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米国の選択、「ギャンブル」か「旧知の悪魔」か
2012年11月06日(Tue) Financial Times
(2012年11月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
これだけ騒いだ挙げ句、ホワイトハウスの主も議会の構成も変わらない可能性が高い〔AFPBB News〕
恐らく米国民は今週水曜日(11月7日)の朝、これまでの騒ぎは一体何だったのかという思いにとらわれることになるだろう。
ほぼ間違いなく、バラク・オバマ大統領が再選されるだろう。上院では民主党が辛うじて過半数を維持し、下院では共和党が引き続き大幅な優位を保つだろう。
つまり、2年近くにわたる戦いを終え、60億ドルもの資金を選挙で使った挙げ句に、ざっと1億3000万人の有権者は、近年では最悪の閉塞状況にほとんど手を加えなかったことになるのだ。
大山鳴動ネズミ一匹という感がないではない。しかしホワイトハウスから見れば、これでも欠点の最も少ない結果となる。
再選を勝ち取れば、オバマ氏は希望よりも経験の方が優れていることを示す機会を手にする。そしてミット・ロムニー氏は、自分と共和党がどれほどひどく道を誤ったかを反省する時間をたっぷり手にすることになるだろう。
レーガンが手本と言いながら、まるで違うロムニー氏
相手候補を攻撃するのにかなり強い言葉が使われているため、読者の中には、オバマ氏を支持することはユーロソシアリズムを擁護するのと同じだと見なす向きもあるかもしれない。そのため、共和党公認の英雄であるロナルド・レーガン第40代大統領がかつて実践したタイプの保守主義が今の米国には著しく欠けていることをここで強調しておく価値はあるだろう。
ロムニー氏はレーガンをお手本にすると公言しながら、実際にはジョージ・ブッシュ前大統領の悪い面を信奉した。好戦的な姿勢を見せたり、宗教をベースに愛国心に訴えたりする一方で、ユーモア(あるいは、移民の支持)は全く示さなかった。
2012年の米国では、経済をこれからどうするかについて真摯に議論する機が熟していた。ところが、選挙戦で提示された選択肢は夢物語か現状維持かというものだった。
財政政策について言えば、ロムニー氏はとてつもなく自己破壊的な公約しか打ち出さなかった。政府予算を巡る困難は下位98%の国民に犠牲を一切求めることなく乗り切れるという神話をあおった点はオバマ氏と同様だった。
だが、ロムニー氏はそれにとどまらず、国民全員について減税をしながら国防総省の予算を冷戦時代の水準に戻し、なおかつ財政を何とか均衡させると公約した。このギャップをどうやって埋めるかについては自分に一任してほしいと有権者に求めた。
1987年当時のレーガン大統領(右)とゴルバチョフソ連共産党書記長〔AFPBB News〕
広く信じられていることとは異なり、レーガン大統領は頭のてっぺんから足のつま先まで現実主義者だった。ロムニー氏が属する政党は、レーガンが冷戦に勝利したのは国防費を急増させたからだと信じている。
だが実際は、レーガンの大統領就任のかなり前から旧ソ連は疲弊していた。
レーガンによる最大の贈りものは、タカ派を無視してミハイル・ゴルバチョフを頭から信用したことだった。高い教育を受けたクレムリノロジスト(ソ連研究者)が周りに何人もいたにもかかわらず、レーガンは正しい判断を下し、クレムリノロジストたちは誤った判断を下したのだ。
おかげでこの世界はそれまでとは比べものにならないくらい住みやすくなったのだが、今の共和党員たちならきっと、レーガンをオバマ氏と一緒にして、米国を代表して謝ってばかりいると見なすだろう。
唯一残念なのはオバマ氏が、米国最悪のライバルへの対応に際してレーガンと同様に振る舞うことはできないと感じていたことだった。かつて孫子がその兵法で説き、かつレーガンも明確に理解していたように、敵を倒す最善の方法は敵を分裂させることにほかならない。
これをロムニー氏に当てはめてみるとどうなるだろうか? 同氏はイスラム反体制派になり得るグループを――民主的な政治を目指す団体か宗教指導者による専制政治を目指す団体か、あるいはスンニ派かシーア派かを問わず――すべてひと括りにし、米国に対する大きく新たな脅威と見なしている。
「財政の崖」を巡る危険なロシアンルーレット
レーガンはまた、増税を伴う法案にも何度か署名しており(もっとも、彼は税金を「受益者負担金」と呼んでいたが)、今の共和党ではほぼ絶滅している財政現実主義の一種を実践していた。一方のロムニー氏と(ごく一部の例外を除いた)共和党員は、いかなる増税にも反対するというグローバー・ノーキスト氏の誓約書に署名している。
「財政の崖」が迫り来る中、共和党の頑迷なスタンスは、ロシアンルーレットが数週間後に再開されることを保証しているも同然であり、あれが再開されれば新たな景気後退と信用格付けの引き下げを招きかねない。ロムニー氏は、歳出を10ドル削減する度に税金を1ドル引き上げるという案に同意することなど検討すらしない構えだ。
同じように、レーガンは300万人の不法移民に恩赦(アムネスティ=既入国の不法移民の合法化)を与えたが、ロムニー氏は不法移民が「自己退去」することを望んでいる。
レーガンは、日本企業との不公正な競争を退けるために米国半導体業界と手を組んで業界を救ったが、ロムニー氏は、米国の競争力向上のために政府が役割を担うことは「勝者を選別する」ものだと批判する。ほかにも違いはいくつもある。
しかも、これは社会政策に踏み込まない段階での話だ。レーガンはカリフォルニア州知事として、同州で中絶を合法化した。ロムニー氏は、レイプと近親相姦による妊娠を除き、すべての中絶を違法とすべきだと考えている。
上記の事情はどれも、ロムニー氏には有能な大統領になる知性がないという意味ではない。同氏は実際には、予備選挙のために装った「非常に保守的」な人格よりもはるかに実利的になるのではないかと筆者は思っている。
だが、それは勘だ。そして今は賭けに出るべき時ではない。つまり、オバマ氏は旧知の悪魔という奇妙な立場にいるわけだ。これはオバマ氏が上手に演じる役割ではない。見知らぬ天使の方がオバマ氏にはずっと向いていた。
今年最も重要なイベントは大統領選ではない
オバマ大統領が再選を果たせば、期待度が低い中で2期目に入る〔AFPBB News〕
しかし、選挙というものは選択するということだ。そして、外交政策に限っては、選択すると言うほどの選択肢はなかった。オバマ氏が本当の戦争や通貨戦争を始めるリスクを冒す可能性は極めて低い。ロムニー氏は戦争を始めると約束し続けている。
同じことは経済にも当てはまる。オバマ氏は、景気回復を危うくすることを一切せず、賢明な中期的財政再建計画を段階的に導入するだろう。一方のロムニー氏は数字をでっち上げ、誰も彼の言葉を文字通りに受け止めないことを願う。
ここは、オバマ氏が1期目に間違ってしまったことを繰り返す場ではない。だが、2012年の最も重要な出来事が起きるのは11月6日ではないということを読者に思い出させる格好の場だ。米国の財政の罰は11月7日に始まる。どんな結果も起こり得る。
オバマ氏が勝てば、1期目よりはるかに期待が低い中で2期目に入る。これは夜と昼ほどの大きな違いだ。もしかしたら、オバマ氏はその状況をうまく利用できるかもしれない。
By Edward Luce
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36482
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