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「カーネーション」作者、渡辺あやさんの講演―「作ること 学ぶこと」―を聴いてきた。
http://www.asyura2.com/12/idletalk40/msg/176.html
投稿者 gataro 日時 2012 年 8 月 20 日 11:18:35: KbIx4LOvH6Ccw
 


全教主催の「教育のつどい2012in兵庫」が8月17日〜19日の日程で開かれた。初日、17日は午後から神戸三宮の国際会館で全体会(参加費は3日間共通で1000円)。右翼の妨害行動に備えて地下鉄「花時計前」改札口横にある地下入り口からだけに入場が限られていた。街宣車が喧しくがなりたてるなか無事入場。お目当ては、NHK朝ドラ「カーネーション」の作者である脚本家渡辺あやさんの講演である。

渡辺あやさんは大勢の前での講演は苦手と感じて、これまで申し出があっても断って来られたらしい。お話を聞いて確かに講演は不慣れだなと感じたが、だがそれがまた内容に合った語り口になって効果的だった。

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 私のプロフィール

 ほとんど講演を断ってきた私が今回引き受けたのは、聞いて下さる方が私の話を補ってくださると思えたからです。私は、脚本家であり、島根にすむ二児の母でもあります。日本がバブルのころに学生時代を過ごし、卒業して就職。そこで主人と出会い、主人の仕事の関係でドイツのハンブルグで4年間本当に楽しく過ごしました。ところが、主人が家業を継ぐことになり、島根の田舎で赤ちゃんと二人の生活をすることになりました。その生活が楽しくなく、めそめそしている生活を卒業したいと思い、物語を作り始めました。さらに、作品を人に見てもらいたくなり、岩井俊二監督に見てもらいました。

厳しいコメントでへこむこともありましたが、面白さに目覚めた私はそのコメントにくらいつき、プロの脚本家をめざしました。それから9年。脚本家と家庭生活を今も両立させています。

 父の謎

 私の父は小学校の教師をしていました。父は、変わった人で、あの人が小学校の教師かと思えるほど、大人としても父としてもダメな人でした。そんな父が、教師としては優れていて、子どもにも保護者にも慕われていたのです。私には、そこが父の謎でした。

 父は、急に学校に行かなくなり、長い時には三か月も休みました。家でごろごろ寝ころんで酒ばかり呑んでいるのです。そんな父にもかかわらず、子どもも保護者も学校に戻ってほしいと望み、退職し10年たっても挨拶に保護者や子どもたちが家に来るのです。

 父が担任すると、子どもたちが生き生きしだし、日を輝かせるのです。他の先生が父に方法を尋ねても、何を言っているかさっぱりわからない。まるで長嶋茂雄のようなのです。父の教え子がしっかり手を挙げているのを見て、どうしたらいいかと尋ねたら、「小指を見せて」といえばよいといったそうです。しかし、他の人が同じことをしても、うまくはいきません。そこまでいくには、その前に父と子どもたちとの間に何かあったはずです。父は、「担任して3日以内に子どもの声と顔を覚えないと、1年間ぐだぐだになる。」といっていました。それには、相当の努力があったはずです。その父の理想と現実に無理が生じ、学校に行かなくなるということも起きたのでしょう。

私の場合、お客は初めから見るつもりですから集中してくださるし、美男美女を配置したりするなど、さまぎまな工夫もできます。それに対して、子どもは集中したいとも思っていませんし、まして勉強ですから、父も含め先生は優れたエンタテイナーだと思います。

 「その町のこども」が父に受けたわけ

 父は、水戸黄門のような筋がはっきりしたものしか見ない人でした。その父が、私が2010年に作った「その町の子ども」という阪神淡路大震災を題材にした作品に反応し、DVDを何回も見るのです。どうして父にヒットしたのか、理由がわからなかったのです。森山未来さんと佐藤江梨子さん演じる二人が、1月16日夕方に新神戸駅で出会い、街を歩きながらお話しするというものです。ドキュメンタリーのカメラマンが撮影し、二人にはセリフが聞こえにくくてもいいから、自分本人でいてほしいといいました。父も、生の子どもを相手にしていましたから、この作品を芝居っぽくせず生っぼいものにしたところに、響くものがあったのではないかと思います。

 人の生きる力になる作品を作りたい

 父もそうであったように、私も人の役に立つ・人の生きる力になる作品を作りたいと思っています。まず、そんな力がドラマにあるのかということですが、2007年「天然コケッコー」を見て、風邪をひいていたけれど体調がよくなったという人が何人もいました。その時、ゆったりとした作品は2時間見ることで体調にも影響すると確信したのです。これは逆に怖いことでもあります。どんな作品が人に生きる力につながるかはとても難しいことだからです。太っている人に、「太っていないよ」といえば、太っている人を悪くいうことにもなります。傷つけることにもなります。

 カーネーションという1回15分、40時間の作品を作るときに考えたのは、正直な作り方をしようということです。そのことで感じが悪くなっても、視聴者に怒られてもそうしようと思いました。理由があったわけでなく、直感的にそう思いました。不自然な解決に向かうと淋しいし、へんに変わると裏切られたと思うし、嘘に触れると傷つくものです。広告もそうですし、政治家の話もそうです。ですから、自分が作るときは正直でありたいと思ったのです。立派でなくても嘘をつかない作品にしたかったのです。

 上手な整体師はツボから少しずれたところを押すそうです。そうすると、患者のほうが体を動かして、整体師の指をツボに持っていくそうです。作品で自分の考えを視聴者に届けるときも、相手が取りに来て下さるようなものにすることが、生きる力になる作品だと思います。カーネーションがどうだったかは分かりませんが、輝いたスタッフの姿を見られたことは自信になりました。

 父は、最後に障害児学級を担任して退職しました。最後にもった肢体不自由児のユー君のお母さんが、「この子が障害を持ったお蔭で家族が一つになれた。だから、障害を持てて良かった」といわれたといいます。そのユー君が少し歩けるようになり、卒業式では父が名前を呼び、ユー君が証書を取りにいったそうです。父は、淡々と言ったがそこに美しいものを感じました。作品は自分が作れる準備ができたとき、向こうからやってくるように思います。

これで、終わります。
 

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コメント
 
01. 2012年8月28日 18:10:11 : WFvVlluDdo
間違いなく現代日本の最高の脚本家。業界から出なかったのがよかった。

02. 白坂 2014年8月31日 13:55:00 : jU5BReBTxryaQ : 2pI5bjJwm2
2年前のこの講演にたどりつきました。脚本の方の生い立ち、考え方、創作に向かう真摯な姿勢に感銘をうけます。カーネーションが再放送されて、話題になってくれたおかげで、すばらしい作品と出会えたこと。この講演の要旨をよめたこと、感謝いたします。

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