02. 2013年9月11日 09:34:36
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JBpress>海外>Financial Times [Financial Times]肉食動物がひしめく世界の菜食主義国家ドイツ 欧州の最強国、総選挙の争点は取るに足りないことばかり 2013年09月11日(Wed) Financial Times (2013年9月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 取るに足りない小さなテーマがドイツの選挙戦の争点になっているのは、この国が成功を収めている1つの証しだ。安全で繁栄した国でなければ、政治の場で、日常生活の些事にここまで注目した議論を行うゆとりは持てないからだ。 「おかしな話だね」。アンゲラ・メルケル首相の上級顧問の1人はこうつぶやく。「外国の人は、ドイツの選挙が中東情勢や欧州の将来にとってどんな意味を持つのかを知りたがっているのに、当の我々は『菜食の日』とか高速道路の料金を巡って論争しているんだから」 シリアの化学兵器ではなく菜食主義の問題が世論を二分 ドイツ首相候補TV討論、経済政策めぐり激論 勝敗は五分 総選挙を前にテレビ討論に臨むアンゲラ・メルケル首相(左)と最大野党・社会民主党のペール・シュタインブリュック氏〔AFPBB News〕 米国や英国、フランスはシリアへの介入について頭を悩ましているが、ドイツにはそんな苦悩はみじんもない。有権者の大多数はシリア紛争にかかわらないことを望んでおり、主要政党は軒並み、それに賛同している。 今回の選挙でドイツの世論を二分している道徳上の問題は、化学兵器の問題ではなく、菜食主義の問題だ。 緑の党が飲食店で肉を出さない日を週に1日設けようと提案したことにより、ドイツ人とソーセージの間に割って入る権利が政治家にあるのかという激しい議論が沸き起こったのだ。 世界第4位の経済規模を誇ること、そして欧州最大の政治・経済大国でもあることを考えれば、ドイツの政界がこのように小さなテーマで議論をするのは奇妙だ。しかし、メルケル氏の魅力の大きな部分は、自分なら国境の外に広がる世界の過酷さからドイツ国民を守ることができると説得できるところにあるようだ。 英国の著述家ティモシー・ガートン・アッシュ氏は、ある質問に対するメルケル氏の、忘れられないほど特異な答えに光を当てている。ドイツについてどんな感情を覚えるかと聞かれたメルケル氏は、「しっかりと目張りがされた窓ですね」と答えたという。「こんなにしっかりと目張りがされた立派な窓はほかの国には作れないでしょう」 メルケル首相が誇るドイツの「密閉された窓」 なるほど、完璧な目張りが施された窓であれば、外界から飛んでくる汚染物質や雑音は――それがシリアの化学兵器だろうと、南欧の失業者たちが上げる抗議の叫びだろうと――見事にシャットアウトされるだろう。 安心感を誘おうとする同様なメッセージは、ベルリン中央駅のすぐ外に現在掲げられている巨大な選挙ポスターからも発信されている。そこに描かれているのはメルケル氏の両手だけ。思慮深い雰囲気が漂う「メルケルのひし形」だ。これには、慎重で用心深い指導者の手に委ねられていればドイツは安全だ、というメッセージが込められているのだ。 確かに手堅くドイツの安全を守ってきたが・・・ 公平を期するために言えば、メルケル氏が本当にドイツの安全を守る手であることを示す証拠は少なくない。特に、ユーロ危機への対応はそうだった。 つい1年半前、メルケル氏は、もっと劇的な行動を起こしてほしいという強い圧力にさらされていた。一方からは――特に外国からは――緊縮的な経済政策にこだわるのをやめ、経済統合の劇的かつ新しい形(例えばユーロ共通債の創設)を約束せよと促された。他方からは――とりわけ国内では――ギリシャをユーロ圏から追い出してしまえとせっつかれた。 メルケル氏は結局、どちらの道も選ばなかった。それ以降、欧州中央銀行(ECB)の支援もあり、ユーロ危機は急性期を脱したように見える。南欧諸国の経済も、少し上向きつつあるように見受けられる。そして、ドイツの失業率はここ20年間で最も低い水準にある。 その結果、メルケル氏は約60%という支持率を謳歌している。ドイツの奇妙な比例代表制のために、この高い支持率にもかかわらず首相が3期目を迎えられない可能性もないわけではない。だがやはり、9月22日の投票日の後もメルケル氏が首相を続けられる可能性の方が圧倒的に高い。 もしこの投票日までに、バラク・オバマ大統領が要請しているシリア攻撃の承認を米議会が拒否すれば、政治・経済の分野で例のない成功を収めているメルケル首相は必然的に、西側世界で最も権威あるリーダーの座に上り詰めることになる。 ほとんど貢献せずに世界の安全保障体制に依存する大国 だが、メルケル首相の指導力の方程式は、輸出には向かない珍しいドイツ製品の1つなのかもしれない。すべての国がしっかり閉じられた窓を見て感動するわけではないし、すべての政治指導者が自国経済を駆動するドイツ製造業の恩恵にあずかるわけでもない。 また、ドイツの政策立案者の中でも思慮深い向きは内々に、ドイツは偉大な貿易大国かつ世界第2位の輸出大国として、自国がほとんど貢献していない世界の安全保障体制に依存していることを十分認識している。 「シリアに関する我が国の立場は多少矛盾していると言える」。ある政策立案者はこう語る。「我々は、ルールに基づく世界を望み、シリアは化学兵器を使用したことで罰せられるべきだと言いながら、ほかの誰かが罰すべきだと言っているのだから」 ドイツの戦略家は、米議会がシリアに対する軍事行動を否決した場合の潜在的な世界的影響について、フランスおよび英国の戦略家と同じくらい不安を感じているように見える。 外交政策のエリートよりずっと懐疑的な一般国民 だが、そうした心情はドイツ――そして恐らくは西側諸国全体――の国民感情と大きくかけ離れている。シリアを巡る英国と米国の議論で明らかになったように、シリアに対する軍事行動の根拠について、欧米の一般国民は外交政策のエリート層よりずっと懐疑的だ。 違いは、米国、英国、フランスの政治家がまだ、軍事行動を是とする主張を展開して有権者に挑戦する必要性を感じていることだ。これに対し、ドイツの政治家は主張を試みることさえしない。 現在の中東の混乱がドイツに自国の世界的な役割に関する再考を促す兆しは見えない。反対に、ドイツ人はこれまで以上に自分たちが正しい方向に進んでいるとの確信を深めているようだ。その意味では、菜食主義に関して国家的議論を行うことは、奇妙にも妥当な行為だ。こと世界の安全保障にかけては、ドイツはまだ肉食動物だらけの世界における菜食主義国家なのだ。 By Gideon Rachman
JBpress>海外>欧州 [欧州] 涙ぐましい努力をしても報われることのないドイツ 託児所、育児金、子供手当て・・・でも出生率は上がらない 2013年09月11日(Wed) 川口マーン 惠美 そもそもことの初めは、2007年、当時の家庭大臣、フォン・デア・ライエン氏が、世の女性が仕事と子育てを両立させられるようにと、ドイツ全国で託児所の大増設を目指したことだった。この家庭大臣自身が、7人の子供の母親という傑女でもある(現在は労働大臣)。 「仕事と子育て」両立のための政策は社会主義的? ところが、まず、各州がこれに抵抗した。ドイツでは教育問題は州に委ねられており、教育に関しては、予算も主導権も州政府が握っている。アビトゥア(ギムナジウムの卒業試験と大学の入学資格試験を兼ねた非常に大切な一斉試験)さえ州単位で行い、まだ全国一律になっていないほど、州の独立性は高い。 そんなわけで、「国が託児所を作れと言うなら、では、そのお金を出してもらいましょう」。つまり、口を出すならカネも出せというのが、平たく言えば、各州の言い分だった。 しかし当時、この問題は、予算にとどまらず、さらに波紋を広げた。女性の産休が終わって、すぐに預けられる託児所を増設するということは、子供をなるべく小さいうちから家庭より離し、国が一律に教育しようとしている点で、社会主義国が行ってきた政策と似通っている。 しかし、ドイツの伝統的な理想の家族観は、そういうものではなかったはずだ。ドイツ国が、率先して社会主義的政策を推し進めるのはおかしい。つまり、“託児所の増設は、ドイツの伝統を壊すものではないか”という意見が巻き起こったのだ。 失読症の子の識字力向上、脳内スキャンで予測可能 託児所の増設はドイツの伝統を壊すという意見も(写真はベルリンの小学校)〔AFPBB News〕 そして、保守派の中でも、あるいは、教会の内部でも、それを巡る賛否両論が複雑に錯綜し、一大論争となったのであった。 この、「現代ドイツの理想の家庭像とは何ぞや?」という論争は、原則論好きのドイツ人らしい。しかし、現実問題として、働く女性が子供を産み、職場に復帰しようと思ったら、託児所が要ることは確かだ。 そして現状は、その託児所が圧倒的に不足していて、多くの女性が困っている。彼女たちにしてみれば、理想の家庭像など、どうでもいいことだったに違いない。 国と州と地方自治体は、その後、思考錯誤の末、次のことを決めた。1歳から3歳以下の子供のすべての母親には、法律により、子供を託児所に預ける権利が保障されるというものだ。 法律の施行は、2013年の8月1日。つまり、国、州、地方自治体は力を合わせて、2013年8月までに託児所を劇的に増やさなければいけなくなった。よって、ここ数年、全国でその整備が進められてきたのであった。 違和感がある「託児所を使わない人には育児金を支給」 また、それと並行して進められたのが、育児金制度。これも法律で定められたのだが、託児所に子供を預けない人に、子育ての援助金を支払うというもの。 この政策は、保守の中の保守、バイエルン州を拠点とするCSU(キリスト教社会同盟)という党の十八番で、同党が、各方面からのあまたの反対を物ともせず、強引に押し通した。育児金は、やはり2013年8月1日より、申請した人に交付される。 この育児金の意味は、CSUの理屈では、「託児所に預けられる子供には、事実上、1人あたま、かなりの税金がつぎ込まれている。託児所に通わせない親は、その恩恵を被らず、自分の手で子供を育てるのだから、援助として現金を還元すべきだ」というもの。 自分で育てるか、託児所に預けるか、平等な条件の下で選択できるようにするのが目的というが、何だか素直に同意できない。 子づくりも子育ても、別に誰かから強制されるものではないし、子育てがいやな人は、まず子供など生まないのではないか。お金をくれないなら、自分で育てたくないと思う人が本当にいるとは思えないが、もし、いるなら、彼らの、何でもお金に置き換えて考えるやり方には違和感を持つ。 「託児所を利用しない人は、その分、お金を受け取る権利がある」という考え方が正しいとするなら、私は、その権利意識についていけない古い人間だ。 ただ、その違和感をある議員が上手く説明してくれた。子育て金の考え方は、「オペラには、文化の助成金として膨大な税金がつぎ込まれているのだから、オペラに行かず、その恩恵を被らない人は、何がしかの現金を還元されるべきだ」という考えと同じだというのだ。確かに、同じような気もする。 なお、反対派の懸念は次のようなことでもある。本来なら、子供を託児所にやることで一番メリットを得る外国人の家庭、それも、教育程度が低く、貧しい家庭の子供たちが、お金がもらえるという魅力で、家に置いておかれるケースが増えるだろうと。 ドイツでは、そういう家庭の子供たちが、幼稚園にも行かず、ドイツ語を解さないまま学校に入学することが、すでに大きな社会問題になっているのだ。それをさらに助長するのは確かによくない。反対派の主張には一理も二理もある。 さて、育児金の交付が始まって1カ月が過ぎた。7月の中旬には、申請者は頭打ちというようなニュースが流れていたが、その後、どんどん増え始め、託児所を利用していない人のほとんど全員が、いずれ育児金を受けるようになるらしい。 育児金を貰うためには、別に自分で子守りをする必要はなく、おばあちゃんに見てもらったり、個人的にベビーシッターを雇ったりしてもいい。要するに、公共の託児所を利用しない人ということだ。 託児所、育児金、子供手当・・・それでも出生率は上がらない 連邦統計局の発表によれば、ドイツでは去年の11月の時点で、22万人分の託児所が不足していた。託児所だけでなく、保育士も不足しているらしい。 これがもっと増設され、子供を家に置いておく家庭が減れば、国の育児金に関する出費も減るはずだが、ただ、皮肉なことに、託児所にかかる補助の方が、育児金よりも多いのが、政府としては悩ましいところではある。 育児金の額は、今年は子供1人につき各月100ユーロ(約1万3000円)、来年からは各月150ユーロ(約2万円)の支給となる。これが国家予算にどう響くかというと、受給申請の数にもよるが、年間12億ユーロから22億ユーロ(約1560億〜2860億円)の出費になるという。 ただ、これは、子供手当とは別物だ。子供手当は0歳から19歳未満のすべての子供に適用される。しかも、子供が18歳以上になっても独立せず、大学へ行ったり、職業訓練中であったり、インターンや社会福祉ボランティアに従事していたりする場合は、25歳まで延長される。 子供手当の金額は、現在、1人目と2人目の子供に毎月184ユーロ(約2万4000円)、3人目は190ユーロ(約2万5000円)、4人目からは215ユーロ(約2万8000円)。たくさん子供がいれば、ほとんどこれだけで食べていけそうなほどだ。 つまり、前述の育児金というのは、この潤沢な子供手当の上に、さらに上乗せされる補助金となる。ちなみに、子供手当がドイツより高いのは、スイス、ルクセンブルク、リヒテンシュタインと、金融で左うちわの3国であるのが興味深い。それに比べてギリシャの子供手当は、1人目の子供が5.87ユーロ(約763円)と、気の毒なほど安い。 ドイツの親が貰えるお金はまだある。働いていた女性が、出産休暇の後もしばらく家庭に留まりたいという場合、いずれ職場に復帰するという条件で、1年間、給料に応じて、毎月300ユーロから1800ユーロ(約3万9000〜23万4000円)の範囲で国から補助金が出る。出産休暇が終わった後も、1年までは休暇の延長が保障されているのだ。 延長の育児休暇は、母親が取る必要はない。父親が取ってもいい。条件は同じだ。そして、雇用者は、それを理由に解雇することはできない。 ドイツで同国最高齢となる64歳女性が女児を出産 出生率が上がらないドイツ(写真はケルンの新生児)〔AFPBB News〕 つまり、ドイツ国はこれだけの涙ぐましい努力をしているのだが、しかし、出生率は一向に上がらない。現在1.39で、EUでこれより低いのは、金融危機で混乱しているスペイン、ポルトガル、キプロス、ブルガリア、ラトビアぐらいだ。 ちなみに、日本の出生率もまさにドイツと同じ低さ。ドイツと日本の出生率が低い理由は金融危機ではなく、間違いなく、託児所の不足であろう。 少子化対策に本当に必要なことは何か やりがいのある仕事をしていた女性が、託児所がないために、出産後、家庭に留まらなければいけなくなることを嫌い、子供を産まないケースが多い。ということは、ちゃんとした託児所さえ完備していれば、子供を産む女性、特に、子供を産む高学歴の女性は増えると思われる。 あと大切なのは、子育てをしながら働く女性を歓迎する職場の雰囲気と、法律の整備、そして、父親の育児への参加などで、本当に少子化を改善したいなら、お金をばらまくよりも、現場の人の頭の中身を変えていかなければならない。 今年の3月にノルウェーに行ったとき、あちこちに乳母車を押す若い男性の姿を見かけたのが印象的だったが、この国は、託児所は完備、さらに、子供を持つ人たちの労働環境も理想的で、出生率は高い。 産休は56週間まで伸ばすことができ、その間は最終のお給料の80%が保障される。その56週間のうち、10週間は、父親と母親の両方がこの育児休暇を同時に取ることができる。 普段でも、仕事を朝早く始める代わりに、帰りも早く、毎日、両親が子供と一緒に過ごす時間がたっぷり取れるようにと、労働環境は意識的に家族に優しく整備されている。子供手当は、ユーロに換算すると、1人一律129ユーロ(約1万7000円)。 これを聞いて、「子供のいる人間だけが優遇されているのはおかしい」などと怒ってはいけない。子供がいなければ、将来、年金は減り、医療保険も痩せていく。だから育児を応援しましょうと言うと、大変利己的に響くが、これが真実だ。 子供の生まれない国は必ず亡びる。ドイツも日本も、危険な道を歩んでいる。それを、皆、もっと真剣に見た方がいい。
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