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昔、崔平平という書生がいた。崔平平は近所の英須と愛し合い、やがて夫婦となり一生楽しく平穏に暮らしたいと願っていた、鴛鴦の女鳥が打たれ男鳥が一人残されるとは思いもしなかった。
ある年の春、英須は突然、病に倒れその日のうち父と別れ、母から離れ、恋人を捨て一人で逝ってしまったのだ。崔平平は死ぬほどに悲しみ、ただもだえ苦しみ泣き叫ぶばかりであった。それからは料理を食べても、酒を飲んでも少しも美味しくない。毎夜、英須を慕う詩を作り、日々、英須を哀しむ詩を歌い、英須の墓へ行ってその詩を書いた紙を焼いては泣いた。
こうして九十九夜哀悼の詩を作り、九十九日英須の墓へ行って哀悼の詩文を読み歌い泣きながら燃やした。 諺に“真心は天地も動かす”と言う。
ある日また、崔平平は英須哀悼の詩を歌い、墓に捧げて泣きながら焼いた。泣きに泣いてふと頭を上げると涙の中にぼんやりと英須の墓の上に一本の不思議な草が伸びているのが見えた。緑の葉は楕円形で茎は白く、みるみるうちに伸び、いくつかの枝に分かれ紅白の花びらの花を咲かせた。
崔平平は泣きながらこの不思議な葉、花、白い茎を見て、これは英須の霊が花になって、私に会いに来たのではないかと思い、涙を拭いてこの不思議な花に顔を寄せると、あ−、本当に英須のようだ、紅白の花は生前の英須の美しい顔、緑に光る葉は英須が着ていた緑の衣装、白い軟らかいうぶ毛のついた茎はあの白い肌の英須の腕と足だ、しかも花はいい薫りがする、それはまがうことなく英須の肉体から匂った清らかな薫りと同じだった。
崔平平は花を見て英須を想うと、できることなら墓を掘り起こして棺を開け、英須が生きているかどうかを確かめたい気持ちだった。しかし災いも病もない元気な人でさえ、墓の中に百日も埋められいれば死んでしまう、英須は死んだのだ、そう考えると崔平平の悲しみはいっそう強くなりまた泣いた、草に身を投げると、空はあくまでも青く、草についた悲しみの露の玉は崔平平の衣を濡らした。
崔平平は自分の心は天をも動かし、英須が現れるのではないかと空を見れば、ああ、何時の間にか日は西に落ち、星と月は空にかかり、冷たい露の玉が草木に宿る暗い夜になっていた。崔平平は父と母が方々自分を探すだろうと涙にくれ、ふらふらとよろめきながら家へ帰った。部屋に入っても一口の飯も食べず、一滴の水も飲まず床に伏し、うとうとしていると、英須が夢の中に笑みを浮かべて現れ、親しげに崔平平の手を握ると、別離の気持ちを伝え、別れぎわに「もうあたしのお墓へ行って泣かないでもいいわ、あたしと会いたい時は、あたしのお墓のあの花の実に小刀で小さな穴を開け、そこから、滲んでくる白い汁を集めて煮ると硬い固まりになります、それを竹で作った煙管で吸えば一口か二口で心の痛みも疲れもとれます、でも決してしょっちゅう吸ったり、沢山吸っては駄目よ」と言い終わると風のように身を翻して去った。
崔平平は夢から覚めて窓を見ると、もうすっかり明るくなっている。そして夢で見た英須の言葉を思い出し本当か嘘か英須の墓へ行ってみた。世には説明できない不思議、みたこともない光景というものがあるものだ。崔平平が英須の墓へ行くと、果たして墓の上に伸びていた花は一つ一つ丸い玉の奇怪な実になっていた。崔平平は夢の中で英須に教えられた通りに花の実を小刀で一つ一つ切ると中から乳のような白い汁が滲み出た。崔平平はその草の葉のをとりその上に白い汁を集め家へ持って帰って煮詰めると大豆の大きさの固まりができた、そして夢の中で英須が言ったやり方通りに、竹の一節を切って長い煙管を作り、煮詰めた固まりを詰め、火をつけた、そして少し吸うとまるで雲に乗り、軽々と空を飛んでいるようで仙丹の妙薬より効き目があるようであった。
人は楽しみを覚えると夢中になる。崔平平は奇怪な花の実の白い汁を煮詰めてとった固まりを吸うと悲しみを忘れた、そして毎日英須の墓へ行き、緑の実を割いて白い汁をとり、煮て固まりをとるとそれを吸った。一日三回、三日に九回、夏から秋にかけて花の実の汁を集め、集めては煮、煮ては吸い、吸うほどに病みつきになった。初めの一日一回は二回になり三回になり、遂にやめられなくなった。夢の中の英須が言った少しだけという戒めもすっかり忘れていた。
九月となり十月となると、どの草も霜に枯れる、あの英須の墓に生えた奇怪な草の葉も花も実もしぼんで落ち、実を割っても汁は出ない。この時すでに自分がこの草の中毒になっているとは崔平平は知る由もない。あの花で作った固まりを吸わなければ、まるで魂を失ったようになり、筋肉はゆるみ、骨は崩れ何もできなくなってしまった。ある日の夜、崔平平は中毒になり鼻水が垂れ涙が出た、眠いが眠れない、横になろうとして横になれない、座ろうとして座れない、本当にどうしようもなくなり床から下り、ただ行ったり来りするでけであった。
やがて壁に掛けた鏡に自分の姿を写して飛び上がった、どうしたのだ、もとの凛々しい自分の姿は痩せ衰え、人三化七の恐ろしい姿に変わり果てていた。崔平平は思わず英須を恨み「英須、私はあなたをどんなに愛したことか、あなたを愛し、あなたを恋したのに、あなたは恩を仇で返すのか、あなたは私に麻薬を教え、わたしを中毒にさせ私の将来を誤らせ、私の一生をめちゃめちゃにしてしまった」と言った。
崔平平が英須への恨みを口にしていると、窓の外に風の音がして、閉めてあった戸が音を立てて開き、風とともに、一人の女人が入って来た、崔平平が頭を上げると、英須が悲しそうな顔をし、髪を乱して向かって来る、英須は机に近ずくと何も言わずに筆をとり、墨をたっぷりつけると壁に一首の詩を書いた。
竹の節の佳人の美 日夜君の笑みを誘う
唇づけし腰を抱き 楽しき夜を過ごす
今宵君自ら見る姿 恨みを抱き骨を削る
止む 止む 止む 今よりは恩愛を断つ
書き終わると筆を置き外へ出て行った。この時から崔平平と英須の情愛は断たれ、この世に奇怪な花の種だけが残された。これは美女英須(yingxu)の霊魂が変わったものだ。それで後世の人はこれを“罌粟(yingxu)花”と呼んだのである。
宋宗科故事集 1996・4・1
http://homepage1.nifty.com/kotobatokatachi/index.html
から
http://homepage1.nifty.com/kotobatokatachi/sub291.htm
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