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[核心]米の政治停滞、進む無極化
外交漂流、同盟国も惑う 本社コラムニスト 脇祐三
オバマ政権が2期目に入った今年は、米国の政治の停滞を世界に印象づける年になった。財政をめぐる政権と野党・共和党の対立で10月には政府機関の一部閉鎖に至った。内政の混迷と並行して対外的な関与に消極的になり、同盟国の間に戸惑いや不満が広がる。
世界のガバナンス(統治)を主導する国がいない無極化の状態を「Gゼロ」と呼び、その到来に警告を発する米国の政治学者イアン・ブレマー氏は、現状を次のように評する。「オバマ大統領は内政に手いっぱいだ」「民主党も共和党も外交に力を入れる気はない」「その結果、Gゼロ化がどんどん進む」と。
再選から1年を経たオバマ大統領の支持率は40%前後にまで下がった。レーガン、クリントン両元大統領の2期目の支持率を大きく下回り、ブッシュ前大統領と不人気度を競う。
政府機関の閉鎖では、共和党の硬直的な姿勢に批判が集まった。今は大統領への失望が強い。政府の責任による国民皆保険の実現を掲げ、共和党の反対を押し切って始めた医療保険改革がつまずいているからだ。
まず、政府が設けた保険加入サイトが大量のアクセスに対応できない技術的な問題が起きた。大統領は「加入していた保険を続けたければ、続けられる」と説明していたのに、新制度に適合しないという理由で保険会社から強制的に解約される人が続出しかねないこともわかった。
「大統領は完全に信頼を失った」と共和党が勢いづく。オバマ大統領は政策を批判されるとムキになり、妥協を拒みがちだ。3年あまりの任期を残すのに、大統領は「ずっとレームダック(死に体)になる危機」(英フィナンシャル・タイムズ紙)に陥っている。
外交ではイランとの対話にかじを切ったが、核開発問題をめぐる最初の合意にこぎつけるまでにも曲折があった。イランがウラン濃縮の権利を明確に認めるよう要求しただけではない。米国の同盟国が交渉のハードルを上げたからだ。
AP通信によると、米政府はオマーンの仲介によってイラン側との秘密協議も重ねていた。9月末にこれを知ったイスラエルのネタニヤフ首相は、制裁緩和は論外との主張を強めた。
11月8日、イスラエルのベングリオン空港。ネタニヤフ首相はジュネーブでのイランとの協議に向かうケリー米国務長官と会談した後、1人で記者会見した。「非常に悪い取引だ」「合意ができても拒否する。われわれは拘束されない」。首相はそう公言し、長官には「勝手におやりなさい」と言い放ったという。
イランとの協議では、ウラン濃縮問題に話を絞って合意を急ぐ米政権の意に反し、フランスが研究用重水炉の建設停止なども提起した。その結果、合意はいったん遠のいた。
20日からの再協議の前にイスラエルを訪問したオランド仏大統領は、重水炉の建設中止も含めた4項目の条件を発表した。フランスはイスラエルの意向を代弁したとみられている。
イランと冷戦を続けてきたサウジアラビアも、頭越しに米国とイランが歩み寄る動きに反発する。
オバマ政権は8月に、化学兵器を使用したとしてシリアのアサド政権側を軍事攻撃する構えを見せ、フランスの支持を取り付けた。サウジやイスラエルは攻撃に協力する用意も示した。ところが、オバマ大統領が攻撃を断念し、フランスもサウジもイスラエルも、はしごを外された。米政権のブレが、これら同盟国の不信を招いていたわけだ。
イランとの初の合意はできたが、イスラエルやサウジ、反イラン色の強い米議会を説得できるだろうか。
米中央情報局(CIA)のスノーデン元職員が暴露した、欧州の同盟国に対する盗聴疑惑も影を落とす。米国の盗聴活動が、英国、オーストラリアなど英語圏諸国と連携して行われていたと見られることが、フランスを刺激する。ドイツのメルケル首相も、自らの携帯電話が盗聴されていた疑惑の影響は重大であり、米国と欧州連合の自由貿易協定(FTA)交渉が厳しくなるとの考えを示す。
アジア諸国を取り込む環太平洋経済連携協定(TPP)と、欧州との一体化を進める米欧FTAは、中国の台頭をにらんで米国が通商の世界的なルールづくりを主導する戦略の両輪だ。
米国はTPPの年内妥結をめざすが、オバマ大統領が10月のアジア諸国首脳との一連の会議を欠席して勢いが弱まった。クリントン前国務長官やキャンベル前国務次官補がアジア重視戦略を推進した政権第1期と比べると、第2期の外交チームのアジアへの関心や取り組みは弱い。
米国の株価は先週、史上最高値を更新した。10月の米国の原油生産量は原油輸入量を上回り、「シェール革命」の進展を示した。米国が衰退しつつあるわけではない。だが、政治の停滞と外交の漂流は深刻だ。
米国の戦略国際問題研究所(CSIS)が発表した2014年のグローバル予測は、「米政府の深刻な劣化が長期的な繁栄に影響を及ぼすのを懸念する」と記す。「中東の変化に対応しアジアへの関与を続けると同時に、米国は自国をちゃんとしなければならない」(ジョン・ハムレCSIS所長)。これが国際情勢の重要なポイントだ。
[日経新聞11月25日朝刊P.4]
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