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大阪・北新地で飲食店などを経営する社長が8年前、不況下の日本を脱出し、中国で日本料理店を始めた。店は現地駐在の日本人ビジネスマンらでにぎわい繁盛したが、その過程で目の当たりにしたのは、中国人らのよく言えば大胆でダイナミック、悪く言えば「カネがすべて」のエゲツナイ商売のやり方だった。「彼らには倫理観なんてものがこれっぽっちもない」。さまざまな場面で遭遇した“中国流スタンダード”は聞きしに勝るものだった。(高田清彦)
この社長は、北新地で情報サービスや飲食店経営を手掛ける「KIC」社長の今井利充さん(64)。不況下の日本での商売にある程度見切りをつけ、平成16年、中国江蘇省の無錫(むしゃく)に「胡蝶(こちょう)」という日本料理店をオープンさせた。
無錫は上海に近い内陸の工業地帯で、日本をはじめ多くの海外企業が進出。駐在の日本人ビジネスマンも多く、日本料理の店も市内に60軒ほどあった。
ところがほとんどが中国人の経営で、米や調味料、調理の仕方が悪く、現地の日本人に言わせれば「味は最低」。そのことを知人の企業関係者から聞いた今井さんは実際に現地を視察し、「日本の本当の味を提供すれば、十分商売になる」と確信、市の中心部に店をオープンさせた。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120721/mcb1207210831008-n1.htm
店はテーブル席を中心に70〜80席。日本人スタッフ2人と中国人の従業員20人弱で始め、カレーグラタンやハンバーグ、トリの唐揚げ、サシミなどの和洋食を提供。母国の懐かしい味を求めてくる現地駐在の日本人ビジネスマンらで連日にぎわった。
ところが、中国での商売や生活は一筋縄ではいかなかった。日本では考えられないようなことが平然と起き、「毎日がカルチャーショック」。
最初に洗礼を浴びたのはオープン前年、視察に訪れたときだった。深夜、空路到着した上海浦東国際空港で無錫行きのバスを待っていると、一台のタクシーが近付いてきた。そして運転手がこう言う。「無錫行きのバスは途中で事故を起こした。タクシーで行くしかないからこれに乗れ」。初めての中国。不安になりながら乗ったものかどうか迷っていると、そのうちに当のバスが何事もなく入ってきた。
すぐにウソをつかれたと分かった。ところがその運転手、バツが悪そうな表情をするのかと思いきや、平気な顔。他人をだましても当然、自分は悪くない…という態度は、その後、中国で暮らして嫌と言うほど見せつけられた。
ワイロは当たり前、カネがすべて…というのもまた中国の“常識”だ。オープンに向けて店の建築工事を進めていたときのことだ。スプリンクラーを設置する必要から、今井さんは役所に行き、水道管の位置を尋ねた。すると、「道をはさんだ向かい側から引け。水道管はそこにしかない」との返答。それだと工事費がかさむ上、工事中は道路の通行を止めるから、補償費もいる。「困ったことになった」と思ったが、役人に現金を渡して頼んでみたところ、態度が一変。ニコニコしながら、工事現場近くの水道管の位置を教えてくれた。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120721/mcb1207210831008-n2.htm
労働ビザをもらいに役所に行ったときも同じだった。担当の役人は「君は料理をするわけではないだろう」だの、「中国人の労働機会を奪うことになり、中国にとってメリットはない」だの言って、1週間通ったが許可を出してくれない。そこで上役に金を渡してみた。次の日、窓口に行くと担当の役人はニコッとして「ニーハオ、ポンヨウ(朋友=友だち)」「アッハッハー」と、昨日までと同じ人物とは思えないほどの変わりよう。もう十年来の友人扱いで、もちろん許可も出してくれた。
商標権や知的財産権を何とも思わない現実も目の当たりにした。日本の企業が製品をブラックボックス化(内部構造などが分からないようにすること)して中国に持ち込んだが、半年後に同じ製品が出回るようになった。真似をした中国企業に商標権の侵害を抗議したところ、相手は逆に「おれたちはすごいだろう」と胸を張る始末。さらに「あなたたち日本人も昔、米国の車をバラしたりして同じことをやっていただろ。どこが悪い」と開き直られたという。
真似をすることに罪悪感がないのが中国。飲食店も流行った店はすぐ真似をされる。今井さんは現地の飲み屋のママさん連中から「一緒にカラオケラウンジをやらないか」と誘われたが、断った。「店が軌道に乗れば、ノウハウから従業員、掃除のおばちゃんまでみんな引っこ抜かれ、何食わぬ顔で同じような店を隣に出されるのが分かっているから。手段なんて関係ない。やったもん勝ちなんですよ、彼らは」。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120721/mcb1207210831008-n3.htm
今井さんはその後、無錫市内の日本人街に店を移した。2階建てで、1階が厨房とカウンター、テーブル席、2階が座敷という大きな店だったが、一時ほど企業進出の勢いがなくなり、駐在の日本人が減ったことなどから、店もヒマになった。
そんなある日、他の仕事もあって従業員らに任せていた店に久しぶりに戻って驚いた。何と5、6人の従業員が近くの寮を勝手に引き払い、店内の座敷に住み込んでいたのだ。床に荷物を置き、雑魚寝し、食器の洗い場を風呂代わりに使っていた。店がヒマで座敷も使わなくなったし、ここに住めばタダだ、とでも思ったのだろう。あきれる今井さんをヨソに彼らは悪びれた様子もなかった。
ほかにも、従業員が売り上げをちょろまかしたのでクビにしたが、翌日も平然と店に出てきた▽グラスや食器を洗うシンクでモップを洗っていた−といった光景も目にした。まさに何でもあり。いや、実(じつ)さへ取れば、細かいことは気にしないというべきか…。
そんな彼らにあきれ、驚き、怒りを覚える一方で、日本人にないものを持っているという点で関心もし、学ぶところも多いと感じた。「彼らは確かに繊細さはないが、バイタリティーや一途さを持っている。ビジネスや商売はダイナミックで思い切りがいい。“ゆとり”の中で育ってきた日本人が中国と競争してもこのままでは絶対勝てない。ハングリーさが違う」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120721/mcb1207210831008-n4.htm
こんなこともあった。中国産の電球は品質が悪く、すぐ点かなくなるので、今井さんが「日本の電球はこんなことはない」と不満を漏らすと、従業員がこう言った。「社長、中国人はいったい何人いてると思う。長持ちする電球だったら、作っている人たちが困るでしょ」
今井さんは言う。
「彼の言ったことは日本と中国・アジアでの人々の意識の違いを語る上で象徴的だと思った。日本人は商品やサービスに完璧さ、レベルの高さを求め、それが今も世界標準と考えているところがあるが、海外、特に東南アジア向けの展開では“安くてこのレベルでいい”という発想が必要。そうでないと中国などには対抗できない。だれも日常の消耗品に完全なものを求めていない。日本の価値観は今やガラケー化(世界標準から外れ孤立化)している」
今井さんは日本人相手の商売が次第に行き詰まったため、店は中国人に任せて湖南料理に業態を替え、自身は平成18年、ベトナムに進出。ホーチミンに同様の日本料理店をオープンし、他のビジネスにも乗り出している。
「日本の細やかな商品やサービスは東南アジアでも望まれている。日本人は自分たちが持つそうしたDNAをうまく生かし、競争意識を持てば十分勝負できる」。今井さんは中国、ベトナムでの体験をもとに切実にこう訴える。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120721/mcb1207210831008-n5.htm
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