01. 2013年6月18日 07:13:17
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ついに一線を踏み越えたオバマ、中東情勢は一触即発に中東大動乱(その2)〜崩れた軍事バランス、一線超えるオバマ 2013年6月18日(火) 菅原 出 オバマ政権がついにシリア反政府勢力への軍事支援に踏み切った。 これまでは「反体制勢力の中にイスラム過激派が含まれる」として軍事支援の要請を拒み、医薬品や通信機器など非殺傷物資の提供にとどめてきたオバマ大統領が、「アサド政権が化学兵器を使った攻撃を行った」として、ついに殺傷兵器の供与に踏み切る決断を下した。しかし、現時点で武器の供与に踏み切っても反政府勢力だけでアサド軍を打倒するのは困難であり、次は「飛行禁止空域の設定」→「アサド軍への空爆」と、次第に軍事介入がエスカレートしていく可能性が濃厚である。米国はついに一線を踏み越えて軍事介入への道に向かい始めたのか? ヒズボラの参戦による軍事バランスの変化 「慎重に検証を重ねた結果、我が国のインテリジェンス・コミュニティは、アサド政権が昨年、神経ガス・サリンを含む化学兵器を、小規模ながら反体制派に対して複数回使用したと判断した。(中略)米国のインテリジェンス・コミュニティは、今日までに明らかとなっている化学兵器による攻撃の結果、シリア国内で100〜150名の死者が出たと推定している…(中略) 大統領は化学兵器の使用及びテロ組織への化学兵器の譲渡は、米国にとって越えてはならない一線であることを明確にしてきた(中略)アサド政権がシリア国民に対して化学兵器を使用したという信頼できる証拠を受けて、大統領は、反体制派組織への非殺傷物資の支援を増強し、最高軍事評議会(SMC)に対する支援を拡大する権限を与えた」 6月13日にオバマ政権はこのように発表して、シリア反体制派への武器支援を開始することを正式に明らかにした。オバマ政権内にはこれまでもシリア反体制派への武器支援を求める声が存在したが、オバマ大統領が新たな中東での戦争に介入することを嫌い、こうした要請を却下し続けてきた、と言われている。今回、これまでの方針を大きく転換したことになるが、この発表も大統領自身が演説や記者会見などで明らかにしたのではなく、ベン・ローズ大統領副補佐官(国家安全保障担当)の名前でホワイトハウスから声明文が発表されており、オバマ大統領の消極性が現れている。 今回、オバマ大統領が“嫌々ながら”もシリア反体制派への武器支援に踏み切らざるを得なくなったのはなぜなのだろうか? オバマ政権の対シリア政策の背景について米メディアの中でもっとも詳しく伝えているのは、おそらく米『ウォールストリート・ジャーナル』紙だろう。 6月15日付の同紙は、今回の「政策転換」の背景について「アサド政権の化学兵器使用」以外にも複数の要因があったことを伝えている。その一つはイランが支援するレバノンの武装組織ヒズボラが大規模にシリア内戦に介入し、戦況に大きな影響を与えていることだという。 レバノン・シーア派のヒズボラの指導者ハサン・ナザレ氏は5月25日、ヒズボラの戦闘員がアサド政権の軍隊とともにシリアの反体制派との戦闘に参加していること、そしてこれからもアサド軍を支援していくことを初めて公に宣言していた。アサド軍とヒズボラはシリアとレバノンの国境に位置する戦略的な町Qusairを反体制派の支配から奪還すべく、共同軍事作戦を展開。5月末時点でこの町の支配権を奪取した。 ナザレ氏は、「アサド政権は長年にわたり、イラン製武器の供給を支援してくれたヒズボラにとってのバックボーンだ」とまで述べ、「シリア内戦は我々の戦いでもある」と宣言し、アサド政権を全力で支援する姿勢を鮮明にした。 崩れた軍事バランス 米情報機関もシリア内戦に2000〜2500人のヒズボラの民兵が参戦し、アサド軍の戦力立て直しに大きく貢献していることに対する懸念を強めていた。反体制派勢力を指揮するサリム・イドリス将軍は、ヒズボラが戦力を増強したことでアサド軍が勢いづき、反体制派の拠点となっているアレッポでの戦闘が激化して反政府側が劣勢に追い込まれているとして、西側へ具体的な武器支援を要請していた。 このようにイランやロシアによる武器支援に加え、ヒズボラが戦闘員を送ってアサド軍の支援に出てきたことで、シリア内戦をめぐる軍事バランスが大きく政権側有利に傾いたことが、今回のオバマ政権の「反体制派への武器支援」決定の背後にあったという。 アラブ諸国で強まる対米不信 もう1つは、シリア反政府勢力への支援を続けるアラブ諸国からの強力な要請だったようである。4月末にヨルダンのアブドラ国王がオバマ大統領と会談した際に、国王はシリアの地図を見せながら、このままいけばシリアが宗派の境界線で分裂してしまい、砂漠の大部分がアルカイダ系のイスラム武装勢力の支配下に落ちる可能性が高いことを指摘したという。 アブドラ国王はまた、アラブ諸国からシリア反体制派への支援の統制が全くとれておらず、特にカタールが過激なイスラム武装勢力「アルヌスラ戦線」への武器支援を強化していることに警鐘を鳴らした。 このヨルダンのアブドラ国王に加え、サウジアラビアのアル・ファイサル外相、トルコのエルドアン首相らが、「このままではシリアの戦場はイラン、ロシアとヒズボラにコントロールされ、アサド大統領の勝利が決まってしまう。アサド大統領が生き残れば中東地域の勢力バランスはイラン側に有利になってしまう」と述べて米国の介入を懇願したという。 また、6月13日付の『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、「サウジアラビアとトルコが最近、反体制派に対する新たな訓練プログラムから米国を外す措置をとった。オバマ政権の反体制派への支援に全く熱意が見られないからである。同様にUAEもシリア問題を討議するための関係国の国防相会議を主催することを断った。強力な米国の指導なしにそのような会議を開催しても、反政府勢力への支援の方法をめぐって対立する湾岸諸国が言い争いを強め、相互に責任のなすり付け合いに陥る可能性が高いため」だという。 要するに米国が指導力を発揮してまとめなければ、シリア反体制派を支援する関係国の動きはバラバラになり、アサド政権が勝利して中東全体におけるイラン陣営の影響力が強まってしまう、という懸念が湾岸アラブ諸国で強まり、行動を起こさない米国に対する不信感がピークに達したのである。 飛行禁止措置も視野に入れるペンタゴン また、英国やフランスなどの欧州の同盟国も、米国の積極的な介入を強く求めていた。英仏は既に今回のオバマ政権の決定に先立って「アサド政権が化学兵器を使用した」と結論付け、5月末にはEU(欧州連合)によるシリア反体制派への武器禁輸措置を解除し、反体制派への武器支援を開始することを発表していた。リビア戦争の時と同様、英仏が先行して米国を同じ方向に引き込むという構図も見られるわけである。 さらに今回のオバマ政権の政策決定は、先進国の首脳が集まるG8サミットの直前に発表された。このG8サミットでの主題はシリア問題になり、ここで各国の取り組みやシリア和平のための方向性などが話し合われることになる。オバマ政権としては、このサミットで、アサド政権を支援するロシアに対して圧力をかけるためにも、新たなカードを必要としたのであろう。 「もしロシアがアサド政権への軍事支援を控えてアサド大統領に圧力をかけないのならば、我々は反体制派への武器支援を本格化させる」、オバマ大統領はプーチン大統領に対してこのように伝えて、ロシアに対する牽制を強めることが出来るからである。 このような複数の要因が相俟って、今回のオバマ政権の政策決定に繋がったのだと考えられる。具体的に米国がどのような武器支援を行うのかは明らかにされていないが、反体制派は、ライフルやマシンガンの弾薬に始まり、対戦車ミサイルや携帯式地対空ミサイル(Manpads)の供与を要求している。 しかし、戦況は著しくアサド政権側に有利になっており、今から武器支援だけを強化しても状況はあまり変わらず、結局欧米諸国が反政府勢力を支援するためにさらなる軍事介入を余儀なくされるという見方も強まっている。今回の武器支援とともに、米国防総省は米軍による軍事介入のシナリオも検討していると伝えられている。 具体的にはシリアとの国境のヨルダン領内に、反体制派を訓練するためのキャンプを設置することが挙げられている。米国が供与する武器が反体制派の中の危険なイスラム過激派の手に渡らないようにするためにも、米国の監督下で反体制派の訓練を実施して、コントロールすることが望ましいからである。しかし、シリア空軍がこの訓練キャンプを空爆する危険があるため、米国としては、ヨルダン国境沿いのシリア領内の一部まで含めて飛行禁止空域を設定し、もしシリア軍がその空域に入ってきたら撃ち落とす措置をとることが検討されているという。 まさに一触即発の状況 実際に6月はじめに米軍は、ヨルダン軍との合同軍事演習のために、F-16戦闘機やパトリオット・ミサイルをヨルダンに運んでいる。「イーガー・ライオン」と呼ばれる軍事演習を実施する予定だが、その演習後もこれらの兵器はヨルダン国内に継続して配備される予定だという。米軍の軍事プレゼンスを見せることで、シリアのアサド政権に対する抑止力を強め、いつでも飛行禁止空域の設定を発動させることができる態勢をとる狙いがあるものと思われる。 こうして見ていくと、もうシリア内戦が、近隣のアラブ諸国や欧米諸国を巻き込んだ軍事紛争に拡大する危険性が高く、まさに一触即発の状況であることが分かるであろう。今回のオバマ政権の決定は、新たな中東大動乱の時代への序章となる可能性を秘めた、極めて重大な決断である。今後の動向に要注目だ。 隠された戦争
この10年は、まさに「対テロ戦争の時代」だったと言って間違いないだろう。そして今、この大規模戦争の時代が「終わり」を迎えようとしている。6月22日、オバマ大統領がホワイトハウスで演説し、アフガニスタンから米軍を撤退させる計画を発表したのである。 米国は一つの時代に区切りをつける決断を下したが、イラクもアフガニスタンも安定の兆しを見せておらず、紛争とテロ、混乱と無秩序は、世界のあらゆる地域に広がっている。そして東アジアでは、中国という大国が着実に力を蓄え、米国の覇権に挑戦し始めたかに見える。 無秩序と混乱、そしてテロの脅威が拡大し、しかも新興国・中国の挑戦を受ける米国は、これから限られた資源を使ってどのような安全保障政策をとっていくのだろうか。ポスト「対テロ戦争時代」の米国の新しい戦争をレポートする。 |