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米大の学費、高騰やまず
景気停滞で補助金減、人気教授や設備確保 家計圧迫、ローンも急増
米国で大学の学費が高騰を続け、社会問題化している。景気停滞から大学への補助金が減る一方、最新鋭の研究設備や人気の高い教授の確保などで費用がかさむためだ。学費ローンを組んだものの卒業後も長期にわたって返済に苦しむ人も多い。大学は奨学金の拡充などで対応しているが、学費そのものの見直し論は広がらず、騰勢はやまない見通しだ。
非営利団体カレッジボードの調査によると、2011〜12年度に全米の公立大の学費値上げ幅は平均で前年度比8.3%に達した。11年の消費者物価指数の伸び率である約3%を大幅に上回る。州政府が財政難から補助金を削り、その分が学費に上乗せされた格好だ。
中でもカリフォルニア州は四年制大学で21%も値上げした。カリフォルニア大バークレー校は州内の学生こそ年間の学費は1万1767ドル(約92万円)だが、州外からの学生は3万4645ドルと私立並みに跳ね上がった。
昨秋には学費値上げに反対する学生のデモまで起きたカリフォルニア州立大。今年も6%の値上げを検討したが、再び猛反対に遭い「プログラムの削減も検討しなければ」と大学側も頭を抱える。
私大で年300万円
同4.5%値上げした私立大。東部の名門8校から成るアイビーリーグではハーバード大が今年度4万866ドル、コロンビア大も4万7246ドルなど円換算で300万円を上回るのがざらだ。
最新の研究設備やインターネットなどの通信インフラに加え、カウンセラーやコンサルタントなどスタッフ拡充による人件費増大が大学の運営コストを押し上げる。
高等教育の分析が専門のサンディー・バウム・スキッドモア大教授は学費高騰を「よりよい教育環境を整えたい大学間の競争が背景」と説明。「優秀な教授には高い報酬を与えなければ、民間企業に行ってしまう」のが実態という。
大学の名声につながる成果を出そうとトップ教授を研究に専念させ、学生の指導には非常勤教員を新たに雇うことで経費がかさむ構図もある。ある名門大は教授を他大にヘッドハンティングされそうになり、教授の実子の大学授業料も負担する条件すら出したという。
コスト増大のツケは家計に回る。アイビーリーグの大学で学びながら大学院進学を目指す女子学生(20)は「大学は両親が学費を出してくれたが、大学院は自分で払えと言われた。生活費を切り詰めるため自宅から通える公立に行く」と話す。
大学進学を控えた子を持つ保護者も気をもむ。娘が16歳というシアトル在住のドーン・レビーさん(42)は「この学費の高さは異常。我々はアルバイトで学費をほぼ賄えたが、今はローンに頼らなければ無理。娘のことを思うと頭が痛い」。
08年のリーマン・ショック後の景気低迷で収入が減った家庭が増えたこともあり、米国では学費ローンの残高が急増。卒業時の負担額が5万ドルを超える例もある。中でも利子が8%近くになる民間ローンの利用者の場合、50歳を超えても完済できない人もいる。
「僕とミッシェルは8年前、ようやくローンを払い終えた。娘2人の学費も蓄えねばならず大変だった」。こう語ったオバマ大統領の肝煎りで今夏、低利ローンの返済条件の緩和が決まった。
学費負担の重圧もあって、大学中退者も増えている。大学進学者の40%以上に上り、中堅以下の大学は学生離れが深刻な問題だ。
「高卒と大卒では生涯年収に大きな差がある。就職難とはいえ、ローンが3万ドルまでなら将来の投資として悪くない。卒業後の収入を見極め、支払い可能な大学を選ぶことも重要だ」とバウム教授は話す。
奨学金を拡充
学生らの窮状を受け大学側は奨学金を増やして対応。受給したい学生は保護者の年収を明示して要請すると、合格通知とともに明細が送られる。アイビーリーグの大学に通うある女子学生は学費4万3185ドルのうち、2万8646ドルが奨学金。政府が一部負担する低利ローンや民間ローンもあり、保護者の負担は学費の1割余りの5039ドルにとどまる。
ここまで支援するのならば学費そのものを下げてもよさそうだが「4万ドルでも払う裕福な家庭があるのに下げる理由はない。親も子供が奨学金を得る方がうれしがる」(バウム教授)。
コーネル大高等教育研究センターのロナルド・アーレンバーグ教授も「保護者らには高い方がいい学校との思い込みがある。大学界には市場原理があまり働かない」と断じる。米国の大学で学費高騰の傾向は当面続きそうだ。
(ニューヨーク=原真子)
[日経新聞10月18日朝刊P.25]
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