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下町“木密”エリアは「津波・倒壊・火災」の三重苦に
首都直下型地震で東京は本当に壊滅するか
――東大地震研究所 佐竹健治教授に聞く
4月18日、東京都が首都直下地震の新たな被害想定を公表し、死者9700人との想定に衝撃が走ったのは記憶に新しい。しかし、今回の想定では、東日本大震災で9割以上の死者・行方不明者を出した津波による死者数はゼロとされている。果たして、首都圏では本当に津波への警戒心を持つ必要はないのだろうか。また、多くの死者を出す恐れのある倒壊・火災の危険性が高いのはどのエリアか。今回の想定を公表した東京都防災会議地震部会の専門委員である東大地震研究所の佐竹健治教授に「2012年版首都直下地震等による東京の被害想定」の正しい読み方を聞く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
1万年に1回の地震発生の可能性も!?
最大震度7、死者約1万人に拡大した理由
――先日公表された「首都直下地震等による東京の被害想定」では、死者約9700人、建物の全壊・焼失約30万5000棟、帰宅困難者516万人との推計が出されました。前回想定(2006年)と比べて死者は約1.5倍(06年は6400人)となるなど、今回、被害想定が拡大したのはなぜでしょうか。
佐竹健治・東京大学地震研究所教授
今回の想定では、06年5月に公表した「首都直下地震による東京の被害想定」を全面的に見直しました。今までは首都直下地震である東京湾北部地震(M7.3)と多摩直下地震(M7.3)の想定のみを発表してきましたが、今回はそれら2つの地震モデルを再検証するとともに、新たに2つの地震モデルを追加しました。それが津波を発生させる海溝型地震である元禄型関東地震(M8.2)と、活断層で発生する震源の浅い立川断層帯地震(M7.4)です。
そして、直下型地震については、想定される震源の深さがこれまで考えられてきたものより10キロメートルほど浅いという、新たな知見も取り入れて検証を行いました。その結果、想定されるマグニチュードは前回の想定と同じですが、震源が浅くなると揺れが大きくなるため、最大震度7の地域が発生。さらに震度6のエリアは、東京湾北部地震では区部の約7割、多摩直下地震では多摩の約4割と広範囲になりました。
また、今回は被害想定を出すにあたり、風が強い冬の時間帯は(1)朝5時、(2)昼12時、(3)夕方18時を想定しました。地震の発生時刻が変わると、被害の発生する様相も変化するためです。
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最悪のケースとしては、その中でも火災の出火件数が最も多くなると考えられる風が強い冬の、火を最も多く使う夕方18時に東京湾北部地震が発生した場合を設定。その際に死者が最大9700人(約5600人は建物倒壊、約4000人が火災)によって亡くなると見込んでいます。
確かに死者数は、前回の想定(6400人)から増加していますが、実は地震動が強くなったにもかかわらず、建物の揺れによる死者は減っています。それは前回に比べ、耐震性の低い建築基準法改正(昭和56年)以前の木造建築棟数が大幅に減少したからです(約132万棟→約96万棟)。
――首都直下地震については、M7クラスは30年で70%(文科省の地震調査推進本部)等の発生確率が試算されていますが、今回新たに想定に加えられた2つの地震における発生確率はどう考えればよいでしょうか。
元禄型関東地震は元禄大地震(1703年)と関東大震災(1923年)と同じタイプの地震で、200年に1回ほどの周期で発生しています。前回の関東大震災からまだ90年しか経っていないため、発生確率はそれほど高くないと考えられます。
また立川断層帯地震は、1万年〜1万5000年に1回動く活断層による地震です。かなり長いスパンの話だと思われるでしょうが、実は最後に起きたのが1万年ほど前なので可能性を完全に否定することはできません。とはいえ、1万年か1万5000年では全くスパンが違いますから、今後30年の発生確率はとても低いと想定しています。もし本当に起これば、活断層で震源は浅いため、震度7が広いエリアで観測されることになるでしょう。
「津波による死者ゼロ」に安心して大丈夫?
もし水門が閉じなかったらどうなるか
――東日本大震災の経験から、首都圏でも多くの方が津波被害を警戒しています。今回の想定では、死者ゼロとなっていますが、本当に安心してよいのでしょうか。
津波は、海溝型の元禄型関東地震であれば、一番大きいところで2.61メートル(品川区)と想定しています。その他の東京湾沿いも2メートルほどの津波が予測されます。確かに、江戸川、荒川沿いの下町エリアは海抜ゼロメートル地帯ではありますが、高潮対策として約3.5メートルの水門と防波堤が作られているため、堤防が決壊しない限り、それを超えて津波は襲ってこないでしょう。とはいえ、多摩川や荒川の河川敷には水があふれる可能性があるため、こうした場所を避難所にすべきではありません。
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また今回は、万が一水門が閉まらなかった場合の想定もしています。その場合は大田区、中央区、江東区エリアでも0.5メートルほどは浸水する恐れがあり、想定される死者はゼロですが、建物被害は都内合計230棟、半壊2309棟になると想定しています。ですから、油断はできません。
津波の死者がゼロだというと、津波が来ても絶対大丈夫だと思ってしまいがちです。しかし、もし水門が閉じられなかったり、堤防が決壊した際、海抜ゼロメートル地帯や地下にいたらどうなるでしょうか。浸水被害を受けて、生命にかかわる可能性が十分にあります。例えば、辰巳や晴海、八丁堀、芝浦、羽田空港などのエリアは、津波被害にも警戒すべきです。
下町の「木密」を襲う倒壊・火災延焼
環七・環八エリアと荒川沿いは要注意
――今回の想定では、最大で建物の全壊・焼失が約30万5000棟という推計が示されました。特にどのエリアでそうした被害を警戒すべきでしょうか。
基本的に揺れは、地盤の固さによって決まるため、地盤が固くない下町エリアはかなりの揺れが予測されます。しかし、今回の想定から震源が浅くなったため、下町エリアだけでなく、西側の山の手エリアも揺れが襲うでしょう。とはいえ、先ほど申し上げたように建物の全壊棟数は古い住宅件数に左右されるため、耐震性の低い昭和56年以前の木造住宅が多いエリアは警戒すべきですが、耐震性の高い建物が多いエリアは揺れによる倒壊の心配はあまりありません。
もちろんマンションに住んでいる方は、新しければ建物が壊れる可能性は低いと言えます。しかし、建物が大丈夫でも人が大丈夫とは限りません。なぜなら、家具の転倒による死傷者もこれまで少なくないからです。家具の転倒対策などは、やはり行うべきです。
一方で心配なのが、木密という木造住宅が密集するエリアでの火災延焼被害です。なかでも区部西部から南西部にかけての環状7号線と8号線の間を中心とするエリア、区部東部の荒川沿いの地域はとくに火災延焼による被害に警戒してください。
また、今回は死者9700人と想定していますが、それは都内一様に被害が出るわけではなく、木造密集地帯で多く出ると考えられます。ですから、そのエリアで耐震化率を高め、火災延焼を引き起こさない対策を施せば、死者や建物への被害は大幅に減らせるはずです。
次のページ>> 想定が異なっても倒壊エリアは変わらない
死者が1万人近くになると、東京が壊滅するんじゃないかと不安視する声も聞こえてきます。もちろん大きな影響はありますが、経済活動自体が壊滅に至ることはないでしょう。これまで述べてきたように、大きな被害が出るのは住宅密集地であり、オフィス街がすべてやられるわけではありませんから。
想定が異なっても倒壊エリアは変わらない
「うちは震度6未満だった」と安心するな
――都民は、今回の衝撃的な想定をどう捉え、対策すべきでしょうか。
今回の想定は、都が防災計画を立てる基礎とするために出されたものです。例えば、家が倒壊しやすく、火事が起きやすいエリアはどこか。帰宅困難者や避難者は何人くらいになるか。そうしたことが分かれば、消防の計画や避難所対策など、行政的な対策を行いやすくなります。ですから、今回の想定で出された震度分布が震度6以上だったからあなたの家は安全ではない、または震度6未満だったから安心です、と示すのが目的ではありません。
また、首都直下型地震については、たまたまこの東京湾北部と多摩を震源に置いただけですので、震源が別の場所の可能性もあります。想定で震度6に達していないからと、安心しないでいただきたいですね。
実は、地震の想定が異なっても、建物が倒壊しやすいエリアはあまり変わりません。東京湾北部地震と元禄型関東地震ではどちらも都南東部のエリアでの被害が想定されており、相対的に被害が大きくなるところは決まっています。その地域にお住まいの方は、耐震性を高める対策をしていただきたいと思います。
そして避難者については、東京湾北部地震で最大約339万人を想定しており、これからそれだけの食料や避難所を用意する必要があります。ただ、東北では避難者60万人分の食糧が行き届かない事態に陥ったのですから、300万人分となればさらなる時間がかかるのは必至です。ですから、やはり個人が日頃からある程度の食糧を確保しておくべきでしょう。
http://diamond.jp/articles/-/17862
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