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(2013年7月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
イタリアの大物政治家が先日、同国初の黒人閣僚について述べた。「皆さんご存じのように、私は動物が大好きだ。クマもオオカミも。だが、(セシル・)キエンゲの写真を見ると、何も彼女がそうだと言っているわけじゃないが、どうしてもオランウータンの顔立ちを思い浮かべてしまう」
この言葉を発したのは、野党・北部同盟の一員で、上院議員のロベルト・カルデロリ氏。イタリア北部トレビリオで開いた党集会の場での発言だ。同氏はエンリコ・レッタ首相率いる連立政権で移民融和担当相を務めるセシル・キエンゲ氏について語っていた。
こうした意見は実に醜いが、それ以上にぞっとすることがあった。カルデロリ氏はまだイタリア上院の副議長の座にとどまっている。何度か半端な謝罪を述べ、肩をすくめてみせただけで、議会の上院にとどまることを許されたのだ。その結果、根深い人種差別に長年悩まされてきたイタリアの政治は著しく面目を失うことになった。
ここ数日、筆者は首をひねっていた。他国であればカルデロリ氏をその座から追放し、人種的憎悪を扇動した罪で裁判官の前に引っ張り出しただろう猛烈な義憤はどこにあるのか。米国や英国、ドイツで有力政治家が似たような発言をしたら、どんな反応が生じたか想像してみるといい。
悲しいかな、多くの面でどんな社会にも引けを取らないほど教養のあるイタリアは、こと男女間、人種間の平等となると、一世代かそれ以上昔の時代に取り残されている。
■人種差別主義で知られる北部同盟
確かに、カルデロリ氏の発言は広く批判を浴びたし、実際、副議長辞任を求める声も上がっている。地元の司法当局は調査に乗り出した。本人もキエンゲ氏に電話して謝ることは義務と感じていたようだ。
これが誠意ある謝罪だと思っている人はほとんどいない。何しろ、カルデロリ氏は同じ演説で、キエンゲ氏は「母国」で閣僚を務めた方がいい仕事ができると語っている。メディアのインタビューでは、自身の発言を擁護した。シルビオ・ベルルスコーニ氏率いる自由国民党の連携相手でミラノに本部を置く北部同盟は人種差別主義の評判を得ている。また、カルデロリ氏は反イスラムの辛辣な発言で有名だ。
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眼科医として成功を収めたキエンゲ氏はコンゴ民主共和国で生まれた。1983年にイタリアに定住し、現在はイタリア連立政権でレッタ首相の中道左派政党・民主党を代表している。今年閣僚に任命されてからというもの、イタリアで生まれた移民の子供に市民権を与える法案に激怒した北部同盟から同氏は様々な罵りを受けてきた。
北部同盟の地方議員の1人は、移民に襲われるイタリア人女性の体験をもっと理解できるよう、キエンゲ氏はレイプされるべきだと述べた。その後、執行猶予付きの懲役刑を言い渡された。ローマでは、カルデロリ氏が上院で席に着いた時に、他の議員が退場するのではないかとの臆測もある。こうした対応はどれも十分ではない。イタリアが自国を近代的な自由民主主義国の1つに数えるためには、人種と性別に対する態度を改める必要がある。
■ベルルスコーニ氏が落とした政界の品位
ベルルスコーニ氏による長年の失政がイタリアを後退させてしまった。メディア王で元首相のベルルスコーニ氏は、政界の品の低下の原因であると同時に結果でもある。肌もあらわな若い女性を集めて同氏が開いた悪名高い「ブンガブンガ」パーティーは、一部のイタリア人男性の浅はかな女性蔑視を象徴していた。絶え間ない反移民発言は、同じグループに見られる潜在的な人種差別主義の裏付けだ。
ベルルスコーニ氏の流儀に批判的な向きは「政治的な正しさ」を非難された。当時首相だったベルルスコーニ氏がバラク・オバマ米大統領の「日焼け」についてほのめかした時は、本当にただの「ちょっとしたからかい」だった。そうじゃないと思った人は堅苦しいピューリタン、というわけだ。
実際には、ベルルスコーニ氏の振る舞いはイタリア中の偏見を持った人、ポピュリスト的な政治家のみならず、暴力的なサッカーのフーリガンにまで憎悪と偏見の思想を吹聴する許可を与えてしまった。この世界においては、移民は虐待されるためか国に送還されるために存在し、女性は男性に仕えるためだけに存在する。
筆者には、実業界や政官界で働くイタリア人の友人が大勢いる。ごくごくわずかでもカルデロリ氏の不快な見解を共有する人は誰一人思い浮かばない。ただ、時折思うことがある。この洗練された都会的なエリート層はどれほど懸命に極右勢力と戦っているのか、と。
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■政治文化を変えようとするレッタ首相
46歳のレッタ氏は一筋の光をもたらした。同氏は、イタリアが成功した近代国家の仲間でありたいと望むのであれば、経済を改革し、債務を返済する以上のことをしなければならないことを理解している。イタリアは現在の政治文化を投げ捨てる必要がある。7月半ば、デビッド・キャメロン英首相と会談するためにロンドンを訪れていたレッタ氏は、その課題の大きさについてすがすがしいほど率直に語る。
同氏の連立政権は、選挙上の必要性からベルルスコーニ氏の政党を含んでいる。だが、レッタ氏は内閣を選ぶうえでイタリア政界の顔を変えようとした。前政権などと比べ、レッタ政権は高齢者が少なく、女性が多い。また、キエンゲ氏という黒人女性もいる。これは心強いスタートだ。
他の欧州諸国も現在の栄光に満足していられない。緊縮財政は、ポピュリズムにとって肥沃な土地だ。ハンガリーでは、ビクトル・オルバン首相の権威主義的な政府が、極右政党ヨッビクの反ユダヤ主義のファシストらと不安なほど近しい。ギリシャには極右政党「黄金の夜明け」があり、フィンランドには「真のフィンランド人」がある。
フランスでは、国民戦線が中道右派、中道左派双方に対して躍進した。2012年のロンドンオリンピックは多様性を受け入れる国としての英国の評判を固めるはずだったが、キャメロン首相は今、移民をたかり屋や福祉詐欺に見立てる「犬笛的」(注:一部の支援者にしか分からない)政治手法で票を獲得しようとしている。
だが、イタリアに求められていることは革命だ。まずはカルデロリ氏を追放し、公の場で恥をかかせることから始めるべきだ。
By Philip Stephens
(翻訳協力 JBpress)
(c) The Financial Times Limited 2013. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM1903B_Z10C13A7000000/
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