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【第4回】 2013年3月28日 坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
迫る南海トラフ巨大地震で何が起こるのか?
「福島」の的中だけに終わらない警告の意味
『原子炉時限爆弾――大地震におびえる日本列島』
震度7にも至る猛烈な地震、その後に押し寄せた想像を絶する津波によって、あまりにも多くの人命と財産が失われた東日本大震災。あれから2年が過ぎました。被災地では少しずつ少しずつ復興が進んでいます。しかし、未だに何の解決もなされず、その復興の前進を大きく妨げているのが、福島原発の存在です。震災の被害がいかに甚大だったにせよ、原発事故さえなければ復興への歩みはもっと早く力強いものであったはずです。
大地震による原発事故はかねてから警鐘を鳴らされていたものでした。30年以上前からその危険性を指摘してきた広瀬隆氏が『原子炉時限爆弾』というショッキングなタイトルの書籍を刊行したのは「3.11」の半年前。そして、氏が警告しているのは、福島だけではないのです。
刊行は大震災の半年前
予見されていた全電源喪失
広瀬隆『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』
2010年8月刊行。このタイミングで出版したのは、「核燃料再処理とプルサーマルの開始、さらに高速増殖炉もんじゅの運転再開と、人々の関心が薄い中で原子力政策が推し進められていたから」(担当編集者)。本稿筆者と同様に、3.11の強烈な揺れを感じた瞬間、すぐに原発が頭をよぎったそうです。
『原子炉時限爆弾』の初版発行は2010年8月26日、東日本大震災(2011年3月11日)による「福島第一原子力発電所事故」の6ヵ月と2週間前のことでした。
著者の広瀬隆さんは1980年代初頭から原発の本質的な危険性を、そして大地震による「原発震災」の可能性を指摘してきました。
本書は地球科学の基礎知識を詳細に解説しつつ、巨大地震が原発の電源を断ち切り、冷却水の温度が上がり、やがて水素爆発が起きて格納容器が崩壊し、圧力容器も損傷して炉心溶融(メルトダウン)が起き、膨大な放射性物質を大気中に放出することになる、としています。もちろん津波の影響も忘れていません。
福島原発の大事故を、半年前にそのまま書いているような迫真の記述で読者を驚かせました。全電源喪失について、広瀬さんはこう書いています。
原発震災を防ぐすべての鍵を握っているのは、コントロールルーム(中央制御室)にいる発電所の職員である。彼らが地震に気づいても、立っていられないほどの揺れに襲われて、何もできない光景が想像されるが、もしテーブルにしがみつきながら揺れに対して何とか持ちこたえて、ただちに非常用のボタンを押すことができたとしても、電気系統が切れていればどうなるだろう。配線が寸断され、発電所内が完全停電となる恐怖を、ステーション・ブラックアウトと呼んでいる。(略)
緊急事態に対して、ボタンを押しても何も作動しないのだから、何も手を打てなくなる。時間がたてばたつほど原子炉の暴走は、そのまま最悪の事態へ突入してゆく。(69ページ)
後出しの政府発表
限りなく遠い本当の収束
あの日、筆者は「ダイヤモンド・オンライン」編集長とともにテレビの前でずっと福島原発の映像を会社で見ていました。翌12日も見ていました。
本文で指摘された、メルトダウンが避けられない原発の構造上の脆さ。
[画像を拡大する]
筆者は『原子炉時限爆弾』を読んでいたので、おそらくステーション・ブラックアウトとなった福島第一原発の免震重要棟では、なすすべもなくメルトダウンにいたる光景を見ているだけだろうと思いました。ようやく電子メールが通じるようになっていたので、連絡のとれた人に「家から出るな」と伝えました。テレビでは官房長官が「制御できています」と言っていました。12日午後3時36分、1号機の建屋が水素爆発で吹き飛びます。やがて首都圏にもヨウ素131やセシウム137が到達することになります。
続いて3号機が14日、2号機と4号機は15日に爆発、あるいは火災が起きて激しく損傷します。膨大な放射性物質が噴出しました。
官房長官や学者らは「放射線は観測していますが、100ミリ・シーベルトまで安全です。ただちに健康に影響するものではありません」とテレビで言い続けていました。
その後、けっきょく4基の原子炉のうち、運転中だった3基で現実にメルトダウンしていたことがわかります。かなりあとになってからです。このようなシビア・アクシデントを考えもしなかった東京電力と政府の「想定外の事態」により、対策はすべて遅くなりました。国際基準でチェルノブイリ原発事故(1986年)並みの「レベル7」だった、と認めたのもかなりあとのことでした。
冷却水は損傷した圧力容器から漏れ出ているので、延々と水をかけて冷やしているしか方法はありません。それは2年以上経った現在も同様です。除染して循環させているといっても、汚染された冷却水は貯まる一方で、発電所内にタンクが林立する光景となっています。
なんとなく時間が経過すれば「収束」するような気がしますが、状況は2年前と同じです。少しずつ現場の努力でガレキを片付け、核燃料を取り出す準備を進めていますが、4基を廃炉にするまで、東電は40年かかるとしています。しかし、完全な除染まで含めれば100年はかかるでしょう。それでも放射性廃棄物の処理は終わりません。それどころか、最終処分の方法、場所すら何も決まっていないのです。
気象庁が想定する東海地震震源域
その中心にある浜岡原発
広瀬さんはこう続けます。
発電用の原子炉は、この緊急事態によって、日本全土のすべてが運転停止となったが、火力発電に切り替えたため、一般電力の供給には支障が出なかった。(98ページ)
この予想もそのとおりで、2011年3月14日から28日まで「計画停電」の恐怖を国民に味あわせたものの、現在まで原発はほとんどなくても済んでいます。
『原子炉時限爆弾』は、福島原発事故の発生によって予測を的中させ、役割を終えたのでしょうか。そんなことはありません。
本書で広瀬さんが記述の中心に置いているのは、中部電力浜岡原発なのです。浜岡原発は静岡県御前崎にありますが、この地域は「東海地震想定震源域」のど真ん中にあたります。地図をご覧ください。「南海トラフ巨大地震」が迫る日本列島では、原発の稼動はどう考えても無理があります。
南海トラフから駿河トラフに沿った震源域で発生した巨大地震(気象庁作成)
参考URL(気象庁ホームページ):http://www.seisvol.kishou.go.jp/eq/tokai/tokai_eq2.html
死者32万人、被害総額220兆円
そこに原発事故の影響は含まれていない
本書は序章から第5章までありますが、中心を成す第1章は「浜岡原発を揺るがす東海大地震」で、じつは「ステーション・ブラックアウト」を含めて広瀬さんは福島ではなく、80ページを費やして浜岡原発の事故をシミュレーションしているのです。
政府の中央防災会議は昨年から、東海地震、東南海地震、南海地震が連動して起きる「南海トラフ巨大地震」の被害人口、経済的影響などを相次いで公表しています。
この3月18日に発表された公表資料によると、最大で震度7、津波30メートル、死者32万人、被害総額220兆円という気の遠くなるような数値を出しています。もちろんこれは最悪の場合で、対策はこれからですが、それにしても感覚がマヒしそうな数字です。
しかも、浜岡原発事故の影響は入っていないのです。「南海トラフ巨大地震」は、起きることはわかっていますが、いつ起きるかはわかりません。中央防災会議は原発事故のシミュレーションをしていないので、じつはこれらの予測資料と『原子炉時限爆弾』を合わせて読むべきなのです。
巨大地震が切迫していることは前述の気象庁の資料を見ればわかります。気象庁は、まず東海地震が起き、その後連動して東南海、南海地震が誘発される可能性があるとしています。
おわかりでしょうか、『原子炉時限爆弾』は、「南海トラフ巨大地震」が迫るなか、これから読むべき本なのです。
◇今回の書籍 5/100冊目
『原子炉時限爆弾 大地震におびえる日本列島』
「日本を巨大地震が襲えば、原発はメルトダウンという最悪の事故を引き起こし、首都圏崩壊、日本全土が廃墟と化す――」震災前に原子力発電の本質的な危険性を指摘した警告の書。想定される南海トラフ地震の前に、我々は何をすべきか?
広瀬 隆 著
定価(税込)1575円
http://diamond.jp/articles/print/33801
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