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【第11回】 2012年11月13日 廉 宗淳 [イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長]
3つどもえの接戦が繰り広げられている韓国の大統領選挙の行方
韓国は12月の大統領選挙を目前に控えています(12月19日投開票)。現在、与党セヌリ党の朴槿恵(パク・クンヘ)氏、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏、無所属の安哲秀(アン・チョルス)氏の3人の立候補者が激しい接戦を繰り広げている最中です(安氏と文氏は候補者の一本化で協議が進んでいます)。この3人に共通しているのは、ICTを韓国の戦略産業の中心と位置付けている点です。また、今回の選挙戦はICTを駆使していることがこれまでにない特徴です。実際どのような選挙戦が繰り広げられているのか紹介しましょう。
ICTを国家戦略として語ることが
不可欠となっている選挙戦
韓国では12月19日の大統領選挙を目前に控え、現在、民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏、無所属の安哲秀(アン・チョルス)氏、与党の朴槿恵(パク・クンヘ)氏の3人の立候補者が大接戦を繰り広げています。まず、3者に共通しているのは、ICTが韓国の戦略産業の中心であると位置付けている点です。
例えば、与党の候補である朴槿恵(パク・クンヘ)氏の「創造経済論」の七つの課題を紹介しましょう。
一つ目は、国民を幸福にできる技術を開発し、全産業に適用することです。具体的には、ヘルスケアや安全保障など国民が生活のあらゆる面で技術的な恩恵を受けられるようにするとしています。そのため、ITを含む科学技術を農業、漁業、製造業と融合させ、国民生活に浸透させていくと言っています。
二つ目は、ソフトウェア産業を未来再成長産業として育成するということです。特に、ソフトウェアは無料であると思う考え方を撤廃し、適切な値段を支払うような文化を創ると宣言しています。
三つ目は、ソフトウェアとデザインを融合させるということです。なぜ、日本も韓国もアップルに負けたのでしょうか。それは、ハードウェアを作る高い技術力はあっても、ソフトウェアとデザインを融合させて一つの付加価値を作り出すという考え方が日本人にも韓国人にもなかったからではないでしょうか。そこで、ベンチャー企業などを応援し、こういった創造性が芽生えるような土壌を国として作っていこうというのです。
四つ目は、創造的な電子政府を作るということです。この政府では、行政が持っているあらゆる情報を大幅に開放し、新しい市場を作っていくとしています。
五つ目は、新たに未来創造科学部という省庁を創設するということです。ここでは、創意のある融合人材を育成し、研究開発を支援するとしています。現在、韓国には、知識を一つの大きな財産を見なし、経済活動を行っていこうという知識経済部という省庁がありますが、未来創造科学部は知識をはるかに超えた創造を主軸とする省庁となります。
六つ目は、創業国家を作るということです。韓国では定年が早いため、退職後も国民が自立していけるように、エンジェルキャピタルを用意するなど創業支援を行っていくとしています。
七つ目は、青年の失業率の高さの解消です。そのため、学歴を乗り越えた採用システムを国家的に構築し、企業が人を採用する際には、学歴ではなくその人の情熱や創意を評価するようにするとしています。また、青年が海外で就職できるような仕組みも作ると言っています。
次に、最大野党の民主統合党の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、10月15日の政策発表会において、自分が当選したら、IT強国コリアの威厳を取り戻し、第2のインターネット革命を起し、ICTルネサンス時代を拓きたいと公約しています。特に、韓国経済のさらなる飛躍のためには、ICT先進国としての威厳の回復が必須であると言い、ICT産業振興5大政策を発表しました。その大まかな内容は以下の通りです。
一つ目は、ICT産業を国家戦略産業として育成することです。ICT産業を国家戦略産業として育成するために、大統領府直轄の国家戦略産業支援管室を設けます。ここではICT経済と産業活性化政策を樹立し、政府として、法律、資本市場、制度などでICT産業の生態系を育成できる環境を整備するとしています。
二つ目は、韓国をインターネット自由国家にすることです。インターネット時代を迎える中、国民の表現の自由を最大限保証するとともに、誰でも経済的な面で苦労することなくSNSなどインターネットを利用できるよう、家計支出から通信費用が占める割合を大幅に減らす法案を考えるとしています。
三つ目は、ICT分野で良き仕事を50万人分以上作ることです。最近、「江南スタイル」という曲で、米国のビルボードチャートで6週連続2位になっている韓国人歌手PSY(サイ)の成功事例は、競争力あるコンテンツとICTが結合すると、過去には想像すらできなかったことが可能になるという好例ですが、これらが、インターネットが持つ魅力であり、力であり、価値であるとしています。そして、このような価値を活かすことで、良き仕事を50万人分以上作ることは可能であると宣言しています。
四つ目は、「相生」(共生)と融合のICT生態系をしっかりと作ることです。民主統合党は2000年代、ITベンチャーブームを起こした金大中(キム・デジュン)大統領を輩出した政党であり、自らソフトウェアのプログラムも書いた盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が引き継いた政党でもあります。伝統もあり、経験もあります。ICT創業の精神と起業家精神を目覚めさせ、ICT分野を良き仕事の宝庫にさせること、そして、相生と融合のICT産業の生態系を作ることです。
五つ目は、政府内にICTの司令塔を作ることです。金大中大統領の時代に新設され、韓国のICT産業に大きな威力を発揮したものの、今の李明博(イ・ミョンバク)大統領が廃止した情報通信部の機能を持つ政府機関を復活させ、改めて、ICT立国を目指すとしています。
3人目の安哲秀(アン・チョルス)氏は、まだ、具体的な公約は出していないものの、国内最大のセキュリティソフトの開発とサービスを行うアンラボ社の創業者であることから、ICTに関する知識や知見が豊富であるのは明らかで、国政においても大いにそれらの能力を発揮したいと語っています。
高いスマホ普及率を背景に
ネットを駆使した選挙活動が盛ん
さて、今回の選挙活動の最大の特徴はICTを駆使している点にあります。
国民は各候補者がどのようなビジョンを持っているのかが分からなければ、誰に投票すればよいか分かりません。そこで、各候補の下には、デジタル選挙活動を効果的に行うため、デジタル選挙戦略本部が組織されています。そして、国民一人ひとりに自分のビジョンを届けようと、フェイスブックやツイッターなどSNSを使った激しい選挙活動が展開されているのです。
その背景には、スマートフォンなどモバイル機器の普及があります。現在、韓国国民5000万人のうち、スマートフォンを持っている人はすでに3000万人を突破しており、インターネットは新聞やTV以上に影響力の強いメディアとなっています。
特に、無所属の安哲秀氏はどこの政党にも入っていないハンディを克服するため、ICTをフル活用し、国民一人ひとりに自分のビジョンを直接訴えかけ、支持を得ようとしています。日本の場合、党の支持を得ていない無所属の候補者が当選することはほとんどあり得ないのではないでしょうか。それゆえ、もし安哲秀氏が当選したら、新しい時代の幕開けということになることでしょう。
このようにICTは、自分のビジョンを国民一人ひとりに確実に届けるための有効なツールとなっていますが、それだけにとどまりません。これまでの選挙活動では不可能だったことも可能にしています。
例えば、文在寅氏は、今回、無色透明な政治資金を獲得するための選挙資金ファンド「ダムジェンイファンド」を創設しました。大統領選挙において選挙活動を行うには莫大な資金が必要です。しかしながら、特定の業界団体から資金援助を受けてしまうと、必然的に利害関係が発生し、自分が本当に実現したいビジョンを主張できなくなってしまう可能性が出てきます。自分のビジョンを正々堂々と主張するには、無色透明な政治資金を得る必要があります。そこで、文氏が始めたのが、選挙資金用ファンドです。
選挙管理委員会が定めた、第18代大統領選挙の選挙費用制限額は、555億7900万ウォンで、その中で、200億ウォンを国民から一時的に借りる試みです。実際、このフォンドは募集からわずか56時間で3万4799人が参加し、目標金額200億ウォンが集まるなど、国民からの参加は活発でした。
ファンドで200億ウォンを集めたことを知らせる文在寅氏のウェブサイト(http://www.moonfund.co.kr/より)
このファンドの仕組みは次の通りです。
選挙終了後、文氏の所属政党である民主統合党は、選挙管理委員会から2013年2月27日(選挙日から70日以内)までに、選挙補てん金を支払ってもらうことになります。しかし、そこには条件があります。文候補が今度の選挙で、公職選挙法で定める得票率15%以上を獲得できなかった場合には、選挙補てん金は支払われません。
しかし、候補者が大統領選挙に出馬し、当選または落選をしたとしても15%以上の得票を得られれば、国からもらった選挙補てん金から、投資金額と年利3%の利子が上乗せされた形で投資家はリターンを受け取ることができるのです。もちろん、文氏の得票率が15%を下回ると投資したお金は戻らないことを承知の上での、一種の政治献金です。
その点で、一方の安哲秀氏は、「ICTを駆使することで、いかにお金を使わずに選挙活動を行うかということに挑戦している候補者」という言い方もできるかもしれません。
実は、安氏は、約2年前からツイッターと自分のホームページを通じて、若者にさまざまな呼びかけを行ってきました。韓国では、青年の失業者と自殺者が多く、青年が夢や希望を描きづらい社会となっています。そういった若者に向けて、SNSなどを利用して広く呼びかけるだけでなく、実際に、学生会館などで「希望コンサート」と呼ばれるコンサートを実施したり、講演活動を行ったりしてきたのです。そのため、現在、3人の中では最も若者の支持率が高い候補者なのです。
いずれにせよ、私自身は、特定の業界団体の選挙資金に頼ることなく、自分のビジョンを堂々と主張する、そんな候補者を応援したいと思っています。安氏と文氏は候補者の一本化に向けた協議を始めていますが、そう簡単には実現せず、最後の段階でもしかしたら劇的に文氏に一本化されるのではないかと考えています。
日本の国家機関のICTリテラシーの低さを露呈した誤認逮捕
また、韓国では各党が大統領候補者を選ぶ際に、ネットで「予備選」を実施しています。これは、党内で大統領への立候補者を募り、さらに複数の立候補者に対して、党員や選挙に参加したいと希望する支持者を束ねて、投票団を結成し投票を行います。国民がインターネットやスマートフォンなどを使ってネット投票を実施して、候補者を一人に絞り込むというものです。民主統合党の文在寅氏は、このネット予備選によって選ばれた候補者なのです。
ところで、これは余談ですが、以前、進歩党という党で党首を選ぶ際に、ネット投票を行ったところ、データが改ざんされていることが判明しました。同じIPアドレスから、何回も投票されていたのです。その結果、投票が無効になったと同時に、選挙違反者が複数逮捕されるという事態に陥ったのです。
とはいえ、韓国では、このようにサイバー犯罪は多いものの、国家機関のICTリテラシーが高いので、すぐに検挙されます。一方、日本では先日パソコンを遠隔操作するウイルスに感染したパソコンユーザーが誤認逮捕されるという事件が起こりました。しかも誤認逮捕だということが分かったのは、真犯人が声明を出したからです。日本の国家機関のICTリテラシーの低さを露呈するものでした。韓国が日本よりネットが社会隅々まで入り込んでいることから、なおさら、そういったミスを犯すことは決してあってはならないし、国全体が混乱に落ちる可能性が高く、それらに対しては万全を期していると思います。
さて、このような状況を鑑みるに、近い将来、韓国では国政選挙でもインターネット選挙が実現されるのではないかと思われる方も多いのではないかと思います。しかし、私は当分先のことになるだろうと思っています。それは、サイバー犯罪を阻止するのは至難の業だからです。ICTリテラシーの高い韓国でさえ、選挙の際は、今でも投票場へ自ら足を運び、紙に記入し、政府から配布されたハンコを押印して投票しているのです。
しかしながら、日本と違う点は、投票用紙にあらかじめ候補者の名前が印刷されており、投票者は自分が支持する候補者の名前の上にハンコを押すだけだということです。開票時には、投票用紙をスキャナーを使って読み取り集計します。つまり、電子投票システムは実現していないものの、電子開票システムは実現しています。韓国でもこのような状況なのですから、日本でインターネット選挙が実現するには、このような憂慮を払拭してから考えることをお勧めしたいです。
11月7日に米国大統領選挙の投開票があり、オバマ大統領が再選されたと報じられています。いずれにせよ、今後は、政治活動においてインターネットを利用することによって国民の参加意識を高めることが大事なのではないか思いました。
http://diamond.jp/articles/print/27838
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