01. 2013年1月21日 02:25:01
: mb0UXcp1ss
JBpress>海外>アジア [アジア] 韓国新大統領の経済政策「クネノミクス」とは? 低成長、ウォン高、社会保障費負担急増・・・出だしから難題山積 2013年01月21日(Mon) 玉置 直司 2013年2月25日、韓国の新しい大統領に朴槿恵(パク・クネ)氏が就任する。韓国初の女性大統領が掲げる経済政策は「クネノミクス」と呼ばれ、経済界などでその中身に関心が高まっている。 成長志向一本やりだった歴代の大統領の経済政策とはがらりと内容が変わったが、就任早々、難題も山積している。 大統領選の2日後にスピード出版された注文殺到の新著 大統領選のわずか2日後に出版された『クネノミクス』 朴槿恵氏が大統領選挙で当選したのが2012年12月19日の水曜日。このわずか2日後の21日金曜日に1冊の本が韓国で出版されて注目を集めた。
題名は『クネノミクス』(毎日経済新聞社刊)。朴槿恵氏の経済政策について解説した230ページの本だ。「スピード」が身上である韓国を象徴するような出版だが、発売と同時に「企業からまとめ買いなどの注文が殺到した」という。 「アベノミクス」は日本だけでなく今や世界中で関心を集めている。安倍晋三首相の経済政策やこれまでの経済に対する発言を集め、「アベノミクス」について論じた本が首相就任からわずか2日後に出版されるなど日本では考えられない。 このスピード感の差は、如何ともしがたいのだろうか。 2013年1月15日、李明博(イ・ミョンバク)政権から朴槿恵政権への移行を円滑に進めるための「大統領職引き継ぎ委員会」は、新政権での政府組織改革案を発表した。韓国では政権が代わるたびに政府組織が少しずつ変化する。組織がどう変わるかで新しい大統領が重視する政策を読み取ることができる。 政府組織の変更から読み取れる政策 今回の組織改革の主な内容は(1)経済副首相の復活、(2)未来創造科学部の新設、(3)海洋水産部の復活、(4)通商業務を外交通商部から切り離し、産業政策の立案遂行を担当する「産業通商資源部」を新設する――などだ。 朴槿恵氏が大統領選挙期間中から最も重視していたのが「経済政策」だ。副首相が大統領の意を受けて各省(部)庁間の利害を調整しながら指導力を発揮して政策を進めようという狙いだ。 朴槿恵氏の父親の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は、経済副首相を置いて大きな権限を与え、経済成長の青写真を作ってこれを実行させた。その後、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時代も経済副首相を置いたが、李明博政権では企画財政相が経済政策の中核を担ってきた。 朴槿恵政権では「経済副首相」を復活させ、政権発足直後から「経済」に重点を置いた政策を実行するという強い意欲の表れだろう。 もう1つの目玉が、「未来創造科学部」の新設だ。朴槿恵氏は、韓国では初めての女性大統領であるとともに初めての理系出身大統領にもなる。かねて科学技術や研究開発の重要性を力説してきた。 新しい未来創造科学部は、今の教育科学技術部の科学技術政策に関連する業務に加えて、知識経済部や放送通信委員会の一部機能も取り組む巨大組織になる。未来産業を育成することこそが韓国の将来の経済発展の基盤になるとの朴槿恵氏の信念を実践する組織だ。 朴槿恵氏は情報通信技術(ICT)という用語を頻繁に使っている。韓国が強みを持つこの分野の研究開発を国家が支援してさらに強化するとともに、人材育成機関も新設して「雇用拡大」に活用しようとする政策も打ち出している。新設する未来創造科学部は「理系大統領」の特徴を前面に押し出した「クネノミクス」の中核組織でもある。 李明博大統領は力強い成長を掲げたが・・・ だが、今回の政府組織の改革で「クネノミクス」の重要内容が見えてくるかと言えば、そうとも言えない。では、その特徴とは何なのか。 2007年の大統領選では、「CEO大統領」を標榜し、派手な成長戦略を打ち出した李明博氏が勝利を収めた〔AFPBB News〕
まずは、マクロの経済成長指標重視の政策からの脱皮だ。歴代の韓国大統領は、経済政策と言えばまず、「○○%成長を目指す」という数字が出てきた。 今の李明博大統領もその典型だった。2007年の大統領選挙で李明博氏が打ち出した経済政策(イニシャルをとってMBノミクスと言われた)の根幹は「747政策」だった。 7%の国内総生産(GDP)成長率を達成し、1人当たりGDPを4万ドルに引き上げ、世界7位前後の経済強国に浮上する――。なんとも勇ましいこんな公約が「CEO大統領」を標榜した李明博氏の経済政策だった。 李明博氏は、比較的高い経済成長を達成してパイを大きくすることで韓国経済が抱えるさまざまな問題を解決しようとした。例えば、「経済の両極化」。経済成長することで雇用が増加して賃金が上昇すれば、その結果として「両極化」も解消に向かうと考えた。 新大統領は「中産層の復元」と「雇用の拡大」を重視 李明博政権の下では、確かに現代自動車やサムスン電子が快進撃を続けたが、韓国経済の両極化が一段と進んだ〔AFPBB News〕
大企業や財閥を牽引役にしようという内容で、だから法人税引き下げやウォン安政策で大企業や財閥を支援した。期待に応えてサムスン電子や現代自動車は快進撃を続けた。 だが、それだけで終わってしまった。結果的に、一部の大企業・財閥とその他の企業・中小零細企業との格差は広がり、「両極化」はさらに進んでしまった。 朴槿恵氏が選挙期間中に「経済民主化」を重要課題に掲げたのは、「大企業や財閥を牽引役にして韓国経済全体の成長率を引き上げ、結果として国民全体を豊かにするという従来の経済政策からの転換をアピールするため」(韓国紙デスク)だった。 だから「クネノミクス」には「○○%成長を実現する」といった類のマクロの成長率に関する数値目標はない。そのかわりに重視するのは「中産層の復元」とそのための「雇用の拡大」だ。 選挙期間中から朴槿恵氏のブレーンを務めた金広斗(キム・グァンド)国家未来研究院長は最近の講演で「経済全体が何%成長すれば雇用がそれだけ増えるというのは誤った考えだ。特定の産業に焦点を合わせ、この産業が成長するとどのくらい雇用が増えるのか、顕微鏡をあてるようにして見なければならない」と」強調した。 特に若年失業率の問題を解決するためには、ソフトウエア、文化コンテンツ、次世代インターネット、観光産業などの育成が重要だとした。これらの分野の雇用創出を手がけるのが、未来創造科学部になるはずだ。 韓国経済を取り巻く環境と有権者の意識の劇的な変化 韓国で大きな社会問題になりつつある家計負債の増大に対応するための基金を新設する。地方自治体や政府系機関、公企業などで率先して非正規職を正規職に転換させることで「雇用の質」を向上させる。 ICT分野への投資を増やし、人材育成に力を入れることでこの分野での雇用を増やす。海外で就職する若者を支援するためのプログラムを拡充・新設する。60歳定年を実現させる――。「クネノミクス」にはこうした政策がずらりと並ぶ。 5年前の大統領選挙で、李明博氏が「成長」をキーワードに「経済再生」を訴えたのに対して、同じ与党候補として当選した朴槿恵氏は「民生」「福祉」「中間層」などを繰り返し訴えて当選した。 韓国経済を取り巻く環境や有権者の関心分野がそれほど劇的に変わったことの裏返しでもある。 「幸福な経済」「やさしい資本主義」を掲げる朴槿恵氏の政策に対しては、「時代背景をよく理解して政策の方向性をうまくつかんでいる」(韓国紙デスク)との指摘は多い。だが、実際にどういう経済運営ができるかとなると、また別の話だ。それほど課題が山積していることも事実なのだ。 冷え込んでいるのは、気温だけではない?〔AFPBB News〕
まずは、就任早々の2013年の韓国経済に明るい展望が見えないことだ。韓国の経済成長率はリーマン・ショック以降に「V字型回復」を果たし、2010年には6.3%を記録した。 しかし、2011年には3.6%に低下、2012年は2.2%前後になったと見られる。2013年については3%前後の成長を期待しているが、達成は容易ではないだろう。 韓国は貿易依存度が50%以上で、どうしても海外経済の影響を受けやすい。主要輸出先である欧州の景気は2013年も低迷が必至だ。米国や中国は明るい兆しが見えるとはいえ、力強さに欠ける。 「円安ウォン高」が定着すれば成長減速が大きな負担に 貿易要件という意味では、急速に進む「ウォン高」は頭の痛い問題だ。 李明博政権の特に前半期は、韓国の産業界は「ウォン安効果」を謳歌した。特に日本企業との競合が多いため、一時、「100円=1500ウォン」前後まで進んだウォン安は韓国の輸出企業にとって大きな追い風になった。ところが最近は、「100円=1100ウォン台」まで「ウォン安修正」が急速に進んでいる。 「ウォン安修正」が定着すれば、韓国経済の牽引役だった輸出型大企業の業績に大きな打撃となるだろう。朴槿恵政権がマクロの経済成長数字を目標に掲げていないとはいえ、成長率の減速は大きな負担になる。 ここ数年、不動産価格が下落しており、家計負債の増加も深刻な問題だ。2012年9月末時点での家計負債は937兆ウォンに達している。「クネノミクス」では家計負債解消のための基金創設などを打ち出しているが、その額は18兆ウォン。力量不足との指摘もある。 すでに家計負債の増加は国内消費などに影響を与えている。今後も不動産価格が下落すれば、不動産向け融資などをしてきた金融機関の経営問題に発展する恐れも十分にある。 負の遺産を引き継ぎ、多難の船出 こうした課題は、もちろん朴槿恵政権が「過去の負債」として引き受けるもので、その責任を負わせるのは酷かもしれない。ただ、政権発足直後の経済要件がよくないことは明らかだ。急速に進む高齢化もあり、社会保障費の増大という構造的な課題も多い。 新政権は、「増税はできるだけ避ける」との立場だが、経済が悪化した場合は負担増も避けられないだろう。 朴槿恵氏の父親である朴正煕氏は大統領在任中に年平均10%もの高度経済成長を果たして国力の基盤を固めた。父親が大統領に就任してから今年でちょうど50年(クーデターで実際に権力を握ったのはさらに2年前)。娘は「クネノミクス」で「成長一辺倒」路線からの体質転換に挑む。 |