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飛幡祐規 パリの窓から(23)〜すべてのカップルと家族に平等をー同性婚をめぐる論争(レイバーネット日本)
第23回・2013年2月16日掲載
すべてのカップルと家族に平等をー同性婚をめぐる論争
*写真=1月27日に行われた同性婚・養子縁組賛成派の「平等のための」デモ
フランス軍のマリへの出兵、アルジェリアの人質拘束事件、チュニジアの左翼政治家ショクリ・ベライド暗殺など、年の初めからフランスでは国際関係の重大な出来事とニュースがつづいているが、国内では同性カップルの結婚を制定する法案が大きな争点となった。
1999年、フランスではパックス(PACS、連帯民事契約)とよばれる同性・異性を問わないカップルの共同生活のかたちが法制化された。もともと、同性カップルにも法的な保護をという要求から生まれたものだが、実施されるとパックスを結ぶ異性カップルがどんどん増え、結婚より解消が簡単な制度として定着した(2011年の全パックス数のうち同性カップルの割合は4,7%)。結婚するカップルが減る傾向にあるのに対して、パックスは2000年〜2010年で9倍以上に増えたのである(2010年の結婚数251 654、パックス205 558)。
一方、結婚に比べると、パックスにおいてはつれあいがたとえば死亡した場合、残された者の相続や保護がじゅうぶんではない。また、パックスを結んでもカップルは「家族」にはならない(結婚は市役所で行われ「家族手帳」が与えられる。パックスは大審裁判所に登録)ため、カップルとして養子縁組ができない。また、カップルが一方の子どもと同居する場合、もう一方には保護者としての法的資格が与えられず、子どもの養育におけるさまざまな場面で支障が生じることがある。したがって、同性カップルにも結婚と養子縁組の権利を与えよ、という要求が強まってきた。また、レズビアンのカップルでは、人工授精による出産の権利を望む声も高い。こうした背景から、オランド大統領は選挙公約の中に同性カップルの結婚と養子縁組の法制化を掲げていた。昨年11月の閣僚会議でその法案が提出され、今年の1月29日から国民議会で討議が始まった。
パックス法がジョスパン内閣のもとに討議されたとき、保守陣営ではすさまじいホモフォビア(同性愛に対する拒絶反応、同性愛者への敵意)が噴き出た。カトリック伝統主義派は「家族を脅かす」と激しく反発し、大規模な反対デモが行われた。国会での討議でもホモセクシュアルを茶化す野次や卑猥な笑いが続出し、討議日数は実に390日に及んだ。しかし、パックス法の制定以降、同性カップルの社会認知が進み、ホモフォビアも後退した……と思っていたら、そうではなかった。昨年秋から保守党UMPやカトリック教会勢力は強力な反対キャンペーンを展開し、1月13日の日曜には全国からバスを連ねて、同性婚と養子縁組に反対する人々が何十万人も(警察発表34万人、主催者側80万人)パリでのデモに集まった。保守陣営のデモは稀なうえ、14年前のデモ10万人をはるかに上回る動員である(カトリック系私立校の組織網が使われたためだろう)。
法案に反対する人々はホモフォビアだと非難されるのを避けるため、「みんなパパとママから生まれた」「子どもにはパパとママが必要」といったスローガンを掲げた。彼らが同性婚と同性カップルによる養子縁組に反対するのは、「男と女が結ばれ(その結果として)生まれた子どもと家族をなし、家系を存続させる」のが結婚であり、それ以外の形態はありえないと信じるからだ。つまり、婚姻・親子関係と生殖行為を「自然(神の摂理)」と結びつける考え方だが、法案を提出したトビラ法務大臣が説明したように、共和国の結婚制度は大革命中の1791年憲法以来、宗教儀式とは関係のない「民事契約」である(もっと古い例に古代ローマの民事結婚がある)。
トビラ法相は30分近くに及ぶすばらしい演説の中で歴史をふり返り、共和国の結婚制度にあらわされた「平等」と「自由」の精神を強調した。カトリック教会はプロテスタントとユダヤ教徒、俳優などに結婚を許さなかったし、離婚は今でも認めていない。1792年の法律が定めた離婚は王政復古になった途端(1816年)に禁止され、第三共和政下の1884年に再び設定された。しかし、19世紀の民法は女性と子どもを「家父長」の絶対権力の下におき、「家父長」の概念が破棄されて親権が父母双方に与えられたのは、なんと1970年のことだ。また、1792年の法律にあった「相互同意による離婚」の復活も、1975年を待たなければならなかった。子どもについては、1972年に非嫡出児に対する法的差別が撤廃されたが、2005年まで相続などにおいて差別が存続した。http://www.la1ere.fr/infos/actualites/c-taubira-un-acte-degalite_112646.html
法案に反対する人々は、結婚が多くの場合(とりわけ支配層や富裕層にとって)、個人の自由意志による行為というより財産と家系保持の手段であった史実に目を向けず、父母の愛情のもとに子どもが育つ理想的な家族像が「真実」だと信じている。しかし、この一夫一婦制ブルジョワ家庭の規範をとりつくろうとする偽善と嘘、差別が多くの苦悩を生み出してきたことは、文学にも頻繁に描かれてきたし、実生活で直面した人も多いだろう。嫡出の血縁の神聖化は、それ以外の関係にある子どもの差別につながるし、自分の子どもを虐待する親もいるのだ。
それに、フランスでは1970年代以降、家族の形態がめざましく変化した。現在では第1子の56%が「婚外児」(結婚していないカップルの子)であり、単親の家庭や、生みの親でないおとなと子どもが同居する「再構成家族」が増えている。従来の規範から外れた環境で育つそうした子どもたちへの差別や偏見は、ほとんどなくなった。同性カップルのもとで暮らす子どもたち(独身者には養子縁組が許されるため、すでに存在する)にも、異性カップルと暮らす子どもと同じように法的保護を提供しよう、より多くの市民が平等と自由を享受できるようにーーというのがこの法律の趣旨である。すべてのカップルと家族に平等をもたらすこの法律を自分は誇りに思う、とトビラ法相は語り、彼女と同じギュイアナ出身の詩人、レオン=ゴントラン・ダマスの詩を引用して演説を結んだ。
野党UMPは4999もの修正案を提出し、討議は10日間、週末も休まずに深夜に及んだ。法案は110時間以上の討議の末、2月12日、賛成329反対229で可決された。4月2日からの元老院における討議と採決を経て再び国民議会に戻され、6月頃に批准されるとみられている。
パックスの前例があるとはいえ、正直言って同性婚反対運動の激しさにはショックを受けた。他の欧米諸国のメディアも驚いて、「フランスで保守主義がこれほど強かったとは意外」などとコメントした。世界では2001年のオランダを皮切りに、ベルギー、カナダ、スペイン、南アフリカ共和国、スウェーデン、ノルウェー、アイスランド、ポルトガル、アルゼンチン、デンマークの11カ国、アメリカ合衆国、メキシコ、ブラジルのいくつかの州がすでに同性婚を法制化している。フランス国会で法案討議中の2月5日、イギリスでは保守内閣のもとに、同性婚を認める法案が庶民院ですんなり可決された(おそらく今年中に批准されるだろう)。カトリック信仰がフランスよりずっと強いはずのスペインでも、大きな反対デモがあったにせよ、2005年に法制化された。
野党UMPはこの機に「保守の価値観」を主張し、分裂状態にあった陣営を結束しようとしたのだろうが、サルコジ時代に進んだ右傾化と思考の硬直化は、ここにもあらわれているのかもしれない。1万に充たない同性のパックス数からみても、結婚しようという同性カップルは少数だろう。異性カップル家族の権利が脅かされるわけではないのに、彼らは何が不安なのだろうか?同性婚を認めることによって、(人気のなくなった)結婚制度が強化されるという見方だってできるのだ。
世論調査では2008年以来、同性婚にも養子縁組にも過半数(同性婚は2004年以来60%以上)が賛成だったのに、昨年秋からは反対派の大々的なキャンペーンの影響なのか、養子縁組への賛成は50%を切るようになっていた(今年1月末には同性婚賛成63%、養子縁組49%)。65歳以上と保守党支持者には反対が多く、35歳以下と左翼支持者では賛成が大多数だ。若い世代には前述したように、同性カップルの家庭を含め、さまざまな形態の家族を日常として生きている人が大勢いる。規範を外れた人間を排除するより、差別を受けない社会のほうが生きやすいことを、彼らは知っているのだろう。
ところで、反対派が展開したもうひとつの主張は、同性カップルの認知がレズビアンカップルの人工授精や代理母出産につながるという点だった(いずれもこの法案には含まれておらず、代理母出産はフランスでは禁止されている)。医学的理由を離れた人工授精や代理母出産は人間の「商品化」をまねくという批判、またそれらは親の「子ども願望」を「子どもの権利」に優先させた行為だという意見も強い。左翼の中でも意見が分かれているため、人工授精については後に生命倫理学に関する別の法案で扱われることになった。つづきはまた、新しい法案が提出されたときに紹介することにしよう。
2013年2月16日 飛幡祐規(たかはたゆうき)
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