http://www.asyura2.com/12/kokusai7/msg/142.html
Tweet |
JBpress>海外>アジア [アジア]
韓国大統領選を前に「メディア再編劇」急浮上か
選挙の争点になった「正修奨学会」問題とは・・・
2012年10月23日(Tue) 玉置 直司
韓国の大統領選挙まであと2カ月。与野党と無所属の有力3候補が大接戦を演じ、その行方はまったく見えない。そんななかで、有力放送局と地方新聞社の大株主が株式売却に向けて動きだした。
「正修奨学会、MBC、釜山日報全株売却で密室合意」――。こんな「特ダネ」が進歩系の「ハンギョレ新聞」の「土曜版」(2012年10月13日付)に掲載され、韓国の政界とメディア業界は大騒ぎになっている。
記事が前日のインターネット版で公開されると、主要紙の中には翌日の1面トップで報道するほどの破壊力のある特ダネだった。
進歩系の韓国紙が放った破壊力のある「特ダネ」とは?
正修奨学会とは何か。文字通りの奨学財団だが、ただの奨学財団ではない。その名称は、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領と夫人で1974年の光復節(8月15日)の記念式典で在日韓国人に狙撃されて死亡した陸英修(ユク・ヨンス)氏の名前に由来する。
1961年に朴正煕氏がクーデターで政権を握った際、多くの経済人や政治家が「不正蓄財」の追及を受けた。そのうちの1人が釜山出身の金智泰(キム・チテ)氏だった。
同氏は、釜山の名門商業学校を卒業後、日本が植民地運営のために設立した東洋拓殖会社に入社した。この縁で広大な土地の払い下げを受け、企業を相次いで設立・買収して実業家として成功した。1960年代初めまでには「釜山で最大の富豪」と呼ばれていたという。政治家も務めたほか、メディア事業にも進出した。地元の「釜山日報」を買収した上、韓国最初の民間放送である文化放送(MBC) や釜山MBCの創設者でもある。
朴正煕政権は、金智泰氏を「不正蓄財」や「不法な海外資金逃避」などで捜査した。金智泰氏は、釜山日報やMBCなどの株式を保有していた自身の奨学財団「釜日奨学会」を手放すことで追及を逃れた。
新政権は「没収」した奨学財団を軍事クーデターが起きた日にちなんで「5.16奨学会」に衣替えし、公益財団となった。
正修会問題で野党の集中攻撃を浴びる与党セヌリ党の大統領候補・朴槿恵(パク・クネ)氏〔AFPBB News〕
その後、全斗煥(チョン・ドファン)政権が誕生したあとに、名称を「正修奨学会」に変更した。この間も、釜山日報やMBCの株式は保有し続けた。奨学会は事実上、朴槿恵(パク・クネ)氏に「世襲」され、同氏が1995年から10年間理事長を務めていた。
今の理事長である崔弼立(チェ・ピルリプ)氏は外交官出身で、朴正煕政権時代に死亡した母親にかわって「ファーストレディー」としての業務をこなすようになった朴槿恵氏の秘書官を務めた人物だ。
正修奨学会は現在も、MBCの株式の30%、釜山日報の株式100%を保有しており、こうした企業からの配当金や寄付金などで奨学事業を続けている。
「ハンギョレ新聞」の特ダネによれば、2012年10月8日にMBCの幹部2人が正修奨学会の理事長を訪ね、「MBCは来年上場する計画を推進しており、正修奨学会が保有する30%の株式をこのときに売り出してほしい」と提案した。正修奨学会の理事長も基本的にこれを了承したという。
この日の会談でMBC幹部は、同社の企業価値が1兆ウォン(1円=14ウォン)程度と説明し、「上場すれば6000億ウォンが正修奨学会に入る」という試算を示した。崔弼立理事長は、全額を奨学事業や社会貢献事業に使う方針であることを明らかにし、さらに、この日の面談で「釜山日報の株式もすべて売却する計画だ」と明らかにしたという。
大統領選の争点となっている正修奨学会
ハンギョレ新聞の「特ダネ」が韓国で大きな関心を呼んだのには、2つの理由がある。1つは、この正修奨学会が、大統領選挙の争点になっていたからだ。野党の大統領候補である文在寅(ムン・ジェイン)氏は、朴槿恵氏の父親である朴正煕元大統領がクーデターの「戦利品」としてこの奨学会を取り上げ、韓国の有力メディアを支配したと見る立場だ。
この奨学会の会長を長年、朴槿恵氏が務め、今も同氏に近い人物が理事長になっていることを「独裁者の負の遺産をそのまま継承している」と批判してきた。
特に文在寅候補は釜山出身で、釜山日報の問題は「地元の問題」でもある。さらに従来、保守支持層が圧倒的に強い釜山が今回の大統領選挙のカギを握ると見られており、格好の与党候補批判の材料になっている。
朴槿恵氏の父親である朴正煕元大統領への評価は韓国では微妙な問題だ。クーデター当時、韓国の1人当たり国内総生産(GDP)は80ドル未満で世界の最貧国の1つだった。南進統一を狙う北朝鮮の金日成(キム・イルソン)主席の野望を抑え込みながら、高度経済成長を実現させた指導力は、海外では圧倒的な評価を得ている。
しかし、韓国内では、こういう評価の一方で、「独裁者」というイメージも色濃く残っている。特に、今40代後半以上の野党指導者の中には、思想犯として収監された経験のある「独裁体制の被害者」も多く、「朴正煕元大統領の娘」が大統領になることへの拒絶感も強い。こうした批判の象徴の1つが正修奨学会問題なのだ。
株式を保有していても経営には関与していないが・・・
朴槿恵氏が今も正修奨学会を通してMBCや釜山の最大紙である釜山日報に大きな影響力を行使しているわけではない。朴槿恵氏は理事長退任後は正修奨学会の運営には一切関与していないという。また、MBCは政府機関が70%の株式を握って経営権を完全に掌握しており、正修奨学会は経営に関与する余地はない。
釜山日報の場合、全株式を正修奨学会が保有しているが、逆にこれに反発した同紙の労組が大きな力を持ち、紙面は進歩色が強い。
2011年秋には、同社労組が正修奨学会に釜山日報の全株式を売却して社会に還元するよう求める運動を始めたという記事を大きく掲載した。労組が100%の株式を握る株主は出ていけという運動を始め、これを大きな記事にするのだから、労使の対立は相当なものだということがうかがえる。
記事を掲載した編集局長は労組の支持を受けた人物で、その後、会社側と対立。職務停止、出社停止などの処分を受けたあと、今回の騒動後の2012年10月18日になって解任された。
正修奨学会にとっても「もてあました存在」だったのだ。
正修奨学会をこれ以上政治イシューにしたくない朴槿恵氏
だが、正修奨学会がいまも有力地上波放送局や地方紙の大株主としてとどまっていることに違和感を持つ国民が多いことも事実だ。
朴槿恵氏に近い人物が80歳を過ぎてなお理事長を務めていることも理解しがたいことだ。朴槿恵氏はこれまで、正修奨学会に絡んだ批判について「自分はもう関係がない」と繰り返してきたが、今回の特ダネを受け、近く何らかの対応を取ると見られていた。
韓国の主要紙はそろって10月21日の会見を1面で取り上げた
実際、10月21日になると、朴槿恵氏は会見を開き、正修奨学会について「メディアの持ち株を売却するという話も報道で知った。政府の監督を受けている公益団体であり、私の所有物だとか私のために政治活動をしているといった野党の批判はまったく事実に反する」と野党の文在寅候補などに反論した。
その一方で、「正修奨学会の理事長や理事は、(同奨学会が)これ以上の政争の道具にならないように、また、国民が疑惑を持たないように、透明性を持って対処してほしい。奨学会の名称を含めてだ」と述べた。
与党内では、理事長の退任や奨学会の名称変更を暗に求めたと受け止められている。
ただ、この日の会見で、正修奨学会の問題が政治的に一段落するかは未知数だ。 朴槿恵氏は会見で奨学会の旧所有者の遺族が(朴正煕政権に)無理やり取り上げられたと主張していることについては「裁判でそういうことはないという判決が出ている」 と述べた。
奨学会は釜日奨学会を「取り上げて」そのまま継承したものではなく、新たな寄付金などを得て、新しい奨学会として発足したと説明したが、この説明に違和感を持つ国民も少なくないだろう。
野党陣営はいっせいに、「こうした歴史認識自体が問題だ」と批判している。野党にとっては「朴槿恵=独裁者の娘」というイメージを増幅する絶好の材料なのだ。
大きな関心を呼んだもう1つの理由は、正修奨学会の株式売却が、メディア再編の引き金になるかもしれないからだ。
いびつな経営形態が続くメディア再編の引き金になるか?
韓国のメディア、特に放送業界は、長年いびつな経営形態のままになっている。最も規模が大きく、メディアとしての影響力が大きい地上波放送局が韓国には5局ある。KBS1、KBS2、MBC、SBS、EBSだ。このうち4局を政府が保有しているのだ。
日本のNHKにあたるKBSは公社で、2つのチャンネルを保有している。EBSも国営の教育放送だ。MBCは株式会社だが、正修奨学会以外の70%の株式を政府機関が保有している。純粋な民間放送はSBS1局しかないのだ。
こういう構造になっているのは1980年に政権を掌握したばかりの全斗煥政権が「言論統廃合」という強権を発動し、民間放送でサムスングループ系列だった東洋放送の免許を剥奪し、KBSに統合したためだ。MBCも奨学会が保有していたが、株式の大半を政府機関が握ることになった。
政権が代わるたびに報道姿勢が変わる媒体
世論に大きな影響力を持つKBS(2局)とMBCが事実上政府の支配下にあることで、人事や報道姿勢が政権が変わるたびに変わってしまう。
2007年の大統領選挙では、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権下で任命された幹部が牛耳るKBSやMBCが露骨な李明博(イ・ミョンバク)候補批判を続けた。
今は逆に、MBCでは李明博政権下で就任した社長に労組が反発し、社内で激しい対立が続いている。
4局のうち3局を政府が保有するといういびつな構造を改善すべきだという声は以前からあった。MBCの株主構造変更やKBS2の民営化などさまざまなアイデアがあったが、どれも具体化しなかった。
MBCが上場計画を打ち出し、これを正修奨学会が受け入れることになれば、大きな一歩になる可能性もある。
メディア業界には難題が山積している。李明博政権は、メディア産業の育成と地上波の影響力を相対的に弱めることも狙って2011年にCATV向けなどに番組を供給する「総合編成チャンネル」4局の設立を認めた。朝鮮日報、東亜日報、中央日報、毎日経済新聞の4社の系列局が生まれたが、平均視聴率が1%に達せず、苦戦が続いている。
誰も手を付けられなかった難題
4局とも赤字が続いており、このままそろって生き残ると見る向きはほとんどない。地上波局の経営形態変更とセットで何らかの動きがあると予測する声が強い。
また、ニュース専門のYTNも1990年代末に経営危機に陥って以降、韓国電力(子会社)など公企業が大株主になって支えてきたが、これら大株主は株式を売却したいという意向と言われている。
MBCの上場が実現すれば、メディアの再編議論が一気に高まる可能性はある。
ただ、放送局の経営形態変更は長年、誰も手を付けられなかった難題だ。
MBCの上場計画についても、70%の株式を握る政府機関や政府関係者は「検討もしていない」という立場だ。大統領選挙直前という時期に、突然構想をぶち上げること事態もあまりに「政治的」だ。MBCの現社長による延命策、朴槿恵候補支援説などさまざまな憶測も呼んでいる。
選挙目前の政治的「特ダネ」で告発騒動も
政界では、与党がMBCの幹部が正修奨学会理事長を訪問した際の内容がすべて「ハンギョレ新聞」に漏れたことを問題視し、「同紙による盗聴があった」との疑惑も出ている。MBCは同紙の記者を「通信秘密保護法」違反で検察に告発する騒ぎに発展している。
MBC現経営陣は、大統領選挙前に上場計画をまとめ上げ、来年に公募増資と合わせて正修奨学会の保有株も売り出す狙いだ。政府機関の持ち株比率を減らし、正修奨学会とは完全に関係を絶つ。さらに増資で資金も確保して、将来の完全民営化に備えようということだろう。
大統領選挙直前の混乱期に一気に話を進めようとしたやり方は、「ハンギョレ新聞」の特ダネにより「政治問題化」したことで、思惑通りに進むと予測する声は韓国のメディア業界内には少ない。だが、懸案解消に一石を投じたことも間違いはない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36363
この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。