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石橋克彦著 「大地動乱の時代」の「耐震技術の盲点」の引用
1994年、つまり、阪神大震災の前年に書かれた本です。その本の中の「耐震技術の盲点」という項目からの引用です。多少長いですが、今でも十分に当てはまる部分が多くあるように思います。特に次の3点は重要であると考えます。
1.浅い大地震の多くは多重地震で強い地震波の放出時間が延びることや、地震によっては地球の引力を超えるような強い上下動を生じることは、しばらく前から知られているが、耐震技術の現場にはまだじゅうぶん生かされていない
2.震度6〜7という激しい地震動にたいして現行の液状化予測の基準と結果が妥当かどうか、また液状化対策工法が万全かどうかは、大地震に直撃されてみなければわからない
3.新潟地震のときに大規模に発生していたのに83年日本海中部地震のあとでやっと気がつかれた現象として、液状化した広範囲の地盤が横に五〜一〇メートルも移動する「側方流動」がある。これは、建物の基礎杭を全部折損したり埋設管路を破断したりする恐ろしい現象だが、その実態や対策は研究が始まったばかりといってよい。
そして、自分が問題だと思うのは、「側方流動」が1964年の新潟地震から約20年間研究されてこなかったのと同じように、地震衝撃波について、せっかく大阪市大の専門家が1990年代に論文を書き指摘してきたのに、未だに無視されていることです。鉄筋コンクリートの建物に大きな影響を与え、かつ地盤が硬い方が大きな被害になる地震衝撃波についてはほとんど解明が進んでいません。原発が特に大きな影響を受けるはずであり、原発の直下である程度の大きさの地震が起こったことはいまだかって世界中で一回も例がないのです。
以下、「大地動乱の時代」という石橋克彦氏の本の「耐震技術の盲点」という項目の引用:
土木や建築の構造物を地震被害から守る「地震工学」(最近は都市機能の震災防止なども含む)は、日本が世界のトップクラスにある。しかし、1964年新潟地震によって地盤の液状化の重要性が認識され、68年十勝沖地震をきっかけに鉄筋コンクリート建物の耐震設計が見直され、78年宮城県沖地震でライフライン(都市機能を支える電気・ガス・上下水道・電話などの供給処理施設、道路や鉄道を含めることもある)の震災対策が注目されたように、今も発達途上である。最近の内外の相次ぐ大地震でも常に教訓を得ており、次の首都圏震災でまた新たな弱点を教えられる可能性が高い。
しばしば「大正関東大震災にも耐えられる」という言葉を聞くが、これは無責任な言い方である。なぜならば、当時は地震学も地震工学も未熟で観測も非常に不完全であり、震源で何が起こって地表でどんな地震動が生じたかという関東地震の全貌を私たちはまだ知らないからである。とくに、超高層ビルや長大橋にとって重要なやや長周期(二、三〜十数秒)の強振動は、影響を受ける構造物がなかったために人間の目にふれなかった。
じつは、ごく最近、大正地震の東京本郷の地震計の記録が詳しく再検討されて、一三秒という長周期にピークをもつ大震動があったことが明らかにされた。最大の振れ幅は約1メートルに達したと推定されている。これは巨大な震源断層運動が浅い部分に及んだ影響が大きいというが、二、三000万年前以降の地層が厚さ三〜四キロも堆積している東京湾域の盆地状の地下構造が、周期七〜八秒の地震動を強く長く生じる特性があることも、最近の観測と理論的研究でわかってきた。
これらの事実は長大構造物にかなり影響することだが、もちろん、いままでは考慮されていない。また、浅い大地震の多くは多重地震で強い地震波の放出時間が延びることや、地震によっては地球の引力を超えるような強い上下動を生じることは、しばらく前から知られているが、耐震技術の現場にはまだじゅうぶん生かされていないようである。
液状化については新潟地震をきっかけに精力的な研究が進められ、予測手法、発生防止の工法、構造物の対策工法が進歩したといわれる。実際、地盤の締固めなどの液状化予測地図もかなり公表されている。しかし、現行の予測法のほとんどが、液状化の可能性がある地層として平均粒径二ミリ以下の砂層を考えているのにたいして、遺跡の発掘調査ではもっと粒の大きい砂礫層でも液状化した跡が見つかっており、噴き出した砂脈内を最大径七センチの礫が上昇している例もあるという(地表では出るのは軽い砂だけなので、掘らないとわからない)。震度6〜7という激しい地震動にたいして現行の液状化予測の基準と結果が妥当かどうか、また液状化対策工法が万全かどうかは、大地震に直撃されてみなければわからない面がありそうである。
新潟地震のときに大規模に発生していたのに83年日本海中部地震のあとでやっと気がつかれた現象として、液状化した広範囲の地盤が横に五〜一〇メートルも移動する「側方流動」がある。これは、建物の基礎杭を全部折損したり埋設管路を破断したりする恐ろしい現象だが、その実態や対策は研究が始まったばかりといってよい。
そもそも工学技術は、物を造ろうとする意欲や必要性を原動力として、その時点での限られた人知で無限の大自然に挑むものである。したがって、技術の適用範囲が広がるにつれて未知の自然が姿を現し、人知の限界が露呈するのは宿命的なことで、それを克服することをくり返しながら技術は進歩する。問題なのは、現行日本社会が、このような技術の限界をわきまえず、大自然にたいする畏怖を喪失して、経済至上主義で節度のない大規模開発を推し進めていることであろう。
いずれにしても、「関東大震災にも耐えられる」という言葉の陰で耐震技術はまだ数多くの問題を抱えている。超高層ビルや先端的な都市基盤施設が密集する東京圏は、けっして大地震に万全だから建設されているわけではない。むしろ、無数の市民をいやおうもなく巻き込んで大地震による耐震テストを待っている、壮大な実験場というべきである。
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