02. 2013年10月03日 04:19:10
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JBpress>海外>The Economist [The Economist] ブラジルの未来:チャンスを逃してしまったのか? 2013年10月03日(Thu) The Economist (英エコノミスト誌 2013年9月28日号)停滞する経済、膨れ上がった国家、そして大規模な抗議行動は、ジルマ・ルセフ大統領が針路を変えねばならないことを意味している。 ブラジル抗議デモ、収束の気配なし 国民の7割以上が支持 リオデジャネイロのコルコバードの丘に立つキリスト像〔AFPBB News〕 本誌(英エコノミスト)は4年前、「ブラジルが離陸する」という見出しを掲げ、コルコバードのキリスト像がリオデジャネイロのコルコバードの丘からロケットのように飛び立つ絵を表紙に掲載した。 1990年代半ばにフェルナンド・エンリケ・カルドーゾ大統領の下で安定したブラジル経済は、2000年代前半にルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ大統領の下で一気に加速した。 ブラジル経済は2008年のリーマン破綻後もほとんど傾かず、2010年には7.5%成長して4半世紀ぶりの高成長を記録した。そんなマジックに加え、ブラジルは来年のサッカー・ワールドカップと2016年の夏季オリンピックの両方の開催を勝ち取った。 こうした強みを追い風に、ルラ氏は2010年、同氏の庇護を受けた実務家のジルマ・ルセフ氏を大統領に選出するよう有権者を説得した。 それ以来、ブラジルはドスンと音を立てて地上に落ちてしまった。2012年の経済成長率は0.9%だった。6月には何十万人もの市民が街に繰り出して今世代で最大規模のデモを行い、高い生活費やお粗末な公共サービス、政治家の強欲と腐敗への不満を訴えた。 国民の多くは今、ブラジルが軌道に乗りつつあるという見方に不信感を抱き、今回もまた、彼らが「voo de galinha(鶏の飛行)」と呼ぶ短命な急成長だったと判断している。 成長の減速については弁解の余地もある。何しろ、すべての新興国が減速した。先のブラジルの好景気の原動力の一部――急性インフレを終わらせ、国を貿易に開放したことの成果やコモディティー(商品)価格の上昇、融資と消費の大幅拡大など――は尽きてしまった。 また、ルラ氏の政策の多く、特に2500万人の国民を貧困から救った「ボルサファミリア」は賞賛に値するものだった 世界で最も厄介な税法 だが、ブラジルは好況期に政府を改革する努力が全く足りなかった。それはブラジルに限ったことではない。インドにも同じようなチャンスがあり、やはりその機会を逃した。 しかし、本誌の特集が説明している通り、ブラジルの公的部門は民間部門に特に大きな負担を課している。企業は世界一厄介な税法に直面し、給与税が給与支払額を58%も膨らませており、政府は歳出の優先順位を履き違えている。 年金とインフラを比較してみるといい。前者の年金は呆れるほど手厚い。平均的なブラジル人は、54歳で退職して最終給与の70%を年金として受給することを期待できる。若者が多い国であるにもかかわらず、ブラジルが年金に費やす費用の国内総生産(GDP)比は、高齢者の割合がブラジルの3倍に上る南欧諸国と同等だ。 これとは対照的に、大陸規模の国土面積と悲惨な輸送網にもかかわらず、ブラジルのインフラ支出は両脇が紐のビキニ並みの貧弱さだ。ブラジルのインフラストックの価値はGDP比16%にとどまり、他の経済大国の71%より大幅に低いにもかかわらず、インフラ支出はGDP比1.5%で、世界平均の3.8%を下回っている。 劣悪なインフラはビジネスに不必要な負担をかける。マトグロッソ州では、大豆農家は収穫した農産物の価値の25%を港までの運搬費に費やしている。米アイオワ州では、その比率は9%だ。 ブラジル大統領、デモ受け訪日を延期 ジルマ・ルセフ大統領は過大な干渉で新たな問題まで生み出してしまった〔AFPBB News〕 こうした問題は、何世代もかけて積み上がってきたものだ。しかし、ルセフ氏はこれらの問題に取り組む意思あるいは能力がなく、実利的なルラ氏よりもずっと干渉することで新たな問題を生み出した。 ルセフ氏は投資家を怖がらせてインフラプロジェクトから遠ざけたうえに、中央銀行総裁に公然と利下げを迫ることで、ブラジルが苦労して手に入れた公正なマクロ経済運営という評判を損ねてしまった。その結果、現在、しつこいインフレを抑制するために金利を余計に引き上げなければならなくなっている。 政府は財政目標を達成できなかったことを認める代わりに、会計操作に訴えた。定義にもよるが、公的債務の総額はGDP比60〜70%に拡大しており、市場は大統領を信用していない。 幸い、ブラジルには大きな強みがある。効率的で起業家精神に富んだ農家のおかげで、ブラジルは世界第3位の規模を誇る食糧輸出国だ。また、たとえ政府のせいでプロセスが必要以上に遅れ、コスト高になったとしても、ブラジルは2020年までに石油の輸出大国になる。 ブラジルは製造業の有力企業も数社擁しており、バイオテクノロジー、遺伝子科学、深海油田、ガス技術に関する世界一級の研究拠点を築いている。拡大する中間層とともに成長してきた消費者ブランドは、海外に進出する構えだ。最近デモがあったとはいえ、ブラジルには、インドやトルコなどの新興国が抱える社会的、民族的な分裂は存在しない。 ジルマ・フェルナンデスのオウンゴール? だが、もしブラジルが活力を取り戻そうとするのであれば、改革への意欲を再発見しなければならない。 既に税金がGDPの36%を占めるなか――新興国ではクリスティーナ・フェルナンデス大統領の率いる無秩序なアルゼンチンと並ぶ高さ――ブラジル政府はデモ参加者を満足させるために医療や学校、輸送網に費やさねばならない追加費用の負担を納税者に求めることはできない。政府は代わりに、公的支出、特に年金を見直す必要がある。 次に、政府はブラジル企業の競争力を高め、投資を促さなくてはならない。それを実行する方法は、政府が考えているように企業を保護することではなく、国内企業をもっと外国との競争にさらす一方、ブラジル企業が国内で直面する、自ら招いた障害を取り除くために今よりずっと迅速に行動することだ。 ブラジルの輸入関税は依然高く、通関手続きは暴力的なまでの妨害行為のカタログだ。よりダイナミックな中南米諸国は、2国間貿易協定のネットワークを構築している。ブラジルは左派の議論の場と化してしまった地域経済圏のメルコスールと、死に体の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)の陰に隠れてきた。 3つ目に、ブラジルは早急に政治改革を断行しなければならない。助成金と利益供与にしか関心がない政党の増殖は、政府のあらゆるレベルで大きな無駄を生む。その結果の1つが、39もの省庁を抱える内閣だ。 理屈の上では、その解決方法は簡単だ。議員が有権者に対してより大きな責任を負うようにするために、議会での議席確保に必要な条件を定めたりすればいい。だが、現行制度下で利益を享受している人から制度変更への同意を取り付けるには、これまでルセフ氏が見せてきた以上の政治手腕が必要となる。 チャンスはまだある 今から1年後にルセフ氏は選挙を迎え、2期目(1期4年)の再選を目指す。これまでの実績を見る限り、ブラジルの有権者がルセフ氏に2期目を与える理由はほとんどない。だが、お役所仕事を削減し、省庁を統廃合し、公的支出を抑制することで必要不可欠な改革に着手する時間はまだある。 ブラジルは大失敗する運命にあるわけではない。もしルセフ氏がエンジンのレバーに手を置けば、ブラジルが再び離陸するチャンスはまだある。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/38844 |