01. 2013年3月13日 13:35:49
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中南米情勢:ウゴ・チャベスの負の遺産 2013年03月13日(Wed) The Economistベネズエラ国内では幅広い支持を集めたウゴ・チャベス氏だが、同国に遺す遺産は・・・〔AFPBB News〕 中南米諸国は1990年代に、孤立する共産主義国キューバを唯一の例外として、軍政に別れを告げて民主主義と自由市場経済を取り入れたかに見えた。 そこに現れたのがウゴ・チャベスだ。かつて軍隊で中佐の地位にあったこの尊大なベネズエラ人指導者は、民主主義政府に対し軍事クーデターを企てて失敗した後、1998年に大統領選に立候補し、当選を果たした。 チャベス氏はその後、2013年3月5日にがんで死去するまで、14年以上にわたってベネズエラを支配した。その秘訣は、ハイブリッドな統治体制を作り出した点にある。表面的には民主主義を保ちながら、裏では自らの手に権力を集中させ、自分の目的をさらに推し進めるために法律を操作した。 敵対者を痛めつけ、中産階級の逃亡を招いた。資本主義が残した遺産とともに、国家社会主義とポピュリスト的な再配分を混ぜ合わせて、経済を空洞化した。さらにこれらすべてをつなぎ合わせるため、中南米の民族主義という、粗野だが力強いレトリックを用いた。 「帝国」(すなわち米国)に対抗する「ボリバル革命」を率いているというのが、チャベス氏の主張だった。南米の大部分をスペインの植民地支配から解放したベネズエラの英雄、シモン・ボリバルが、実際には英国びいきの保守主義者だったことも、意に介さなかったようだ。 チャベス主義は結果的に、驚くほどの好評を博した。チャベス氏は4回の選挙で、圧勝ないし楽勝と言える差で勝利を収め、6回行った国民投票でも否決されたのは1回だけだった。2012年10月の大統領選では、闘病生活により十分な選挙運動ができない状態ながらも勝利し、新たに6年の任期を得た。ただしその病状は、本人が認めていたよりも深刻だった。 チャベス氏は中南米のあちこちに模倣者を生み出し、志を同じくする指導者やベネズエラに依存する国家で構成される反米同盟に資金を提供した。そして、キューバの共産主義の救済者となり、援助を提供してカストロ兄弟を権力の座に留まらせるとともに、経済が破綻に陥った島国、キューバの資本主義への移行を遅らせた。 劇場政治、狡猾さ、石油 チャベス氏の成功の核心には、2つの要素がある。 1つ目は、チャベス氏自身の政治的な才覚だ。名も無き地方の町に生まれたチャベス氏は、生まれながらのパフォーマンスと意思伝達の才能を持ち、ベネズエラの庶民の気持ちと同化する類い希な能力に加えて、狡猾さもたっぷりと持ち合わせていた。 チャベス氏が副大統領に指名し、後継者に指名されたニコラス・マドゥロ氏も、こうした才覚を多少なりとも持ち合わせているとしても、それはまだ示せてはいない。 第2の、より重要な要因は、前例のないコモディティー(商品)価格の高騰が始まろうとした、まさにその時期に権力の座に就くという、とてつもない幸運に恵まれたことだ。原油価格が急上昇する中で、ボリバル革命が機能するまでもなく、国にはドルが転がり込んできた。 チャベス氏はこの願ってもない幸運を生かし、社会福祉政策や給付金を駆使して大衆の支持を稼いだ。石油がもたらしたバラマキは、チャベス政権以前のベネズエラ人は「新自由主義」のせいで貧しい立場に置かれてきたという大統領の主張の正しさを立証しているようにも見えた。 しかし、ベネズエラの行く末を示すのは、もはやボリバル革命のスローガンではない。商品価格はすぐには下落しないかもしれないが、2000年代のような勢いで上昇し続けているわけではない。政府は10月の選挙を前に歳出を増やし、2012年の財政赤字は国内総生産(GDP)の8.5%に達した。 歳出には、中国への今後の石油輸出の一部を抵当に入れることで捻出されたものもあった。さらに2013年2月には、32%の通貨切り下げを実施している。 ベネズエラの醜い現実 3月8日、暫定大統領への就任宣誓の後、右手の拳を掲げるニコラス・マドゥロ氏〔AFPBB News〕
12月以来、暫定大統領を務めてきたマドゥロ氏は、これまでのところチャベス氏の手法を継承し、反対派や民間企業を威嚇するとともに米国人外交官2人を国外退去処分にした。 恐らくチャベス氏の死去は同情票を集め、憲法で定められたこの後の選挙ではマドゥロ氏が勝利を収めるだろう。 中南米の人々は死者を偏愛する傾向があるうえ、反対派はこれまでよりは力を得ているものの、2012年の大統領選挙と地方選挙での敗北から立ち直っていない。 しかし、マドゥロ氏にはチャベス氏ほどの威光はない。勝利を収めたとしても、経済を安定させながら、激しい派閥抗争を繰り広げる与党に自らの意思を浸透させなければならない。この国は崩壊する恐れもある。 ベネズエラの状況が悪化すればするほど、チャベス氏の思い出は美化される〔AFPBB News〕
プロパガンダに隠れてはいるが、腐敗し、温かみに欠け、能力に欠ける政権に率いられているというのが、ベネズエラの醜い現実だ。 チャベス氏が、自ら種を撒いた災いの報いを受けずに終わるのは残念なことだ。皮肉にも、今後ベネズエラの状況が悪化すればするほど、チャベス氏の思い出は美化されることになる。 ペロン主義がアルゼンチンのフアン・ペロン大佐の死後も生き残ったのと同様に、ベネズエラに悪影響を及ぼしたにもかかわらず、チャベス主義は生みの親の死後も生き残るはずだ。 熱い抱擁に隠された毒 他の中南米諸国では近年、チャベス氏の影響力が薄れてきていた。その後継者として最もふさわしいと目されるのは、エクアドルのラファエル・コレア大統領だ。2007年から権力の座にあるコレア大統領は、2月の選挙で大勝し、さらに4年の任期を得た。しかも、コレア大統領には石油資源がある。 しかし、エクアドルは国土の大きさや富、政治的影響力の点でベネズエラに及ばない。それは同様に社会主義者で、確固たる政権基盤を持つエボ・モラレス大統領が支配するボリビアにも言えることだ。 一定の距離を置きながらも同盟関係にあるアルゼンチンのクリスティーナ・フェルナンデス大統領は、自国に問題を山ほど抱えている。 キューバについて言えば、同国はベネズエラから年間約60億ドルを受け取っており、カストロ兄弟はベネズエラでも一番の親キューバ派であるマドゥロ氏を権力の座に就かせるべく画策してきた。 キューバの共産主義はベネズエラの援助に支えられてきた(写真はウゴ・チャベス氏とカストロ兄弟)〔AFPBB News〕
キューバの共産主義体制とボリバル革命は一蓮托生の関係にある。マドゥロ氏がつまずけば、一緒に沈んでしまうかもしれない。 チャベス氏の支持者は、中南米が米国への隷従から解放されたのは彼のおかげだと主張する。確かに南米諸国はチャベス氏が権力を握っている間に自信をつけたが、それは経済運営が改善され、中国との貿易額が増加したからであって、チャベス氏の施策とは一切関係ない。 中南米の労働階級にとって本当の英雄は、ブラジルのルラ前大統領(左から2人目)〔AFPBB News〕
チャベス氏の真っ赤なベレー帽は、ニューヨークのグリニッジビレッジやロンドン北部のイズリントンで見かける小洒落たTシャツの絵柄としては映えるかもしれない。 だが、中南米における真の労働者階級の英雄は、ブラジルのルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ前大統領だ。 中南米諸国の首脳会議では何度も熱烈な抱擁が交わされたものの、チャベス氏は大陸の大義を推進することはなかった。 中南米の統合が進む可能性 ルラ氏を含め、中南米諸国の首脳は表向きはチャベス氏を非難したがらなかったが、中南米がその潜在能力をフルに発揮できず、民主主義と自由市場を一致して支持できなかったのは、同氏のせいだということも分かっていた。 この流れでうまくいけば、チャベス主義は今後その強烈な刺激の大半を失うことになるだろう。チャベス氏の死により、中南米の統合を阻んできた膠着状態が解消されるかもしれない。 格差と社会的不満につけ込み、反対派を悪魔に仕立て上げるチャベス式の手法は、今後も有力な手段であり続けるだろう。しかし、本人がこの世を去った今、中南米の民主主義者たちは仕事がやりやすくなったはずだ。 |