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【肥田美佐子のNYリポート】米専門家が大統領選討論会から予測する日米関係
2012年 10月 26日 17:39 JST
記事
米大統領選の投開票日まで、残すところあと10日となった。米東部時間10月22日夜、外交政策をテーマにフロリダで開かれた最終テレビ討論会では、受け身のスタートを切ったロムニー前マサチューセッツ州知事に対し、オバマ大統領の余裕のある受け答えが目に付いた。
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AFP/Getty Images
第3回テレビ討論会でのオバマ米大統領(左)とロムニー氏(22日、米フロリダ州ボカラトン)
だが、中東政策をめぐる舌戦が主であり、アジア政策については、最後に中国に関するやり取りが10分程度あったのみ。いずれの候補の口からも、「ジャパン」という言葉は聞かれずじまいだった。
これは、さらなるジャパンパッシング(日本外し)を意味するのか。為替操作国の認定など、中国に対する規制強化をアピールするロムニー氏が政権を取った場合、対日政策はどう変わりうるのか。オバマ大統領が再選された場合、普天間問題やコミュニケーションの疎遠による日米間の距離感はさらに深まるのか。
アジア政治・経済に詳しいT・J・ペンペル・カリフォルニア大学バークレー校教授(2002〜06年、同校の東アジア研究所所長)と、ワシントンDCのシンクタンク、ブルッキングス研究所にシニアフェローとして籍を置くミネヤ・ソリス氏(専門は日本政治・経済)、東西の研究者に話を聞いた。
ペンペル教授――南シナ海におけるアジア情勢緊迫化の可能性などへの言及がゼロの一方で、米経済に話題が転じる場面もあったが、それは、経済がまさに大統領選の争点だからだ。オバマ大統領が外交政策に強いのは共和党も承知しており、アジアにおける(状況によって対外政策を変え、リスクヘッジする)「ピボット外交」に異論はないはずだ。
T・J・ペンペル・カリフォルニア大学バークレー校教授
ロムニー氏が中東政策に傾注したのは、リビアでの米公館襲撃事件(で、オバマ大統領がテロと発表するまでに時間がかかったこと)など、米国民がオバマ大統領の頼りなさを憂慮しているかもしれないと考えたからである。
ロムニー氏が大統領になったら、中国に対して手綱を締め、親日色を強めるのではないかという声があるが、おそらくそうなるだろう。ロムニー氏の外交政策チームの多くは、ブッシュ前大統領を支えていたネオコン(新保守主義)勢力だ。軍事的にも中国に対して厳しい姿勢で臨み、たぶん日本とは軍事的な連携を強めようとするだろう。彼らは、経済政策をツールとは考えず、主に軍事面から外交政策を語る。
また、共和党政権になれば、安倍政権下で行われたような、日本や韓国、台湾、インドなどの民主主義国家が連帯することで中国を封じ込める(自由と繁栄の弧)政策が復活するものと思われる。
領土問題については、(沖縄県)尖閣諸島が日本の統治下にあることは日米安全保障条約でもはっきりしている。仮に中国が軍事力を発動すれば、米国はただちに日本の側に回り、米海軍第7艦隊が(南シナ海に)展開するだろう。
一方、米国は、日本が領土問題を中国と事を構える機会ととらえないよう注視している。仮に安倍元首相が(次期選挙で)返り咲き、タカ派的な発言や政策によって状況が緊迫化し、中国が抗議してくるようなことになった場合、米国は日本支持には回らない。同盟関係には、日本政府の良識ある行動が必要だ。
討論会で「ジャパン」という言葉が一度も出なかったのは、米国にとって、日本のプレゼンス(存在感)が低下していることの表れだ。1980年代、いや90年代初頭でさえ、日本はまだ東アジアのリーダーだった。だが今や、経済力が落ち、台湾や韓国などへの技術支援もできない。日本は、自ら東アジアでの中心的役割から降りてしまった。
日本が今も米国の重要な同盟国であることに変わりはないが、米国が、日本を以前のように(重要であると)考えているとは思えない。米国が軍事力を提供し、日本が経済力を提供するという(トレードオフ)関係にあって、その経済力が縮小してしまったからだ。ロムニー政権になれば、対中政策上からも、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加盟など、日本に対する経済再建への圧力が高まるだろう。
オバマ大統領が再選された場合は、これまで同様、中国に対しては非常に微妙な立場を取り続けるものと思われる。
一方、米国が日本に望むことがあるとすれば、政治の継続性(政権の長期化)だ。オバマ大統領にとって、鳩山元首相や野田首相は、個人的関係を築くのが非常に難しい相手のように見える。一方、韓国の大統領とは頻繁に電話で話すなど、きわめて密接な関係を保っている。オバマ大統領が、関係を構築しやすいと思える首相が誕生しないかぎり、日本は後回しにされ続けるだろう。
ソリス氏――最終討論会を見て、まず感じたのは、大統領選の争点が、経済という内政問題だということだ。だから、両候補とも外交政策から話を内に引き戻そうとする。
ミネヤ・ソリス氏(ブルッキングス研究所シニアフェロー)
次に、オバマ大統領もロムニー氏もアジア経済の将来性を重視しているにもかかわらず、イランの核問題やアラブの春など、中東危機に目が向けられ、東アジアにはほとんど留意していない点が目を引いた。
中国に関する討論では、中国が米国の雇用にいかに影響を及ぼすかという、国内経済のレンズを通して語られていた。外国との関係は、国内経済の日常的な問題に還元されるのが常だ。また、両候補とも、中国がパートナーになりうると発言するなど、よりバランスのとれた建設的な政策を示そうとしていた。外交政策では、両候補が多くの点で意見が一致することが分かり、非常に面白かった。
違いといえば、ロムニー氏が大統領になったあかつきには、就任第1日目に中国を為替操作国と認定すると訴えている点だが、実際にはやらないのではないか。そうした政策で大統領としてのスタートを切るのは、貿易戦争につながるリスクが高まり、世界経済の不安定さを考えると、非常に危険である。
「ジャパン」という言葉が一度も出てこなかったからといって、ジャパンパッシングということにはならない。確かに中国の話は何度も出てきたが、大半がネガティブなニュアンスで語られていた。しかも、中国問題でさえ、他地域の問題の陰に隠れ、たったの10分だ。
近年の米国の外交政策を見れば、(アジア太平洋地域での)リバランスを目指しており、同盟国である日本の重要性は増している。日本外しとは思わない。日米同盟は、米国の対東アジア政策の要であり、中国の台頭で、その重要性がさらに再確認されている。
日本人の中には、共和党政権のほうが親日で、民主党政権の下では日本外しが起こりやすいという印象を持っている人がいるようだが、そうした定義づけは時代遅れだ。かつての日米関係には貿易問題による摩擦があったが、もはやそれはない。二国間関係にとっては、非常にポジティブなことである。東日本大震災で日本経済がさらに困難な状況になったのは確かだが、同時に、グローバルなサプライチェーンにおける日本の重要性を知らしめることにもなった。
ただ、米国にとってやりにくい問題が1つあるとすれば、経済ではなく、指導者の存在が見えないことだ。首相が、回転ドアのようにグルグル代わることである。これでは、トップ同士が強力な関係を築くのは至難の業だ。こうした政治的不安定さのせいで、日本が発言力を持ち、米政府と二人三脚でやっていくのが難しくなっている。
両候補とも、力強い経済成長が見込めることから、東アジアにさらなる関心を向けたいという点では、ほぼ一致している。どちらが大統領になっても、日本との経済的な互恵関係を求め、TPP交渉などは続く可能性がある。
オバマ大統領が再選されても、ロムニー氏が勝っても、二国間関係の最大化を図るには、日本が明確な政策とビジョンを示せるように、トップレベルでの政治的安定を取り戻すことが、まず必要である。
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討論会で両候補が日本に触れなかったのは、日本のプレゼンスが低下したからなのか。はたまた貿易摩擦が遠い出来事となり、米国にとって、日本が空気のような存在になったからなのか――。大きく議論が分かれるところだが、次期大統領が日本と歩調を合わせ、東アジアの安定を取り戻すためにも、メリーゴーランド政治からの脱却が喫緊の課題であることは間違いない。
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肥田美佐子 (ひだ・みさこ) フリージャーナリスト
Ran Suzuki
東京生まれ。『ニューズウィーク日本版』の編集などを経て、1997年渡米。ニューヨークの米系広告代理店やケーブルテレビネットワーク・制作会社などにエディター、シニアエディターとして勤務後、フリーに。2007年、国際労働機関国際研修所(ITC-ILO)の報道機関向け研修・コンペ(イタリア・トリノ)に参加。日本の過労死問題の英文報道記事で同機関第1回メディア賞を受賞。2008年6月、ジュネーブでの授賞式、およびILO年次総会に招聘される。現在、『週刊東洋経済』『週刊エコノミスト』『プレジデント』『ニューズウィーク日本版』などに寄稿。ラジオの時事番組への出演や英文記事の執筆、経済・社会関連書籍の翻訳も行う。翻訳書に『私たちは“99%”だ――ドキュメント、ウォール街を占拠せよ』、共訳書に 『プレニテュード――新しい<豊かさ>の経済学』『ワーキング・プア――アメリカの下層社会』(いずれも岩波書店刊)など。マンハッタン在住。http://www.misakohida.com
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