02. 2013年7月29日 09:47:10
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JBpress>海外>欧州 [欧州] 世界初のスウェーデン「買春禁止法」は有効か? 「セックス天国」化した欧州〜北欧・福祉社会の光と影(20) 2013年07月29日(Mon) みゆき ポアチャ 夏休みや冬休みに入る前など、学期の終わりには、勤めている高校では先生と職員が連れ立って、みなで近くのレストランでランチを食べたりする。学校から200メートルも歩くと運河の近くに出、気持ちのよい風景が広がっている。 その辺りで食事をすることが多いのだが、数年前にある先生が「この辺は夕方になると、売春する子たちが集まってくるのよ」と教えてくれた。 すぐ近くにあった「売春通り」 え、まさか。運河沿いの道路を挟んだ反対側は、官庁やオフィスが並んだ普通のビル街で、とてもそんな交渉が行われるような場には見えなかった。 その辺りの地名はローセンルンドと言って、実は「売春通り」として地元では長いこと有名なのだという。 その後、その付近を通った時に見ると、寒空にミニスカートをはいた女性が、運河にそってゆっくりと行ったり来たりしているのに気がつく。車が徐行してきてその脇に止まり、女性が窓越しにドライバーと何か話している。そんな光景を時々見かけたりもした。 1998年5月、性的サービスに従事する人々の保護を目的とし、セックスを売ることではなく買うことを禁じた「セックス・ショップ法」、すなわち「買春禁止法」がスウェーデン議会を通過した。当時、保守派陣営の間では大反対が巻き起こったが、2006年の調査では国民の8割が支持するという結果が出て、以降現在に至るまでほぼ国民的コンセンサスを得ている。 ノルウェー、アイスランドなど他の欧州国も、スウェーデンにならって同じような法制度を導入している。イングランド、ウェールズ、フィンランド、フランスなど多くの欧州国も性サービスの購入に制限を課したり、議会に法案を提出するなどの動きが継続的に見られる。 この2013年5月で、スウェーデンの買春禁止法成立から15年が経った。 この法は適切に機能し、一定の効果を社会に与えているのか? 導入されてから、どの程度の影響を社会にもたらしたのか? 買春禁止法で売春は減ったのか http://www.regeringen.se/content/1/c6/14/91/42/ed1c91ad.pdf スウェーデン政府が2010年に発行した報告書(SOU 2010:49)によると、施行の前年に通りに立つ売春婦、いわゆる「ストリート売春」の人数は国内の3大都市を合わせて726人であったのに対し、施行された1999年には340人と、半数以下に減少している。
その後わずかに増えたものの、基本的には減少する傾向を見せている。 この報告書によると、2009年に同様な買春禁止法を導入したノルウェーでも、ベルゲンなどいくつかの自治体ではストリート売春の人数が減少していることが報告されている。同報告書は「買春禁止法は売春と性的目的での人身売買を減少させるために役立っている」と結論している。 しかし、この報告書は「正確なデータを入手するのが非常に困難」と言う通り、データの不足が多い。前掲のグラフは報告書中の数字に基づいて筆者が作成したものだが、見てお分かりのように3都市のデータがそろっているのは5年分しかないため、グラフ自体も完全なものとは言い難い。 およその傾向として「ストリート買春はほぼ半減した」とは言えるが、しかしこれについても、交渉の場が街頭からインターネットに移っただけであって、実際の取引が減少したかは分からないという指摘もある。 法律自体に抑止効果なし? 政府は、インターネットを介した売春が増加していることは認めているが、それが新規に参入した性産業従事者によるものか、以前は街頭に立っていた人々がネットに移動したものかは分からないとしている。つまり、法が施行されてから、本当に売買春の件数が減ったのかどうか、法律の目的が果たされたのかどうかは結局分かっていない、ということになる。 さらに、この法律自体に抑止効果がないという指摘もある。 http://www.polisen.se/Global/www%20och%20Intrapolis/Rapporter-utredningar/01%20Polisen%20nationellt/Ovriga%20rapporter-utredningar/Inspektioner-tillsyns%20rapporter/2013/Tillsynsrapport_7_2013_Manniskohandel%20indd.pdf グラフは、買春禁止法が導入されて以降の、警察に通報された件数と実際に罰則を受けた件数である。
が、通報された件数に比して、実際におとがめを受けた件数は多くないようだ。グラフで分かる通り、2010年に通報された件数1277件のうち、実際に罰則を受けたのはざっと4分の1の336件。2011年も通報件数765件に対し、罰を受けた件数は450件となっている。 そして、この法が意図したように機能していないという最大の批判点は「同法下で刑務所に入った人は誰もいない」ことだ。 2009年と2010年に通報数と起訴数が大幅に増えているのは、この間警察がセックスの買い手を取り締まるための追加予算を受け取ったことに起因している。また2011年には、最高刑が懲役6カ月から1年までに引き上げられるなど、罰則がさらに厳しく強化された。 しかし全国紙DNによると、法の導入以降、処罰を受けた人は罰金刑だけで、刑務所に入った人はいないとしている*1。 当局は「効果はある」と主張 しかし、実刑判決を受けた人がいないからといって、法律が成功していないとは言えない、という意見もある。 DNの報道によると、ストックホルム警察の売春グループの偵察警察官、サンナ・ジェミニ氏は、この法は「組織的人身売買との闘いにおける私達の主要なツール」であり、法が導入されて以来、スウェーデン人は買春に魅力を感じなくなっていると言う。彼女は「我々は、女性たちからスウェーデンでは顧客を得ることが困難になってきていると聞いているし、売春容疑で検挙された男性は、それが恥ずべき犯罪であるという意識を持っている」と話している。 *1=http://www.dn.se/nyheter/sverige/sexkop-har-aldrig-gett-fangelse/ また、この法の策定に大きく寄与した司法委員会委員長モルガン・ヨハンソン氏は、「セックス購入法の目的は、多くの人を刑務所に送ることではなく、セックスの売買を阻止することであり、これが十分に成功したことに意味がある」と言う。 同氏によると、この法の目的は個々のセックスの買い手だけでなく、組織化された人身売買を取り締まることだ。この法律がなければ組織的売春がより広範囲になる。「近隣のデンマークやドイツなど他の国々と比較しても、スウェーデンでの売春と人身売買は少ない。需要が減退したことは、法律の効果があったということだ」とヨハンソン氏は述べている。 また同氏は、買春を取り締まる一方、同時に売春から抜け出したい人への社会サービスと支援をよりいっそう充実させる必要があり、その責任は今日のように国ではなく、自治体にあるべきだと話している*2。 法の撤廃を求める売春ワーカーたち 買春禁止法案にノルウェー売春婦支援団体が反対 ノルウェー・オスロ中心街の路上で客と交渉する売春婦〔AFPBB News〕 以上で述べてきたのは、「売買春を阻止するために何をなすべきか」に依拠した議論である。つまり、「買春禁止法」に批判点はあっても「法をより効果的に機能させるべき」という議論であって、法そのものの存在意義を問うものではない。 これに対し、「買春禁止法」に真っ向から反対を唱え、積極的に撤廃運動をくり広げているのは、当の売春ワーカーたちだ。 7月19日、パリ、ニューヨーク、シドニー、ベルリンなど世界中の約30都市のスウェーデン大使館前で、売春ワーカーによるスウェーデン「買春禁止法」に反対する抗議行動が行われた。 この大行動の引き金になったのは、その前週にスウェーデンで起きた、元ボーイフレンドに刺殺された売春婦の事件だ。 プチ・ジャスミンという名でインターネット上に広告を出し、売春行為を行っていた27歳の女性が、子供の親権をこの元ボーイフレンドと争っていた。しかし裁判所は、彼女が「売春婦である」という理由で母親としては不適格であると判断し、子供の父親である元ボーイフレンドに親権を付与した。 殺害されたプチ・ジャスミンの母親によると、この元ボーイフレンドは彼女の動向を常に監視しており、彼女の家にやって来る「顧客」の車のナンバーをチェックするなど、いわゆるストーカー的な行為におよんでいたという。殺害動機は愛憎のもつれ、ということなのかもしれない*3。 この事件後、スウェーデンのセックスワーカーの全国組織ローズ連合が、直ちに政府当局に対する批判声明を発した。声明では「当局はセックスワーカーを、自分の選択や決定を行う自立した人間として見ていず、彼らを見下している。これがセックスワーカーに対する社会全体の偏見と差別を促しており、彼らが顧客や他の状況での暴力にさらされる一因となっている」とし、さらにセックスワーカーに対する暴力や差別を助長しているのは「買春禁止法である」としている。 同連合のコーディネーター、パイ・ヤコブソン氏によると、「買春禁止法によって買春を禁じても買春の抑止にはならず、非合法的に行うことを強いるため、売春する側をより危険な状況に追いやる」と言う。同氏はこの法は廃止すべきで、売買春は合法化されるべきであると主張している。 *2=http://www.dn.se/nyheter/sverige/lagen-avskracker-fran-sexhandel/ *3=http://www.expressen.se/nyheter/han-haktas-for-mord-pa-eva-marree-27/ フランス24などの報道によると、パリに本拠を置くセックスワーカー連合STRASSの事務局長モルガヌ・メルテイユ氏も、「これまで女性を保護するとして導入されてきた全ての法は、完全にその反対の効果をもたらしている」と言い、買春を禁じても売春婦を保護することにはつながらず、「買春を非合法とすると、隠れて営業せざるを得なくなるため、売春婦を援助する組織や保健サービスの目が届かなくなり、暴力の犠牲となりやすくなる」と話している。 ロンドンの国際セックスワーカー連合のキャサリン・スティーブンス氏は、スウェーデンのような国は、売春婦擁護グループの意見も聞かずに政策決定をし、実際の政策がセックスワーカーに与える影響について考慮していないと批判する。また当のセックスワーカーたちは、政府が売春を禁止すると、他に生きる手立てがなくなるという差し迫ったジレンマに直面すると言う*4。 賛成派vs反対派、それぞれの価値観 「買春禁止法」への賛成と反対が正面から対立しているわけだが、両者の違いは大ざっぱに言って、「売買春を阻止したい派」と「売買春を堂々とやりたい派」の対立だ。 「買春禁止法」賛成派の焦点は、「売買春を阻止したい」だけではなく「組織的人身売買を根絶したい」である。もちろん人身売買を取り締まる法は存在するのだが、これと並んで「買春禁止法」も、人身取引によって売春を強制させられている犠牲者を減らす効果的な武器となっている。 対立する「禁止法」反対派は、「自発的に売春をビジネスとして興行する側」だ。彼らの視点には「人身売買の犠牲になり、自らの意思に反して売春を強制されている人たち」は見えていない。 確かに「買春禁止法」は、ビジネスとして自発的に性を売る側にとっては邪魔な存在だ。彼らは、「この法は売春ワーカーに対する暴力を誘発し、人権と安全を損なう」と言うが、実際の本音は「この法は売春ワーカーの活動を非合法とし、商売上の利益を損なう」ということだ。 私自身は昨年の夏、ドイツで売春をしているという23歳の女性に会ったことがある。夏休みに彼氏と一緒に北欧に遊びに来たと言っていた。ドイツの売春婦の多くがアフリカ系ブラックか東欧からの流入者という統計を見たことがあるが、この彼女はドイツ人で、英語も上手だった。 「彼氏がいるのにセックスを売っている」という状況に少々驚いたが、彼女は「だって、私のビジネスだし」と言い、彼氏も意に介していないと言う。彼氏というよりは、恐らく「ヒモ」だろう。彼女とこんな会話をした。 「ドイツって、売春合法なの?」「うん、そうだよ、もちろん。ちゃんと税金も払ってるし、警察が来たら話もするし、全部オーケー」「へー、知らなかった。いくらぐらい稼げるの?」「はははー、レギュラーで250くらい」「毎日?」「週5日だけ」「フーン、普通の仕事みたいなんだ。コンドーム使うの?」「そうだよ」 250ユーロは、日本円で3万2000円くらいだ。 10年以上も前だが、日本で売春していると言う子と話したことがある。月に軽く100万は貯まると言い、「これって天職ー」「これ以外の仕事なんかもうできなーい」とあっけらかんと言っていた。 そして、売買春の合法化を歓迎しているのは、こういう子たちとそのヒモ、そして手配師らビジネスの元締めだ。 *4=http://www.france24.com/en/20111207-banning-prostitution-france-will-endanger-lives-dominique-strauss-kahn, http://www.ibtimes.com/disappearing-act-frances-socialists-want-ban-prostitution-797395 自分の娘には、こんなふうになってほしくはないなと思う。「時代錯誤」「差別者」「保守反動、反民主主義」と売春擁護者らは言うだろうが、いやなものはいやだ。 が、これは、どちらが正しくどちらが間違い、と決定できるようなものではない。単に、どちらの価値観を選択するかという自己決定の問題だ。 ここで問われていることは、「性をカネで売買する」という行為に対し、個々人がどういう態度を取り、そして社会がどの位置に立つのかということだ。自分で稼いだカネだから、何に使ってもいいのか、自分のカラダだから、何をしてもいいのか。これが「自由」「解放」なのか。 「何でもアリ」のオランダモデル、 「お子さま天国」のスウェーデン アムステルダム市議会、名物「飾り窓」や大麻カフェ削減を計画 オランダ・アムステルダムの「飾り窓」地区は公認売春地区〔AFPBB News〕 オランダは、売春合法、ドラッグ合法、安楽死合法、同性の結婚も世界に先駆けて合法化した。根底に「個々の人間の自決権」に重きを置いているからだ。 これについて、アムステルダムから来ていた留学生の子と話したことがある。 彼女によると、「こういった犯罪は、一定程度まで合法化して透明化した方が社会全体が健全になると政府は考えている。法規制を強めても、犯罪行為がさらに地下に潜ってアンダーグラウンドではびこり、黒い暴力組織の資金源になるだけだからだ」と言っていた。 そして、多くの国民はこの国のあり方を「民主主義の高度な形態」「自由な社会」として、誇りに思っている。 それに比べるとスウェーデンは、例えばアルコールは依然として専売制、ドラッグに関しても厳しい法律で取り締まっており、現在はドラッグユーザー数は西側世界で1番低い国の1つになっている。海外でセックスを買った国民を罰する法も、近々成立しそうだ。などなど、「あれもダメ」「これもダメ」と規制だらけの社会だ。 さらに例を挙げれば、子供に体罰を与えた親は逮捕されることになっており、これを規定する「親子法」は1970年代に導入された。ストーカー法も1980年代には成立している。特に子供と女性の権利は徹底して守られており、とても暮らしやすく安心な社会だ。 誰かにイジワルされたり不当な目に遭ったりしたら「オンブズマン」が権利を代弁し、場合によっては裁判まで起こしてくれる。「子育て支援」も充実しており、夫が育児休暇を取った時は、私の口座に国からボーナスが振り込まれていた。「父親の育児休暇の取得を奨励した」からだ。 筆者自身の見解を言えば、子供と女性が、もちろん男性もだが、国家によって強力に保護されており、いわば国民全体が「お子さま扱い」されている社会なのだ。 売春の合法化による人身売買の増大 売春が合法化されているドイツ、オランダ、デンマークなどの「成熟した大人社会」「民主主義の発展した国家」で今起きていることは何か。 2013年1月号の「ワールド・デベロップメント」誌に掲載された論文「売春の合法化は人身売買を増大させたのか」によると、送り込まれる人身売買の犠牲者数が「非常に多い」とされた国は、米国、ドイツ、オランダ、日本、ベルギー、ギリシャ、イスラエル、イタリア、タイ、トルコとなっており、売春が合法化されている国、あるいは非合法ではあるが法が機能していない国である。また、ほぼ欧州国に偏っている*5。 *5=http://www.lse.ac.uk/geographyAndEnvironment/whosWho/profiles/neumayer/pdf/Article-for-World-Development-_prostitution_-anonymous-REVISED.pdf 売春が合法化されていても、「現代の奴隷制」である人身売買はほぼ全世界で違法だ。性的人身売買については前回触れたが、主に女性、多くは未成年者を暴力や脅迫によって強制的に売春させ、多くの利益を吸い上げるビジネスである。そして売春を合法化した国が、この人身売買という違法行為、つまり犯罪の温床となっている。 ドイツは、2002年に売春を合法とした。2009年の調査では、国内で売春に従事している人は40万人、うち63%が外国人で、その3分の2は東欧など他国からの流入者だ。1999年、合法化以前の外国人売春者の割合は52%だった*6。 地元メディアなどの報道によると、ドイツ警察当局は、人身売買によって奴隷のような状況で性労働を強制されている女性は国内に600から800人いると推定しているが、女性の権利団体SOLWODIのゲルリンデ・マトゥーシュ氏は、実際にはおよそ1万人の外国人女性が性奴隷的な状態に置かれていると指摘している。 同氏によると、女性たちはアパートの一室に閉じ込められており、昼間はその部屋で、やって来る「顧客」の相手をさせられ、夜には売春宿か顧客の住居へ連れて行かれる。女性たちは逃げたり自殺したりしないように24時間監視され、中には2〜3年間部屋に監禁されたままの女性もいるという*7。 女性権利団体Terre des Femmesのアンナ・ヘルマン氏は、女性の多くはロシアやウクライナ、東欧、そしてアフリカからで、ドイツの都市でのホテルやレストランの仕事という宣伝文句で募集されて来る。大抵は不法滞在なので、警察に見つかって国外退去させられることを恐れており、そのために逃げることができない。同氏は、ドイツが売春を合法とした後、犯罪組織が同法を違法行為の抜け道として利用するため、犯罪の摘発を困難にしていると言う*8。 スウェーデンが買春を違法とした同じ1999年に、デンマークは売春を合法化した。以降デンマークは、スカンジナビア最大の買春天国となっている。デンマーク反人身売買センターによると、国内に4000人から5000人の売春婦がいると推計され、その半数は東欧とアフリカから来ており、多くは人身売買の犠牲者と考えられている*9。 人身売買によって成立する「セックス天国」欧州 昨年発行された国連の人身売買リポートによると、人身売買の犠牲者のうち性的な強制労働に従事させられている人の割合が一番高いのは欧州と中央アジアである。こうして、「セックスの売買合法化」政策が、欧州を「セックス天国」にし、人身売買の犠牲者を増やし、これらの犯罪者らを助長させていると言える*10。 女性の性を利用してビジネスをする側の連中にとって、ドイツやオランダモデルは大歓迎だ。「売春合法化」の背景には、恐らく大量の賄賂が流れているのではないのか。欧州の中でも、一国の警察機構よりも、犯罪組織の方がカネと権力を持っているように見える国もある。政府機構そのものが、収賄をかき集める犯罪集団となっているように見える国も、ないでもない。 現在非常な勢いで成長しているセックス産業は、麻薬や武器取引に匹敵するか、それ以上の収益を上げており、しかもリスクはずっと少ないという。反人身売買NGO「ノット・フォー・セール」によると、この産業は世界全体で年に250億ユーロの利益を上げている*11。 先に挙げた問い「『性をカネで売買する』という行為について、社会がどういう立場に立つのか」に対し、断固として「人間は商品ではなく、売春は他の取引やサービスの供給と比較することができない」ことを社会に示そうとしているのがスウェーデンだ。 *6=http://en.wikipedia.org/wiki/Prostitution_in_Germany *7=http://www.dw.de/germany-lags-behind-in-protection-of-forced-prostitutes/a-16837388 *8=http://en.haberler.com/germany-lags-behind-in-protection-of-forced-277667/ *9=http://www.humanityinaction.org/knowledgebase/53-human-re-trafficking-in-denmark-looking-for-a-solution-or-recycling-a-problem *10=http://www.unodc.org/documents/data-and-analysis/glotip/Trafficking_in_Persons_2012_web.pdf *11=https://www.youtube.com/watch?v=hZVDCLyjdZ4 スウェーデン出身の欧州議会議員数人が連名で以下の声明を出している*12。 「多くの国での売春の合法化が、人身売買を増加させている。欧州連合(EU)は1人当たりの性奴隷数が世界最大となっている。今日、EU加盟国の多くで売春が普通のことで、社会的に許容できるものと考えられており、これに従って性的人身売買の市場がより利益の上がるビジネスになっている」 「欧州のセックスビジネスの犠牲に落ちる危険性のあるものを保護するために、我々は最終的にEU全体で売春の違法化を法制化しなければならない。セックス産業が受け入れられる限り、脆弱な人々を利用しカネを稼ぐ売春斡旋業者の機会を生み出し続ける。経済的な利点がある限り、性奴隷の需要は増え続け、将来的に人身売買が引き続き行われるだろう。人間の性は売買するためのものではない。政府のやるべきことは『社会正義の基準』を示すことだ」 健全で解放された社会とは何か 筆者自身も、まったく賛成だ。大人が、カネで他者の性をむさぼることを平然と許容しているこの社会が「健全で個の自由が保障された社会」とは思えない。私は、そういった社会を子供に見せたくはないし、そこに子供を送り出したいとは思わない。 売春をしたくてやっている人は、少数ではあるだろうが存在するだろう。彼らの権利もないがしろにされるべきではない。しかし社会的・経済的不平等のために売春を強いられている多くの女性たちがいる限り、この不平等を克服していくことを基本にするべきであると思うし、この理念に立脚して政治政策が作られる社会は、より健全で解放された社会であると思っている。 *12=http://www.svd.se/opinion/brannpunkt/europa-bor-ta-efter-svenska-sexkopslagen_7589960.svd, http://www.dn.se/nyheter/varlden/lat-svensk-sexlag-ga-pa-export/ |