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人は興奮すると、とんでもない行動をとる 大地震いちばん怖いのは「パニック心理」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31900
2012年03月11日(日)週刊現代 :現代ビジネス
満員電車の中で大地震に遭遇。誰か一人が「窓を破って逃げろ!」と叫んだ瞬間に、車内はパニック。我先にと窓側に殺到した人々が押し重なり、圧死する人が続出。げに恐ろしいのは判断力を失った人間だ。
■凍りつき症候群
「大地震が起きたとき、倒れてきそうな家具などない寝室にいたんですが、私は反射的に『とにかく安全な所に逃げなきゃ!』という考えで頭がいっぱいになったんです。
そばで寝ていた1歳の子供を抱いて慌てて部屋を出ようとしたら、親子ともども転んでしまった。子供はタンコブをつくって大泣きするし、どうしていいのかわからず、同じ部屋を出たり入ったりしました。
その後、財布も持たず、肌寒いのに上着も着ないで近くの公園に駆けつけると、そこには私と同じく上着を羽織らず、裸足にサンダル姿で飛び出してきた人が大勢いたんですよ」
漫画家の倉田真由美氏は、昨年3月11日の「パニック体験」 をこう回想する。
火災や建物倒壊、液状化、津波など様々な災害を引き起こす大地震。だが、それ以上に恐ろしいのは、そこで人間の側に生じる「パニック心理」である。
倉田氏が語るように、突然の大災害に直面すると、人間は興奮して突拍子もない行動をとる。たとえば以下のような事例だ。
【事例1】岩手県釜石市にある海沿いのホテルでサウナに入っているとき、東日本大震災に遭遇した。恐怖のあまり、素っ裸で、自分の車に飛び乗り、運転して逃げ出した。我先に逃げたから津波に呑まれずに生き延びたが、服を着てから逃げた人がどうなったかは知らない(59歳・男性)
【事例2】深夜2時頃、息苦しさで目覚めると、部屋中に古い扇風機から出た煙が充満していた。妻を起こして「逃げろ!」と叫んだところで記憶がなくなり、次に気付いたときは、なぜかリビングにあった木彫りの熊の置物だけを持って外に出ていた。足には小学生の娘の運動靴を履いていた(50歳・男性)
突発的な事態に際して、無意識に行動するのとは逆に、動きが鈍くなってしまう「凍りつき症候群」に襲われる人もいる。防災・危機管理アドバイザーの山村武彦氏が解説する。
「3・11で津波が迫っているのにもかかわらず、ゆっくり歩いている人がいた。その中で奇跡的に助かった人に、『なぜ、走らなかったのか』と聞いたところ、『走っているつもりでした』と答えている。要するに足が前に進まなかったということで、これが凍りつき症候群です。様々な情報処理機能を司る脳が、過去に同様の事例がないために適切な決断ができず、身体に指示が届かなくなる」
【事例3】3・11の直後、都内のホテルに行くと、スーツ姿のサラリーマンが床にペタンと座り込んだまま呆然としているのが目についた(42歳・男性)
■奇声をきっかけに暴徒と化す
しかし、こうした個人レベルでのパニック心理以上に怖いのは、それが周囲に伝染して集団パニックが起きるときである。
「'03年、米・シカゴのナイトクラブでの出来事ですが、混雑した店内で喧嘩を止めようと警備員が催涙ガスを撒いた。すると、クラブにいた数百人の客が一斉に出口に殺到したために折り重なって次々と転倒、結果的に20人以上が窒息などで死亡してしまいました。人々に9・11の記憶がまだ残っていたことが、恐怖をあおり、パニックの引き金となったようです」(災害社会学を専門とする日本大学教授の中森広道氏)
東京大学教授の西成活裕氏は、「パニックの恐ろしさというのは、その連鎖がいきなり起こるところにある」と言う。
「パニックは身の危険を感じた誰か一人が奇声をあげたのをきっかけに起きることが多い。極度の緊張状態では、極端な話、手をパンと叩いただけで一気にパニックの連鎖が起きます。平常心を保てるギリギリの状態にある集団がその危険性が高いのです」(西成氏)
パニックが一度起きてしまうと、冷静な判断を下せる人でもその渦に巻き込まれ、歯止めが効かなくなってしまう。
「突発的な事象に対する不安≠ェ過ぎてしまい、脳の前頭葉への情報が遮断されて正常な理性が働かないのがパニック状態。頭の中が真っ白になるという言葉がありますが、周りから何を言われても、前頭葉が情報を受け入れることも判断することも拒絶してしまっている状況を指します」(脳科学者の澤口俊之氏)
社会心理学者で、新潟青陵大学大学院教授の碓井真史氏が注意を促す。
「東日本大震災で新宿や渋谷の駅前に殺到した人々などは非常に暗示にかかりやすい状態にある。そんなときに、たったひとりが『安全だ』と判断して逃げ出した方向に、その場にいる全員が盲目的になだれ込んでいったとしたら、非常に危険な状態になります」
こうして起こり得るのが、「群衆なだれ」である。
【事例4】'10年3月、竹下通りにジャニーズのタレントが来るという噂が流れて、身動きできないほど人々が殺到、怪我人が救急車で運ばれた。実際、噂はデマだった(東京都渋谷区)
「群衆なだれ」に加えて、群れを成す危険を示した少々残酷な心理学実験を紹介しよう。
出口が1ヵ所しかない金網かごに1匹のネズミを入れ、その下から火を点ける。もちろん、ネズミは必死に出口を探して助かる。次にその経験をさせたネズミを、他のネズミと混ぜて火を点けると、経験済みのネズミが最初に出口から脱出するのを見るので、他のネズミも脱出できる。つまり、経験豊かなリーダーがパニックを解消するわけだ。
ところが、かごに入れるネズミの数を大量に増やすと、リーダーのネズミは悶えて暴れ回る他のネズミたちに邪魔されて、出口まで辿り着けない。結果、ネズミたちは1匹残らず焼け死んでしまった---。
ネズミと違って、人間は言葉を用いて情報を伝達できるものの、パニックの状態でそれが難しいことは、既に述べた事例からも明らかである。満員電車内など人が密集した場所では、この「逃走パニック」が起こる危険性が高い。
【事例5】3・11直後、津波から逃れようと多数の自動車が、渋滞多発地点で有名な五差路に押しかけて立ち往生し、津波に呑まれた(宮城県名取市閖上地区)
かといって、人々が密集しない場所ならパニックから逃れられるかといえば、残念ながら答えは否だ。人が少なければ、それだけ物資が行き届かなくなる可能性が高い。そうなると今度は少ない物資を人々が求める「獲得パニック」が起きるからである。
「厳密な定義では、『限られた脱出路もしくは限られた資源に、複数の人が集合的に向かっていく行動』をパニックと呼びます。それには『逃走パニック』と『獲得パニック』があって、前者は人が密集する場所で災害が発生し、一斉に限られた脱出路に向かう状態。後者は、銀行が危ないと聞いた預金者たちが、預金を下ろそうと窓口に詰めかけたり、物資の買い占めに走ったりする状態です」(東洋大学准教授の関谷直也氏)
【事例6】3・11直後、ミネラルウォーターを買いに自動販売機へ走ると、そこで次々に購入していた30代女性が、私に向かって『全部買うから並んでも無駄!』と言う。『せめて、2本だけでも売ってもらえませんか』と頼んだが、『ほしけりゃ、腕ずくで取ってみろ!』と大声を上げたので、私も思わずカーッとなり、その場で胸ぐらを掴む罵り合いになった(51歳・女性)
パニックは、予想外の事態に置かれた誰にでも迫り来るのである。
■自分は平気、そういう人ほど
ところで、パニックになりそうな状況に置かれたとき、パニックに陥りやすい人、陥りにくい人の違いはあるのだろうか。
「たとえば、『俺は人を全く信用していない』と公言する人と、『そんなに悪い人はいないよ』と言う人では、どちらがパニックになりやすいと思いますか?
実は前者なんです。後者は客観的な目をもっているのに対し、前者は一度何かを信じてしまうと騙されやすい。彼らは地震が来ると思い込んだら最後、必要以上に怖がり、少しの揺れに過敏に反応して、次第に危険な揺れとそうでない揺れの区別ができなくなり、パニックを起こすのです」(精神科医の和田秀樹氏)
他方、精神科医の香山リカ氏は次のように考える。
「神経質で傷つきやすい人、人間関係がうまくつくれず周囲と孤立しているような人は、想定外の場面でパニックを起こしやすい。また、『いざ、地震がきたら何をしたって無駄』と言う人は、心の中では『自分だけは死なないだろう』と思っている。つまり、本当は強い不安や恐怖を抱えているのに、現実から目を背けて心の防衛を優先し、虚勢を張っている。このタイプが最もパニックになる」
逆に、パニックになりにくい人はどうか。
「子供の頃から、円滑な親子関係、周囲とのコミュニケーション能力を養ってきた人は、概してパニックになりにくい。また、子供や部下を守らなきゃ、といったように強い使命感を持っている人。職業で言えば、消防士や介護施設のスタッフなどです」(前出・香山氏)
大地震は来る。そのときのパニックに負けないため、どう備えればよいのか。
社会学者の加藤諦三氏はパニックを受け入れよと指摘する。
「お金持ちかどうか、男性か女性か、優秀な学校を出たかなどはほとんど関係ないでしょう。パニックになりにくい人は、人生の課題、心の問題をきちんとこなしてきた人です。ただし、人は誰でも平常心を超えればパニックになるんですよ。むしろ、自分はきっとパニックを起こすだろうと認識していたほうが、危機的状況でもかえって物事を冷静に考えたり、客観的に見たりすることができます」
前出の山村氏によれば、結局のところ、覚悟する≠アとに尽きるという。
「日本は、世界で起きる大きな地震の実に20%が起きている災害列島です。いつでもどこでも安全な場所などないと意識し、そんな宿命を持つ国で生きていくリスクを覚悟したうえで、いかに震災に対処するかですよ。風呂場や台所、電車内などで、今この場所で地震が起きたらどう行動するかというシミュレーションをやることが大事でしょう」
大地震に対する意識と知識の蓄えこそが、わが身を救うのである。
「週刊現代」2012年3月3日号より
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