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第25回 −
中林一樹氏
南海トラフ、首都圏直下地震からの減災
今回の講師は、明治大学教授の中林一樹さん。『巨大地震と大東京圏』(共著/日本評論社)、『安全・安心のまちづくり』(共著/ぎょうせい)、『「住」と防災』(共著/『住の世界』二宮書店)など多くの著作を持つ、多数都市防災・復興研究の第一人者です。内閣府は先ごろ、東海、東南海、南海地震などが同時発生する「南海トラフ巨大地震」によって、関東から西の30都府県で最大32万人が死亡するという被害想定を発表しました。私たちはこの数字をどう捉え、未来のためになにをすべきなのでしょうか。
新たな被害想定
これまで地震の想定は、東海地震、東南海地震、南海地震と別々に行なっていました。しかし今回は3連動、あるいは周辺も含めて4連動、5連動の巨大地震が発生したときにどうなるのか、いわば最悪の事態を被害想定しています。きっかけは、昨年の東日本大震災。想定外の3つの地震が同時に起き、マグニチュード9.0という巨大地震の影響で巨大な津波が発生し、たくさんの被害が出たため、見直しが必要になったのです。
このところ、東海、東南海、南海地震などが同時発生する南海トラフ巨大地震の危険性が取り沙汰されていますが、これは南海トラフという海溝のような場所で起こる地震です。そこで、津波も含めて最悪の事態を想定しました。被害想定は、大きく分けて建物の被害と人間の被害との2つを公表しています。建物の被害とは230万あまりの建物が全壊、消失するというもので、とんでもなく大きな被害です。阪神大震災が11万棟、東日本大震災が13万棟の被害でしたから、その20倍を超える被害になります。ただし、津波で壊れる建物は14万棟くらい。残り160万棟は地震の揺れによって壊れ、75万棟が火災によって壊れるという想定になっています。
陸上にもっとも近い所で5連動の地震が起きると、太平洋岸の陸上の大部分が震度7の強い揺れになります。阪神大震災では11万棟の大半が揺れによって被害を受けましたから、南海トラフ地震でも、最初に陸上で阪神大震災と同じような揺れによる被害があり、その直後から大きな津波が発生します。そして最初の揺れで、多くの人が壊れた家に閉じ込められてしまいます。ちなみに、これは深夜を想定したものです。つまり人々が家で寝ている時間帯に地震が起き、多くの家が全壊して閉じ込められてしまうのです。そして直後に津波が来ると、閉じ込められた人たちが津波に巻き込まれてしまうので、死者32万人という最悪の事態が想定されたのです。
公助、自助、共助の連動
家が壊れて閉じ込められる危険性がある以上、まずは家が壊れないようにすることが大切です。もし壊れても、玄関を開けて外に脱出できるようにする。家の耐震化は、取り組んでおくべき最大の自助です。そして外へ出たら、お年寄りや歩くのが得意でない人たちを地域のみなさんで助けながら、高台や丈夫なビルの屋上へ向かって避難します。これが共助です。つまり、我が家を壊さない自助、そして助け合って避難する共助、このふたつがきちんとできれば、32万人の想定人数も6万人くらいには減らせるのです。
公助には2つのケースがあります。ひとつは我が家を強くするとか、「私の会社のビルの屋上を避難所にしていいですよ」というメッセージを投げかけることなど。この場合、家は個人の、ビルは会社の持ち物ですよね。つまり個人や会社が自助でやらなければいけないのですが、それを公助が後ろから応援するのです。お金がかかるのなら少し補助するとか、情報が必要なら情報を出すとか。公助、自助、共助が多面的によりよく進むように応援するのはとても大事なことです。
もうひとつは、行政との連動です。たとえば、屋上へ逃げるには内側の階段しかないビルがあるとします。夜に鍵がかかっていると入れませんから、外側に避難用の階段を作る必要性が出てくる。それを行政で作りましょうということです。あるいはビルもなく山も遠い漁村なら、高さ14〜20メートルの丘やタワーを作る。これも行政がやることです。公共施設を作って安全を確保するのも公助ですが、もっと大事なのは、自助してもらえるように応援すること。そうすれば、お金が足りない人も「がんばって耐震補強をしてみようか」という気持ちになっていくのです。
木造家屋密集地の危険性
首都直下地震に対する被害想定も、東日本大震災を受けて今年4月に改めて見直しました。最悪の津波を想定したのですが、ひょっとしたら200〜300棟が津波で壊れるかもしれません。しかし地震ですから、まず最初に揺れるのです。たとえば東京湾北部地震ですと、震度6強の強い揺れで区部の7割、11万6000棟の建物が壊れます。そしてその後、火災が発生するのです。全部で811件の火災が発生すると想定したのですが、順番にではなく、全体の3割が最初の15分間に起こることが問題です。方々から250件くらいの火の手が上がってくるのです。これを同時多発火災というのですが、近くにいる人が消したとしても、おそらく全部は消せないでしょう。燃え上がって家が倒れたりすれば消防車も来られませんし、より燃え広がります。なお、火災で燃える建物に多いのは木造家屋です。ビルの火災は多くの場合、1室程度で収まりますが、木造家屋の密集した市街地ですと1件の火事が隣へ隣へとどんどん燃え広がっていくのです。
もうひとつ、地震の火災で注意すべきは、家が多く壊れた場所ほど火災が起きやすいということです。阪神大震災でもそうでした。従って首都直下地震でも、家を壊さない、壊れないようにする、つまり必要に応じた耐震改修が大切です。「古いから建て替えよう」と考えておられるなら、なるべく早めに建て替えることです。壊れ方が減れば出火が、そして火災自体が減るからです。
ところで阪神大震災でも285件出火しているのですが、わかっている火災の半分は、電気が原因です。家が壊れることで停電していた電気が戻ってきて、いろいろな原因で火災を起こしてしまうのです。つまり家が壊れていなければ、電気が戻っても火災は起きないのです。従って家の耐震性を高めておくことが、最初にすべき火災対策です。しかし、それでも出火するかもしれません。そこで実践すべき2番目の対策が、近くにいる人が火を消すことです。もし消火訓練があったら、消火器でどうやって火を消すのかをぜひ体験してみてください。訓練時にはおそらく、指導してくれる消防署の人から「『家事だー!』と大きく叫んでください」と言われます。大きく叫ぶことで、落ち着けるのです。また自分だけでは消せないケースが多いので、叫ぶことで周りの応援を得ることができ、力を合わせて火を消せるようになります。そういう意味で、まず火災を抑える訓練をやっておくと役に立つはずです。
家と家族を守る耐震改修
日本の建築物は、建築基準法という法律に従って建てることになっています。そしてそのなかに、地震に強い家を作る基準である「耐震基準」があります。耐震基準は地震で大きな被害が出るたびに見直され、強化されてきました。1978年には宮城県沖地震が起きて仙台市内を中心に被害があり、建物の下敷きになってお年寄りや子どもが亡くなっています。そこでこの地震の後でいろいろ検討し、1980年に建築基準法を改正しました。それを新耐震基準と言っています。阪神大震災のときには1981年以前の建物が一瞬で壊れ、15分以内にほとんどの人が亡くなったそうです。ということは建物を耐震補強するしか、生命を救う手段はないのです。ですので阪神以降、全国の自治体では、特に1981年以前に建てられた建物について耐震強化を進めています。
そのためには、まず家にどれくらいの耐震性があるのか、行政が負担して耐震診断を行なうことになっています。耐震改修が必要でも、自治体は設計費用や改修時の工事費についてさまざまな助成制度で後押ししてくれます。ところが、実際にはなかなか利用者が増えません。大きな地震が起きると、その後1年くらいは利用者が増えるのですが、また減ってしまうのです。しかし地震が起きてからでは遅すぎますから、早めに耐震改修をする必要があります。市役所には住宅課や建築指導課等に窓口があり、相談すると「こんな助成制度があります」といろいろ教えてくれます。そういうものを活用して、「我が家は壊さない」、「我が家からは絶対に火を出さない」、「我が家族は絶対に守る」、これらをぜひ実現していただきたいと思います。
“率先防災”という考え方
私は「率先防災」という言葉を提唱しています。率先という言葉は、いろいろなところで使われているのですが、今回、特に東日本大震災の際にその必要性が顕著になりました。津波が来てから逃げたのでは遅いので、来る前に逃げましょうということです。
津波が起きたとき、「えーっ?!」と驚いて様子を見ている人が周囲にたくさんいるわけです。しかしその人たちも一緒に逃げなければなりませんから、「津波が来るから逃げよう!」と大きな声を上げて叫びながら避難を促すのです。誰かが率先して避難することで、「どうしようかな」と思っている人も、「まあ、ついて行こう」という気持ちになります。そうすることで、いろいろな人を引っ張っていけるのです。
そしてこれは避難だけではなく、まさに「防災」そのものなのです。つまり防災も、他の誰もがやらないことを率先して取り組んでいくことが大切。そういう防災をこれから進めていって、私たちは次の首都直下地震を迎え撃たなければいけないと思っています。
(2012年10月29日掲載)
http://www.blwisdom.com/future/25/?mid=w385h90600000492638
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