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イスラエルとパレスチナのイスラム過激派ハマスの軍事衝突。実弾が飛び交っただけでなく、サイバー空間上での戦争も行われていた。そこに3番目の勢力が介入してきたのだが……。
官公庁を襲うサイバー攻撃がしばらく前から頻発している。実際に「個人情報が盗まれた」「Webサイトが書き換えられた」というサイバー攻撃はちょこちょこ話題になっている。ただこの程度で大騒ぎしているようでは、あまりにも世界の現実を分かっていない。
日本はサイバー空間という領域の重要性を真剣にとらえていない。その根底には問題を先送りにする官僚の事なかれ主義があるようにも思うが、政府としてサイバー空間の重要性に向き合って、具体性を持って真剣に議論すべきだろう。
というのも、世界を見れば、ネット上はすでに「戦場」になっているからだ。データは兵器になり、もはや紛争や戦争においてサイバー攻撃は当たり前になっている。国家が考える軍事領域は、もはや従来の陸、海、空だけではない。例えば、米国はサイバー空間を陸、海、空、宇宙にならぶ「第5の軍事領域」と位置付けてネット戦略を立てているのだ。
そして最近、このサイバー戦争が実戦と並んで繰り広げられた紛争があった。空爆など大規模な戦闘にまで発展し、2012年11月半ばに地上戦に突入する直前までいったパレスチナのイスラム過激派ハマスとイスラエルの衝突だ。サイバー空間上でどんな「戦闘」が繰り広げられたのか。
■イスラエル国防軍はTwitterで宣戦布告した
イスラエルは、11月10日にパレスチナ自治区ガザのイスラム武装勢力からミサイル攻撃を受けてイスラエル兵が負傷したことをきっかけに、ガザへの空爆を開始した。ハマスを中心とするガザの武装勢力もロケット弾でそれに応戦、戦闘が激化する事態に発展した。
イスラエル国防軍はTwitterで宣戦布告した。「防衛の柱作戦」と名付けたオペレーションの開始をネット上で宣言するのはイスラエル史上、初めてのことだった。そしてその日、イスラエルは、ハマスの軍事部門トップだったアフマド・ジャアバリを空爆によって暗殺。それをきっかけに、戦闘は一気に激しさを増した。
空爆に加えて、今回の戦闘でイスラエル軍はサイバー空間での戦いも強化した。軍はジャアバリが死亡したことをツイートで拡散し、そのようすをとらえたビデオをアップするなど自国の能力を見せしめた。さらに軍は次のようなメッセージをTwitterで公開する。「すべてのハマス活動家、組織内でどんなランクであっても、これから数日は顔を見せないほうが身のためだ」
これに対して、ハマス側もTwitterで応戦。「お前たちの指導者たちや兵士たちに神聖な神の裁きが下る。どこにいようともだ。地獄への扉をお前たち自身が開けたのだ」
■サイバー空間上からプロパガンダは世界中に拡散した
こうしたネット上の小競り合いを皮切りに、サイバー空間上でプロパガンダ合戦が活発になった。イスラエル寄りのツイートは、ガザに近いイスラエル南部の住民がいかに悲惨な目に遭っているかを喧伝するために、破壊された住宅の写真やビデオをアップ。それに対して、アンチ側はイスラエルが罪のない女性や子供を攻撃しているとネットで非難した。
情報は世界中に拡散した。これは紛争地においては非常に重要な戦術だ。何故ならば国内のみならず世界での「支持・不支持」はその後の国際社会の動きに影響を与えることが少なくない。特に紛争の絡む国では、平時からPR専門家を雇って国際社会にメッセージを伝えるのが現実で、戦争に勝つためには重要な要素の1つとなる。
また、イスラエルにとって、情報機関「モサド」の存在など、情報戦や裏の作戦はお手のもの。平時からイスラエル側のオペレーションセンターには、世界中に2万5000人ほどいるイスラエル シンパからビデオや写真、目撃者の報告書などが送られてくる。これらを基にさまざまな言語でソーシャルメディア上に情報を発信してきた経験は、今回の戦闘でも生かされた。
ちなみにイスラエル軍のサイバー対策チームは、イスラエル支持者を増やすためにTwitter、Facebook、Instagram、さらにはPinterestまでを駆使してPR活動を展開する。今回の戦闘でも、戦場にはいない新聞やテレビなどのメディアを中抜きにして、世界中のイスラエル支持者たちにリアルタイムで現場の情報を伝えていた。
だが今回、イスラエルにとって予想外の敵が現れた。世界中でサイバー攻撃を仕掛けているハッカー集団「アノニマス」だ。きっかけはジャアバリの殺害だった。この暗殺事件にアノニマスは敏感に反応し、声明を発表、イスラエルへのサイバー攻撃を宣言した。
■「アラブの春」のような大衆のうねりを生み出せ
アノニマスの攻撃方法は、世界的にサイバー攻撃の主流であるDoS攻撃(Denial of Service attack)とよばれるものだった。大量のデータを送り込むことで敵のサーバやネットワーク機器をパンクさせる。アノニマスによると、およそ1万もの民間を含むイスラエル系サイトが攻撃の標的になった。
イスラエル政府は、今回ガザに対する軍事作戦を始めてから、政府系サイトなどに4400万回ものサイバー攻撃があったと公表している。ターゲットになったのは、首相官邸、大統領官邸、外務省などだ。さらにエルサレム銀行やニュースサイトなど民間にも被害が出た。
イスラエル政府のサイトも、他の国々と同じように日常的にサイバー攻撃の対象になっている。だがここ最近の激しい攻撃はハマスとの戦闘が原因になっているのは明らかだった。「戦火」はイスラエルにとどまらず、イスラエルの同盟国である米国にも飛び火した。ユダヤ人は米政界に強い影響力を持っているが、その象徴的な存在であるアメリカ・イスラエル公共問題委員会のサイトが一時ダウンした。
さらに現場での戦闘や民衆の蜂起にそなえ、アノニマスはパレスチナ人のために、イスラエル軍の監視を避けられるネットアクセス方法を伝えたり、やり取りのできるチャットルームを提供したり、接続先の情報提供を行ったりもした。IPアドレスを隠したり、ネット接続がダウンした場合に使う無線インターネット接続のセットアップ方法などを英語とアラビア語で伝えた。ネットを使って「アラブの春」のような大衆のうねりを生み出そうと協力も続けた。
イスラエル軍や支持者らも反撃にでる。アノニマス関連のサイトが激しいサイバー攻撃にあっているとの報告もあった。イスラエル国防軍は、日ごろから組織として機能的にサイバー攻撃対策を行っている。それ故、世界中に散らばるハッカーからの攻撃を最小限に食い止められたともいえる。
■官僚のプライドが、日本のサイバー攻撃対策をダメにする
今回のイスラエルとハマスのサイバー空間の戦闘からは、死者が出るような被害は報告されていない。1つにはハマス側が原始的な戦いをしていることにある。ハマスはネットワークにつながった攻撃・防衛システムを持たないために、大量の犠牲者を出すようなサイバー攻撃を受ける心配がなかった。
一方、イスラエル側は、ハマス側のミサイルを「アイアンドーム」と呼ばれるミサイル防衛網で迎撃したように(迎撃の成功率は何と87%)、防御策がきちんと作動した。ハマスのために動いたアノニマスの攻撃による大きな被害は出なかったのだ。
もしもサイバー攻撃対策が脆弱(ぜいじゃく)であったらどうだったろうか。国家機能が麻痺、または死者が出る事態にもなりかねないだろう。こうした現実を日本政府はどのようにとらえるべきか。残念ながら、日本の動きはあまりにも鈍い。
最近話をした政府関係者は、「対策は後手後手に回っており、官公庁ですら攻撃の入り口は隙だらけだ」という。日本を標的にしたサイバー攻撃は以前から表沙汰になっていないだけで、私たちが考えている以上に頻発しているという。
その裏にはこんな事情がある。日本における情報セキュリティ対策の中核組織は内閣官房情報セキュリティセンター(NISC)だ。しかし、ここにも官僚のくだらないプライドが見え隠れする。この政府関係者はいう。
「攻撃を受けた、被害が出たという情報を各省庁がNISCに上げないと対策は行えないのですが、省庁のホンネは『そんなことしたくない』なんですよね。『攻撃を受けました』と情報を上げれば、NISCからメディアに話が伝わり、被害にあった省庁が恥をかくことになるだけですから」
ただ、正直なところ、こうした「事情」が官公庁の隅々にしみ込んでいるといわれても意外に感じない。「だってそれが日本だから」と思ってしまうのは筆者だけではあるまい。私たちができるのは、ただ「本気のサイバー攻撃が来ませんように」と祈ることだけなのかもしれない。(伊吹太歩)
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