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「日本」論(網野善彦/著)を読んで 
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投稿者 矢津陌生 日時 2012 年 12 月 18 日 14:41:49: fqfGCq6zf5Uas
 

この本は、講談社の『日本の歴史』全26巻の第00巻として書かれ、「『日本』という国号は、いつどのようにして決まったのか。その根拠は何か。『日本は均質で、孤立した島国』なのか。『日本は農業社会で、百姓はすべて農民』なのか。これまでの国家像・国民像を検証し直し、その虚構を覆す。『百姓』の多様な生業、海民の実態、琉球、アイヌとの結びつき、東と西の地域的差異と交流など、東アジア世界に開かれた日本列島の多様性をダイナミックに提示」するのが意図である。

著者は、「日本」について『東と西の語る日本の古代史』や『日本論の視座』などの議論を提示してきた。展開される「日本」観は一貫して、「日本列島が一つである」という発想を批判する。日本は単一民族ではないということを次のように強調する。
「あらためて強調しておきたいのは、『日本人』という語は日本国の国制の下にある人間集団をさす言葉であり、この言葉の意味はそれ以上でも以下でもないということである。」(p.87)「はるか昔から日本列島には日本民族と称すべき民族が住んでいた」ということはあり得ないと説いた。当たり前である。

氏の主張は、日本史の教科書に書かれている「日本人の起源」という発想方法を否定する。一例をあげると「聖徳太子は倭人であり、日本国の成立以前であるから厳密には日本人ではない」という。その背後にあるの「日本」と呼ばれる国には成立した過程があり、「日本」という孤立した島国はない。また、「日本人」は国の成立後にその概念ができたものであり、決して均質ではないのである。

「日本人は単一どころか、近畿人・北九州人と朝鮮半島人とは強い親近性を持つことになり、その差異は関東人と近畿人の差異よりも小さいことになるのである。」(p.41)さらに、列島社会の交易を軸に辿ることで、北方、南島との交流をひろいあげ、海を中心とした人々の広がりを見いだすことができる。水田の稲作はこの海のルート抜きにはでは考えにくい。半島から伝わったにしても、半島に持ち込んだのは海に漕ぎ出した人達である。交易も船なしでは人や物の往来はあり得ない。

百姓=農民と安易に読み替えられてしまう状況は、日本が農業国であり、人口の90パーセントが農民だという「定説=思い込み」が背景にある。史料と実地での調査では百姓と区分けされた家が農業ではなく魚の商売をしていたという事実も分かり、農業を営むのに難しい場所で多くの人が百姓と区分けされている例もあり、多様な生業に従事する人たちが百姓(=農民)となっていることも突き止めた。

こうした事例をさまざまに収集して、「日本」が古くから続いてきたかのような錯覚を排し、日本社会の豊かな多様性を取り上げ、これまで省みられなかったものまで見直そうと言うことである。「貧しい漁村」という通念と「へんぴで貧困な山奥の村」のイメージが海と山の豊かさを過小評価し、「瑞穂国」の稲作文化により高い価値を置くのは偏見であると主張する。

日本列島と同じような地理のブリテン島(イギリス)には、ヨーロッパ大陸から度重なる異民族の侵入があった。その度に先住民と戦い、殺戮、追放、同化を繰り返した。「イベリア人」の侵入(BC3000頃)を始め、順に「ビーカー人」(BC2400年頃)、「ケルト人」(BC700年頃)、「ローマ人」(BC54年ローマ属領)、「サクソン人」(400年前後)、「アングル人、ジュート人」(5世紀の半ば)、「ノルマン人」(1066年)、最後はウィンザー家(ザクセン=コーブルク=ゴータ家のドイツ名を変更)がイギリス王家になった。

実際に、日本列島を含む広域の東アジアでは漢の安定期を除き戦国時代から隋・唐による統一までは、中国大陸と韓半島には多くの民族が入り乱れていた。当然、日本列島に住む人々にも大きく影響を与えたと考えられる。今の日本人の顔を見ても、縄文系や弥生系に限らず、南アジア系の顔も多い。秋田美人はコーカサス系が入っていると思えるような顔立だ。大和王朝の歴史だけとは考えにくい。錯綜する人の流れがあって当然だと思う。

資料の点検とその手堅い検証方法には、歴史学者の第一人者の厚みがある。著者の調べる資料の膨大な量とその質の高さには圧倒される。

矢津陌生ブログ http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-262.html より転載
 

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コメント
 
01. 2012年12月18日 20:46:37 : 1liPNQArpw
網野善彦氏の「日本列島が一つではない」という願望をもとにして仮説に仮説を重ねてこしらえた本でしょう。その物言いをみていると旧来の定説を覆したいというルサンチマンの風さえあります。

ますます、こんな物言いが増えてきて残念な世の中だと思います。
国の根っこは、コトバです。
他所には多言語な国家がざらにありますから、それが標準だと勝手に思わせられていますが、本質的には同一言語を使うから一つのクニなのです。
なぜ、多言語な国家があるのかは、人間は欲深い生き物だから、自分たちの利益を守る為に、異なる言語集団でも国家という仮想のナワバリをこしらえているに過ぎません。

注意しなければなりません。
特に、外来の思想(その中には漢字や漢字と共に伝来した文化も含みます)に浸食され続けてきた結果、日本という国はまぼろしだと、漢字や朝鮮系の文化人が来てから日本は始まったのだ‥としたい方々がたくさん出て来ているようです。

しかし、日本は、大陸から漢字がやってくる遥か前から、日本語つまり‥ヤマト言葉を喋っていたということをよくよく考えるべきでしょうね。
あと、アイヌの方は、実際にその方たちに会って聞いてみたらわかりますが、彼らは自分たちが日本語文化圏に対しては異民族であると思っていますよ。

言葉は国をなすという事の深い意味を考えたらいいと思います。
特に、日本語以外も日本だと言い出すものや、「日本」という語の成り立ちが最近だから、日本そのものも新しいなどと言い出すような、誘導も激しいものには注意した方がいい。


02. 矢津陌生 2012年12月19日 17:12:48 : fqfGCq6zf5Uas : GlxJVggAm6
>01.さま
コメントありがとうございます。
しかし、情緒的で神秘的に感じてしまうコメントで、わたしには意味の理解できない部分が多々あります。できれば下記をご説明願いますでしょうか?

「『日本列島が一つではない』という願望」?
どこが「仮説に仮説を重ねて」いるのでしょうか?
「国の根っこは、コトバ」?
「本質的には同一言語を使うから一つのクニ」?
「なぜ、多言語な国家があるのかは、人間は欲深い生き物だから、自分たちの利益を守る為に、異なる言語集団でも国家という仮想のナワバリをこしらえている」?
「外来の思想(漢字や漢字と共に伝来した文化も含む)に浸食され続けてきた結果、日本という国はまぼろしだと、漢字や朝鮮系の文化人が来てから日本は始まった」?
「日本は、大陸から漢字がやってくる遥か前から、日本語つまり‥ヤマト言葉を喋っていた」?
「アイヌの方は(中略)異民族であると思っていますよ。」は何が言いたいのでしょうか?
「言葉は国をなすという事の深い意味」?
「日本語以外も日本だと言い出すもの」?
「日本という語の成り立ちが最近だから、日本そのものも新しい」?

よろしくお願いします。


03. 2012年12月19日 18:00:58 : Zs4hKV2AgY
>矢津陌生さま

10年以上前ですが、当該図書を読む機会があり、その優れた視点と論理展開は同氏の甥である中沢新一とは月とスッポンで(研究領域は異なりますが)、甥には生涯足許にも及ばない巨大な学究泰斗であると、大きな感銘を受けました。

中国大陸の方向から見た日本列島の写真では日本海が内海の様になっており、当写真に付して、日本とは?という問い掛けをしている著者を時折見かけますが、その様な発想と視点を持ち得ない人達には当該図書の意図するところは判りにくいかもしれません。同様に、ことばに関しても、ことばは変化・変遷するものであることは自明の理であり、近視眼的な歴史の範囲を元にした理解は誤った方向に導かれるだけです。

ことばは人類を超えて他の生物にも及び、また現代では、量子力学やカオス・複雑系を取り込んだ超巨大な領域で、その視点から日本列島に住み着いた者達の生活について推理を重ねるのは、いつも愉しいものです。


04. 2012年12月30日 03:13:50 : AiChp2veWo
学者の記すものは読んでもまず頭からは信用しない。今の日本国は、パンゲアの移動分裂する悠久の太古、神の定めし清浄の国土であったが、外(害)国の輩が侵入し、特に明治より国土は汚され尽くされていった。この国には神国人しか住めないものの現状は日本人の心が外(害)国化されつつあることから、来年の大変乱を控えて、今後の日本の行く末には大いに憂慮する。参考に、米国スミソニアン博物館から指摘のあった、バルデイビア遺跡から発掘された縄文時代の土器は、一旦否定されたが、後に、青森からしか取れない土質であると発表されている。また、日本をいかにしても多民族国家だと訴えたい人物たちが散見されるが、実際は非常に単一的と記す著者がいる。自国をもし他民族による構成であると何ゆえか言いたいのであれば、米国はいかに。かの国は、多数の部族が住み分けていたインディアンの国であるが、わずか数百年前から白人が侵入してインディアンを騙し殺戮してヨーロッパの王侯貴族とアシュケナジーが牛耳り今日に至っている国家であるが、一目瞭然、目の色、肌の色の違う多くの人種がアメリカ人と胸を張って生きているのが現代アメリカである。もしこの国と日本国を同列に分析することがあればそれは噴飯物であるが、自国の成り立ちを妙な分析で表現するなら、誇りをもってアメリカ人だと一般の人々が言う米国はいかがか。知人の家系は、事実奈良時代に遡り郷土史にも現されているが、地方に行けば何十代も遡れる家族は意外に多い。自国、祖国というものは全く誇りをもって当然である。無論、かの国のように自国の歴史を創造するなどは以ての外であるが、家族、祖国を大切にするのは当たり前のことである。言葉で言えば、ヨーロッパイスラム圏でも、征服した側の言語が征服された側の言語となり行くが、日本人を、中国大陸人や朝鮮半島人の渡来侵入により日本国は出来上がったとの説を言う人は、日本が日本語を今も話していることをどう思うのだろう。ある国土に侵入渡来した民族が王朝を樹立したなら、堂々と自国の言葉を話せばよいのにそうはなっていない。中国大陸も半島も人種的変遷が大いにあるが・・。知っているフイリッピンの人は、英語を話すし土着言語も話す。日本人は違う。日本国は世界に比しても最も古く貴い歴史をもちスメラミコトを拝して今日に至っていることに重大なる誇りと「責任感」を感じているが、それを以ってして他国を卑下する心などまったく持っていない。他国や他部族にはそれぞれの貴い歴史があり、尊重すべきものと思う。盲目的な狂信などでは全くなく、きたるべき平成25年は皇紀2673年であること、そこに縄文一万年の悠久の歴史がある。この年月を心から尊重している。追伸としてチベット人の日本人との共通性やインドのある地方に残る日本語の形跡など興味あるものとして二十年ほど以前にテレビや書物で知ったがなかなか大切な事象である。

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