が破綻しないように設けられたもの。毎年、年金制度の加入者数(現役世代)が減少した分と平均寿命の伸長に伴い年金受給者が想定以上に増えた分は、年金給付の削減でまかなうという仕組みだ。
この措置により、日本の年金制度は「保険料を加入者本人のために積み立てる」終生積立方式から「現役世代が払う保険料をそのときの引退世代の年金給付に使う」完全賦課方式に移行した。
具体的に言うと、毎年の年金制度の加入者数の減少が0.6%、毎年の平均余命の伸びが0.3%で、合計0.9%ずつ年金給付の水準を下げていくというものだ。
デフレのために狂った目算
ただし、このマクロ経済スライドは、物価上昇で物価スライドが行われるときに、その範囲内で行われることになった。たとえば、物価が2.5%上昇したときに、本来は年金給付も2.5%増えなければならないのだが、マクロ経済スライドの0.9%を差し引いて、1.6%の改善にとどめるという形だ。名目の年金を減らさないようにするための配慮だった。
ところが、現実には物価は上昇するどころか、下がってしまった。だから、このマクロ経済スライドは、一度も発動されていない。
マクロ経済スライドが導入されてから7年たっているのだから、本来年金給付はマクロ経済スライドによって0.9%の7倍、すなわち6.3%引き下げられていなければならないのだ。物価スライドの停止分と合わせれば、実に8.8%も過剰給付になっているということだ。
この結果、現役世代の平均収入と比べ、高齢者がどの程度の年金をもらえるかを示す割合(所得代替率)は夫婦世帯(夫は元会社員で妻は専業主婦)で2004年度時点の59.3%から2009年度には62.3%に高まった。本来ならマクロ経済スライドにより低下していなければならないのが逆に上昇し、給付を抑える機能を全く果たしていない
マクロ経済スライドの凍結は問題の先送り
デフレであっても現役世代の人口の減少や平均余命の伸びは止まらない。その分の給付の抑制ができないならば、年金財政は悪化し、現役世代の保険料の負担増や将来の受給額の減少となってツケが回ることになる。
現行の国民年金の月額給付は6万6000円だから、毎月5214円引き下げて、6万786円にしないといけないのだ。政府内には、マクロ経済スライドをデフレ下でも完全実施すべきだという意見があり、一度は社会保障審議会での審議対象にもなったが、結局それは引っ込められ、物価スライドだけの完全実施という形に矮小化されてしまった。
マクロ経済スライドは、すでに年金を受給している高齢者にも負担を求めるという点で、深刻な世代間の不公平を多少なりとも和らげる効果もある。というよりも、年金制度改革の中では、世代間不公平の緩和につながるほぼ唯一の方法だ。
小宮山大臣は決してマクロ経済スライドの必要性を理解していないわけではない。しかし、「マクロ経済スライドの発動は物価スライドの調整が終わってから」と言明したことで、年金の抜本改革は少なくとも3年繰り延べられてしまった。典型的な問題の先送りである
インフレに転換してマクロ経済スライドを発動せよ
民主党政権だけが悪いのではない。問題の先送りは、自民党時代からずっと積み重ねられてきたことだ。
もちろん、年金生活者の立場から言えば、いきなり年金を9%も引き下げられてはたまらない。カツカツの引退生活を送っている高齢者にとっては、文字通り死活問題だろう。
もっと大きな問題は、デフレが継続したことだ。もし緩やかなインフレが達成できていれば、こんな問題は起きなかった。
年金改革の第一歩は、緩やかなインフレへの転換だろう。年金水準を下げないと年金制度が持たない。しかし、下げると高齢者の生活が破綻する。このような状況では、名目のパイを膨らませて、実際にマクロ経済スライドを発動できるようにする以外に手はあるまい。
今も厚労省は所得代替率は2025年度に55.2%、2050年度に50.1%へと下がる見通しを維持している。近くデフレは解消して賃金が年3%程度上昇し、マクロ経済スライドを発動するという想定だ。この想定を現実のものとするには、どうしてもインフレが必要になる
駆け込み受給者の増加は年金崩壊の前触れ
生活者というものは、あくまで「名目」の世界で生きている。年金の実額が減るというのは受け入れがたいが、物価が上がって実質支給額が下がる事態は、多少の不満はあるだろうが、まだなんとか耐えられるのだ。
年金制度の立て直しのためには、毎年物価が2%から3%くらい上がっていくような社会を作らないと、時限爆弾は大きくなる一方だ。
庶民はこういう事態をよく承知している。いま何が起こっているかというと、年金の繰り上げ支給を選ぶ人がすごく増えているのだ。こうした状況を見据えて、週刊現代は2011年末に数回にわたって「年金は60歳からもらった方が賢い」というキャンペーン記事を集中連載した。本格的な年金引き下げ措置が取られる前に、駆け込みでもらったほうがトクだというのがその趣旨である。
65歳からの支給年齢を60歳に繰り上げて受給すると、毎月の受給額は30%減る勘定だ。そのマイナスを受け入れても、早く年金をもらったほうが有利だと多くの人は判断しているわけだ。
この判断はおそらく正しい。先に割高の年金の裁定を受けてしまえば、いまの政府の態度を前提とする限り、後から割高分を、少なくとも遡って徴収するようなことはできないからだ。
かくて年金制度崩壊のスピードはますます増加する。ことここに至っては長期のビジョンを掲げて対応しないと、年金財政の持続可能性は下がる一方だろう。
森永卓郎(もりながたくろう)
1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張
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