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ジョンとヨーコとアイスランド
世界一平和な国から発信するメッセージ〜北欧・福祉社会の光と影(30)
2013年10月17日(Thu) みゆき ポアチャ
オノ・ヨーコ平和賞のレディー・ガガさん、賞金はエルトン・ジョン・エイズ基金に
昨年レイキャビクで行われた「レノン・オノ平和賞」の授賞式では、レディー・ガガ(右)が賞を贈られた〔AFPBB News〕
今年も10月9日、アイスランド・レイキャビクの「イマジン・ピースタワー」に灯がともった。
この日はビートルズのメンバーだった故ジョン・レノンの誕生日で、存命であれば73歳になる。奇しくもレノンとオノ・ヨーコの子息ショーン・レノンの誕生日でもある。
この「イマジン・ピースタワー」は2007年、オノ・ヨーコが愛と平和のシンボルとしてレイキャビクのヴィーズエイ島に建設した、世界平和を祈念するモニュメントだ。毎年10月9日から、ジョン・レノンの命日である12月8日までの期間と、大晦日などの数日に点灯される。
愛と平和のシンボル「イマジン・ピースタワー」
設置の地としてアイスランドを選んだ理由について、オノ・ヨーコは「世界最北に位置する首都レイキャビクから『平和の光』を発信し、世界を包み込むという意味がある」と話している*1。
今年80歳を迎えたオノ・ヨーコは、前衛アーティストとして、そしてミュージシャンとしても依然として精力的に活動している。
2010年のタワーの点灯式には、彼女とショーン・レノンらが参加し、2人でその前年に再結成したプラスチック・オノ・バンドが演奏を披露した。このコンサートチケットは発売後10分で完売した。当時77歳だったオノ・ヨーコは舞台上をエネルギッシュに走り回り、独特の歌い方でこの日のために書いた新曲を披露した。
コンサートの終盤にはビートルズの元メンバー、リンゴ・スターや、故ジョージ・ハリスンの妻オリビアさん、息子のダーリ・ハリスン、レイキャビクのハンナ・ブリーナ・クリスジャンスドッティル市長も登場し、全員で「Give Peace a Chance」を熱唱した*2。
http://www.visionofhumanity.org/sites/default/files/2013_Global_Peace_Index_Report_0.pdf
アイスランドは、事実上「平和な国」として認定されている。
「世界の国と地域の平和度ランキング」 による世界162カ国を対象とした調査では、アイスランドは2年連続で「世界で一番平和な国」であるという結果が出た。
日本は昨年は5位、今年は6位にランクしている。ちなみに2012年のリポートでは、刑務所に収監されている人の数は上位10カ国の中ではフィンランドと日本が非常に低いことが特筆されていた。
*1=http://www.youtube.com/watch?v=Ia0EgTs-oFE
*2=http://www.mbl.is/myndasafn/mynd/241326/, http://grapevine.is/Home/ReadArticle/Yoko-Ono-Relights-The-Imagine-Peace-Tower?
調査を実施した経済平和研究所(IEP)は、アイスランドを以下のように評価している。
「アイスランドは、世界で最も平和な国である。この島国の国家は紛争から自由であり、欧州国家内でも犯罪や殺人の発生率が最小で、投獄される人数もかなり少ない」「現在の社会民主同盟(SDA)と左翼・緑の党運動(LGM)による中道左派連合の下で、政治はかなり安定している。2009年4月以降、改革派のヨハンナ・シグルザル首相の主導の下で緩やかな景気回復を実現させ、2012年に国際通貨基金(IMF)からの賞賛を獲得した」*3
近年の危機と大災害
瓶詰め火山灰を販売、収益は寄付 アイスランドのオンラインショップ
2010年5月、噴煙を噴き上げるアイスランド・エイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山〔AFPBB News〕
平和な国ではあるのだが、近年は災難続きだ。
2010年にはエイヤフィヤトラヨークトル氷河が噴火し、欧州の広い範囲に火山灰が拡散、数週間にわたって空の交通がストップした。欧州の航空各社の損失額は数十億ドルに上り、さらに噴火灰の影響で遅延やキャンセルなどを被った乗客への補償金の支払いも膨大な額に達した。
この火山灰は、国内の農業や放牧にも多大な影響を与えた。スウェーデンをはじめ欧州各地から多くの「おそうじボランティア」がアイスランドへ渡り、灰の除去を手伝っている。
また、2008年の欧州金融危機と、これに続いた債務危機により、欧州で最も深刻な影響を受けた国の1つとなった。
国内では銀行システムが破綻して通貨も暴落し、大手銀行が軒並み国有化され、社会保障が大幅に削減されるなど、国内金融体制の大変革を経験した。この事態は国民の生活に大きく影響を与え、非常に多くの人が国を出てノルウェーなどへ移住している。
当時のニュースは、「この国にはもう仕事も未来もない」と言って出国する国民や、子供が食事を終えた後に夫婦が残り物を食べている、といった話が紹介されていて、身につまされる思いだった。
当時は何千人もの国民が連日議会につめかけて政府に対する批判の声を上げ、首都は数週間にわたって騒然とした。この国民の声により、ゲイル・ホルデ元首相のほか、元外相、元財務相、元通商相らが破綻の責任を問われる事態となり、政治体制も破綻寸前の危機に直面した。
ではあるが、上記の平和リポートにもあるように、近年は忍耐強い施策により政治はかなり安定してきており、また経済面でも景気の回復を実現させてきている。
天地創造の原風景
あふれる観光客に懸命対応のアイスランド
巨大な露天温泉ブルーラグーンは人気の観光地〔AFPBB News〕
北欧5カ国のうち、筆者が足を踏み入れたことがないのはアイスランドだけだ。
そのせいもあるのかもしれないが、地球の原風景のような荒涼たる大地、ダイナミックに噴火する氷山や春先の大洪水、吸い込まれそうなブルーラグーンに非常に心を惹かれる。アイスランド風景の写真など、気がつくと何十分も眺めていたりする。行く機会を狙っているのだが、なかなか実現しそうにはない。
だが、筆者がアイスランドに心を惹かれる理由は、その大自然によるものだけではない。
*3=http://www.visionofhumanity.org/sites/default/files/2013_Global_Peace_Index_Report_0.pdf
温かく素朴、そしてユーモアに富んだ国民性
アイスランド、ロシアに5600億円融資要請
アイスランドの首都レイキャビク〔AFPBB News〕
以前、欧州の経済紙に北欧ニュースの翻訳記事を書く仕事をしていたことがある。
北欧各国の主要な経済ニュースを訳すのだが、時々内容の詳細について、直接記事の対象やメディアに問い合わせをすることがあった。
電話のこともあるが、通常はメールで問い合わせをする。返信をくれなかったり、担当者に連絡がつかなかったり、たらい回しにされたり、「アンタ誰?」と胡散臭そうな対応を受けたりしたことも多かったが、アイスランドだけはいつも全然違った。
「ウチでは分からないが、○○さんに問い合わせたら」と紹介してもらったり、わざわざ当該の関係者を探して私のメールを転送してくれたり、それをさらに数人に転送してくれたり、その人たちが次々にメールをくれたりなど、とにかく問い合わせた人たちほぼ全員が真摯に答え、丁寧な返事をくれたのだ。
アイスランド紙を読んでいて、「こんな面白いニュースがある」「さすがアイスランド」と驚いたり感心したりすることもたびたびなのだが、他国にはほとんど報道されないようなので、いつも残念に思う。
恐らくアイスランド国民自身も、もう少し世界に注目されてもよいと思っているのではなかろうか。そして筆者の想像では、「日本のメディア」からの問い合わせに、内心は喜んでいるフシがあったのではないかとも思う。
アイスランドの暖かく素朴な国民性の中からは、一風変わった、あるいは突出した人材も輩出されている。
傑出した逸材の数々
筆者が逸材として真っ先に挙げたいのは、首都レイキャビクの名物市長、ヨン・ナール氏だ。
同氏は2010年にレイキャビク市長に就任したが、彼の前身はコメディアンでパンクロッカーだ。金融・債務危機により国家が崩壊の危機にあった時、同氏が新党「ベスト党」を立ち上げて第1党となり、この結果市長に就任した。
選挙時、同氏は「動物園に白クマを!(気候変動の影響で北極から白クマがアイスランドに渡ってきており、政府当局は射殺していたため)」「公営プールに無料のタオルを!(温泉での無料タオルの提供は欧州連合=EU=ルール基準であり、またアイスランドの観光資源である硫黄温泉の利用客増加を狙った)」「2020年までに麻薬のない議会を!(麻薬とは不正や賄賂のこと)」「首都空港にディズニーランドを!(経済復興策)」などを選挙公約に掲げたうえで、「公約は守らない」と公約し、34.7%の支持率を獲得した。
市長就任後も、レイキャビクのニックネームをグナンレンブルク(ドイツの一地名でレイキャビクとはまったく無関連)にしようと提案したり、ドラァグクイーンの女装をしてプライドパレードに参加したり、深夜ラジオ番組でホワイトハウスや米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)にイタズラ電話をかけたりした。腕に市の紋章のタトゥーを入れてフェイスブックにアップした時には、化膿して大変な目に遭ったらしい。
現在、レイキャビク市内の信号機は、青色が点灯すると「スマイル」のニコニコマークが見えるようになっている。これも市長の発案だ。
昨年の夏には、何と「市長行方不明事件」を起こしている。レイキャビクの独立党ヘイムダルは、「市長の所在を確認した人には懸賞を出す」と発表していたが、懸賞としてかけられていたのは『Ég var einu sinni nörd(ボクはかつてオタクだった)』が収録されたVHSテープだった。
数日後に同氏はノルウェーで夏休みをとっていたことが判明している*4。
ロシアにも米国にも堂々と物を言う弱小国
と言っても、筆者が同氏に最も魅かれるのは、彼の正々堂々とした政治姿勢だ。
以前にも触れたが、ナール氏は今年7月、ロシアが制定した同性愛者弾圧法に対する抗議の表明として、「レイキャビクとモスクワ間の姉妹都市協定を破棄する」と発表した*5。
米国、商業捕鯨続けるアイスランドに制裁か
アイスランドにとって捕鯨は文化の一部〔AFPBB News〕
吹けば飛ぶような弱小国が、核を持つ軍事大国にこう堂々と言ってのける姿勢は、賞賛に値する。軍備について言えば、アイスランドは常備軍を持たず、2006年に米軍がケフラヴィークからの駐留を引き揚げてからはほぼ無防備状態だ。
ナール氏は米国の銃社会に対しても、以下のように言ったことがある。
「あなたたちは私たちの捕鯨に対して不満を述べるが、捕鯨は私たちの文化の一部だ。あなたたちは『捕鯨をやめなければ、アイスランドの魚を購入しない』と言った。いいでしょう。しかし、私たちは米国の銃文化にどう対応したらいいでしょうか。コーラの不買運動をしましょうか?」*6
*4=http://www.mbl.is/frettir/innlent/2012/07/18/heimdellingar_leita_jons_gnarr/, https://www.facebook.com/events/361128883955911/
*5=http://www.icenews.is/2013/07/16/reykjavik-to-terminate-relations-with-moscow-over-lgbt-rights/
*6=http://www.ibtimes.com/iceland-plenty-guns-hardly-any-violence-1021958
また、これは直接ナール氏の意向ではないのだが、米国の機密を暴露したエドワード・スノーデン氏の積極的な亡命受け入れに向けて準備していた政治家や民間人も多かったようだ。これも米国に対する一種の「異議申し立て」ではなかろうか。
大統領選に立候補した3児のママ
また、昨年筆者を「さすがアイスランド」と思わせたニュースは、第3子の出産を控えた母親が大統領選に立候補したことだ。この女性は国営放送RUVのジャーナリスト、ソーラ・アルノルスドッティルさん(37)だ。選挙前の5月に3人目の子供を出産したが、このため選挙運動を一時中断し、僅差で現職に敗れた。4月に行われた世論調査では49%の人が彼女を支持しており、現職大統領の支持率は35%だった。
ソーラさんが大統領に当選していたら、職務に就く彼女に代わって、パートナーであるスヴァヴァル・ハルドルソンが育児休暇へ入る予定だった*7。
アイスランド首相、同性愛パートナーと正式に入籍
ヨハンナ・シグルザルドッティル前首相は正式な同性婚をした世界初の国家首脳だった〔AFPBB News〕
もう1人の例を挙げると、5月まで首相を務めていたヨハンナ・シグルザルドッティル氏は、早くからレズビアンであることを公言していた。同性の婚姻が法制化された後、直ちに婚姻届を出し、正式な同性婚をした世界初の国家首脳になった。
ちなみに第4代大統領のヴィグディス・フィンボガドゥティル氏も、世界初の民選の女性国家元首である。
こういった、己の道に一点の曇りもなく凛とした姿勢を見せる政治家と並び、こういった政治家を支持し選出する国民性が、また傑出していると思う。
アイスランドに明るい話題をもたらしているのは、政治家だけではない。
北欧最大級の野外音楽フェス「ロスキレ・フェスティバル」で行われる毎年恒例の「ビッグ・ヌード・レース」での昨年の優勝者はアイスランドのペトゥル・ゲイル・グレタルソン(22)だった。
そそり立つペニスを堂々と誇示しながらレース直後のインタビューに答えたペトゥルさんは「今日はぼくの人生の中で最良の日です。自分でもビックリです。このヌードレースで優勝した初めてのアイスランド人なので、ニュースに大きく出るでしょうね」と話した。ガールフレンドは「彼をとても誇りに思います」と話している*8。
世界に平和は訪れるのか
話を世界平和に戻すと、明るい光明は依然として見られる様子はないようだ。
10月11日発表されたヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)のリポートでは、シリア政府の転覆を狙う反政府軍は、親政府アラウィー派の村民少なくとも190人を殺害し、さらに200人以上を拘束している。殺害された中には、少なくとも57人の女性、18人の子供、14人の高齢者が含まれている。高齢者の中には、松葉杖で歩く人や、盲目の80歳の女性もいる。
*7=http://www.mbl.is/frettir/kosning/2012/07/01/dottir_oru_heitir_sdis_hulda/
*8=http://www.ruv.is/frett/islendingur-vann-nektarhlaupid, http://www.pressan.is/Frettir/Lesafrett/islendingur-sigurvegari-i-nektarhlaupinu-i-hroarskeldu---hitadi-upp-med-bjordrykkju
国連リポートも、シリアでの反政府軍の大量虐殺などの戦争犯罪を次々と明るみに出している。シリアをはじめ、イラクでもアフガンでも、状況はますます凄惨を極めているようだ*9。
地中海でまた難民船沈没、死者多数
イタリア・ランペドゥーザ島に引き揚げられた難民が乗っていた小型船〔AFPBB News〕
10月初めには、戦禍を逃れようとする数百人の難民が、イタリア・ランペドゥーサ島沖で溺死したことが大きく報じられたが、規模は異なるものの同様な事件はほぼ連日のように起きている。出国する難民数自体が日々記録を更新している状態だ。
世界唯一無二の超大国も、今や瓦解寸前のような有様だ。万が一にも米国が吹っ飛んだら、世界にどれほどの影響を及ぼすだろう。
この混沌とし混迷を深める世界の北辺で、人口32万という小国ながら、アイスランドはあふれるほどの誇りと真摯さ、そしてユーモアと熱意をもって一条の確かな平和のメッセージを、しかし強力に世界に発信し続けている*10。
*9=http://www.hrw.org/sites/default/files/reports/syria1013_ForUpload.pdf, http://www.hrw.org/news/2013/10/10/syria-executions-hostage-taking-rebels
*10=http://www.imf.org/external/pubs/ft/weo/2013/02/pdf/c1.pdf
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38934
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