06. 2013年6月04日 00:37:37
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スウェーデン暴動の根底にあるもの(上) 移民統合政策は失敗したのか?〜北欧・福祉社会の光と影(13) 2013年06月04日(Tue) みゆき ポアチャ 5月下旬の暴動はスウェーデン全土を大きく揺るがした〔AFPBB News〕
5月19日にストックホルム郊外で発生した暴動は、1週間ほどかかってひとまず沈静化した。 だが、車両約150台が放火され、数十人が逮捕され、警察署やスーパーなどの窓ガラスが割られ、ドアが破壊されるなどにより、ストックホルムでの被害額は1000万クローナ(約1億5000万円)に上った。この数字には、他県から派遣された応援隊のコストは含まれていない。 さらに、暴動は全国のあらゆる移民コミュニティに飛び火した。筆者の住む人口10万の市は、ストックホルムから470キロ離れた通常は静かな街だが、ここでも車両やタイヤへの放火、警察署の建物の窓ガラスが数十枚割られるなどの被害があった。 英国やオランダなどの各国外務省や在スウェーデンの米国大使館などが、自国民に注意を喚起している。 警官による移民射殺事件で溜まっていた怒りが爆発 暴動の発端は、ストックホルム郊外のヒュースビー地区に住む69歳のポーランド系移民の男性を、彼の自宅で、彼の妻の目前で警察官が射殺したことだ。ヒュースビーは住民の8割を移民が占める「移民地区」だ。 男性はこの日、妻とレストランに出かけ、その帰りに数人の若いギャングにつきまとわれ、嫌がらせをされた。男性はナイフをバルコニーから振り回し、「殺してやる」と叫んでいる。 近所の住民が警察へ通報し、数人の警察官が彼のアパートへ向かったが、妻の証言によると、この夫婦は到着した警察をギャングの一味がまた戻ってきたと思ったのだという。 警察が到着した時、男性は自室の中へ戻っていたが、またナイフを持ちバルコニーへ出て同様に振りかざしている。警察はアパートに押し入り、目撃者によると5〜6発の銃弾を発射した。妻は「警察は頭部を撃った」と証言している*1。 警察は当初、男性を病院に搬送した後で死亡が確認されたと発表したが、後に、男性は発砲後に死亡し、真夜中2時に現場に到着した霊柩車が遺体を運んだということが判明した。付近の住民は救急車両は来なかったと証言している。 この翌日、近隣住民の1人は、タブロイド紙アフトンブラーデットのインタビューに答えて、こういう疑念を発している。 「特別に訓練を受けた武装警察官という『ギャング』らに対し、老人がナイフで自衛しようとしたのだ。なぜ警察は発砲したのか。本当に殺す必要があったのか」 これが暴動を起こした若者ら全員の疑念だろう。暴動にかかわった多くの若者が、この発砲事件が起爆剤になったと話している。 *1=http://hbl.fi/nyheter/2013-05-23/453556/dodsskjutningen-en-brutal-overdrift-av-polisen 男性は、なぜ殺されなければならなかったのか? コミュニティが組織する地元若者のネットワーク「メガフォン」のラミ・アルカミーシ代表は、この暴動を引き起こした原因について「警察は差別的で、人権を全く尊重していない。これは市民、私たちの隣人に対する警察の非道な行為への反応だ」と主張している*2。 彼によると、警察は子供や親に対してもこん棒を用い、犬をけしかけて脅し、「ニグロ、ニガー」「ブラックヘッド」「サル」といった言葉を放つという。またヒュースビーで暴動が起きたのは初めてではないが、政府は単に警察力を投入するだけで、構造的な問題は解決されないままだとしている。 ヒュースビー地区に掲げられた「警察の暴力を止めろ」と訴える垂れ幕〔AFPBB News〕
「先週、警察はナイフを持った老人を撃った。この責任をどう取るのか。(暴動は)これに対する反応だ」「この地域での警察の存在は次第に大きくなった。我々も警察が次第に凶暴になり、暴力的になっているのを憂慮していた」――。メガフォンは暴動に関する声明でこう述べている。 地元紙ノーラ・シーダンのロズベン・デライエ編集長によると、ストックホルム警察はヒュースビーでの暴動にかかわった人を「サルども」と言い、警察が発砲・射殺について誤報を流したことなどが地元住民を激怒させたという。 「ヒュースビーにはすでにフラストレーションが溜まっており、制御できないほどのリスクになっていた。人々は、警察力の投入ではなく社会問題の長期にわたる解決を望んでいた」 「この地区では、中学生の3分の1が十分な単位を修得せずに卒業している。そして職もない。このことが何を引き起こすかは明らかだ」 平等な社会の構築に涙ぐましい努力を重ねてきたスウェーデン この事件は、国内外のメディアで連日大きく報道された。スウェーデン人もショックを隠しきれず、対応に右往左往している様子だ。国内で現在大きく議論されていることは、「我々の移民統合政策は失敗だったのか」だ。 スウェーデンのシステムは、よく言われることだが、福祉依存の罠にはまり、労働市場に参入するのが困難で、社会への統合を妨げる要因になっている。 若い移民がなかなか仕事に就けず、これが反社会的な行為を促すきっかけになる。 統合政策、つまり社会の成員全員が公平・平等である社会の構築に向けて、スウェーデン人は涙ぐましいほどの努力を重ねてきた。差別オンブズマンを設け、 性別や人種、民族、障害や性向などに対するあらゆる差別を徹底的に監視し、撤廃のために訴訟を起こすなど精力的に活動している。 *2=http://www.dn.se/sthlm/7-fragor-till-rami-al-khamisi-talesperson-megafonen 2010年の総選挙時に「『我々』は『彼ら』に投票しなかった95%」とする大々的な反排外主義キャンペーンが起き、50万に及ぼうとする人が賛同を表明した。 「彼ら」とは、保守陣営の財務大臣のアンダース・ボリと当時社会民主党党首だったモナ・サリーンの両氏が、「非スウェーデン人」と呼んだ極右政党スウェーデン民主党のことである。 この「移民排斥」を党是とするスウェーデン民主党はこの時の選挙で20議席を獲得したが、選挙当日の夜、17歳の少女が呼びかけ、右翼政党の議席獲得に反対する数万人規模のデモが首都および各地で巻き起こっている*3。 http://www.migrationsinfo.se/migration/sverige/ トビアス・ビルストルム移民相は3月に「青い目でブロンドの不法移民はほとんど存在しない」と言ったことで徹底的に批判されたが、実は、移民相に就任して以降の7年間にわたって西側世界で最も寛容な難民政策を推進してきた。
2011年には、スウェーデン内にいる外国生まれはほぼ140万人、人口の15%を超えている。外国生まれの人と、スウェーデンで生まれているが両親が外国生まれである人を合わせると160万人だ。 欧州のどの国にも受け入れられず、何年にもわたって流浪の生活を送った末に、やっとスウェーデンに安住の地を得たという人も筆者自身は何人も知っている。 母国語教育まで与える手厚い保護政策 さらに、移民・難民の保護政策は手厚い。 http://www.migrationsinfo.se/migration/sverige/ 2011年に、移民政策に関して中道右派連立政府と緑の党との間で「歴史的な」合意が形成され、移民政策の方向転換が決定した。
合意の内容には不法滞在者にも医療と教育を受ける権利を認めることも含まれており、この施策変更に要する費用は、最高で17億クローナ(約258億円)かかると推定されている*4。 いずれ自国に戻った時に困ることがないようにと、母国語教育も行っている。財政が追いつかないため日本語をはじめとする少数言語まではまかなえないのが実情だが、しかし中国語やアラビア語を家庭内で使っている子供は、その言語を学ぶことができる。 *3=http://www.aftonbladet.se/vigillarolika/ *4=http://www.dn.se/nyheter/politik/regeringen--mp-eniga-om-migrationen 暴動が起きた近隣地区はここ数年、社会問題を軽減させるための、膨大な公共支出を受け取っている*5。この暴動の中心となったヒュースビーが典型だ。2012年初めにニュースビーゴードスクールは、280台の「iPad(アイパッド)」を生徒に配っている。もちろんスウェーデン内の大多数の生徒たちはこんな贅沢なものは持っていない。 スヴェンスカ・ダーグブラデット紙の社説によると、社会経済的な問題があるとされているこの学校は、3万3000クローナ(約50万2000円)以上の補助を受け取っている。 きれいに整備された図書館 ヒュースビー公共図書館は最近改築された。同図書館は現在、赤十字と提携し、地元学校の生徒に修学の補助をしている。また書き方を学び、自らのストーリーを話す「お話大臣」プログラムなど、多くの活動を行っている。
これらすべては、もちろん公金で支払われているものだ。 裕福なストックホルム自治体に属しているので、他の多くのコミューンと違い、支出を削減する必要はあまりない。少なくとも、いわゆる「スラム」と呼ばれる地域によくあるような、路上にゴミがあふれて貧しい家々が密集しているという雰囲気は全くない。子供の遊び場や市民の憩いの場なども設備され、非常に美しい地域だ。 英国の移民政策グループの調査によると、スウェーデンが「移民にとってよい国」ランキングの第1位という結果が出ている*6。 外国人にも高税率を補って余りあるこれだけの恩恵 いわゆる「裕福な国」の部類に入る日本から来た筆者ですら、社会から多大な恩恵を受けている。 以前にも書いたが、私自身は依然として日本国籍のままで日本人、つまりここでは外国人なのだが、スウェーデンに来てから、スウェーデン語を学び大学へ行き大学院へ行き、子供を3人産むなどし、それが全部タダだった。つまり、スウェーデン国家が全額負担したということだ。 大学院で東アジア研究科に在籍していた時には、「研究のため」日本に行く際の飛行機のチケット代も出してもらった。長男を妊娠していなければ、恐らく中国や他のアジア国にも行っていたところだ。 子育て中は失業保険をもらい、会社設立の際にはその援助金ももらっていたが、どちらも日本円で月額およそ10万円ほどだったように記憶している。今も子供の養育費を月約6万円弱もらっている。 *5=http://insyn.stockholm.se/utbildning/document/2013-02-07/Dagordning/9/9%20Bilaga%2005%20Resultat%20per%20enhet%20Grundskolor%202012.pdf, http://blog.svd.se/ledarbloggen/2013/05/26/pengar-ar-inte-problemet/ *6=http://www.mipex.eu/download 子供たちはコミューンが運営する課外学校で、無料でバイオリン、ギター、演劇、歌やダンスを学んでいる。バイオリンもタダで借りているが、家に持ち帰って練習しているので、ほぼ所有している状態だ。子供たちはこの他にも空手やスケート教室などに通っているが、これもコミューンの援助があるため、年間でも負担額は数千円程度だ。 給与から毎月引かれる課税額は3割に達するが、それを上回ってあり余るほどの恩恵を社会から受けていると私自身は感じている。 スウェーデンは移民をどこまで受け入れ、許容できるのか。 移民政策に国民1人当たり年間35万円の負担 この数十年、スウェーデンは移民や難民の目的地のトップになっている。受け入れる人数においても、その人口比においても、だ。 移民政策にかかる国家予算は年間1100億クローナだ。この額は、スウェーデン人1人につき年間2万3000クローナ(約35万円)の負担になっている*7。 5月15日に発表された経済協力開発機構(OECD)の統計によると、ほとんどのスウェーデン人の生活水準はよくなっているものの、経済格差は拡大する一方だ。1995年にスウェーデンは加盟国中収入格差が一番小さい国にランクされたが、現在は14位に落ちている*8。 http://www.oecd.org/els/soc/OECD2013-Inequality-and-Poverty-8p.pdf 移民・難民急増で経済格差が急拡大
経済格差拡大の説明の1つとして、スウェーデンが移民・難民を受け入れている率が高いことが指摘されている。増え続ける移民の雇用機会が絶対的に不足しているのだ。スウェーデン統計局によると、2012年の高等教育を受けた外国人の失業率は12%、スウェーデン人の失業率は3.5%である。 誤解を恐れずに私見を述べれば、スウェーデンは社会が正常に機能し許容できる範囲を超えて移民を受け入れている。 しかし、今回の暴動を引き起こした原因としてさらに根底にあるのは、単なる経済・財政上の問題にとどまらないのではないかというのが筆者の見解だ。 筆者がこの地に移住して十数年が立つが、この間にスウェーデン人と非スウェーデン人の間を隔てる見えないギャップを感じることがよくあった。私自身は、暴動を引き起こした根底に、スウェーデン社会に存在するある種の異質性というものが関係しているのではないかと想像している。 本稿の後半では、この無形の壁について書きたいと思う。 *7=http://www.friatider.se/invandringen-kostar-110-miljarder *8=http://www.oecd.org/els/soc/OECD2013-Inequality-and-Poverty-8p.pdf http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37913
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