03. 2013年1月05日 00:17:39
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コラム:円安の先にインフレは来るか=唐鎌大輔氏 2013年 01月 3日 16:27 トップニュース 序盤の欧州株式市場は下落、米雇用統計に注目 ユーロが対ドルで3週間ぶり安値に下落=EBS 日経平均5日続伸、全面高で東日本大震災前の水準回復 ドル87円後半、日米要因そろい踏みで強いドル買い/円売り意欲 唐鎌大輔 みずほコーポレート銀行 マーケット・エコノミスト(2013年1月3日) 安倍晋三新政権下での強烈なリフレ志向を期待して、ドル円相場は野田佳彦前首相が衆院解散を表明した11月14日以降8%以上も上昇している。しかし、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)らが「今までが異常な水準であって、現在も超円高」といった理解を述べている通り、現状水準は円高の修正であって、決して円安反転ではないとの意見は産業界を中心に多い。 筆者は、事業法人の方々と話をする機会が多いが、急激な円高が進行し、1ドル=90円の攻防が話題になっていた頃には「1ドル=90円を割れたら予算など立てようがない」といった嘆きを耳にしたことを記憶している。やはり80円台というのは産業界にとって「異常」なのだろう。 一方、今回の円高局面に関しては「実質実効ベースで見れば円高ではなく、むしろ円安だ」といった主張も散見されてきた。これは平たく言えば、「自国通貨が高くなっても国内産業の継続的な効率性改善などを背景に国内物価が低下しているから、国際競争力上は問題ない」という主張に近い。だが、これは実態を逆に理解している面もあろう。 「国内産業で効率化が進んだ結果、円高が問題ではなくなっている」のではなく、「円高が問題だから、効率化してきた」という現実があるはずで、円高によりドル建てコストがかさんだ分をデフレで、具体的には製造業を中心とする効率化(含む賃金カット)で帳尻を合わせてきたというのが現場感覚に近いのではないか。 「実質ベースで見れば円高は問題なく、むしろ円安」という指摘は一面では正しいのだろうが、血のにじむような努力を重ねてきた輸出企業も含めてひとくくりに当てはめるのは、いささか乱暴に思える。 <日米単位労働コストに現れる円高の害悪> たとえば、米国労働省労働統計局の発表する国際労働比較統計では、日本の単位労働コスト(ユニットレーバーコスト=ULC、ドルベース)に関して、時間当たり賃金、労働生産性そして為替レート(対ドル変化率)の3つに要因分解したものを確認できる。 ULCは実質国内総生産(GDP)を1単位増加させるのに必要な(労働の)経費と考えれば良い。長年、日本のULCは継続的な労働生産性の上昇と時間当たり賃金の低下を背景に低く押さえ込まれてきた経緯があって、母国通貨ベースでULCを日米比較すれば(つまり、日本の円ベースULCと米国のドルベースULCを比較すれば)、日米はほぼ互角に渡り合ってきたというのが実態である。 しかし、円ベースのULCをドルベースに換算すると、そのような企業努力は円高・ドル安で帳消しにされてきたことがはっきりと分かる。もちろん、上述したように、順番的には円高・ドル安で国際競争力が劣化したために企業努力を重ねてきたという解釈が現実に近いのだろう。「円高」と「企業努力によるコスト改善」は相互連関的な関係だったと想像する。 いずれにしても、重要なことは国内で発生する物価の継続的な下落、いわゆる「デフレ現象」は企業努力と共に生じている部分もあると認識することである。そうしたデフレ現象を背景として実現される「実質実効ベースでの円安」は机上ではその通りでも、現場では全く受け入れられない理屈である。 <デフレとは円高のこと> 実質ベースの議論が世に馴染まないのは、物価上昇や円安を煽るリフレ政策が産業界から支持を得ている状況からも明らかである。自民党政権はインフレ率2―3%への引き上げと円安の進行を強く志向しているが、これに対して「インフレ率が2―3%も上昇したら実質ベースでみれば円高になる」という懸念が産業界から出たことがあるだろうか。 「1ドル90円が良い」と願うのと同程度の想いの強さをもって「インフレ率は2―3%が良い」と思っている輸出企業は恐らく多くない。結局のところ、日本(人)にとってデフレというのは名目ベースの円高(より正確に言えば名目ベースのドル円相場の下落)のことであり、名目ベースで円安が進めば物価上昇率がマイナス1%であろうと、プラス2―3%であろうと実はあまり気にかけられないのではないか。 確かに、本当にインフレ率が2―3%まで高まり、賃金がこれに追随するようなことがあれば、さすがに「実質ベースで円高になってしまった」と経営的な観点からの嘆きも出るかもしれない。だが、後述するように、リフレ政策で雇用・賃金環境まで急激に改善する可能性は低く、そのような心配は無用だろう。 <「金利差なき円安」を可能にするレジームチェンジ> 円高に苦しめられてきた以上のような経緯を踏まえれば、日本経済全体として円安を志向すること自体に大きな誤りがあるとは思わない。時期的に2013年のドル円相場見通しを問われることが多いが、日銀法を改正し、政府の意向を金融政策に反映しやすくした上で、政府が胸に秘める適切な(通貨安方向の)レンジが存在するならば、円安が進まない理由はない。 理論上、自国通貨売りは無限に可能であり、通貨安方向の動きならば政府の想い次第である程度は叶えられる。だが、常に「相手がある」為替の世界において、米国を筆頭とする諸外国の理解が得られるならば、の話である。 少なくとも政府高官が特定の水準に公然と言及し、それに向かって金融政策を割り当てるというのは固定相場制の様相であり、国際金融のトリレンマで言えば「安定した為替相場」と「自由な国際資本移動」を確保する代償として「独立した金融政策」を放棄するという理解になる。 金融危機以降に円相場で起きてきた事実は、「米経済の悪化」を受けて「米連邦準備理事会(FRB)が緩和」「円高が進行」そして「日銀が緩和(それでも止まらなければ政府・日銀による円売り介入)」 という循環であり、実際のところ円高を打ち返すために金融緩和が使われてきた。客観的に見ても、金融政策は円高をケアしていたし、その意味で通貨政策に近かった。11月の日銀金融政策決定会合議事要旨では、はっきりと為替相場へ働きかけることを企図するような表現が複数見られた。 それが悪いことだと言うつもりはない。仮に金融政策の通貨政策化を国策として推し進め、意図的な円安により輸出産業を支えていくのであれば、それは1つの選択肢であるし、だとすれば中央銀行による外債購入は一案だろう。 というよりも、「金利差なき円安」を続けたいならば、それぐらいエポックメイキングな試みを打ち込むしかない。 FRBが金融政策出口の目安として設定する失業率「6.5%」に到達するのは15年以降の見通しであり、明確な日米金利差拡大が13年にやってくる可能性は低そうである。ドル円相場の歴史を振り返る限り「金利差なき円安」の持続性は乏しく、この経験則を打ち破るにはこれまでのレジームがチェンジするような展開が必要に思える。 ただ、上述したように為替は常に「相手がある」世界である。結局は国際政治上で現政権がどのように主張を展開できるかにかかっている。 <円安の先に「人々の望む物価上昇」はない> しかし、筆者は円安の先に2―3%の物価上昇が待っているとは考えていない。上述したように、企業からすれば、インフレ率が上昇して、それに伴い所得も上がるならば、せっかく円安で競争力を回復してもチャラになるわけで、今後、円安で企業収益が増えても所得環境が為替相場ほど劇的に変化する可能性は低いと言わざるを得ない。 思い出して欲しい。「プラザ合意以来の円安」を背景に戦後最長の景気回復局面を経験した02―07年、企業収益が増えても名目雇用者報酬はほとんど増えなかった。当時、多くの人が恐らく一度は「実感なき景気回復」との表現を目にしたはずである。それでもあの頃は円安だったからこそ名目雇用者報酬が「減らなかった(概ね横ばいだった)」という事実もあって、その意味で現政権が円安を志向する意味はあるだろう。 だが、円安進行と共に消費者物価指数(CPI)の上昇率がどこまで上がったかといえば、せいぜい06年半ばに1%程度になったくらいである。仮に、あの頃、企業収益の増加に呼応して所得も増えていたらCPIはもっと上昇したのかもしれない。だがその場合、日本企業が国際競争力を維持できただろうか。新興国・地域との競争が一段と激しくなり、企業のコスト意識が洗練される中で、「維持できない」と踏んだ企業が多かったからこそ所得の上昇が起こらなかったのではないか。 全世界が輸出のパイを取り合い、世界経済の成長率が低下している現状を見る限り、日本企業を取り巻く環境は当時より厳しいと考えるのが自然だろう。こうした状況下、今後、円安によって企業収益が増加するといった経路がある程度実現されるにしても、その先の「所得増」「消費増」「物価上昇」の好循環にまで至るのかどうかは、少なくとも前回の景気回復局面の経験を踏まえる限り、かなり怪しいところである。 ただし、「円安・株高」が続いている限り、物価が上がらないことを思い悩むようなムードは強まらないだろう。繰り返しになるが、日本企業にとって憂慮すべき最優先の事実は名目ベースのドル円相場の下落であって、物価下落では恐らくない。 なお、円安誘導により、鉱物性燃料を中心として輸入物価が押し上げられ、総合ベースのCPIが上振れすることはありそうだが、それが「人々の望む物価上昇」ではないことは説明するまでもない。この点については本稿では詳述しないが、来年の表向きのテーマが「どこまで円安になって、どれくらい景気が回復するか」であるのに対して、裏向きのテーマとして「どこまでいったら円安のデメリットを意識するか」という論点も念頭に入れておきたい。 06―07年のような円安を望むのは良いが、当時の原油価格は平均で1バレル=70ドル程度だった。これに対し、直近1年間では約90ドルである。また、世界経済もあの頃とはだいぶ変わった。直感的に考えても、円安のもたらす恩恵が当時と同じはずがない。 石破茂自民党幹事長が12月下旬のテレビ番組で円相場について「1ドル85円から90円くらいにどうやって収めるか考えなければならない」「円は安ければ安いほどいいのかというと日本の産業構造上、そうではない」と述べたことが大きく報じられたが、こうしたバランス感覚を持った政府高官が存在することは市場関係者からすれば安心材料ではあるかもしれない。 *唐鎌大輔氏は、みずほコーポレート銀行国際為替部のマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より現職。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。2012年J-money第22回東京外国為替市場調査ファンダメンタルズ分析部門では1位。 関連ニュース
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ドル高基調の継続で、ユーロ/ドルの上値は重いとみられている。 予想レンジはドル/円が85.50─90.50円、ユーロ/ドルが1.2900─1.3200ドル。 ドル/円は昨年、年末にかけて騰勢を強めたが、この局面でドル/円を押し上げたのは主として安倍新政権による積極財政、日銀による大胆な金融緩和への期待という日本発の円安要因だった。しかし、円安地合いのまま国内勢が年末年始休暇に入ると、今度は米国でドル高要因が続出した。 焦点となっていた「財政の崖」問題は、土壇場で与野党の合意が成り立ち、崖への転落が回避された。続いて、今晩の12年12月米雇用統計の「前哨戦」となる12年12月ADP全米雇用報告が強い結果となったほか、米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(12年12月11―12日開催分)ではQE(量的緩和)の早期縮小観測が台頭した。 ドル/円は、日米双方の要因で持ち上げられる格好となり、4日のロンドン市場では2010年7月以来の88円台回復となった。「ヘッジファンドは早期の90円回復を予想している」(大手信託銀行)との声が出ている。 ブラウン・ブラザーズ・ハリマンの村田雅志シニア通貨ストラテジストは、米景気への期待が高まり、米金利が急ピッチで上昇したことでドルを下支えすると予想。今晩発表の12年12月米雇用統計については、「期待が裏切られる可能性もあるが、QEへの期待はく落で米国債の利回りは下がりにくい。仮に雇用統計がマーケットの期待を下回ってもドル/円の下押しはそれほどなく、米国の景気回復期待やQE縮小観測をベースに底堅く推移するだろう」と話している。 来週、日本では11日に12年11月の経常収支が公表される。季節調整前の数値で2012年1月以来の赤字転落が見込まれており、あらためて経常収支の悪化に伴う円高圧力の後退が意識されそうだ。政治サイドでは、安倍内閣が緊急経済対策を11日にまとめる予定。引き続き、経済政策や日銀の金融政策、日銀正副総裁人事に関する主要閣僚の発言への注目度が高い。一方、米国では重要指標は発表されないが、「ドル買い基調を転換させるだけの材料が出ないということ」(外資系金融機関)との受け止め方がある。 ドル/円の1カ月物のインプライドボラティリティ(予想変動率)は、2日に9.275%まで上昇し、12年7月以来の高水準に達した。シティバンク銀行・個人金融部門の尾河真樹シニアFXマーケットアナリストは「実需筋などは、ドル買い方向への備えがあまりできていない可能性がある」と指摘。「ドルを買わなければならない参加者がドル/円が上昇してゆくことでじわじわと炙り出されてしまうと、思ったよりもドル/円が上昇する可能性もある」とみている。 一方で、ドル高進行の割を食う格好でユーロ/ドルには下落圧力が掛かっている。市場では「モデル系ファンドが売っている」(前出の大手信託銀行)との声が出ていた。ユーロ/ドルは3日の急落で日足チャートでダブルトップを形成。欧州債務問題への懸念が再燃する事態までは見込まれていないが、昨年11月下旬以降の戻り相場の反動という側面も加わって、来週は上値の重い展開が予想されている。 (為替マーケットチーム) |