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南海トラフ巨大地震―災害に備えた住み方へ
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4月8日付 朝日新聞社説
私たちが日本列島で安全に暮らすには、どこにどう住み、どのように土地を使うべきなのか。街づくりから根本的に考え直すべきときだ。
列島に潜む災害リスクを見せつけた地図のメッセージを、そう受け止めたい。
高さ10メートル以上の津波が来る可能性を示す太い線が、東京都の離島、そして伊豆半島から九州にかけての太平洋岸にそって、ほぼ切れ目なく続いている。
内閣府の検討会が、東海沖から日向灘に至る「南海トラフ」海域の巨大地震に伴う津波の想定を見直した。トラフとは海底が細長くくぼんだ地形をさす。
これまでの想定をはるかに上まわり、津波の高さが20メートルを超すところが多く、最大では34.4メートルに及ぶ。しかも、早ければ数分で押し寄せる、という。
近くに高台はなく、とても逃げようがない――。沿岸の自治体からそんな嘆きも聞こえる。
かといって、海岸線を高々とそびえる防潮堤で覆い尽くすわけにもいかない。
ならば、どうするか。
■最悪想定から始める
一朝天災に襲われればきれいにあきらめる。滅亡するか復興するかはそのときの偶然の運命に任せるという捨て鉢の哲学も可能である――。
寺田寅彦は「津浪(つなみ)と人間」にそう書く。昆虫のように、明日を心配せずに生きてもいい。
しかし、と続く。自然の法則をまげられないのは昆虫も人間も同じだが、「人間の科学は人間に未来の知識を授ける」と。
そして、地震や津波の知識を持って備える重要性を説く。
寅彦が経験した昭和の三陸大津波のころに比べれば、地下のプレート境界で巨大地震が引き起こされることなど、地震の理解は進んだ。
しかし、今回、全く予想されなかったマグニチュード(M)9.0の巨大地震に不意打ちされ、科学による「未来の知識」の限界も見せつけられた。
このため、東海、東南海、南海という南海トラフでの3連動地震の想定も、過去の経験に基づく従来のM8.7から東日本大震災なみのM9.1に上げ、何通りもの試算をした。
その最悪の結果をつなぎ合わせたので、すべての地域が同時にこのような津波に襲われるわけではなく、それぞれの確率もわからない。しかし、対策のために最悪のケースを示した。
M9級の巨大地震は20世紀以降、東日本大震災をいれて地球全体でも5回程度だ。ひとたび起きれば甚大な被害をもたらすが、それぞれの地域では数百年に一度とされる。今世紀半ばにもと予想される南海トラフの3連動地震はたとえM9級より小さくても、深刻であることは間違いなく、油断できない。
■最大級の時は逃げる
政府の中央防災会議は、最大級の津波に対しては逃げることで命を守り、数十年間隔の津波は防潮堤などのハードとソフトの組み合わせで被害を抑える2段階の考え方を示している。
想定図の大津波の恐れがある海岸線には、静岡市、浜松市、愛知県豊橋市、高知市などの大都市や工業都市がならぶ。
高い建物への避難など、いざという時の安全のすべを確かめておく。そして、身を守る判断ができるには、ふだんからの実践的な防災教育が大切だ。東日本大震災の教訓を生かしたい。
だが長期的には、災害がくることを前提に、土地の使い方を見直して被害を小さく抑えられる町へと変えていくべきだ。
できるだけ安全な場所に、安全な住まい方をする。
人口減少の時代を迎えた今なら、政策として方向づけをすることもできるはずだ。
発電所など重要な施設や工場などの配置は、災害時のリスクを十分に考えることが重要だ。
今回の推定では、浜岡原発のある静岡県御前崎市は最大21メートルの津波に襲われる。ここはまさに震源域でもあり、リスクの高い施設の立地は許されないことを改めて確認しておきたい。
甚大な被害をもたらすのは、大津波だけではない。
首都圏の直下地震についても東京都と神奈川県の一部が、最大級の震度7になりうると最新の研究で明らかになった。
首都圏、中部、関西の3大都市圏の防災上の大きな弱点は、広大な海抜ゼロメートル地帯に何百万もの人が住んでいることだ。台風や高潮だけでなく、地震で堤防が壊れたら、多くの命が危険にさらされる。
■原発立地は危うい
一方、温暖化による海面の上昇も気がかりだ。「島国の日本は、臨海部を開発・利用することで繁栄を築いてきた。臨海部の土地利用を、防災も含めて長期的な視点で考え直す必要がある」と、水問題にくわしい高橋裕・東大名誉教授は強調する。
短、中期的に建物の耐震化を進めつつ、長い目で災害に強い街へと造りかえてゆく。豊かな自然と災害がある列島に住む私たちの、未来がかかっている。
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