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「メダル」と「絶叫」ばかりが目立つ五輪テレビ報道 オリンピックは多様な価値観のもとで楽しみたい
http://diamond.jp/articles/-/22527
2012年8月2日 週刊 上杉隆 :ダイヤモンド・オンライン
■素直に寄り添えない 喧しいばかりの感動の連呼
「ニッポン、メダルラッシュです!」
テレビ番組では、朝から晩まで、タレントやキャスター、あるいは記者やニュース解説者までもが絶叫している。
筆者の性格がひねくれているからなのだろうか、彼らが熱く叫べば叫ぶほど、逆に感動が醒めてしまう。
ロンドンオリンピックが始まった。英国風の皮肉と演出が見事に混在した開会式から、まもなく一週間が過ぎようとしている。
日本はメダルラッシュらしい。確かに各メディアが報じている国別メダルランキングによると、8月1日の時点で、金2、銀4、銅11と計17個のメダルを獲得、数だけいえば中国、米国に次いで3位となる。
とくに、銅の11個は断トツで、もしかして銅産出国としてチリに匹敵するのではないかと内心、将来の日本の資源外交に期待してしまう。
冗談はさておき、メダルラッシュは本当なのだろう。
しかし、筆者のように、貴金属収集を趣味とせず、それらにあまり関心を抱かない視聴者からすれば、テレビキャスターたちの感動の連呼は、喧しいばかりで素直に寄り添うことができない。
テレビは、メダルの数やメダリストばかりに焦点を当てているが、その時間があれば、肝心の競技内容について、あるいは4位でも5位の選手でも、それぞれがどのような戦術を持ち、どのような駆け引きがあったのか、そして何が不足して4位、あるいは何があったからこそ5位になったのか、そのあたりをたずねて、そして報じてもらいたいのだ。
実は、それは日本の選手でなくとも構わない。世界最高峰のアスリートたちの祭典を、純粋に競技(スポーツ)として見たい、単にそれだけを願っている。だが、日本のテレビ放映を見ていると、筆者のようにそうした気持ちを持つことはあたかも「非国民」のような扱いになる。
■消えた「金」という言葉
そもそもメダルラッシュも都合のいい言葉だ。オリンピック前、テレビは盛んにこう煽っていたではないか。
「日本代表団、空前の金メダルラッシュの期待」
だが、いつの間にかそこから「金」という言葉は消えてしまった。
それもそのはず、メダル獲得国別一覧表を、金・銀・銅の獲得順位順に並び替えれば、日本はメダル数世界3位から、9位に転落してしまうのだ。
しかも、極めて都合の悪いことに、1位の中国を筆頭に、3位の韓国、5位の北朝鮮とアジアのライバルたちの後塵を拝しており、カザフスタンの次という順位であることが明らかになってしまうのだ。
本当にテレビが、メダルラッシュを叫ぶのならば、こうした事実も報じるべきだろう。
かつてのように日本だけがアジアの雄ではない。そこにはオリンピックの性質が変わったことばかりではなく、アスリートたちの考え方の変化もあるはずだ。
成熟した民主主義国家ならば、スポーツであるオリンピックを国威発揚のために利用する必要はそもそもない。多様な価値観のもと、メダルの数に一喜一憂するのではなく、各々が関心のある競技を、あるいはそれまで知らなかったスポーツを、それぞれの感性で楽しめばいいのではないか。
もちろん、その中にはメダルの色や数に興味を持つ者がいても悪くはない。ただ、日本人がみんな貴金属に興味があるわけでも、鋳造デザイン会社に勤めているわけでもないことをテレビ局の人たちはそろそろ気づいたらどうだろうか。
オリンピックを、メダルの数を基準に観戦しているスポーツ愛好者はむしろ少数だと筆者は思う。テレビはせっかく多額の経費をかけてオリンピック中継をしているのだから、選手たちが精神的にも肉体的にも最高のものをぶつけあうオリンピック競技を放送したらどうだろうか。
メダルを取った選手も、取らなかった選手も、同じ日本代表であり、みな世界最高峰の舞台に辿り着いたアスリートたちに変わりはないのだ。
■「オリンピック一色」は日本だけ?
日本にいると、世界中がオリンピック一色に染まっているかのようだが、もちろんそんなことはない。
直前、当地ロンドンから戻ってきた筆者は、ここ数日、同じ質問を浴び続けた。
「現地は盛り上がっていたでしょう?」
だが、残念ながら、警備や関係者が盛り上がっているだけで、英国民全体が盛り上がっているわけではない。オリンピックに興味がなければ、開催時期すら知らないという英国民が存在するのが事実だ。
筆者の訪れたリバプールでは、ビートルズ結成50周年のためか、むしろそちらの話題の方で盛り上がっていた。
当然ではあるが、ビートルズファンの住民の関心は、投擲の槍よりもむしろ、ジョージハリスンのギターにあったし、かろうじてオリンピックの話題だとしても、それは競技よりも、開会式でポールマッカートニーの歌う「ヘイ・ジュード」に集中していた。
さらに筆者の滞在したブラックプールでは、全英オープンゴルフの話題一色に染まっており、オリンピックの話題は一度も出なかった。
いや、正確には毎朝顔を合わせるホテルのオーナー夫妻とオリンピックについて話したことが一度だけある。
「ロンドンオリンピック?ゴルフもあるのか?」
これでいいじゃないか。国民全員がオリンピック一色に染まり、金だ、銀だ、銅だと朝から晩までテレビで叫んでいる国よりもずっと健全ではないか。
ちなみに、その開催国イギリスの現時点でのメダル獲得数は金2、銀3、銅4の合計9個、順位でいえば日本より下位の11位である。
しかし、代表選手も、国民も、そして開会式に登場したエリザベス女王もそれぞれがそれぞれの方法でオリンピックを楽しんでいるようだ。
そろそろ日本人、とくにテレビメディアは、オリンピックをメダルの数ではなく、世界最高峰のアスリートたちの祭典として楽しむことを知ったらどうだろうか。
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