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被害者祖母の声を聞こう
滋賀県大津市で起きた中学2年生いじめ自殺事件。被害者の少年(13歳)の祖父母は市内で銭湯を営んでいる。いじめの加害者に恐喝されたカネの大半は、孫かわいさで祖父母が渡したものだと言われる。
地域に唯一残された銭湯の番台に座る祖母は、言葉少なにこう語った。
「近所の人は大変やなって心配してくれるけど、こうやって商売しないと生活でけへんから、仕方なしや。(マスコミには)なんにも言うなと言われてる。
先生がな・・・・・・、知っててな・・・・・・、なんであんなかわいそうなことに・・・・・・(肩を落として涙ぐむ)」
少年は自宅マンションの最上階(14階)から飛び降りて自殺したと見られる。同じマンションに住む女性住民が言う。
「あの朝、高校生の子供を見送って、仕事に出ようと家に鍵をかけたところで、ドスッ!って大きな音が聞こえた。てっきり国道で事故でもあったんやと思って下に降りたら、広場にあの子が仰向けに倒れてた。目は開いたままでね・・・・・・。隣にはあの子の双子のお姉ちゃんが、涙をポロポロこぼしながらしゃがんでた。
小さい頃からふざけるのが好きで、やんちゃでね。『なにしてんの!』って頭叩いて叱ったこともあります。あんな明るい、面白い子が、なんであんなことになったんか・・・・・・」
これらはいずれも、本誌記者が現場を歩き、直接聞いた肉声である。
祖母は最愛の孫を失い、憔悴しきった様子で番台に座っていた。交替で銭湯に現れた祖父にも声をかけたが返事はなかった。つらいけれども、商売しないと生活ができない。切実さが伝わってくる姿だった。
一方で、この国にはいまこんな言葉が溢れている。
〈クズをはびこらせるな。奴らは同じ人間じゃない〉
〈屑の親の遺伝子から屑の子ができたんだな〉
〈加害者家族まじで追い込めや〉
〈犯罪者庇う国ってなんだよ。人の人権奪っといて自分の人権守ろうなんざ甘いんだよ〉
〈親も死ねばいいのに〉
いずれもインターネットの掲示板に躍っている。発信者はむろん匿名で、いじめの加害少年とその親に罵声を浴びせている。
そしてネット上には、3人の加害少年の実名と顔写真、さらに親の実名と顔写真がまとめてアップされている。ご丁寧に、加害者の父親の自宅から勤務先までの通勤経路を書き込んだ地図までが掲載されている。
電凸ってどういう意味?
本誌記者が現場で聞いた声と、インターネットに溢れる匿名の罵声。事件について語っているという一点では同じだが、両者の間にはあまりにも大きな隔たりがある。
孫を失った後も番台に座り続ける祖母の、身体性をともなう哀しみ。
まったく無関係の匿名の人々がまき散らす、インターネット上での怒り。
どちらに重みがあるか、論じるまでもないだろう。
だがこの国ではいま、後者の怒りの炎が猛烈な勢いで広がり、前者の切実な哀しみは、すっかり置き去りにされている。
ネットの書き込みはさらにエスカレートする。
〈加害者の父親が元警察官ならしょうがねーよな〉
〈加害者のAおよびB(ネット上では実名)は、在日コリアンと判明した!!〉
いずれも事実とは異なる情報だ。だが、こうした誤報がまたたく間に拡散し、さらにバッシングが繰り広げられる。写真と実名だけでなく、生年月日と身長、血液型、そして自宅や親の職場の電話番号、メールアドレスまでもがネット上で晒されている。
「凸」というネット用語をご存知だろうか。凸=突撃を意味する。
「ネット上で晒されたこれらの情報に基づき、いきなり押しかけて抗議することを凸と言い、電話で文句を言うことは『電凸』と呼ばれます」
そう解説するのは『ネットと愛国』の著者・安田浩一氏だ。安田氏は同書で、ネットの書き込みやデモで在日コリアンのバッシングを行う「在特会(在日特権を許さない市民の会)」の実態をレポートした。安田氏が続ける。
「大津の事件の後、私のところにも取材で知り合った在特会の会員や元会員から次々と電話がかかってきました。
『加害者の親は在日だと聞いています』
『さもありなん、という事件ですよね』
彼らは一様に興奮し、むしろ事件を楽しんでいるように聞こえました。新たな『敵』を発見して、『正義』の名のもとに集団で攻撃する。そこにはもはや、自殺した少年に対する思いや、いじめ問題に対する深い考察はない。むしろ『祭り』を楽しんでいる。
『ネット右翼』と呼ばれる彼らのような存在が、近年急増しています」
ネット上の「祭り」は、現実世界では「デモ」という形を取る。デモ開催情報もまたあっという間に拡散し、ネット右翼を中心とした人々が参集する。
今回の事件では、大規模なものだけで以下の5件が確認された。
●いじめ抗議大津市大・散歩・会 7月14・15日、中学校前~大津警察署
●いじめ隠蔽の撲滅を目指した市民によるデモ 7月17日、大津地方裁判所
●××中学校再生祈念OFF会 7月18日、中学校前
●いじめ厳罰化 官邸前抗議大・散歩・会 7月19日、首相官邸前
●イジメを無視する日教組教育を許さないぞ!デモ 7月22日、大阪・靱公園
14日のデモでは、加害少年の実名と顔写真を掲載したプラカードを持っていた男性が、滋賀県警に連行される騒動も起きた。
「鬼女」と呼ばれる集団
本誌は今回、大阪のデモを主催した女性(35歳)に話を訊いた。彼女は元在特会の会員で、ネット上では「ジェリー」のハンドルネームで知られている。
---なぜデモをしたのか。
「大津市が日教組の強い地域だと知ったからです。若者の道徳心の欠如は教育勅語を知らずに育ってきたから。いまの教育現場が許せないんです」
---今回の担任の先生は日教組なのか。
「安易に結びつけるのは危険だと自覚していますが、日教組に代表されるやる気のない教師だと思います」
---ネット上の加害者バッシングをどう思うか。
「加害者が反省していないという情報が次々上がってくるので、そりゃ許せないですよ。ただ、ネットの情報を鵜呑みにするのは危ないとは思う」
---あれもまた、新たないじめだとは思わないか。
「加害者が反省していて、罪を償うつもりがあるなら話は違うが、そうじゃないからね。親にも責任があるし、転校して同じことしているという情報もある。だからバッシングは納得です。『そこまでやらなくても』と思える人間ではないんですよ、私は」
「ネットの情報を鵜呑みにするのは危ない」と語るものの、今回ネットで仕入れた情報を精査している様子はない。前出の安田氏はネット右翼の傾向をこう分析する。
「ネットでの言論は『シンプルでわかりやすく、アグレッシブであればあるほど』受け入れられる。情報が正しいかどうかより、受けるかどうかのほうが大切なんです。加害者への加罰感情を爆発させ、賛同を得ることに快感を覚える。ネット右翼の人々の暗い情熱の向こうには、強烈な承認欲求があるんです」
自分自身の「満たされない思い」のハケ口を、ネットの書き込みやデモへの参加に求める。そんな彼らの行動は、事件現場に近い人たちにとって、時に事件そのものよりも不気味な存在となる。
中学校校門付近に住む70代女性が言う。
「週末に、日の丸をつけた大きな車で『日教組粉砕!』『いじめを許さない!』って拡声器で怒鳴ってましたよ。気持ちのエエもんやないね。孫が『ばあちゃん、犯人の顔見るか』って携帯電話の画面を突きだしてきましたよ。そんなもん、よう見ませんわ。
ホンマに怖い時代です。人の心の悪いところだけが大きくなってきてるのと違いますか。パソコンは便利なものかも知れへんけど、得体が知れなくて、ホンマに気持ち悪いです」
同じ中学校に子供を通わせる主婦も言う。
「親同士でも、誰々はマスコミに喋ったとか、すぐにメールが回ってきます。一応、輪に入っとかんと、知らないところで何を言われるかわかりません。インターネットに書き込まれてしまうかもしれない。当事者以外の人間も疑心暗鬼になっています」
加害少年と名字が同じというだけで、ネット上に「祖父」として実名と勤務先の写真を晒された人もいる。
ガセ情報をブログに晒して話題になったのがデヴィ夫人。「その方はまったく無関係でした」と後に謝罪をしたが、その後も「ニコニコ生放送」に出演してこう語っている。
「(加害者の)顔写真を出してもいいし、名前を出してもいい。過保護にしてはいけません。たとえ顔を出しても、5年もすれば忘れられます。加害者は被害者に万引きをさせたり、40万円も貢がせたり、ヤクザ顔負けです」
デヴィ夫人に代表される「攻撃的な女性」をネット上では「鬼女」と呼ぶ。
「暇な主婦が事件について徹底的に調べて、情報をどんどん2ちゃんねるなどに上げる。彼女らが集う掲示板は『鬼女板』と呼ばれて注目されます。生活保護問題でも、次長課長・河本の自宅を突きとめた鬼女がもてはやされていました」
ネット右翼や鬼女は書き殴って溜飲を下げるのかもしれないが、ガセ情報を流されるほうはたまったものではない。デヴィ夫人らに「祖父」と名指しされた男性は、名誉毀損で滋賀県警に被害届を出した。だが本人みずから「違う」と主張しても、ネットには「あいつはウソを言っている」という情報が拡散され続けた。一度ネットで「炎上」した情報は「真実」として流布され、当事者が否定しようとも、鎮火するのは容易ではない。
善か悪か、敵か味方か
ネット社会の病理をまざまざと見せつけた今回の事件。津田塾大学の萱野稔人准教授はこう語る。
「当該の中学校には全国から苦情の電話が殺到し、業務に支障をきたしたため、関係者しか番号を知らない新しい電話を架設したそうです。加害者と学校は全国から猛バッシングを受けており、これはある種のリンチ状態。プライバシーが暴かれる背景に、フェイスブックなど個人情報をネット上に掲げる人が増えたことも挙げられます」
精神科医の香山リカ氏はネット上に「二元論」がはびこっていると指摘する。
「たとえば私がいじめ事件一般についてコメントをすると、『加害者の肩を持った』とすぐに非難されるんですね。怖いのは、非難する人は面白おかしくやってるのではなく、真剣に『あなたは加害者に非がなかったと言うのか』と極論を言ってくる。世の中を善と悪の二つに分けて、その判定をみんなでし合っている。すごく表面的な反応で、事件の背景を探る発言も許されないんです」
一方で、ネット住民たちが大津警察署へ「電凸」を繰り返したことで、警察が重い腰を上げて捜査に着手するという現象も起きた。ネット発のデモに詳しいジャーナリストの津田大介氏が言う。
「少年の親からの被害届を3度も突っぱねた滋賀県警が、1万件レベルのクレーム電話に音を上げた。ネット上の『怒りの共有』が社会の状況を変えた意味は大きい。間違った情報も多く『ネットはろくでもない』という意見が出るのもわかりますが、現実を動かす肯定的な部分もある」
加害者、学校、市教委、警察、それぞれに問題はあった。それは批判され、検証されるべきだろう。
だが、「被害者のため」を錦の御旗にしたネット上の言論や続発するデモに、肝心の「被害者への思慮」が欠けていることだけは間違いのない事実だ。
少年の最期を目撃した前出の女性住民は、こう言って泣いた。
「ここのマンションは地元以外から来た人も多くて、自治会では『ネットで情報が出回ったら売値が下がる』と心配する意見が大多数。あの子が落ちた場所もすぐに片付けられて、何事もなかったかのようです。私は、誰もあの子のことを考えてないように思えてならんのです」
「週刊現代」2012年8月11日号より
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