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NHKラジオ深夜便で今年の元旦に放送された「現代アートで時代を変える」(前半)の再放送をたまたま目が覚めて聞いていた。「現代アーティスト」の村上隆氏が1998年に制作したフィギュア作品「My Lonesome Cowboy」が、2008年にニューヨークのサザビーズオークションで、桁外れの金額1516万1000ドル(約16億円)で落札されたそうだ。全く知らなかった。落札の巨額金額で目が覚めてしまった。インターネットで検索したら、「My Lonesome Cowboy」は全裸の青年が左手で男性器をにぎり、その先から放出された白い液体がカウボーイの輪投げのようになっているフィギュアだった。
同氏は美少女やキャラクターモノなど、アニメの題材を現代アートに持ち込み、国内では型破りの活動が物議を醸しているようだ。「既成文化の盗作に過ぎない」「アニメの模倣ばかりでオリジナル要素が薄い」「なにが秀でているのかサッパリわからない」などの批評が多い。しかし、海外のオークションでは落札価格が巨額であった。この落札以前に、2002年自分の母乳で縄跳びをしている美少女フィギュア「HIROPON」が約5000万円(ニューヨークオークションのクリスティーズ)、2003年ウェイトレスの格好をした等身大の美少女フィギュア「Miss Ko2(KoKo)」が約6800万円(同クリスティーズ)で落札されている。
オークションで落札された物品の金額と単純に比較すると、運慶作「木造大日如来坐像」…約12億5000万円、ルノワール「髪かざり」…約11億円、「マグナカルタの写本」…約24億円などがある。堂々たる金額だ。2008年版タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた日本人2人の1人だが、海外と国内での評価に大きなギャップがある。その時のもう1人が去年ノーベル賞を受賞したiPS細胞研究の京都大学教授・山中伸弥氏である。
村上隆氏の略歴は:
1962年(昭和37年)生まれ。東京都出身
東京藝術大学美術学部日本画科卒業 博士号 (美術/日本画)
芸術イベント『GEISAI』プロジェクトのチェアマンを務め、アーティスト集団『カイカイ・キキ(Kaikai Kiki)』を主宰し、若手アーティストのプロデュースを行う。『カイカイ・キキ』は、アメリカのニューヨークにも版権を管理するエージェントオフィスをもつそうだ。
村上隆氏の売り込み(営業)の巧みさである。かつて日本では風俗画にすぎなかった浮世絵をゴッホやマネ、ルノアールなど印象派の画家たちがこぞって吸収した事をじっと見ている。「日本画」を志した経験を生かし、日本アニメがなぜ売れるのかを分析し、日本人を度外視して、潤沢な資金を持ち何に投資しようかと考えている(外国)人に彼自身が「なぜ私の作品が?」を説明している。彼らは投資先を求めるが故に「聞く耳」を持っている。
村上氏の一連の発言から、1.マーケテットを分析し、2.自ら仕掛け、3.どのように作品を作っているかが垣間見える。
1.マーケティングのための分析
「富岳三十六景は芸術ではなくポスターだったが陶器の包装で海外に出て評価された」
「洋画の手法で日本画を書き、海外で評価された藤田嗣治は、日本では無理解と嫉妬で迫害された」
「アーティストはマーケットがあって、プレイヤーがいて、形作られる。日本は違う」
「ピカソやウォーホールのマネージメントやイメージ作りなどを自分の参考にしている」
「マンガと芸術ではマンガの方が正道。マンガは啓蒙しないと世界の芸術にならない」
「アニメ文化は誰かが体系化しないと、日本の文化として生き残れない」
「サッカーのゴールは決めたら誰にでも分かる。でも、アートはそうじゃない」
2.仕掛け
「交渉の方が得意」
「情報を持たない海外では、分かりやすい“サビ”部分を繰り返する仕掛けが必要」
「面白がって評価してくれる外国人」
「ものの価値は偶然で決まるけど、偶然だけで決まっている訳じゃない」
「16億円の評価は偶然。モネは高額であるがその価値は有名であることが大きい」
「百年後、『国の宝になります』と忠告する人がいて、16億で売れる」
3.自身の作品に対しての姿勢
「ファンタジスタみたいに技術を磨いてフィールドに立ってゴールを狙ってる」
「マイノリティとかセクシャリティとか色々なゴールがある。そんなゴールを狙っている」.
「珍妙なゴールを決め続けている。あんなゴールばっかり決めてる選手が僕」.
「人のネタで商売して、オタクを搾取してるって毎日毎日言われてます」
「フィギュアは六体しか作ってない」
「僕は抽象画が専門。dob君も抽象」
「自分が無力であると言う絶望。社会に何の力も無いという絶望の共有が、芸術の役目なんじゃないだろうか」
「この世は理不尽で不幸なものである。でも、それで諦めちゃいけない。今は、不幸を感じにくい奇跡的な時代。でも、それを忘れちゃいけないし、ふとした瞬間に口を開く」
「芸術の大事な部分は衝突と破壊、そして再生。衝突と破壊の時に迫害される。でも百年後には理解される。」.
村上氏が自分の作品に破格の値をつけさせた手腕は注目に値する(「交渉の方が得意」)。いろいろ物議をまき起こす作品で仕掛けたのもマーケティングの一環である。自分の活動範囲の中で、いま世界で最も資金が潤沢な場所に狙いを定めて、「マーケティング」中心の商業主義を逆手にとり、いろいろな仕掛けをしているように映る。
村上氏は現代美術の世界で成功できたのであろうか?自分の作品を巧みなマーケティングで商業の場に持ち出し、金銭の価値をつけて、注目を浴びたところまでは成功した。村上氏の目論見どおりに、現代美術愛好家たちに本当に永続的な価値観を持たせ続けさせるができるのだろうか?これからが正念場だと思う。「オタク」たちが愛する美少女フィギュアやアニメは渾沌とした日本人の心具現化であるのかもしれない。村上氏はそれも含めて壮大な実験を愉しんでいるように思える。
矢津陌生ブログ http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-339.html より転載
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