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2012-12-10 02:36 戦後史の激動
「本当のこと」を伝えない日本の新聞(双葉社)という書籍を読みました。12年間日本で取材を続けている、マーティン・ファクラーというニューヨーク・タイムズ東京支局長が著者です。
『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』には、記者クラブ制度による弊害、署名記事の少なさ、海外メディアへの閉鎖性など、日本のマスメディアおよび、記者クラブ制度への批判が書かれています。
日本の新聞記者やリベラルとされる評論家の書籍のような「中立」な書き方ではなく、きちんと自分の意見が述べられているので、書かれていることの中には異論・反論もあるかもしれませんが、曖昧な書き方で結局何を主張したいのかわからないものよりも、議論のきっかけとなる書き方をしている点では、問題解決に前向きであると評価することができると思います。
この書籍が指摘するまでもなく、近年は記者クラブという、省庁による任意組織の問題が取り沙汰され議論されています。
記者クラブ制度があるために、加盟する社やジャーナリストと、そうでない側との間に差別や反目が生じることになり、また加盟する社やジャーナリストは、省庁に嫌われないような無難な記事作りや横並び意識が生じやすくなります。
それがマスコミの退廃につながっていると指摘する声が少なくないのです。
記者クラブ制度について、擁護も含めていろいろ意見はあるようですが、言論は自由であるべきだ、という原則に立てば、取材互助組織や翼賛クラブとしての役割を否定できない記者クラブ制度の弊害についてはきちんと見ておかねばならないでしょう。
私が、『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』から引用して具体的にご紹介したいのは以下の2点です。
ひとつは、政権交代後、金融大臣に就任した亀井静香氏(現日本未来の党)が、記者クラブ制度にとらわれないマスコミ対応を実践した事実があるにもかかわらず、民主党政権がつぶしたことです。それが直接の原因ではないにしても、亀井静香氏は結局民主党などの連立政権を放逐されてしまいました。
民主党が政権交代に成功した直後、国民新党の亀井静香氏が金融庁の大臣に就任した(2009年9月16日)。亀井大臣は金融庁の記者会見を、記者クラブメディアに限らずオープンにしようと考えた。これに記者クラブが猛反発した。フリーランスの記者や外国人記者は排除し、従来のように記者クラブメディアだけで会見を開くべきだと主張したのだ。
おもしろいことに、亀井大臣は記者クラブの提案を突っぱねた。そして、記者クラブ加盟社対象の記者会見、フリーランスや海外メディア記者などを対象とした記者会見の2パターンの会見を開くことにした(2009年10月6日から2010年6月8日まで開催)。(中略)
《ーニューヨーク・タイムズのマーティン・ファクラーと申します。記者会見についてお聞きしたいのですけれども、毎回、2回記者会見をやらなければならないという異常な状態で、大臣にとっても、多分、面倒くさいと思うのですけれども……(笑)。
亀井 いや、そうではないですよ。私はいいですよ。
ー大変お時間もかかるし、貴重な時間ですし、この異常な状態をどのぐらい続けるつもりであるのか、ということと、あとこういうふうに2つの記者会見をしないと駄目だという異常な状態についてのご見解を……。
亀井 これは、原因はマスコミの閉鎖性。ここ(金融庁)の記者クラブが共同で(会見することを)認めれば良いのですよ。ただ、記者クラブが主催になっているから、私が「一緒にする」と「嫌だ」と言うものは、やりようがない。だから、「それならあなた方との時間を半分にしてここで後でやるよ」 ということでやっているわけであって、彼らがいつまでも閉鎖的で分からず屋であればこういう状況を続けていきますよ。何もあの記者クラブに入っている人たちだけがジャーナリストではない。彼らは思い上がったらいけません。》
民主党は、自らの与党3年半の責任について、それまでの自由民主党政権の負の遺産に責任を転嫁することがあります。
が、少なくとも記者クラブの問題は、自分たちが変えようと思えば変えられたはずで、それをつぶした民主党政権の責任であったのです。
もうひとつ、日本のマスコミ批判をしている著者ですが、その一方で、マスコミに対して幻滅している人たちが、ブログや掲示板、ツイッターやフェイスブックなど、ネットから情報を得て考えようとしていることに対しては一言忠告をしています。
簡単にいうと、ネットというのは一見多様なようでいて、実は賛成と反対の中間の意見をきちんととらえることができないというのです。ディベートゲームに入りがちなネットの弱点を指摘したものだと思います。
自分が興味・関心のある分野のオピニオンリーダーをツイッターでフォローしていれば、その人物や周辺から流れてくる情報は得ることができる。ツイッターではまったく反対の意見は意外と目にしやすいが、ではその中間にあたる主張や考えはどうだろう。特定のオピニオンリーダーのタイムラインを見ていても、賛成と反対の間の意見がカバーされず、すっぽりと抜け落ちているようなケースは多い。(中略)
では、ニューヨーク・タイムズのような新聞はどうか。ニューヨーク・タイムズには、共和党支持者と民主党支持者の中間地点にあたる意見も載っている。さまざまな意見を目にすることで、偏りがちな自分の考えが重層的なものになるはずだ。ツイッターやフェイスブックが伝える情報は役に立つことは間違いない。そこに新聞など既存メディアの報道を組み合わせれば、新たなメディアが生まれると感じている。
ネットでは、しばしば「マスゴミ」などと、文字通りマスコミを唾棄する物言いがあります。
私自身も、大手マスコミに手痛い目にあわされた経験もあります。
が、だからといって、世の中の出来事について、何でもかんでも自分で裏を取って真実に肉薄することなどとうてい不可能です。マスコミの報道や論評で、理解を助けてもらって巷間の出来事を知るわけです。
ですから、マスコミを罵倒して絶交するわけにはいきませんし、そもそもそれは建設的でもありません。要は付き合い方の問題だと思っています。
ジャーナリズムは公平公正であるべきですが、ジャーナリストなんて、しょせん人間なのです。
人間は間違いうるものですし、商業的、感情的な立場から公平公正を外れる報道をすることもあります。(もちろん善し悪しはともかくとして)
そこを責めても問題解決には資さないように思います。ただ、マスコミの間違いの原因はどこにあるのか。その仕組みについて変えられるものがあるのなら、メディアだけに責任を押し付けずに、マスコミと社会の仕組みを変えるという気持ちを、社会全体で共有することだと思います。
そのためにも、マスコミって何か悪いのかを私たちは冷徹に知る必要があるし、ひとつの意見として、この『「本当のこと」を伝えない日本の新聞』は大変参考になる書籍だと思います。
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