01. 2014年1月06日 19:08:53
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JBpress>海外>The Economist [The Economist] 政治的反乱:欧州版ティーパーティーの台頭 2014年01月06日(Mon) The Economist (英エコノミスト誌 2014年1月4日号)2014年には、各国の反体制派政党が、第2次世界大戦以降で最も勢力を伸ばす可能性が高い。 2010年頃から、米共和党内の反体制派であるティーパーティーが、米国の政治をかき乱してきた。ティーパーティーは寄せ集めの集団だが、そのメンバーのほとんどに共通する3つの信念がある。第1に、支配層のエリートは、米国の建国の理念を見失ってしまったという信念。第2に、連邦政府は肥大化し、それ自体のためにのみ機能する巨大な怪獣になってしまったという信念。そして第3に、不法移民は社会秩序に対する脅威であるという信念だ。 このティーパーティー運動が核となり、米国の政治を二分する対立を引き起こし、予算と移民法の改革を難しいものにしてきた。 今、これと似たようなことが欧州で起こっている。反体制派の政党が台頭しているのだ。彼らの台頭を懸念する主流派の政党と有権者にとって、ティーパーティーに対応してきた米国の経験は、有益な教訓を与えてくれる。 搾取され、怒りを抱く中間層 ティーパーティーと欧州の反体制派政党の間には、大きな違いがいくつか存在する。ティーパーティーの各派閥は、米国の主流政党の内部で活動し、小さな政府を求める保守主義という昔ながらの伝統にルーツを有するのに対し、欧州の反体制派政党はそれぞれが小さく、反抗的な集団で、一部は極右を母体とする。 フランス極右「国民戦線」、ルペン氏3女が党首に フランスの極右政党・国民戦線(FN)を率いるマリーヌ・ル・ペン氏〔AFPBB News〕 欧州の人々は、米国人よりもずっと多様だ。例えばノルウェーの進歩党は、ハンガリーの暴力的なヨッビクとは大きく異なる。英国の独立党のナイジェル・ファラージ氏とパブの特別室にたむろする退屈な人々は、ドーバー海峡を挟んだ隣国フランスのマリーヌ・ル・ペン氏と国民戦線(FN)を疑いの目で見ている。 しかし、欧州の反体制派政党と米国のティーパーティーの間には共通点もある。どちらも現状に怒りを抱き、今より単純だった時代を懐かしんでいる。 また、双方とも移民に懸念を抱いている。彼らは搾り取られている中間層の中から生じてくる。この層は、社会の頂点に立つエリートと底辺にいるたかり屋が、一般労働者の負担でおいしい思いをしていると感じている。 そしてどちらも、権力の中枢――ワシントンやブリュッセル―――が官僚で膨れ上がり、その官僚たちが人々の人生を管理する仕組みを作ろうとしていると信じているのだ。 欧州の主流派の政治家は、反体制派政党を、抑制の利かない人種差別主義者やファシストと描写することによって、卑小化しようとしてきた、しかし、それはうまくいっていない。理由の1つは、反主流政党の多くが尊敬に値する存在になろうと、強い決意で努力しているからだ。 英独立党と仏FN、そしてオランダの自由党(PVV)は、5月の欧州議会選挙で、それぞれの国の最多得票を獲得する可能性がある。フランスでは、学生の55%がFNへの投票を考えると述べている。ノルウェーの進歩党は、連立政権に加わった。スロバキアには、極右の知事が誕生した。 ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)やイタリアの5つ星運動など、左翼の反体制派政党も数に入れると、欧州の主流政党は第2次世界大戦以降で最も弱体化していると言える。 反体制派政党が勢力を伸ばしている理由の1つは、主流政党が政策を大きく誤ったからだ。各国政府は消費者に借金を奨励し、銀行にしたい放題させ、欧州プロジェクトの頂点としてユーロを設計した。過去5年の間、一般国民が、増税、失業、社会給付削減、給与凍結などの形で、これらの愚行の対価を支払ってきた。 本誌(英エコノミスト)は、ティーパーティーの洞察に共感を覚えている。現代の国家は、本来国家が尽くすべき国民ではなく、国家そのものの面倒を見るよう作られていると思えることが多いという洞察である。 確かに欧州連合(EU)は、多くの国で一部の有権者がEUに正当性がないと感じているという問題に対して、答えを持っていない。これはユーロに迫り来る脅威だ。しかし、欧州の反体制派政党の脅威は、それだけにとどまらない。 反イスラム映画「フィトナ」、EUや国連などが一斉批判 オランダの自由党(PVV)党首、ヘルト・ウィルダース氏〔AFPBB News〕 オランダのPVV党首、ヘルト・ウィルダース氏は、コーランを「ファシストの書」、イスラム教を「全体主義の宗教」と呼んだが、これは不寛容を是認するということだ。仏FNのル・ペン氏は、フランス企業を外国企業との競争から保護することを求めるが、これは同胞の能力を衰えさせかねない要求だ。 英独立党は英国人に、EUには属さず、独自に考案した自由貿易圏の中で繁栄できると約束する。これは幻想を売り込んでいるに等しい。不平等の拡大と移民の増加は、技術的進歩と経済的自由には必ず付随するものだ。しかしこうした進歩や自由を喜んで手放そうとする人はほとんどいないだろう。 このような細かい点で、ル・ペン氏がひるむことはない。ル・ペン氏は、売り出し中の政治家特有の傲慢な態度で、自分は10年以内に大統領官邸に入るだろうと予言する。それはまずあり得ない。1つには、国政選挙は欧州議会選挙ほど抗議票に左右されないからであり、1つには、欧州のティーパーティー政党が権力に近づけば、ほとんどすべての政党がその無能さと派閥主義をさらけ出す可能性が高いからだ。 しかし、反体制派の政党は選挙で勝利しなくても、主導権を握ったり、改革を妨げたりすることができる。だからこそ、欧州の人々は反体制派政党を追い払う必要がある。 何もかも正直に 反体制派政党をファシストと攻撃することは、ヒトラーの記憶が新しかった時代には有効だったが、今日の有権者の多くが正しくも見抜いているように、それは恐怖心をあおるデマ戦術と言ってよい。主流政党は、反体制派政党を貶めながら、一方で、反移民、反グローバル金融、反EUといった政策を薄めて採用することで、彼らにおもねってもいるのだ。 しかし、主流政党は、可能なことを見極める感覚と、合法性をわきまえる理解とによって、行動に歯止めが掛けられている。その結果、何かを修正する必要があるという考えを褒めそやしていても、何かを成し遂げようとする勇気に欠けると思われてしまうのだ。 欧州の政治家が米国から学ぶべきことは、反体制派政党に主導権を握られたくないのなら、相手の主張を論駁する必要があるということだ。 共和党の指導者たちが、ティーパーティーの要求に応じて(例えば連邦機関を閉鎖したように)政府が機能することよりも主張の純粋性を優先させている間、共和党に対する国民の評価は下がってきた。共和党の候補者の強硬姿勢は、党の忠実な支持者は満足させるが、態度を決めかねている有権者の票を逃がす。最近の選挙で共和党が上院の議席を失ったのも、恐らく2012年の大統領選で敗北したのも、そのせいだ。 政治家は、難しい選択について国民に説明し、誤解を解いていく必要がある。欧州の単一市場は繁栄の源なのだから、これを拡大しよう。東欧出身の労働者は、国庫から受け取る金額より多くを国庫に支払っているのだから、東欧出身者を歓迎しよう。 率直に語る覚悟を持っている政治家は、ほとんどの国民が真実に立ち向かえることに気づくはずだ。 最後は有権者の判断 しかし、最終的な選択を行うのは有権者自身だ。ティーパーティーが米国で勢力を拡大した理由の1つは、ごく少数の有権者が、特に特定の主張に有利に改変された選挙区で予備選を支配することにある。欧州議会選挙では、多くの有権者が単純に選挙に足を運ぼうとしない。それが反体制派政党にとってありがたい条件となっている。 欧州の人々が反体制派政党の勝利を望まないのであれば、投票に行かなければならない。 © 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。 英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 JBpress>海外>Financial Times [Financial Times] 社説:未知の世界に入った薬物政策 2014年01月06日(Mon) Financial Times (2014年1月4/5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米コロラド州で嗜好用マリフアナ販売開始、同国初 コロラド州では1月1日に大麻の合法的販売が始まった(写真はデンバーの店舗)〔AFPBB News〕 米コロラド州は元旦に薬物政策の実験を開始し、世界中の政策立案者の関心を集めている。米国政府が大麻の販売を非合法化してから76年経った後、コロラドは認可を受けた店舗での娯楽目的の大麻販売を認める米国初の州になったのだ。 コロラド州の住民は従来、明確な医学的必要性がある場合には合法的に大麻を買うことを許されていた。だが、2012年に行われた州全土の住民投票の結果、21歳以上の住民は誰でも大麻販売の認可を受けた数十カ所の販売店で1度に最大1オンスの大麻を買えるようになった。 コロラド州の対策は、国内外で繰り広げられている薬物合法化論争における画期的な出来事だ。この数十年間、大麻は世界で最も広く使用される違法薬物だった。ところが、大麻使用の全面禁止は今、かつてないほどの反対論を受けている。昨年夏、ウルグアイは大麻の販売と所持を合法化する最初の国となる法案を可決した。その後、米国の2州――コロラド州とワシントン州――の有権者が似たような法律を承認した。 これらは大きな前進だ。オランダはマリファナの個人使用に寛大なことで知られているが、そのオランダでさえ大麻の栽培や販売はまだ厳密には違法なのだ。 多くの人は、大麻の販売と使用を合法化する動きは危険な愚行だと考えるだろう。確かに医学的な懸念は一蹴できない。大麻合法化に反対する人々は、現在の大麻は1960年代のマリファナより5倍も強く、脳に直接損傷を与えると言う。大麻が青少年の認識能力を損なうことを示す証拠もある。 しかし、医学的な見地から大麻使用を恐れることは正しいものの、米国などの禁止政策には重大な欠陥があるというのが現実だ。3つの理由から、全面的な禁止から何らかの形の合法化への転換を模索することには価値がある。 合法化の実験には試す価値 第1に、大麻の販売と使用を禁止することにかかる年間コストは莫大だ。米国は毎年、麻薬禁止対策に500億ドルを投じ、マリファナ絡みの犯罪で75万人もの人を逮捕する。だが現在、米国人のざっと半数、30歳未満の若者の3分の2近くが大麻合法化を支持している。 第2に、大麻の禁止は組織犯罪、特に麻薬密売に重要な収入源を与えている。もし薬物使用者が合法的で安い大麻を使用することが許されれば、密売業者は市場を失うことになる。メキシコ競争力研究所(IMCO)による調査研究によれば、コロラド、ワシントン両州の改革の結果として、メキシコの麻薬カルテルは30億ドル近いビジネスを失うという。 第3に、禁止政策は米国の政府当局が大麻販売から税収を得ることを妨げ、州財政をてこ入れする潜在的な機会を奪う。こうした税収は正当に、薬物使用――合法的なものと違法なものの双方――の危険性に関する認識を高めるとともに、中毒患者のリハビリを向上させることに使えるだろう。 はっきりさせておかなければならないが、コロラドとワシントンが着手した取り組みが成功するかどうかを予想するのは不可能だ。両州は事実上、政策の実験室の役目を果たしており、その先例を模倣する前に他の立法機関の監視を受ける必要がある。 答えを出さなければならない疑問はたくさんある。合法化が大麻の価格を引き下げるのだとすれば、それは多くの国が大麻吸引が招く害を減らそうとしている時に、より広範な大麻使用を促すことにはならないか? 広告宣伝は、安全と見なされる以上に大麻の流通を広めることにはならないか? そして何より、どれほどの大麻が合法的な成人購入者の手から、より傷つきやすいティーンエイジャーの手に流れるだろうか? 現時点で言えるのは、コロラド州とワシントン州――そしてウルグアイ――は未知の世界へ勇敢に飛び込んだということだ。試してみることは正しい。何しろ全面禁止はうまくいかず、維持することはできない。世界中の政策立案者は今、マリファナの合法化が問題よりも多くの恩恵をもたらすかどうか見極めるチャンスを手にしている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20131219/257314/?ST=print 権威主義が「成功モデル」という皮肉
グローバル経済と民主国家の危機(前編) 2014年1月6日(月) 中野 晃一 フランシス・フクヤマ氏が、自由民主主義の最終的な勝利と「歴史の終焉」を高らかに謳ってから、今年ですでに四半世紀を迎えようとしている。共産主義体制と東西冷戦の「終わりの始まり」は1989年のことであり、経済システムとしての自由市場経済と政治システムとしての代議制民主主義――すなわち自由民主主義――が、人類普遍の最高にして最終の体制として勝ちのこり、その旗手としてアメリカ合衆国が覇権をとる新世界秩序の形成が思い描かれたわけである。 実際、経済のグローバル化は、ウルグアイ・ラウンドを経て1995年に設立された世界貿易機関(WTO)のみならず、さまざまな国家間や地域内の自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を通じて加速度的に推し進められ、現在交渉中の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に至っている。 またサミュエル・ハンチントンの言う民主化の「第三の波」は、ヨーロッパなどの旧共産圏に限らず、アジアでは韓国や台湾、そしてラテンアメリカ諸国などにもおよび、さらに最近でも2010年暮れに始まった「アラブの春」により多くの権威主義体制が揺らぐところとなった。 しかし、2014年が始まるに際してあらためて世界を見渡すとき、現状は自由民主主義の最終勝利と言うにはほど遠く、むしろその著しい形骸化と危機が浮かび上がってくるのだ。 アメリカを揺るがす市民たちの反乱 自由民主主義体制を牽引する超大国であることを自他ともに認めるアメリカにおいて、2011年秋から冬にかけて、資本主義経済と代議制民主主義の破綻を告発する一大運動が前代未聞の大きな盛り上がりを見せた。「ウォール街を占拠せよ」を合い言葉にした「オキュパイ(占拠)運動」である。 サブプライムローン、そして2008年のリーマン・ショックに端を発した世界金融危機のあおりを受けて不景気が広がり、若年層を含めて雇用状況が著しく悪化すると、金融機関の「強欲」(greed)とそれを野放しにしてきた政府に対する批判が「われわれが99%である」というスローガンに結晶し、ウォール街のあるニューヨークのみならずアメリカ全土(そして世界各地)にオキュパイ運動は拡大した。 グローバル資本主義の総本山とも言うべきアメリカにおいて、自由市場経済の実態がグローバル資本による寡占支配と大多数の市民の搾取にすぎないとする言説が大きな注目を浴びるようになったこと自体驚きに値するが、それと合わせて、そうしたグローバル資本の専制に無力なばかりか加担してきたとして、民主党のオバマ大統領を含む政治エリートたちもまた槍玉にあげられたのであった。 代議制民主主義は機能不全に陥っており、形式上「選挙」で選ばれている政治エリートたちはグローバル企業に買収されてしまっている。かくなるうえは、公共空間を「占拠」することによって、99%の市民たち自らが直接行動で存在を示さなくてはならない、というわけである。 しかも、世界金融危機と政府の対応への批判を契機とした市民たちによる反体制運動の活発化は、政治座標軸の左側に位置したオキュパイ運動に限らず、右側においても、むしろオキュパイ運動に先んじて始まったティーパーティー運動のかたちであらわれている。 オキュパイ運動が沈静化した今も、ティーパーティー運動はますます勢力を伸ばし、連邦議会共和党を牛耳るまでになってしまった。「小さな政府」ポピュリズムと反動的な白人保守主義を信条とした極右運動の様相を呈しつつあるティーパーティー運動のサボタージュ戦略によって、ワシントンDCで長年培われてきた代議制民主主義の政治文化は大きく損なわれ、度重なる政府閉鎖危機に見られるように、連邦政府と議会の弱体化はもはや覆いようもない。 凱旋する自由民主主義の盟主であったはずのアメリカにおいて、実際には、グローバル経済と代議制民主主義がともに人びとの信頼を失いつつあるのだ。 経済統合に反発するヨーロッパ 世界金融危機の後始末に四苦八苦し、今なお政治的な火種を抱えつづけるのはヨーロッパ各国とて同じである。国境を越えた統合や連携が進む経済のただなかで起こるさまざまな経済・社会問題に、国民国家単位の政治では対応しきれず、その結果、多くの国において代議制民主主義に対する不信が募り、怒れる市民たちによる直接行動が頻発し、中道の主要政党が支持を失い、極右政党が勢力を伸ばしているのが現状である。 欧州連合にしても、単一通貨ユーロを含めた経済統合の進捗状況に比較して政治統合が大きく遅れている以上、国民国家を補完しての政策対応には限度があり、そもそもユーロなど経済統合の成果自体が問題を引き起こしているものとして批判の対象となってしまっている。 2010年に始まったギリシャ経済危機がまさにそうした事例の典型であった。ユーロ圏そして欧州統合そのものにとっての深刻な債務危機の端緒となったギリシャでは、融資や支援と引き換えに国外の政治家やテクノクラートら主導で財政緊縮政策が推し進められるなか、広場を占拠した市民たちの抗議行動がつづき、2012年の2度にわたる選挙で従来の二大政党は、急進左派連合と極右ネオナチの「黄金の夜明け」の挟み撃ちに遭い、大幅に支持を落とした。 経済・財政政策の失敗のツケを失業などのかたちで払わされることに抗議する多くの若者を含む市民たちによる同様の「占拠運動」は、スペインのマドリードやポルトガルのリスボンなどにおいても2011年以降、ウォール街でのオキュパイ運動に先立って展開されていたのである。 他方、移民・イスラム排斥、反欧州統合などを掲げる極右ナショナリスト政党もさまざまな国で勢力を拡大している。すでに中道二大政党に次ぐ第三政党の地位をものにしているヨーロッパの極右政党としては、2012年のフランス大統領選挙でルペン候補が党として史上最高の17.9%の得票を記録した国民戦線、オランダの自由党、デンマークのデンマーク国民党、フィンランドのフィンランド人党などが挙げられる。 単一通貨の存在が問題を複雑にしている欧州統合を一般的な経済のグローバル化と同一視することは妥当ではないが、個々の国民国家の市場間の障壁を取り除き、より大きな単一市場の形成をめざしてきた点においては共通している。経済圏が地域やグローバルに拡大していく一方で、政治圏は国民国家の枠が依然として強固に残り、代議制民主主義の主権者であったはずの大多数の一般市民たちは、ボーダーレス化する経済になすすべなく翻弄されているのである。 中国・ロシアという「成功」モデル 皮肉なのは、最終勝利を収めたはずの西洋の自由民主主義が、アメリカやヨーロッパそのものにおいて激しく揺らぐなかで、グローバル経済において相対的に地位を上昇させている新興国の筆頭として、(旧)共産国家である中国やロシアが挙げられることである。 もちろん、(旧)共産国家と言っても、その「成功」の秘訣は計画経済を放棄し、豊富な天然資源や安価な労働力を背景に「市場開放」改革を進めたことに見出されるわけだが、その実態はこんにちに至るまでおよそ自由市場経済とはかけ離れた縁故資本主義(crony capitalism)と言うべきものであり、また政治体制としても代議制民主主義とは無縁の権威主義体制である。 癒着を極めた政財界エリートたちによる寡頭支配では、国家権力をほしいままにする少数者たちが、必要とあらばナショナリズムを煽って人心掌握を図り、またジャーナリズムや言論の自由のみならず、市民社会全体のさまざまな自由を厳しく制限し弾圧する。 「市場開放」政策が不可避的に貧富の差を広げるだけではなく、実際には自由市場というよりは政治エリートの裁量と介入の余地が大きく残るなかで、汚職と腐敗に手を染めずして財を成すことが事実上不可能な社会となりながら、グローバル経済の浮き沈みによるひずみやしわ寄せは、大衆層に重くのしかかる。したがって、縁故資本主義の恩恵を受ける政財界エリートたちにとって、国内外の仮想敵を利用しガス抜きをしつつ、強権的な社会統制を行うことは不可欠なのである。 こうした中国やロシアなどに見られる権威主義体制と縁故資本主義を組み合わせた寡頭支配は、こんにち各国の政財界エリートたちに対して、国民国家単位の政治がコントロールできないグローバル経済の現実を踏まえたひとつの「成功」モデルを提示する格好になってしまっている。 「新右派連合」とグローバル経済 実際、世界金融危機が引き起こされた経緯とその帰結を省みたとき、政財界エリート間の癒着がけっして中国やロシアに限ったものでないことは明らかである。また、テロ対策などを名目にした国家権力による市民の政治的自由(civil liberties)の侵害と社会統制の強化の流れは、西洋諸国も深く巻き込んだ世界的な潮流と言わざるを得ない。 世界的な「新自由主義転換」は1970年代末から1980年代にかけて始まり、冷戦終結後の1990年代以降、いよいよ経済のグローバル化が本格的な展開を見た。 中国においては1978年にケ小平らによって「改革開放」政策が導入され、1989年の天安門事件で一時中止となるも、1992年以降再開される。経済の自由化は政治の民主化をもたらすことはなく、一党独裁が維持されるなかで、縁故資本主義の腐敗が蔓延していった。 他方、西洋においては1979年イギリスでサッチャー首相、1981年アメリカでレーガン大統領が誕生したことが重要な契機となっている。「強い国家と自由な市場」を標榜する「新右派連合」(New Right)政権の誕生である。コンセンサス政治とケインズ政策が主流を占めていた従来の政治経済のありようの大転換が始まったのである。 代議制民主主義の形骸化が経済のグローバル化を進めた 例えばイギリスの場合、マネタリズムに始まり、民営化、ロンドン証券取引所ビッグバンなどの規制緩和、人頭税の導入といった一連の新自由主義政策は、サッチャーがフォークランド紛争、労働組合潰し、労働党左派の影響下にある地方政府の廃止を強行し、絶大な権力を集中させ、国内外の「敵」を排除していくなかで初めて可能になったのであった。 こうした代議制民主主義の枠内での権威主義的な政治手法による新自由主義転換は、むろん中国のような権威主義体制そのものと同一に扱うことはできないが、本来自由民主主義があるべき姿から考えると、その違いは程度の差でしかない。 実は単純小選挙区制をとるイギリスでは、絶対多数(過半数)ではなく相対多数の(過半数に届かなくても、相対的にほかのどの候補者よりも多い)得票で議席を獲得できることから、多くの選挙区で当選候補は過半数の得票なくして議席を獲得するのである。言い換えれば、多くの選挙区でいわゆる「死票」のほうが過半数を占める事態が生じる。 これは、二大政党制と言いながら、実際の選挙では保守党と労働党のほかに自由民主党や地域政党(例えばスコットランド国民党)など3名以上の有力候補が票を分け合うからである。 これをすべての選挙区を合わせて考えると、政権を獲得するために必要な過半数の議席を獲得するのに、現実には過半数の総得票は必要ないし、事実、戦後これまで合計18回総選挙が行われてきたなかで、議会第一党となって勝利を収めた政党の総得票が過半数を超えたことはただの1度もない。 つまり、小選挙区制は、得票における少数派を議席における多数派にすり替える魔法の装置として機能してきたのであり、サッチャーを含め戦後のほぼすべての政権は40%前後の少数派からの得票でじゅうぶんな議会多数派を形成してきているのである。しかし、これでは多数決ではなく少数決であり、少数決はどう無理をしても民主主義とは呼べない。 こうした条件のもと、サッチャーは1990年までの首相在任期間中、一貫して保守党の票田にあたるイングランド東南部の金融業やサービス業の利害を優先する政策をとり、製造業は衰退をつづけ失業率は大恐慌以来のレベルにまで上がった。また株式市場や住宅市場が好況に沸く一方で、貧困問題は悪化の一途をたどったのであった。 イギリスの事例が示すのは、代議制民主主義の形骸化がグローバル企業の影響力が強まることによって初めて起こるのではなく、富裕層の利害を代表する少数派が、小選挙区制のおかげで議席の多数を占め、強権的な政権運営によって経済のグローバル化が進められたという事実である。 (後編に続きます) 『民主党政権 失敗の検証』 「民主党政権 失敗の検証」も 併せてお読みください!
筆者である中野晃一さんも執筆メンバーの1人として加わっている『民主党政権 失敗の検証』。「日本再建イニシアティブ」によるプロジェクトの成果です。「国民の高い期待に乗って誕生した民主党政権は、三年三ヵ月後に、国民の深い失望に追い立てられて政権の座をおりた。民主党は、どこで、何を、どう間違ったのか」(序章より)について、民主党議員を中心にヒアリングとアンケートを実施し、緻密に検証したものです。本コラムと併せてお読みください。 このコラムについて 民主主義は終わったのか フランシス・フクヤマの「歴史の終焉」から四半世紀が経つ。しかし2014年を迎えて世界を見渡してみると、自由民主主義はむしろ形骸化し危機を迎えているように見える。米国ではティーパーティー運動で政治機能が一時的にマヒ。欧州では経済統合が進む一方で、政治的には極右政党が台頭している。そして力を増しているのは中国やロシアといった新興国だ。今後、民主主義はどのような姿になっていくのだろうか。この潮流は日本の政治状況にどのような影響を与えているのか。気鋭の政治学者が考える。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/39589 JBpress>海外>海外の日系紙 [海外の日系紙] ドイツ一番のお金持ちは庶民の味方?アルブレヒト兄弟は、どう資産を築いていったのか 2014年01月04日(Sat) ドイツニュースダイジェスト ドイツニュースダイジェスト 20 Dezember 2013 Nr.968 ドイツの超富裕層ランキングに毎年名を連ねる、カール・アルブレヒトとテオ・アルブレヒト。同じ名字であることから推測できるように、彼らは兄弟である。ドイツで一番有名な兄弟と言っても過言ではないこの2人は、ドイツ人の日常生活に欠かせない、あるビジネスと深く関係している。アルブレヒト兄弟のビジネスとは。そして彼らはそのビジネスをどのように成功させていったのだろうか。(藤田さおり) ドイツのウルトラ富裕層 ドイツの最も裕福な100人のランキングが、マネージャー・マガツィン誌により発表された。1位は昨年に引き続きカール・アルブレヒト氏で、総資産額は178億ユーロ。2位はテオ・アルブレヒトJr.一家で同160億ユーロであった。カールと、テオ・アルブレヒトJr.の父であるテオ・アルブレヒトは兄弟で、ディスカウントスーパー・アルディ(ALDI)の創設者である。 米国の経済誌フォーブスの世界長者番付2013年度版では、カール・アルブレヒトが18位、テオ・アルブレヒトJr. 一家は31位にランクインしている。 アルディの設立 Huestrase 89, Essenに残る第1号店。シェーネンベックの店が5年後、こちらに移動した アルブレヒト兄弟は、どのようにして資産を築いていったのだろうか。 ドイツ人の98%が知っているという驚異的な認知度を誇るアルディは、今からちょうど100年前の1913年、当時パン屋の見習いであった兄弟の父が、木製カートでの配達サービスをビジネス登録したことに始まる。 実際の店舗としては、1914年に兄弟の母がエッセン、シェーネンベック地区にオープンした食料品店が最初。 ディスカウントという考え方は、アルディ兄弟が第2次世界大戦後に提案した。1948年には4支店がオープンし、1955年時点でノルトライン=ヴェストファーレン州に、アルブレヒトの名を冠したショップが100店舗存在していたという。 アルディの分割と世界進出 ルール地方をほぼ制圧した1960年、兄カールはドイツ南部を担当し、弟テオは北部を担当した。アルディは現在、ドイツだけで3700の店舗を構える。 海外への進出は、アルディ・ノルト(ALDI NORD)が、ベルギー、デンマーク、フランス、ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペインを、アルディ・ズュート(ALDI SUD)が、オーストリア、米国、英国、アイルランド、オーストラリア、スイス、スロベニア、ハンガリーをカバーしている。現在、アルディ・ズュートは、米国の西海岸を制覇しようとしている。 アルディ店舗の特徴 アルディは低価格良品質の象徴とされ、1976年には日用雑貨なども置くようになった。その後、コンピューターやシャンパンなども扱い始め、低所得層だけでなく、中間層もアルディを訪れるようになった。 世界に展開するALDI。赤がノルト、青がズュート、緑は両店舗が進出している国々 出典: aldi.de, aldi-nord.de アルディの売上高は推定260億ユーロとされるが、正確な数字ははっきりしない。また最近、アルディにはコミュニケーション部が設立されたそうだが、そこにはFAXが設置されているのみという。こういったところに、アルディの徹底した経費削減策が表れている。 実際、アルディは客にショッピングを楽しんでもらうことを目的としていない。いかに必要な品を安く提供するかに主眼を置いているのだ。近年は、旧市街の中にも進出しているが、店舗デザインが若干モダンになり、採光を取り入れる程度で、その基本的な姿勢は変わらない。 アルディ兄弟の性格 彼らは敬虔なカトリック家庭に育ったために、よく働き、お金を貯めるために質素な生活を送り、日常は謙虚であることをモットーとした。 一方、従業員に対しては常に最大のパフォーマンスを要求したために、たびたび元従業員から告発されている。しかしそのような告発は、ほかの国内のディスカウントスーパーでも同様に行われている。 2010年に弟のテオが亡くなり、その家族が資産を受け継いだ。戦後最大のドイツの企業家とも言える2人は、公共の場への露出を極端に嫌い、インタビューを受けたことがない。そのため、フォーブス誌の世界長者番付にも写真が掲載されていない。 2人について知られていることと言えば、ビジネスと一線を引いた場では、兄弟は共にゴルフを楽しんだようだ。また、弟テオはタイプライターの収集を趣味としていたという。 ドイツ人の国民性とディスカウントスーパーの成長 ドイツには、マクドナルドなどのファストフードのほか、タイ料理や中華料理、トルコ料理など、自営のファストフード店が街中に数多く存在し、それらはインビス(Imbiss)と呼ばれる。 ドイツの様々なディスカウントスーパー 近頃、日本でよく見掛けるようになったトルコ料理のドネルケバブはデュナー(Donner)と呼ばれ、ドイツ人にとっての身近なファストフードだ。 あるタイ料理のインビスに行ったときのこと。そのインビスは、旧市街から少し外れたところにあるため車で乗り付ける客が多いのだが、駐車場がない。その店であるドイツ人家族と相席した際、駐車できる場所がなかなか見付からなかったことを嘆いていた。 そこで、近くにある駐車場付きのタイ料理のインビスを紹介した。味はそちらもかなり良い。しかし、返ってきた答えは、「だって、あの店のメニューは1ユーロずつ高いじゃない」。 ドイツに住む日本人の方には心当たりがあり、思わずニヤリとしてしまうエピソードに違いない。 ドイツ人は一般的に、衣食に関してはそれほどこだわらない。大都市のオフィスや繁華街でもカジュアルな格好の男性を見掛けるのが普通で、化粧をしていない女性も多い。 食事については、量と価格が重要な要素である。外食での1ユーロの価格差にも彼らは敏感なのだ。それは、日本人と比べて衣食の質をあまり重視しないドイツ人の国民性もあるだろうが、日常生活は至って質素で、倹約家が多いことも関係しているだろう。 アルディ兄弟の成功は、このようなドイツ人の国民性にマッチしたものと言って良い。 マネージャー・マガツィン誌のランキングの3位には、同じくディスカウントスーパーのリドル(Lidl)の創設者ディーター・シュヴァルツが総額資産13億ユーロで上っている。彼はこの1年で資産を1億ユーロ増やし、アルディ兄弟に肉薄している。 [用語解説] 富裕層:Person mit hohem Eigenkapital 米国のプライベートバンクによって定義された概念で、住居用以外の不動産を保有し、100万ドル以上の投資可能な資産を持つ個人や世帯。銀行によって線引きは異なるが、500万ドル以上5000万ドル未満の資産を持つ世帯は超富裕層、5000万ドル以上の資産を持つ世帯はウルトラ富裕層と呼ばれる。100万ドル以上の資産を持つ富裕層数は、1位が米国で約1100万人、2位は日本で360万人、ドイツは5位で146万人である(グローバル・ウェルス・レポート 2012調べ)。 参考 ■ www.welt.de "Den Superreichen geht es so gut wie nie zuvor" (07.10.2013) ■ www.stern.de "Der sagenhafte ALDI-Mitbegrunder" (29.07.2010) ■ www.faz.net "Aus grundsatzlichen Erwagungen" (04.05.2013) ■ www.forbes.com "The World's Billionaires 2013" ■ www.stern.de "Aldi: Meilensteine der Firmengeschichte" (04.04.2013) 藤田さおり(ふじた・さおり) 法政大学経営学部経営学科卒業。ニュルンベルク在住。スイスの日本人向け会報誌にて、PCコラムを執筆中。日本とドイツの文化の橋渡し役を夢見て邁進中ですが、目下の目標は、ドイツの乳製品でお腹を壊さないようになること。 (ドイツニュースダイジェスト・本紙記事の無断転載を禁じます。JBpressではドイツニュースダイジェストの許可を得て転載しています)
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