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“巨大地震連発で被害総額100兆円超”に耐えられる? 財政破綻しかねない「スケール感なき防災対策」の罠
http://www.asyura2.com/12/jisin18/msg/175.html
投稿者 MR 日時 2012 年 3 月 21 日 01:00:18: cT5Wxjlo3Xe3.
 

http://diamond.jp/articles/-/16673
次世代に引き継ぐ大震災の教訓

【第15回】 2012年3月21日  

“巨大地震連発で被害総額100兆円超”に耐えられる?
財政破綻しかねない「スケール感なき防災対策」の罠

――目黒公郎・東京大学教授インタビュー


これから数十年の間に、首都直下型地震、東海・東南海・南海地震などの巨大地震の発生が懸念されている日本。東日本大震災の復興財源捻出が難航を極めているのは周知の事実だが、こうした巨大地震の発生が相次げば、多くの国民の命が危険にさらされるのはもちろんのこと、圧倒的な資金不足によって復興どころか国家の破綻さえ導きかねない。都市震災軽減工学の第一人者である東京大学の目黒公郎教授は、「今の日本における防災対策は今後の巨大地震のスケール感をまったく理解していない」と語るが、日本が最悪の事態を避けるために、行政はどのような防災体制を早急に築くべきだろうか。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

被災人口は東日本大震災の5〜8倍に
今の防災対策は「スケール感」がない

――現在、首都直下型地震、東海・東南海・南海地震など超巨大地震の発生が懸念されています。将来の地震災害を最小限に留めるために、どのような視点から防災対策を行うことが必要でしょうか。


めぐろ・きみろう/東京大学大学院 情報学環 総合防災情報研究センター教授。専門は都市震災軽減工学、都市防災マネジメント、地震を中心とするハザードが社会に与える損失の最小化のためのハードとソフトの両面からの戦略研究。研究テーマは、災害リスクマネージメント、ユニバーサル地震災害環境シミュレーション、防災制度設計、防災マニュアル/災害情報システム、災害時最適人材運用法、国際防災戦略など。「現場を見る」「実践的な研究」「最重要課題からタックル」がモットー。途上国の防災立ち上げ活動にも従事。
 地震学的に活動度の非常に高い時期を迎えている今、最も重要なのは、被害額や被災地域の大きさ、被災者数の規模を理解することだ。東日本大震災の被災エリアは非常に広範囲にわたったが、人口密度が高い地域ではなかったため、被災人口は面積のわりには少なかった。しかし、首都直下型地震や東海・東南海・南海地震が発生すれば、被災人口は東日本大震災の5〜8倍になる。このスケール感を正しく理解できなければ、防災対策でも大きな過ちを生むだろう。

 東日本大震災直後から自衛隊は最大規模の10万人オペレーションを実行した。では、被災人口が5倍や8倍になれば、それに対応する規模のオペレーションができるだろうか。今回の活動を踏まえ、様々な課題を解決しても、人的制約から10万人を大きく超えるオペレーションは無理だ。

 また、今回被災した地域内で最も大きな都市は仙台市だが、中心部が大きな被害を受けたわけではなかった。首都圏も被害を受けたとはいえ、損傷程度は軽微であったので、それぞれ被災地を支援することができた。だが、首都直下地震や東海・東南海・南海地震が起こった場合には、高い人口密度と重要な機能が集約するエリアが被災地になる。その意味とスケール感を理解できていなければ、対応はうまくいかない。

 そう考えると、現在の日本国内における防災対応力だけで足りうるかは大いに疑問である。全壊・全焼建物数約13万戸、経済被害25兆円と言われている東日本大震災では、被災自治体の支援に入った被災地外の自治体の数と規模を調べると、被災自治体の被害程度に応じて、例えば、被災建物率(100×被災建物数/被災自治体の全建物数)を用いると、被災建物率10%の自治体には、最低でもその自治体の職員数と同じ数の職員数を持つ自治体群が、被災建物率が80%、90%というエリアでは、最低でも自分の職員数の10倍規模の職員数を有する自治体群が支援している。将来の大規模地震災害時に、これだけ多くの職員を動員することができるだろうか。

 もちろん、行政対応だけではない。政府中央防災会議は、首都直下型地震と東海・東南海・南海地震によって、全壊・全焼建物が約200万棟、経済損失が200兆円規模の被害を想定している。直後のガレキ処理から復旧・復興を担うのは建設業の人たちだが、近年の建設業の市場縮小とともに、就労人口は減少、大規模プロジェクトの豊富な経験とスキルの高い団塊世代も引退している。数が縮小し、質も低下している状況下で、この規模の災害からのスムーズな復旧や復興は労働力の点からも非常に難しい。

次のページ>> 有限の時間と予算が生む「リスクの落とし穴」

 もはや国内で数と質の維持が難しい今こそ、若い優秀な人材を組み込んだジャパンチームを組織し、大規模プロジェクトのある中東や北アフリカ、中国、インドなどへ派遣し、自らの技術進展や維持と同時に、他国の技術力アップの指導、そして“シンパシーづくり”をすべきだ。私はこれを「21世紀型いざ鎌倉システム」と読んでいるが、建設技術者の圧倒的な人材不足を補うこうしたシステムを築き、日本が危機的な事態になれば海外からすぐに彼らが駆けつけてくれる仕組みづくりこそ、スケール感を理解した防災対策になる。すなわち、「今後30〜50年程度の間に、日本は○○規模の地震災害に見舞われる。その際は△△の条件で、すぐに駆けつけてくれ」というシステムづくりだ。

有限の時間と予算が生む「リスクの落とし穴」
このままでは“奇跡の復興”は不可能

 地震による被害規模は、国によっては自国のGDPを超えることもあり、そうなれば自力での復旧・復興は不可能となる。外国からの支援に頼らざるをえない。100兆、200兆円という日本の経済被害も簡単に復旧・復興できるレベルではない。だからこそ、「被害抑止」、「災害対応/被害軽減」、「最適復旧/復興戦略」の三者をバランスよく組み合わせた防災対策を行うことが重要だ。

 しかし一方で、私たちは大規模地震災害に備える対策を、無限の時間と予算を持って行なっているわけではない。有限の時間と予算内で行うには必ず優先順位づけが必要になり、通常は「リスク」の概念でこれに対応している。しかしこの考え方には、適用制限があり、これを忘れると “落とし穴”に陥る。

 リスクとは、「ハザード(危険性)×バルネラビリティー(脆弱性)」で評価される。ハザードは「外力の強さと広がり×発生確率」であり、地震でいえば、震度が「強さ」でその震度が及ぶ範囲が「広がり」、津波ならば津波の高さが「強さ」でそれが及ぶエリアが「広がり」になる。バルネラビリティーとは、ハザードに曝される地域に存在する「弱いものの数」だ。なぜ「弱いものの数」が重要か。それは、災害が “弱いものいじめ”だからである。

 最終的に、リスクは「発生時の被害規模×発生確率」となるが、起これば巨大だが、発生頻度の低い巨大地震災害は、結果的に「リスクは大きくない」と評価され、その対策は後回しにされることが多い。

 しかし、リスクの概念で優先順位づけが可能なのは、発災時の被害規模が自力で復旧・復興できる範囲まで。それを越える規模の災害は、国の存続を前提にするならば、事前の被害抑止力を高めて発生する被害量を抑えない限り、事後対応だけでは対処できない。この理解にも災害のスケール感が不可欠である。

 1923年の関東大震災の被害額は、当時の我が国のGDP比40%前後と巨大なものであった。しかし「日本は奇跡の復旧・復興を遂げたので、(今後、巨大地震が起きても)大丈夫」という人がいるが、これは正しい理解ではない。なぜなら、今と当時では時代背景が全く異なるからだ。

 まず、日本の世界経済に対する相対的な影響力が異なる。当時の日本はすさまじい経済発展途上にあったが、現在に比べれば世界経済への影響は小さかった。もう1つは、当時の世界情勢の中で、日本の早急な復旧・復興が重要と考える国々があり、アメリカなどが巨額の資金援助したことだ。しかし、今地震が起きたら、日本は当時と同様な経済的支援を受けられるだろうか。楽観視できる状況でないことは明かだ。国債の発行も現在の国の負債額や低下した格付けなどを考えれば、国民の貯蓄額を考慮しても、問題は多い。だからこそ、事前の被害抑止力を高めるとともに、早く「21世紀型いざ鎌倉システム」を確立すべきだ。

次のページ>> 災害イマジネーションなき「耐震補強支援制度」と「被災者支援制度」

 とはいえ、人間は自分が想像できない事態への適切な備えや対応などは絶対にできない。そこで、スケール感の理解とともに重要になるのが、災害状況の想像力、すなわち「災害イマジネーション」だ。これを首相や首長をはじめとした政治家や行政、研究者やマスコミ、そして一般市民が、それぞれの立場で持つべきだ。

 防災は、「他人事(ひとごと)」をいかに「自分事(わがこと)」にできるかが大切。現在は、災害時に「何が起こるかわからない」、だから「何をすればいいのかわからない」、だから「何もやらない」というスパイラルに陥っている。これを断つために、災害を自分事として捉え、状況を適切に想像する能力、「災害イマジネーション」が不可欠なのだ。人はこの能力が向上すると、現在の自分の防災上の問題が理解でき、地震までの時間を使った防災対策を自然と始め、これを継続する。発災後は時間先取りで状況を認識し、自分が受ける影響を最小化する対応をその都度実施できるようになる。

災害イマジネーションなき
「耐震補強支援制度」と「被災者支援制度」の問題点

――現在、行政が行っている防災対策には災害イマジネーションがあるといえますか。

 残念だが不十分である。防災では「自助」「共助」「公助」が重要だが、基本は「自助」にあり、わが国では自然災害からの自力復興が原則になっている。しかし、防災制度設計においては、近視眼的には一見良さそうだが実際は防災力の向上に貢献しないとか、将来の巨額の公的資金の支出を生むような制度が、「災害イマジネーション」不足によって生み出されている。これでは、納税者に説明責任が果たせないし、被害の軽減にも結びつかない。

 その1つが、自治体が事前に資金を用意して、市民に補強をお願いする現在の「耐震補強支援制度」である。この制度は、耐震補強が必要な建物数(都道府県あたり10万〜100万戸)を考えると、必要な予算額が高額(1000億〜1兆円)になり現実的ではない。この規模の予算を地震の前に用意できる自治体は日本中どこにもない。もし多くの人々が手を挙げたら成立しない制度である。 

 さらに建物の数を限って実施しても、公的資金が導入された耐震補強家屋の品質を、継続的に確認するインセンティブが行政に発生しない「やりっぱなし」の制度であり、「悪徳業者」を生む可能性を高くする。さらに高額の補助金を出す自治体では、市民がなるべく高い資金援助を得るために所得が低くなるまで補強を先送りしたり、高い支援金を見込んだ業者によって、耐震補強費が他地域より著しく高額になる問題が生じている。

 もう1つは兵庫県南部地震の後に設立された「被災者生活再建支援制度」だ。これは自然災害の被災者の生活再建支援を目的としたものだが、再考すべきだ。私は被災地で困っている人を助ける制度を否定しているのではない。この種の制度を考える場合には、同時に事前に自助努力した人が被災した場合に報われる制度を整備しないと、「自助」のインセンティブがなくなり、被害が増大し莫大な公的資金の出費が必要になることに警鐘を鳴らしているのだ。

 この制度は、最初は上限100万円で始まり、その使い道も公的資金の利用原則に従い、個人資産としての被災建物の修復などには利用できなかった。しかし、金額と使途制限に対する反対が現場からあがり、それに対応して額が300万円に増額されるとともに被災建物の修復にも利用できるようになった。これで公的資金の利用原則が破棄され、さらに所得確認の手続きの簡略化のために、所得制限も撤廃された。これで、大規模災害時の財源が全く足りない状況になった。対処すべきスケール感の欠如が生んだ制度設計と言える。

次のページ>> 努力した人は優遇され、本当に弱い人を助ける「目黒の3点セット」


 私は、被災者生活再建支援制度が設立、改訂されていく中で、ずっと言い続けてきたことがある。それは次のようなものだ。
「起こって欲しくはないが、この制度の下で最初に起こる地震災害が数十万棟の全壊・全焼建物を生じるようなものであれば、自助努力を前提条件としない支援制度の問題を多くの人々が認識できるだろう。なぜなら、これが被害抑止に全く貢献しないばかりか、莫大な予算を必要とすることがはっきりするからだ。
 問題は、数百〜数千世帯程度が支援を受ける程度の地震が起こった場合だ。マスコミは支援を受けた被災者に支援制度の感想を尋ねるだろう。支援を受けた被災者は、タックスペイヤーの視点はなく、タックスイーターの視点から、『支援は本当にありがたい。このような制度があって本当に助かった』と涙ながらに答えるだろう。
 マスコミはさらに質問を続ける。『この制度に関して何か要望や意見はありませんか?』支援を受けた被災者は、『300万円はありがたいが、これだけでは不十分だ。何とか増額して欲しい』と答える。このような発言を受けて、マスコミや一般社会、そして政治家はどう対応するだろうか?
 現在の地震学的な環境と地震被害のメカニズムを十分理解した上で、タックペイヤーの視点から適切に発言している人は限られている。残念ではあるが、『もっと増額すべきだ』的発言や世論が出てくることは想像に難くない。被災者が傍らにいて、このような議論になった場合に、この流れを止めるのは容易ではない。だからこそ、今、タックスペイヤーに対して、責任ある説明ができる制度を十分議論しなくてはいけない」

努力した人は優遇され、本当に弱い人を助ける

シンプルな防災支援体制「目黒の3点セット」を
――では、被害を軽減するための建物耐震化を進めつつ、被災者を支援する行政の財政負担を軽くする制度をつくる方法はあるのでしょうか。
 私はこうした問題を解決する制度として、「行政による新しいインセンティブ制度」(公助)、「耐震補強実施者を対象とした共済制度」(共助)、「新しい地震保険」(自助)の3つ、「目黒の3点セット」を提案している。
 我が国では「自力復興の原則」があるにもかかわらず、実際に被災すると、ガレキ処理や仮設住宅建設をはじめとして、行政による各種の公的支援が行われる。その総額は、阪神・淡路大震災の際には、住宅が全壊したケースで最大1400万円/世帯、半壊でも1000万円/世帯の規模である。これらのほとんどは、建物が被災しなければ使う必要のない公費だ。
 そこでまず、「公助」である「行政による新しいインセンティブ制度」は、持ち主が事前に自前で耐震補強して認定を受けた住宅、または耐震診断を受けて補強の必要がないと評価された住宅が、地震で被災した場合に、損傷の程度に応じて行政から優遇支援される制度だ。この制度は、事前に努力した人が被害を受けた時は、努力をしていなかった人より優遇するというシンプルな考え方だ。
 この制度により被災建物数が激減するため、行政は全壊世帯に1000万円を優に越える支援をしてもトータルの出費を大幅に軽減できるうえ、行政が事前に巨額の資金を用意する必要がない。また、行政は事前に契約を交わした物件が将来の地震で被害を受けた際にお金を支払う義務が生じるので、その後のメンテナンスを継続的にチェックするシステムが生まれる。これは社会ストックとしての住宅群の品質管理上、大きな意味を持つとともに、「一発勝負のやりっぱなし」の悪徳業者を排除する。

次のページ>> 家主と行政が共に得する「耐震補強制度」とは

 つまり、地元に責任あるビジネスを提供し、地域の活性化に貢献する。さらに、耐震補強に関して、現在多くの人々が抱える次のような不安を解消し、補強に踏み切る後押しをする。

「耐震改修を行った住宅の耐震性が平均値として向上することはわかるが、安くはない費用をかけて補強した自分の建物の耐震性がどの程度向上したのかよくわからない。しかも、将来の地震時に被災しても誰も補償してくれない」

 政府・財務省は私のこの提案に反対した。公的なお金を“私”の財産の復旧・復興に使うことは公的資金の使途上の問題があるからだ。結局、「入り口の原則論」に終始して、災害の後に発生する巨額の公的出費を大幅に軽減できるというメリットにまで話が及ばなかったが、現在では先に説明した公金を“私”の財産の復旧・復興に使うことができる「被災者生活再建支援制度」が成立している。防災の制度であるにもかかわらず、将来の被害を抑止する効果がゼロ、しかも莫大な公的財源が必要なこの制度と、将来の人的・物的被害を大幅に軽減できるとともに、仮設住宅や復興住宅も不要になり、大幅な公的出費の軽減が実現する提案制度のどちらの防災効果が高いかは自明である。

耐震補強は1平米1万5000円ほどで可能
家主と行政が共に得する「耐震補強制度」とは

 お金の問題を耐震補強が進まない最大の理由のように言っている人たちも多いが、私はこれも正しくないと思っている。耐震補強と無関係なリフォームは、戸建住宅だけでも年間約40万棟、平均350〜400万円のお金をかけて実施されている。耐震補強をリフォームの機会に一緒に行えば、補強分の費用は格段に安くなる。そして提案制度を利用すればいい。

 確かに耐震補強をするキャッシュが手元にない人たちもいるが、その中には土地付き住宅や生命保険を持っている人たちも多い。彼らには、土地や生命保険を担保に、金融機関からお金を借りて耐震補強をしてもらう。しかし翌月からの支払いが難しいので、それを行政が貸し付ける。払い戻しは、世帯主が亡くなった際に担保したものからから払って貰えば、行政の実質的出費はない。放置しておいて建物が崩壊すれば発生する巨額の公的支出が大幅に軽減できるし、借金までして耐震補強した家の持ち主も、被災した場合には優遇支援が受けられる。将来の被害が大幅に減るだけでなく、家の持ち主と行政の両者が大きな得をするこの制度が「行政によるリバースモゲージを活用した耐震補強推進制度」だ。

 賃貸住宅については、家主が耐震改修をした方が得だと思える制度を作るべきだ。たとえば耐震性や耐震補強の実施状況の情報を開示し、質の良いものが高く貸せるようにする。私の調査では耐震補強をした場合、家賃の5〜10%アップを許容する人が全体の3分の2だ。これは耐震補強費が10年で捻出できることを意味する。売買でも同じだ。耐震性の高い建物や土地が高く評価され物流上有利に展開する仕組みが重要だ。不動産売買時の重要説明事項に「耐震性」や「地震に対するリスク」を組み込む制度を考えるべきだ。

 耐震化を進めるには、既に説明した「災害イマジネーション」と「制度」、さらに適切な「技術」が必要だ。「技術」には「補強技術」と「診断技術」があるが、「補強技術」としては高性能であっても高価格では問題解決の決定打にはならない。一方で安すぎてもいけない。施工者に応分な利益が上がることが重要であり、“安ければ安いほどいい”では悪徳業者しか入ってこない。そして、耐震補強前後での性能の違いが簡便かつ高精度に評価できる「診断技術」の整備が重要で、これによって悪徳業者が入り込む余地はなくなる。

次のページ>> 数万円の積み立てで全壊時に1000万円!

 現在の耐震改修費は木造で1平米あたり1万5000円が目安だ。100平米なら150万円。最近ではもっと安い工法も提案されている。自家用車の価格と比較して欲しい。これで長期にわたって家族の生命と財産を守ることができる。自動車を購入する際は、多くの皆さんは強制保険はもちろん、任意保険にも入るだろう。それは間違って事故を起こしたときの悲惨さがイメージできるからだ。しかも巨大地震が頻発する危険性の高い我が国では、耐震補強費と将来の被害軽減額の期待値は自動車保険の期待値に比べてはるかに高く、その値が5〜10倍という地域と物件もざらである。耐震補強は経済的にも得をするということだ。

数万円の積み立てで全壊時に1000万円
新しい「共済制度」と「地震保険」で盤石に

 次に、新しい「共助」として提案しているものが「耐震補強実施者(現行の基準を満たす建物に住む人を含む)を対象としたオールジャパンの共済制度」である。現行の耐震性を満たす建物が被災するのはおおむね震度6以上の場所のわずか数%程度。巨大地震が発生しても、震度6以上の揺れにさらされる地域に存在する建物は 全国の建物の数%以下で、地域内の耐震補強済みの建物が被災する確率は、全国比でせいぜい数百分の1程度だ。

 つまり数百世帯の積み立てで全壊世帯1軒、半壊世帯2、3軒を支援する割合になる。私の試算では、東海地震を対象にすると、耐震補強時に2万円ほどの積み立てを1回するだけで全壊時に1000万円、半壊時に300万円の支援を受けることができる共済制度が成立する。東海・東南海・南海の連動地震を想定しても、耐震補強時に4〜5万円程度の積み立てを1回だけすれば、同様の支援を受けられる。

 ところが耐震補強を前提にしない現行の共済制度では、地震時に被災するのは脆弱な建物なので、自助努力した人から集めたお金が努力していない人に流れるだけで、耐震補強へのインセンティブを削ぐ。しかも補強を前提にしていないために被災建物数が多くなり、十分な積立ても難しい。

 最後の「自助」は「新しい地震保険」である。耐震補強済みの住宅が揺れによって壊れる可能性は著しく低い。また既に説明した公助と共助の制度から、揺れで被災した場合には建物の再建に十分な2000〜3000万円という支援が得られる。問題は震後火災だ。そこで私の提案する「新しい地震保険」は、揺れによる被害を免責にする地震保険で、揺れには耐えて残ったが、その後の火災で被災した場合に役立つ保険だ。 

 全壊率と初期出火率は比例する。全壊すると初期消火が難しくなるので延焼確率はさらに上がる。建物の耐震性が高まると初期消火活動の条件が向上するので、延焼火災数は大幅に減少する。これらの条件を考慮して保険を設計すると、揺れによる被災建物を免責にした場合の補償対象建物数は、簡単に100分の1程度、すなわち年間10万円の保険料が1000円になる。これならば地震保険の割高感もなくなるし、火災保険の30〜50%という地震保険の補償制限も撤廃できる。

 今まで紹介した一連の制度を「弱者切り捨ての制度」と言う人がいるが、それは全くの誤解で、むしろ逆だ。我が国が直面している現在の地震危険度と想定される被害の規模を考えると、今求められる制度は、「国民1人ひとりが事前の努力でトータルとしての被害を減らすしくみを作った上で、努力したにもかかわらず被災した場合に手厚いケアをする制度」である。このような制度で、被害を大幅に減らさないと、本当に弱い人を助けることができない状況であることを是非理解していただきたい。


質問1 あなたの家は、耐震補強工事済みですか?
工事済み
これから行う予定
工事をするか迷っている
工事の予定はない
わからない  

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コメント
 
01. 2012年3月21日 18:06:25 : 5Tq3sGBBZA
こういった議論に抜けているのが、今の建築物が本当に安全な所に建っているのかという事である。
人間が埋め立てた土地に家を建てるとコストがかかるのである。今更いっても仕方ないのであるが、自然の地形を生かした土地活用が大事なのである。人工の土地はコストがかかるものである。もっと、地方にある良い土地に分散して住めば、100兆円超のコストは要らなかったはずである。
国の設計を合理的に行わなかった付けがが回ってきた。
自然を生かして生きるという事を見直す時期である。

02. taked4700 2012年3月23日 09:44:21 : 9XFNe/BiX575U : w4xoHT8Nic
もうひとつは首都機能移転です。地震に強い街の基本は空間があることです。家と家、ビルとビルの間に空間があり、ひとつの建物が壊れても他の建物に影響を及ぼさないという街づくりです。首都機能移転をもっと大規模にして、余裕のある街づくりをすることです。しかし、地価が下がるとか固定資産税が減るなどの問題が意識され、ほとんど行われていないのが実情です。

考えていただきたいのは、今度起こる首都地震の結果、大規模に日本社会全体の衰退が始まることがほぼ確実であることです。地価が下がるとか固定資産税が減るというような東京とか首都圏だけに固有な問題ではなく、日本全体が沈没することになるはずです。

ロシアがソ連崩壊後ひどい社会混乱に陥り、今はかなり回復しましたが、日本はまったく異なります。
1.ロシアは資源が豊富にありました。石油や天然ガスです。それらを外資を導入することによって開発し、それによって経済開発が可能でした。
2.日本は地熱資源が豊富ですがこれは輸出できるものでは基本的にありません。あくまで国内産業での利用を前提にするものです。工業や農業と言った国内産業基盤が壊れてしまえばいくら地熱資源があってもたいした恩恵は生み出さないのです。
3.ロシアはあまり高齢化が進んではいませんでした。また、社会保障制度も大して充実はしていず、そういったコストが余りありませんでした。また、共産党支配が崩壊したおかげでそれまでの既得権益層が崩壊し、大胆に社会の仕組みを組み替えることが可能でした。
4.日本は既得権益層ががちがちに固まっていて、社会の産業構造の転換さえなかなか出来ません。少子高齢化の傾向も変わりようがなく、今後ますますひどくなるはずです。

首都崩壊がきっかけになって経済悪化が始まり、悪性のインフレ、巣他ふぐレーションになるのは火を見るよりも明らかです。そうなれば地価の下落も固定資産税の減少も話にならないほど大規模になり、おまけに全国的な経済の落ち込みは首都圏以外の地域にも大きな悪影響を与えてしまいます。

こういったときには政治家、国政レベルの政治家と中央官僚がきちんと動くべきですが、どうも将来ビジョンをきちんと打ち出すことが出来ていません。

首都機能の移転を大規模に行い、人口の分散をすることです。このためには地方での地熱発電開発がとてもいい効果を発揮するはずです。地域冷暖房を実現したコンパクトシティが実現できれば、日本は将来の少子高齢化社会を幸せに過ごすための見本となることが出来るでしょう。


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