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ゲリラ豪雨が観測できる魔法のレーダ
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投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 20 日 01:35:03: cT5Wxjlo3Xe3.
 

(回答先: ゲリラ豪雨、竜巻、ひょう、雷は予報可能? 投稿者 MR 日時 2012 年 9 月 19 日 01:10:02)

ゲリラ豪雨が観測できる魔法のレーダ

防災科学技術研究所観測・予測研究領域(2)

2012年9月20日(木)  川端 裕人

 真木さんは、学位を得てから防災科学技術研究所の研究職に就き、30年以上にわたって、研究を続けてきた。積乱雲の形成メカニズムの解明と短期的な予測が目下の最大の関心事だが、観測方法そのものの開発にも携わってきた長い個人史を持っている。

 一貫して、極端気象の防災・減災を目標にしてきたように見えるが、元はというと、まったく違う方面に興味を抱いていたのだそうだ。


真木 雅之(まき まさゆき)
1954年、愛媛県生まれ。理学博士。防災科学技術研究所観測・予測研究領域長。筑波大学連携大学院教授。1983年、北海道大学大学院理学研究科修士課程を修了。北海道大学理学部を経て、85年に国立防災科学研究所に入所して以来、気象レーダの開発および気象レーダによる自然災害の研究に携わる。2000年よりマルチパラメータレーダによる降雨量推定の研究を開始。現在は文部科学省科学技術振興調整費プロジェクト「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」研究代表者を務め、首都圏Xバンドレーダネットワーク「X-NET」による豪雨・強風監視技術の構築に向けた研究プロジェクトを進めている。
(写真:藤谷清美)
「中学を卒業して、大学には行かないと決めていて、工業高等専門学校(高専)を出て造船技師になろうと思っていたんです。高専でワンダーフォーゲル部に入ったのが、気象とのかかわりの始まりでしたね。山でラジオを聞いてテントの中で天気図を書いて、予想が当たったりすると嬉しいんです。それがきっかけになって、十種雲形を覚えたり、観天望気で予報するというのを個人の趣味でやっていたんです」

 海にかかわる仕事を志し、山と出会って、気象に目覚めるというのは、大いに納得できる。観天望気というのは、書いて字のごとく、天を観て、気象を望む、「古き良き」天気予報のことだ。最近の天気予報の現場はコンピュータを使った数値予報になっているので、コンピュータの画面を眺めるばかりで、空を直接観ずに予報を出すことも多いと聞いている。

「高専は高校とは違って、5年間いきます。大学の教養課程相当の資格で就職をするのが常だったんですが、何とか気象観測に携われないかということで、大学に入り直したんです。北海道大学で、研究テーマは夜間冷却という、のちのち研究することになる雨とは関係ないものでした。接地境界層(地面と「大気」の境界)で、冬の晴れた夜、どれくらい地面の温度が下がるか、気温が下がるかと、そういう研究で学位をとりました」

 聞くからに寒そうな研究なのだが、実際「気温マイナス42℃というような経験をしました」とのこと。

「いざ就職をしようと研究職を探しているとき、ちょうどタイミングよく、防災科学技術研究所で求人があって手を挙げまして、それから今に至るまで、気象レーダを使った災害の研究をしてきました。富士山頂の気象測候所で働きたいという夢はあったんですが、残念ながらもうなくなってしまいましたね」

 というのが、造船技士志望の若者が、観天望気に目覚め、気象レーダという人工の目を使った研究に手を染めるまでの物語。そこから先、長年の研究史を「省略」させていただいて現在の一大プロジェクトに話を移すと、その中核にあるのが、新型のレーダ観測機器だということになる。

真木さんの研究室にあった気象研究者必須の七つ道具の一部を拝見。左は通風乾湿計で、日誌をつけるときには必ず見るという。右は人の髪の毛を使うなつかしの毛髪製湿度計。(写真:藤谷清美)
「Xバンド(マイクロ波の一種で、波長3センチほど)のマルチパラメータレーダを首都圏に重点的に配置した観測網が整いました。防災科研が持っているレーダだけでなく、国交省、中央大学、電力中央研究所、防衛大学校、山梨大学、日本気象協会などのものも併せて、X-NETというネットワークをつくり、世界でも最初の大都市での稠密観測を試みています。現在、7台のMPレーダと2台のドップラーレーダがネットワークにつながっています」

 Xバンドというのは、使う電波の波長(周波数と言い換えてもいい)だからなんとなく分かったつもりになるが、耳慣れないMP(マルチパラメータ)とはいかなるものか。

「従来型のドップラーレーダに比べて、得られる情報が多いのと、雨量などの推定が正確になるのが特徴です。Xバンドは雨による減衰が激しくて、気象観測に向かないと言われていたんですが、マルチパラメータの観測では、その弱点を補う以上のメリットがあることが実証されて、評価されるようになりました。マルチというからには、これまでのレーダでは得ることができなかった情報を引き出します」


(写真:藤谷清美)
 ドップラーレーダと呼ばれる従来型観測レーダは、降雨から反射してくる電波を捉えるものだった。発した電波が反射してくる強度から雨の位置や強さを推定する。さらにドップラー効果で帰ってきた電波の波長(周波数)がどれだけ変わったかもみて、雨がどの方向に動いているか情報を得る。電波強度プラスアルファなので、シングルパラメータ、あるいはダブルパラメータくらいか。なお、ドップラー効果とは、サイレンを鳴らした車とすれ違った時に急に音の高さが変わる、だれでも経験したことがある経験の背後にある物理現象だ。

 一方、MPレーダでは、レーダである以上、電波を発するのは当然として、その反射を水平・垂直の偏波に分けて観測・比較することから多くの情報を取り出す。偏波について少しだけ説明すると、電磁波は(もちろん光も含めて)「波」であるわけだが、ぼくたちが海の波から想像するのとは違う。通常の状態では、進行方向の上下左右360度すべての方向に振幅している。水平偏波、垂直偏波というのは、その水平成分と垂直成分ということだ。


従来のレーダと異なり、マルチパラメータレーダでは、電磁波を垂直と水平にわけて発信、観測するため、得られる情報が格段に多い。
(画像提供:真木雅之)
「落下する雨粒は空気抵抗の影響で、上下につぶれた形をしているんですね。このつぶれ具合は雨粒が大きくなるほどはっきりしてきます。大きな雨粒が多いと、水平偏波での観測と垂直偏波での観測で反射の強さが違ってきます。これは反射因子差と呼ばれるパラメータです。さらに重要なパラメータとして偏波間位相差があります。これは水平偏波と垂直偏波の伝わり方、つまり速度がどのくらい違うかを表すパラメータで、大きな雨粒が偏平な形をしていることから発生する現象です。このように、反射因子差と偏波間位相差は雲の中の雨粒そのものの形や大きさの情報を反映しているパラメータですので、この情報を利用することにより雨の強さをより正確に求めることができます。Xバンドの波長は3センチほどでして、ほかの波長に比べて偏波間位相差を感度良く測定できる波長です」


落下する雨粒は上下につぶれた形をしており、つぶれ具合は雨粒が大きくなるほどはっきりする。タテとヨコに電波を分けてこの形状による違いを観測することで、雨の強さを正確に求められるようになった。
(画像提供:真木雅之)
 実は予報の現業(研究用ではない実際の予報業務)で使われてきた従来型のドップラーレーダでは、Xバンドよりも波長の長いCバンド(波長10センチほど)の単一の偏波(水平偏波の場合が多い)を使っている。波長が短くなるほど、大気中、特に雨の中での減衰が大きいため、Xバンドは不利だった。ところが、水平・垂直両方の偏波を見るマルチパラメータの観測では、扁平な雨粒の大きさに応じて偏波の反射の違いがはっきり分かりやすい波長であるメリットの方が大きくなったというわけだ。また、雨粒の形や大きさを検出できる分、雨の強さについても正確に知ることができるのも非常に大きな長所といえる。

 その威力を知らしめた直接のきっかけが、前回冒頭のアニメーションでも示した、2008年に東京都豊島区の雑司が谷のゲリラ豪雨だったという。

「わずか2平方キロメートルの地域に集中して降ったシングルセルの積乱雲による雨で下水道があふれ、中で工事をしていた作業員5名が亡くなるという、非常に痛ましい災害がありました。雑司が谷はもともと低地でして、そこでさらに低い場所にいた人たちが被害を受けたわけです。私たちのX-NETのMPレーダ複数でこの雨の様子が捉えられていました。違う場所のレーダでも捉えられており、内部の気流構造なども立体的に調べられています」

 この観測が、積乱雲研究と研究成果の活用に新たな1ページを開く。気象庁の従来型ドップラーレーダでは誤差が大きくはっきり捉えられなかったのに、Xバンドのマルチパラメータレーダが鮮明に捉えていたというインパクトは大きく、その後、国交省が全国展開を決めるきっかけにもなったという。


誤差の少ないMPレーダにより、ゲリラ豪雨が「見える」ようになって一躍研究が進み始めた。まさにブレイクスルーだ。
(写真:藤谷清美)
つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトに掲載した記事を再掲載したものです。『ナショナル ジオグラフィック日本版』2012年9月号の特集「脅威を振るう異常気象」でも、世界の異常気象についてレポートしています。フォトギャラリーもあるWebでの記事の紹介はこちらでお読みいただけます)


川端 裕人(かわばた・ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)は、4月よりNHK総合でアニメ「銀河へキックオフ」として放送中。近著は、独特の生態系をもつニュージーランドを舞台に写真家のパパを追う旅に出る兄妹の冒険物語『12月の夏休み』(偕成社)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider


研究室に行ってみた

世界の環境、文化、動植物を見守り、「地球のいま」を伝えるナショナル ジオグラフィック。そのウェブ版である「Webナショジオ」の名物連載をビジネスパーソンにもお届けします。ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトはこちらです。


http://nationalgeographic.jp/nng/article/20120831/321458/  

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