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金地金不正操作めぐるドイツの復讐
2014年1月20日 田中 宇
http://www.tanakanews.com/140120gold.htm
(前略)
2011年、南米ベネズエラの政府が、連銀の金庫に預けてあった160トンの金塊の返却を求めた時、連銀は4カ月かけて返却した。おそらく連銀の金庫の地金の大半は相場引き下げ策のために貸し出されており、160トンも在庫がなく、連銀はベネズエラに返済するため、4カ月の時間をかけて地金を回収する必要があったのだろう。翌年ドイツも、連銀に預けてある1500トンの地金の返却を求めた。 (金塊を取り返すドイツ)
しかし連銀はこれに応じることを拒否し、米独の交渉の結果、7年かけて300トンだけ返却していくことになった。連銀の金庫には、すでに地金がほとんどなく、貸し出した先の金融機関にもすでに地金はなく回収できず、地金は中国などに行ってしまっており、7年で300トンしか返却できないのだろう。これらはクレイグロバーツの分析だが、私自身も昨年、金地金の「売り切れ」について記事にしている。 (金地金の売り切れ)
ドイツが米連銀に金地金の返済を求めたのに、一部しか返済してもらえないことは、今回、独金融監督庁のケーニヒ長官が、金相場の不正操作について欧米当局が操作に入っていることをあえて暴露したことと関係していそうだ。金相場を犠牲にしてドルを守る連銀の策略のせいで、ドイツは「敗戦国」として連銀に預けてあった地金を返してもらえない。もう地金が戻ってこないなら、連銀の不正操作の策略を暴露・捜査して潰してやれという復讐策が、ケーニヒ発言の真意かもしれない。 (Big Moves Ahead For Metals)
ケーニヒ発言の翌日、ドイツの銀行として唯一、ロンドンでその日の世界の金相場を決定する米欧の大手銀行4行による値決め作業(London Gold fix)に参加しているドイツ銀行が、値決め作業の一員であることをやめると発表した。ドイツの政府当局が「これからロンドン金相場の値決め談合の不正について欧米当局が捜査するので、もう値決め作業に参加しない方が良い」とドイツ銀行に伝えたのかもしれない。 (Deutsche puts Gold price fix role on sale)
ロンドンではLIBORと同様、市場でも、毎日に朝と午後、大手銀行どうしがその日の相場について議論して金価格を決める。この値決め制度は第一次大戦直後の1919年に始まり、当初は毎朝関係者がロスチャイルドの事務所に集まって談合していた。 (Deutsche Bank Withdraws From Gold Fixing in Commodities Cuts)
ドイツ銀行は、値決めへの参加権を他の金融機関に売却する予定だ。米連銀による金相場の不正操作が縮小しそうな中、米欧勢で値決め参加権を買いたいところが見あたらず、地金の需要が旺盛な中国の銀行ぐらいしか買い手がないのでないかとみられている。米国の金融覇権を守るための不正操作の温床だったロンドン金市場の談合参加権を中国勢が買いたがるかどうか不明だが、もし買うとしたら、経済面の世界的な意志決定権が中国に移転していることの象徴となる。 (中国主導になる世界の原子力産業)
ドイツの動きは、世界の覇権動向から見ても興味深い。ドイツは冷戦終結とともに、それまで英国のライバル潰し戦略としての東西ドイツ恒久分割の「刑」を解かれて再統一し、同時にフランスなどと組み、欧州諸国を統合して超国家組織に昇格し、世界の覇権地域の一つになることを長期的に目指したEU統合への動きを開始した。 (Europe's Top Bureaucrats Intensify Calls for New United States of Europe)
(中略)
ドイツに率いられるEUは、これらの策により、米英の単独覇権構造の解体を促進し、その後に来るであろう多極型の世界体制においてEUを「極」の一つとして台頭させようとしている。金相場の不正操作を潰そうとするドイツと、金地金を大量に買い込んで現物を引き取り、米英の金倉庫を空っぽにして連銀の不正操作を無効化しようとする中国は、米英の金融覇権を崩して世界を多極化する策における同志といえる。 (Central Banks Favour Gold As Diversification - LBMA)
欧州は、中国と並ぶ多極化時代の大国であるロシアとの間が、まだぎくしゃくしている。EUがウクライナを取り込もうとしたところ、ロシアが邪魔して結局ウクライナにロシアとの関税同盟を組ませ、EUとの協調を拒否させたのが一例だ。こうした動きは、ロシアとEUとの「境界画定」のいざこざであり、今後もしばらくは続くが、いずれ境界が画定するだろう。 (Bailout moves Ukraine closer to Moscow)
日本はかつて独伊と組み、英国を潰して覇権を乗っ取ろうとした。今、ドイツだけでなくイタリアもEU統合に積極的で、米国が敵視するイランとの関係強化に率先して動いているのもイタリアだ。「日独伊」のうち独伊は、50年あまりの対米従属を脱し、中国などと組んで多極型世界を構築しようとしている。米国の覇権に依存してきた他の諸国は、英国もイスラエルもサウジアラビアも、米国の覇権に見切りをつけ、多極化の傾向に乗り始めている。いまだに世界の流れも見ず、米国覇権がこの先長くないのに対米従属だけに固執している馬鹿者は日本だけだ。 (◆米国を見限ったサウジアラビア) (世界経済の構造転換)
(後略)
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