08. 2013年1月15日 22:47:42
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Q:「アベノミクス」のどこが新しいのか 話題の「アベノミクス」を乱暴に要約すると、「国土強靱化のために公共投資を増 やす」「マネーの供給量を増やして流動性を高める」ということになるかなと思いま す。これまでの金融・財政政策と比べてみて、「アベノミクス」のどこが新しいので しょうか。 ---------------------------------------------------------------------------- 村上龍 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■ 北野一 :JPモルガン証券日本株ストラテジスト どこも新しくないと思います。国土強靭化のために向こう10年で100〜200兆円の公 共投資を増やすということですが、その昔、海部内閣は日米構造協議を受け向こう10 年間で総額430兆円の公共投資基本計画を策定しました。一方、2003年から2004年に かけては、日銀が当座預金残高目標を随時引き上げる中、30兆円以上の円売り介入を 実施しました。成長戦略についても、何度も繰り返し策定されてきたのは、ご案内の 通りです。 今回、アベノミクスが注目されるのは、株式相場や為替相場が、政策の正しさを肯 定しているように見えるからでしょう。もし、株高にも円安にもなっていなかったら、 メディアも好意的に取り上げていなかっただろうし、専門家も低い評価しか与えな かったのではないでしょうか。 ところで、こうした株高や円安は、アベノミクスを期待した動きなのでしょうか。 私は、必ずしもそうではないと思います。「仮定」の話は、意味がないのかもしれま せんが、私は、政権交代がなくても、安倍首相でなくても、株式相場や円相場は、現 在の水準に至っていたのではないかと考えております。そういう可能性をも考えなけ れば、政策の評価もできないのではないでしょうか。 では、順番に、具体的に考えて行きましょう。まず、総選挙の直前の経済状況を思 い出してみましょう。当時、日本経済は、すでに景気後退入りしていたと考えられて おりました。12月7日に発表されたESPフォーキャスト調査によると40人のエコノミス トのうち34人が「すでに景気の山は通り過ぎた」と回答しておりました。当然、株式 相場に対して積極的な参加者少なかったと思われます。外国人投資家を持ち上げる風 潮は相変わらずですが、11月に予定していた私のアメリカ出張は、日本株への需要が ないという理由でキャンセルになりました。このような「空気」が支配的であったこ とは、相場を考える上で、忘れてはならないことです。 ところで、こうした景気に対する悲観的な見通しは、ここ数年、毎年のように繰り 返されております。内閣府の月例経済報告を見ますと、2010年9月、2011年10月、そ して2012年8月と景気見通しを弱気に転換しております。そして、興味深いことに、 毎回、彼らが景気見通しを弱気に転換したころから株式相場が上昇に転じております。 だいたい、弱気転換から100営業日で15%上昇しております。今回も、ある意味で、 これと同じことが起きたといえます。市場参加者が弱気になることによって、相場反 発、上昇へのエネルギーが蓄積されていきます。誰も株を買ってないのだから、上が りやすくなると言うことです。 ただ、それには、何らかの「きっかけ」は必要かもしれません。今回は、絶妙のタ イミングでアベノミクスが発表されたということなのでしょうか。私は、それも違う と思います。まず、日本企業の企業収益が何の関数かを確認しておきましょう。財務 省の法人企業統計年報の全産業ベースの営業利益の推移をみると、ほぼ鉱工業生産と 連動していることが分かります。一方、この営業利益とドル円相場には、ほとんど相 関がありません。 したがって、企業業績の回復を期待するには、生産が増える証拠をつかまねばなら ないことになります。では、日本の鉱工業生産は、何の影響を強く受けているので しょうか。それは言うまでもなく、アメリカを中心とする世界の景気循環です。なお、 生産と円相場の間にも、明確な相関はありません。円相場を1年あるいは2年先行させ ても相関係数は高くなりません。そのアメリカの鉱工業生産を見る上で、参考になる のは在庫循環です。 在庫循環に注目するのは、お医者さんが患者さんの胸に聴診器を当てるような基本 動作です。読者の皆様も、出荷と在庫を縦軸と横軸にとった図表をご覧になったこと があるでしょう。アメリカの在庫循環は、11月分の統計で、いわゆる45度線を下から 上に抜けてきたことを確認しました。景気の調整が終わったことを確認できたのです。 さて、ここに、ずっと情報を遮断された部屋に隔離されていた株式投資家、あるい はエコノミストがいたとします。その彼に、二つの情報を与えます。(1)市場参加 者は景気見通しに対して、極めて悲観的になっている。40人中34人が景気後退だと 言っている。(2)アメリカの在庫循環をみると、在庫調整の終焉を確認できた。こ の二つの情報をもとに、株式相場を予想してもらうとどうなるでしょうか。おそらく、 ほとんどの株式投資家、あるいはエコノミストは、株式相場は上昇すると予想するで しょう。それが、足元でも起きていたと言えます。株式相場の値幅も、2010年、2011 年の踊り場脱却局面と、それほど大きな違いはありません。 また、リスクオフだから円高になっているというのは、為替アナリストの方々が良 く使う説明です。以上の(1)と(2)の組み合わせは、リスクオンへの転換を意味 しますから、それで円安になったことも説明できるでしょう。 こうした事情を反映した相場変動にアベノミクスが掉さす結果になったことまで否 定はしませんが、最近の専門家の解説を聞いていると、あまりにも以上の「ファンダ メンタルズ」を無視しているのではないかと思います。これを無視して、株高、円安 とアベノミクスを結びつけると、「市場が、政策を肯定している」という解釈になり ます。そうした市場の値動きが「新しい」という印象になるのかもしれません。 先日、ぼんやりとワイドショーを見ておりますと、コメンテーターの方が、今回は 政府も日銀も「本気」だから期待できると発言しておりました。「本気」って何で しょうか?「本気」に見えるのは、市場の反応を見ているからではないですか。では、 市場の反応は、アベノミクスだけで説明できるのでしょうか。繰り返しになりますが、 私は、そうは思いません。そのあたりも含めて、我々は、考える必要があるのではな いでしょうか。 ところで、以上の説明では、日本株が欧米の株以上に上昇している理由まで説明で きません。昨年の秋以降、日本株が特に出遅れていたのは、領土問題に端を発する中 国リスクの影響が大きかったと思います。その中国リスクを抱え込むはめに陥ったの は、原発ゼロを目指す硬直的なエネルギー政策の故であったと私は思います。中国リ スクと原発ゼロの関係についての説明は長くなるので省略しますが、今回の総選挙の 結果として意味があったのは、柔軟なエネルギー政策の策定が可能になったことで しょう。それが安倍政権になってより明確になりました。こうした中国リスクの低下 が日本株のキャッチアップをもたらしたと言えるでしょう。 敢えて言うなら、政権交代の意味は、エネルギー政策に柔軟性を取り戻したことだ と思います。 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一
小笠原誠治の経済ニュースに異議あり! トップ | クルーグマン教授は安倍総理を褒めているのか? 2013/01/15 (火) 13:30 クルーグマン氏:アベノミクス「結果的に完全に正しい」(毎日新聞) 結果的に完全に正しい? はてさて、クルーグマン教授は安倍総理の経済政策を評価しているのでしょうか? これだけではなんとも判断し難い。但し、そもそも強力な金融緩和と積極的な財政出動をクルーグマン教授は長年主張している訳だから、彼が安倍総理の考えを否定するとは到底思えない。 彼は何と言っているのか? 原文を確認することにしましょう。 For three years economic policy throughout the advanced world has been paralyzed, despite high unemployment, by a dismal orthodoxy. Every suggestion of action to create jobs has been shot down with warnings of dire consequences. If we spend more, the Very Serious People say, the bond markets will punish us. If we print more money, inflation will soar. Nothing should be done because nothing can be done, except ever harsher austerity, which will someday, somehow, be rewarded. 「過去3年間、先進国の経済政策は、高い失業率にも拘わらず陰鬱な正統派理論のために機能マヒを起こしている。雇用を創出するためのあらゆる提案が、大変な結末をもたらすだけだからという理由で拒否されてきた。これ以上財政出動をするならば、国債市場が罰を与えると『生真面目な人々』は言う。これ以上お札を印刷すれば、インフレが起きる、と。何もすることができないのだから何もすべきでない、緊縮財政措置を除いては、と。そして、緊縮財政はいつの日か報われるだろう、と」 But now it seems that one major nation is breaking ranks -- and that nation is, of all places, Japan. 「しかし、ある一つの国が列を乱そうとしている。その国とは、こともあろうに日本であるのだ」 This isn't the maverick we were looking for. In Japan governments come and governments go, but nothing ever seems to change -- indeed, Shinzo Abe, the new prime minister, has had the job before, and his party's victory was widely seen as the return of the "dinosaurs" who misruled the country for decades. Furthermore, Japan, with its huge government debt and aging population, was supposed to have even less room for maneuver than other advanced countries. 「これは、我々が探していた異端者ではない。日本では、政権は直ぐに替わる。しかし、何も変わるようにはみえない。実際、新しい総理の安倍晋三はかつて総理の座にいたことがあり、自民党の勝利は、何十年もこの国を間違った方向に導いてきた「恐竜」の復活と見られている。さらに、その政府が多額の借金を抱え、しかも高齢化が進展しつつある日本は、他の先進国よりも選択の余地が乏しいと見られてきた」 But Mr. Abe returned to office pledging to end Japan's long economic stagnation, and he has already taken steps orthodoxy says we mustn't take. And the early indications are that it's going pretty well. 「しかし、安倍氏は、日本の長く続いた経済停滞を終わらせると約束して政権の座に復帰し、そして、正統派が決して採用してはいけないという政策を既に取っている。そして、最初の兆候としては、非常に巧く行っている」 Some background: Long before the 2008 financial crisis plunged America and Europe into a deep and prolonged economic slump, Japan held a dress rehearsal in the economics of stagnation. When a burst stock and real estate bubble pushed Japan into recession, the policy response was too little, too late and too inconsistent. 「背景を少々説明する。2008年の金融危機が米国と欧州を深刻で長引くスランプに陥れたその時よりも遥か前に、日本は経済停滞の『稽古』をしていた。そして、バブルが弾けて日本が不況に陥った時、日本の政策対応は余りにも規模が小さく余りにもタイミングを失し、そして政策の一貫性に欠けたものでしかなかった」 To be sure, there was a lot of spending on public works, but the government, worried about debt, always pulled back before a solid recovery could get established, and by the late 1990s persistent deflation was already entrenched. In the early 2000s the Bank of Japan, the counterpart of the Federal Reserve, tried to fight deflation by printing a lot of money. But it, too, pulled back at the first hint of improvement, and the deflation never went away. 「確かに、公共事業は相当の規模に達したが、借金を心配する政府は、常に経済回復が本格的なものになる前にそうした政策を引っ込めてしまい、そして、1990年代の終わりに達する頃には、完全なデフレ状態に陥ってしまった。2000年代の初め頃、米連銀のカウンターパートである日本銀行は、お金を大量に刷ることによってデフレと戦おうとした。しかし、日銀もまた、改善する前にそうした措置を撤回してしまい、デフレは居座ってしまった」 That said, Japan never had the kind of employment and human disaster we've experienced since 2008. Indeed, our policy response has been so inadequate that I've suggested that American economists who used to be very harsh in their condemnations of Japanese policy, a group that includes Ben Bernanke and, well, me, visit Tokyo to apologize to the emperor. We have, after all, done even worse. 「但し、日本は、2008年以降我々が経験している雇用問題には直面していない。実際、米国の政策対応は余りにも不十分であったので、かつて日本の政策を非難したバーナンキや私も含む米国のエコノミストが東京を訪れ、天皇に謝罪すべきではないかと言ったことがあった。結局、米国は日本よりも対応がまずかったのである」 And there's another lesson in Japan's experience: While getting out of a prolonged slump turns out to be very difficult, that's mainly because it's hard getting policy makers to accept the need for bold action. That is, the problem is mainly political and intellectual, rather than strictly economic. For the risks of action are much smaller than the Very Serious People want you to believe. 「日本の経験から、もう一つ学んだことがある。長引く不況から抜け出すことがどんなに困難なことか分かる一方で、その主な理由は、政策決定権者に、大胆な行動を起こす必要があることを認めさせるのが難しいことにある。つまり、問題は厳密な意味で経済学的なものというよりも、政治的、そして知的なことなのである。というのも、そうした行動がもたらすリスクは、『生真面目な人々』が皆を信じ込ませようとしているよりも遥かに小さいものだからである」 Consider, in particular, the alleged dangers of debt and deficits. Here in America, we are constantly warned that we must slash spending now now now or we'll turn into Greece, Greece I tell you. But Greece, a country without a currency, doesn't look much like the United States; surely Japan offers a more relevant model. And while doomsayers keep predicting a fiscal crisis in Japan, hyping each uptick in interest rates as a sign of the imminent apocalypse, it keeps not happening: Japan's government can still borrow long term at a rate of less than 1 percent. 「特に、主張されている借金や債務の危険性について考えてみればいい。ここ米国においては、我々は常に警告されている。支出をカットせよ、今やるのだ今、と。さもなければギリシャになってしまうぞと。ギリシャと私は言っている。しかし、自国の固有の通貨を持たないギリシャは米国とは似ていない。日本となら比較してもいいかもしれないが。終末論者は、日本の財政危機を予言し続けている。金利の高騰が起きると言い続けてきた。しかし、そのようなことは全然起きていない。日本の政府は、今でも1%未満の長期金利でお金を借りることができる」 Enter Mr. Abe, who has been pressuring the Bank of Japan into seeking higher inflation -- in effect, helping to inflate away part of the government's debt -- and has also just announced a large new program of fiscal stimulus. How have the market gods responded? 「日本銀行により高い物価上昇率を追及するように圧力をかけてきた― そうすることによって政府の債務負担を実質的に軽くする― そして、大規模の新たな財政出動を行うと言う安倍氏を登場させよ。市場の神々の反応はどうであったか?」 The answer is, it's all good. Market measures of expected inflation, which were negative not long ago -- the market was expecting deflation to continue -- have now moved well into positive territory. But government borrowing costs have hardly changed at all; given the prospect of moderate inflation, this means that Japan's fiscal outlook has actually improved sharply. True, the foreign-exchange value of the yen has fallen considerably -- but that's actually very good news, and Japanese exporters are cheering. 「答えは、全て良し。少し前までマイナスであった市場― つまりデフレが続くと予想していた― のインフレ予想は、今やプラスの領域に入っている。しかし、政府の借入コストは全く変わっていない。もし、マイルドなインフレが予想されるのであれば、このことは、日本の財政見通しは、実際には急激に改善しているということである。確かに、円の価値が相当に落ちているが、それは実際には非常に良いニュースであり、日本の輸出業者は喜んでいる」 In short, Mr. Abe has thumbed his nose at orthodoxy, with excellent results. 「要するに、安倍氏は素晴らしい結果をもたらし、正統派理論をバカにしているのだ」 Now, people who know something about Japanese politics warn me not to think of Mr. Abe as a good guy. His foreign policy, they tell me, is very bad, and his support for stimulus may have more to do with old-fashioned pork-barrel (tofu barrel?) politics than with a sophisticated rejection of conventional wisdom. 「ところで、日本の政治に詳しい人々が安倍氏を良い人物だと思うなと警告する。彼の外交政策は 非常にまずいと彼らは言う。そして、彼の刺激策は、伝統的な理論を拒否したアイデアというよりも古いタイプの利益誘導に近いと言う」 But none of that may matter. Whatever his motives, Mr. Abe is breaking with a bad orthodoxy. And if he succeeds, something remarkable may be about to happen: Japan, which pioneered the economics of stagnation, may also end up showing the rest of us the way out. 「しかし、そのようなことはなんら問題にはならないかもしれない。彼の真意がどうであれ、安倍氏は拙い正統派理論を打ち壊しているのである。そして、もし彼がそれに成功するならば、何か特筆すべきことが起こるかかもしれない。不況の経済学の先駆者である日本が、我々世界の他の国々に不況から抜け出る方法を示すことになるかもしれない」 さあ、クルーグマン教授の意見をお知りになって、貴方は今、どのようにお感じになっていることでしょう?
彼は、多分、安倍総理のことを良くは思っていない。外交が下手だし、経済政策もバラマキに近い かもしれない、と。 しかし、そうは言っても、やっていることは自分の主張してきたことと一致しており、だから、褒めない訳にはいかない、と。つまり、自分が正しいと言うだけの話です。そして、そのクルーグマン教授の主張する仮説の正当性が、こうして日本において社会実験によって立証されるであろう、と。 果たして、実験の結果はいつ出るのか? クルーグマン教授は正しいのか? 私は、その反対になると思うのです。 もちろん、景気が一時的によくなる可能性は大であるのですが、景気がよくなればなるほど、そして、物価上昇率が高くなればなるほど、日本の国債が暴落してしまう危険性が大きくなるのです。 以上
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