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中継されなかったバグダッド 山本美香/著を読んで
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投稿者 矢津陌生 日時 2012 年 12 月 23 日 14:19:07: fqfGCq6zf5Uas
 

2012年8月20日、取材中のシリアで銃撃を受け亡くなった山本美香さん(45)。ご冥福をお祈りする。この書は彼女がイラク戦争の時、日本のジャーナリストとして取材した経緯を綴ったものである。その活動により、2004年最も活躍した女性を表彰する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」のキャリアクリエイト部門に選出された。日経WOMAN2003年8月号のインタビューで、

「危険を冒しても伝えたい思いを持つ人がいる。それを受け取ったら伝える責任がある」と。

彼女はイラク戦争の中、バグダッド市のホテルへの米軍の砲撃で、ロイターの記者が死ぬという衝撃的な現場に居合わせ、手を血だらけにしながら、倒れた記者を助けようとした。それは、空爆の第一波をバグダッドからリポートした時だった。

「進行形で人が死んでいくのを見るのは初めて。血だらけで泣いている私に、後から来た人が『防弾チョッキを着なさい』と言ってくれて、初めて『そんなに危険だったんだ』と気付きました。部屋に飛び込んだ時点から、取材者ではなく当事者になっちゃったんですね。あの時は衝撃があった瞬間、カメラを持って部屋を飛び出していた。よく思い出すと、ふと、『あ、カメラ回さなきゃ』って思った瞬間もあるんですよ。片手で助けながら、片手で撮りたいという、2つの心があって。でも結局カメラは投げていましたね。後から自分の映像を見て、『あんな声を出していたんだ』と思った。とにかく、『どういうことなの、この事態は』って怒りまくっていたんです。それは被害にあった人たちが見せる、ぶつけどころのない怒りと一緒なんです」と証言。

「ビデオカメラとの出合いが人生を変えた」と、
大学生時代は平凡にバイトに明け暮れた人が、戦場を駆け回ることになった。「やりたいことが見つからなかったんです。父が新聞記者だったので、その影響もあるのかな。子供の頃、姉は新聞記者と結婚したいと言って、私は新聞記者になりたいと言ったそうなんです」.
とあまり緊張もせずに、思う道を進んでいったのかもしれない。普通の家庭であれば親御さんが絶対反対するが、話し合ったうえでの選択なのだろうと想像できる。父上も最悪は覚悟されていたと思うが、人に言わないでも後悔の気持ちはきっとあるに違いない。

全編を通じて片意地を張らず、取材される人に不満を言われても取材を続けた様子がよくわかる。しかし、信じ難い状況にある人々の淡々とした行動を目のあたりにして、肝が据わってしまったのだろうか。彼女の眼の前で命を失なっていく瀕死の人たち、戦争状態に慣れてしまったような一般の市民の行動などの記述は、却って戦争の理不尽さと恐怖を増幅する。

例えばタリバンを取材した時は、「女性たちの素顔を映像にとらえました。彼女たちに『放映時には顔を隠したほうがいいですか』と聞いたら、『隠したら意味がない』と言われて。規制が厳しくて、当局に取材を受けたことがばれたら彼女たちは、大変なことになるはずなのに。その勇気に感動しました。世界には、危険を冒しても伝えたい思いを持っている人たちがいて、私はその言葉を聞いてしまった。すごく責任重大ですよね。マスメディアにのせて表に出さなきゃいけないと思いました。振り返ってみると目標を立ててきたわけじゃないんですが、自分で道を選んでいる。私を戦場へと向かわせるのは、その選択の積み重ねだと思うんです」。
 
危ない仕事をする女性はごく少数だ。「唯一の日本人女性記者」を売りものにしたとは思えない。あとがきに「戦争で命を落とした人々のご冥福をお祈りしつつ」とある。彼女自身がその10年後、係争地からの報道中に亡くなってしまった。本人にとっても殉死というのだろう。日本の大手メディアのスタッフ(正規社員)はこんな危険な仕事をさせてくれなない。

フリーのジャーナリストで下請けする人にしかこんな取材はできない。イラクに派遣された大手メディアの記者たちが、日本の自衛隊の基地の中に入れてもらって取材した。日本は自衛隊をイラクに派遣し、国際的責任を果たしたかのように喧伝された。しかし、他国軍隊の助けなしに、基地から一歩も出れない自衛隊と、基地の中でしか取材できないメディアは本来の任務(外国の軍隊とメディアから見た)からははるかにかけ離れたところで空気を吸っている。自衛隊の派遣とその取材とは一体何だったのだろうかと、改めて考えさせられた。

矢津陌生ブログ http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-269.html より転載  

 

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