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[風見鶏]「倍返しできぬ甘ちゃん」 特別編集委員 伊奈久喜
「倍返しできぬ甘ちゃん大統領」――。ことしを振り返る世相川柳にこんな作品があった。
ドラマ「半沢直樹」の決めぜりふ「倍返し」を使ったのだから「甘ちゃん」はやはりドラマの「あまちゃん」なのだろう。でも川柳作者はわざと「甘ちゃん」を使ったようだ。
倍返しできない「甘ちゃん大統領」はだれか。オバマ米大統領らしい。
倍返しには「報復」だけでなく「抑止」の響きもある。対立相手の攻撃を封じるために倍返しを叫べば、抑止効果を期待できる。これが安全保障用語の「懲罰的抑止」だろうか。
抑止には、懲罰的抑止と「拒否的抑止」がある。手痛い打撃を与えるぞと威嚇し、攻撃を断念させるのが懲罰的抑止であり、相手の攻撃を阻止できる能力を示して思いとどまらせるのを拒否的抑止と呼ぶ。
オバマ氏が表明したシリア攻撃には、懲罰的抑止の狙いがあった。将来だれか化学兵器を使うのを抑止するために、直近にそれを使ったとされるアサド政権を懲罰しようとしたのだが、できなかった。つまり倍返しできなかった。
倍返しするぞと宣言したのに、できなければ「甘ちゃん」とみられる。中国や北朝鮮はそう思い、米国の同盟国であるイスラエル、サウジアラビア、そして日本では、オバマ政権への失望が広がった。
日本にとり深刻だったのは、11月20日のライス米大統領補佐官(国家安全保障担当)のジョージタウン演説だった。就任後初のアジア政策演説だったのだが、2点が日本を刺激した。
ひとつは中国との「新大国関係」を容認した点である。6月の米中首脳会談で中国の習近平国家主席が求めたが、米側は明確な態度をとっていなかった。
もうひとつは質問に答えて尖閣問題に触れ、(1)問題の平和的解決を求める(2)主権の問題については立場をとらない――とだけ述べた点だ。米国政府の公式見解はそれに加え「尖閣諸島は日本の施政権下にあり、日米安保条約5条が適用される」があるのだが、それには触れなかった。
クリントン前国務長官は「日本の施政権を一方的に害するいかなる行為にも反対する」とも述べていたが、ライス発言は上記の(1)(2)だけだった。中国が喜んだのは想像に難くない。中国の尖閣上空に対する防空識別圏(ADIZ)設定の発表はその2日後である。
ライス演説は1950年1月のアチソン国務長官の演説を連想させる。韓国を防衛線の外に置いたために朝鮮戦争の誘因となったとされる有名な演説である。因果関係の明確な検証はできないが、ライス演説は中国の背中を押したと推測できる。
中東専門家の池内恵東大准教授が「Lexus−A」という新語を造った。レクサスAと発音する。新車の話ではない。「League of Ex US Allies(元米国同盟国連盟)」の略語だ。サウジアラビア、トルコ、イスラエル、日本、さらに英国がメンバーらしい。
米国と同盟国との関係が中東でも、アジアでも、しっくりいっていない。そんな意味だろう。15日のモナコでの「世界政策会議」でも、サウジやイスラエルの参加者がオバマ政権の信頼性を問題視した。
ドラマ「あまちゃん」の底流には80年代への郷愁があった。冷戦末期であり、レーガン米大統領が「アイドル」だった。抑止論に戻れば、拒否的抑止の道具である戦略防衛構想(SDI)を武器にソ連との冷戦に勝利した。レーガンは甘ちゃんではなかった。
(特別編集委員 伊奈久喜)
[日経新聞12月22日朝刊P.2]
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