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[グローバルオピニオン]TPP評価は保留 WTO事務局長 パスカル・ラミー氏
環太平洋経済連携協定(TPP)の意義を判断することは、現時点ではできない。世界の自由貿易体制を強くする枠組みになる可能性もあるし、その逆かもしれない。世界貿易機関(WTO)事務局長として評価は保留する。
TPPの理念はよく理解できる。農産物や鉱工業品の関税を減らすだけでなく、さまざまな分野で貿易・投資のルールをつくり、新しい秩序を築く試みだ。しかし、理念と現実はしばしば乖離(かいり)する。
貿易自由化は、どんな相手国に対しても同等の条件で進めるべきだ。関税削減などで特定の国に与えた最も有利な条件は、他のすべての第三国にも平等に適用する必要がある。この「最恵国待遇(MFN)」の原則は、損なわれてはならない。
増え続ける自由貿易協定(FTA)はどうだろう。特定の仲間だけを優遇する排他的な枠組みになってはいないか。局所的に関税削減が進み、その結果として相乗作用で世界全体の自由化が達成できるならよい。だが、外部との整合性がない閉鎖的な独自ルールができるようでは困る。
特定の分野を選び、関心がある国だけで自由化を進める方が効率的だ、という主張もあるだろう。確かに約160もの国・地域が参加する多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)は簡単には進まない。
だが、たとえラウンドが一時的に停滞していても、世界の貿易自由化の流れが止まったわけではない。ラウンドで扱っている農業分野などの貿易障壁が、今後も重要な課題であることに変わりはない。包括的な一括合意ではなく、一歩一歩進むしかない。
ラウンドは新しい道に転じ、通関手続きの簡素化など、貿易円滑化を軸に交渉することになるだろう。小国や最貧国が国際貿易に参加できるように道筋をつけるのが、優先的な目標だ。先進国が途上国に優遇策を与えるだけではなく、途上国の貿易能力を高めていく方策こそが大事だ。
輸送インフラ、エネルギー、農業基盤の整備などを、途上国が自力で進められるように導く必要がある。その責任は先進国にある。
サプライチェーン(部品供給網)のグローバル化が進んだ結果、貿易を通した世界各国の結びつきは一段と複雑になり、地域的な広がりも見せている。一方で、日本の震災やタイの洪水で明らかになったように、部品調達を一カ所に依存する貿易構造はリスクに脆弱でもある。
臨機応変にチェーンを組み替えて天災などのリスクに対応するためには、国境を越えて部品や素材を動かせるかどうかの素早さの勝負になる。だからこそ、これからのWTO交渉は、貿易円滑化が最重要の目標となる。(談)
Pascal Lamy フランス経済官僚出身。欧州委員会でドロール委員長の右腕として辣腕を振るった。通商担当の欧州委員を経て、2005年9月から現職。65歳。
<記者の見方>世界の「分断」に焦り
米国の地政学的な戦略のにおいを嗅ぎ取っているのだろう。TPPの評価を尋ねると、即座に「分からない」と大声を上げた。自由貿易の看板は同じでも、FTAの潮流は世界の分断につながりかねないという焦りが顔ににじみ出ていた。WTOは米中など大国が主導する貿易圏づくりに対抗する力学を生み出せないでいる。通商交渉は実利追求の外交。理念だけでは動かない。自由化に尻込みする途上国を、優遇策や援助のアメ、仲間外れのムチに頼らずに、どう交渉に招き入れるか。
(編集委員 太田泰彦)
[日経新聞11月5日朝刊P.4]
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