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ハリケーン「サンディ」:荒れ狂う嵐の爪痕
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投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 06 日 07:55:45: cT5Wxjlo3Xe3.
 


JBpress>海外>The Economist [The Economist]
ハリケーン「サンディ」:荒れ狂う嵐の爪痕
2012年11月06日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2012年11月3日号)

10月末のハリケーンで米国は最善の危機管理を行ったが、長期計画については数々の疑問が見えてきた。


サンディは大西洋地域では観測史上最大のハリケーンとなった(写真は10月29日、冠水したニュージャージー州アトランティックシティーの海岸近くを歩く人たち)〔AFPBB News〕

 ハリケーン「サンディ」の打撃は、ニューヨーク市の中でもクイーンズの南端部が最も激しかった。波が板敷きの遊歩道を引き裂き、道路を洗い流した。

 町は1.6メートル以上冠水した。浮き上がった車が芝生の上まで運ばれた。水が引いた都市には砂丘が残った。サンディが招いた火事により、ブリージーポイントでは110棟以上の家屋が焼失した。

 10月29日から30日にかけての夜間に、ニューヨーク市全体で少なくとも22人が死亡し、これを含めてサンディによる死者は全米で少なくとも50人に上った。カリブ諸国では70人以上が死亡した。

 サンディは、大西洋地域では観測史上最大となる直径約1440キロメートルに及ぶハリケーンで、ニューヨーク州とニュージャージー州に特に大きな被害を与えたが、米国北東部の大半に損害をもたらした。

ニューヨーク市のインフラの脆弱性

 死者の数が極端に多くならなかった(1938年にニューイングランド地方を襲ったハリケーンでは、死者の数が800人にも達した)のは、当局の危機対応によるところが大きい。

 ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事、ニュージャージー州のクリス・クリスティー知事、ニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ市長が陣頭指揮を執った。連邦緊急事態管理局(FEMA)が3人の首長を見事にサポートして、2005年のニューオーリンズ市で被った汚名を多少なりとも返上した。

 それでも、今回のハリケーンは世界の首都を自称するニューヨーク市のインフラの脆弱性をさらけ出した。遅かれ早かれいつかはやって来るさらに強力なハリケーンに襲われる前に、この脆弱性に対処する必要がある。

 ニューヨーク市では、ハドソン川とイーストリバーの水が堤防を越え、マンハッタンの街路やグラウンド・ゼロ記念公園に押し寄せた。ブルックリンに住む250万人の人々とマンハッタンをつなぐブルックリン・バッテリー・トンネルは、約16万立方メートルの水に没した。

 クイーンズとマンハッタンをつなぐミッドタウン・トンネルは、洪水に強い造りになっていたが、それでもやはり浸水し、地下鉄もかなりの部分が水没した。「100年に1度の大掃除」をしてもらったと冗談を言う者もいた。


サンディの影響で停電が続く米ニューヨーク・マンハッタンの眺め。ミッドタウン(写真手前)には通電しているが、ロウアーマンハッタン(後方)では停電しているのが分かる〔AFPBB News〕

 ジョン・F・ケネディ国際空港とラガーディア国際空港の滑走路も冠水し、1万5000便以上が欠航した。長距離列車アムトラックも運休した。

 水を被って損傷した変電所で爆発が起き、ロウアーマンハッタンの広い範囲が停電した。この停電は恐らく数日続くと思われる。

 ニューヨーク大学付属病院の予備電源が機能せず、ハリケーンの最中に患者を避難させなければならなくなった。その中には人工呼吸器に頼る未熟児も含まれていた。

 金融街の大半が浸水し(ウォール街を再び救済すべき時だと言う者もいる)、暗闇に沈んだが、ゴールドマン・サックスの本社だけは自家発電機のおかげで、世界の資本主義のために明かりを灯し続けた。ロングアイランドでは90%の世帯が停電した。

 ニューヨーク州のクオモ知事は、1990年代に米国住宅都市開発省(HUD)の長官として多くの災害に立ち向かったが、今回の災害に匹敵するものはなかった。ニューヨーク市の損害は、ハリケーン「アンドリュー」や中西部の洪水、カリフォルニアの地震の損害を上回った。「これまで見てきた中でも最悪の事態をいくつも、今回この目で見た」と、クオモ知事は語った。

ニュージャージー州も壊滅的な被害

 ニュージャージー州の状況はさらに深刻だ。有名なジャージー海岸沿いの街は壊滅状態だ。人気の高いリゾート地、シーサイドハイツはほぼ消滅し、埠頭にあったアミューズメントパークはずたずたに壊れた。本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、もう1つのリゾート地、マントロキングはまだ延焼中だった。

 アトランティックシティの有名な遊歩道も一部が破壊され、街で明かりを灯しているのはカジノの看板だけだ。多くの浜辺がひどく浸食されてしまった。高波で鉄道の客車がニュージャージー州の大動脈である高速道路に打ち上げられた。

 米国東海岸全域が洪水と停電に見舞われた。ロングアイランド沿岸の人気の高いリゾート地、ファイアーアイランドは原形をとどめないと伝えられている。コネティカット州も大きな打撃を受けた。冠水した沿岸部の町から約36万人が避難した。メリーランド州では、オーシャンシティの埠頭が崩壊して海に沈んだ。

 ニューヨーク市から740キロほど内陸にあるオハイオ州クリーブランドでも、風速約27メートルの風と猛烈な雨に見舞われた。エリー湖から6メートルの高波が市の大動脈の通勤道路に打ち寄せ、道路は閉鎖を余儀なくされた。

計り知れない経済損失

 サンディによる経済的損失の全貌は何年も経たないと分からないだろう。個人資産の保険金の請求はかなりの額になる。東海岸地域全体でインフラが破壊されている。

 米IHSグローバルインサイトによる初期段階の推計によると、保険でカバーされたインフラの損害は約100億ドルで、復旧費用全体の約半分に相当するという。この推計は恐らく少なすぎるだろう。

 東海岸の石油精製所は操業を停止し、原子力発電所の出力は低下した。ニューヨーク証券取引所(NYSE)は2日間取引を停止したが、これは、天候が原因の休場としては1888年以降で最長だった。地下鉄、特にハドソン川の下を通ってニューヨーク市とニュージャージー州を結ぶパストレインが平常運転に戻るまでには、何日もかかるだろう。

 IHSは初期段階の推計として、経済的損失は全体で300億〜500億ドル、被災した諸州の域内総生産(GRP)の約1〜1.7%に達するとの数字をはじき出した。これに対し、ハリケーン「カトリーナ」による損失は約1200億ドル、被災州のGRPの9.6%に上った。

 しかし、1992年のハリケーン「アンドリュー」後のフロリダ州と同じように、地域経済にとっては復興予算がちょっとした景気刺激策となるはずだ。

 オバマ大統領はFEMAの基金を迅速に活用した。政治的な理由から、あまりにも迅速だったと、カトリーナ襲来時にFEMAを率いていたマイケル・ブラウン元長官が不満を述べたほどだ。当時のFEMAのカトリーナ対応は悲惨な失敗に終わった。

大統領選直前のサプライズ

 カトリーナの事例は少なくとも、自然災害が必ずしも大統領を大統領らしく見せるのに役立つとは限らないということに気づかせてくれた。当時のジョージ・ブッシュ大統領が「ブラウンくん、君は大活躍だな」と褒め殺したことはよく知られている。

 しかしサンディは、オバマ氏を最高の姿で見せる一種のオクトーバー・サプライズ*1となった。これは11月6日の投票日に向けてオバマ氏への追い風となるだろう。

*1=大統領選直前に起き、選挙結果に影響を与える可能性のある予想外の出来事


米ニュージャージー州ブリゲンティーンの避難所を訪れ、被災者を元気づけるバラク・オバマ米大統領(中央)とクリス・クリスティー州知事〔AFPBB News〕

 率直な物言いで人気が高いクリスティー知事(共和党)は、ロムニー氏支持の選挙運動をしてきたが、ハリケーンへの対応についてはオバマ大統領を称賛するしかなかった。「大統領選挙を気にしている場合ではない」と説明することもあった。

 クリスティー知事とオバマ氏が大統領専用ヘリ「マリンワン」に同乗している間、ロムニー氏はハリケーンの救援物資の荷造りの手伝いをしていた――スイングステート(大統領選を左右する州)のオハイオ州で。

 今回のFEMAの対応により、ロムニー氏は大統領選終盤に来て、大きな政府に反対の旗印を掲げにくくなってしまった。

 2年前の冬、ニューヨーク市を猛吹雪が襲った時に、ブルームバーグ市長は市を離れていて面目を潰す経験をした。それ以来、市長は悪天候が迫っている時は必ず先手を打つようにしており、2011年のハリケーン「アイリーン」襲来時の避難命令は、予想されたほどの風雨にはならなかったものの、サンディの予行演習になった。

 しかし、ニューヨークでもニューオーリンズと同じように、暴風雨が引き起こす危険についてかなり前から警告が発せられてきたにもかかわらず、資金を投じて高波への備えを改善するようにとの勧告は実施されずにきた。2011年には、ウォーターフロントに関する市当局の報告書「ビジョン2020」が、多数の堤防、防波堤の建設と、洪水に耐えられるビルの建築を強く促していた。

不屈の魂を失わなければ大丈夫

 イーストリバーと港に沿って値の張る可動性の防潮堤を築いて浸水を防ぐことを提案した報告書もある。この種の対策はロンドンでは30年前にテムズ川で実際に行われている。クオモ知事はロウアーマンハッタンの堤防建設を望んでおり、クリスティー知事はニュージャージー州の浜辺と町を守るために海岸を再建することを望んでいる。

 クリスティー知事はいくつもの象徴的な建造物が押し流されてしまった事実は受け入れている。それでも、ハリケーンの翌日に知事が述べたように、「悲しみで立ち直る力が失われてしまわない限り、私たちはやっていける」という。


http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36474  

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