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悪貨が良貨を駆逐する 金の大量流出が鳴らす警鐘[日経新聞]
2013/1/2 15:15
日本から大量の金が流出している。金の輸出から輸入を差し引いた流出量は2011年に過去最高になり、昨年の1〜10月も55トンと高水準が続いている。なぜ大量の金が海外に逃げていくのか。ドイツ銀行は昨秋のリポートでこんな警告を発していた。通貨を実態以上に評価し過ぎると“悪貨”となってあふれ出し“良貨”の金を駆逐してしまう――。
金の国際調査機関、ワールド・ゴールド・カウンシルによると、昨年1〜10月の日本の流出量(輸出から輸入を引いた量)は55.4トン。年間で7年連続の流出になるのは確実だ。11年は110.7トンと過去最高に達していた。
流出が続いているのは金を買う人より売る人が多いためだ。大手地金商の田中貴金属工業(東京・千代田)によると、昨年1〜9月の同社における金の買い受け量は20.2トン。販売量の18.8トンを7.4%上回った。年間でも8年連続で買い受け超過の状況が続く見通しだ。こうして売られた金の一部が、商社や金融機関を通じてアジアや欧州に輸出されている。
■デフレ反映、現金化の動き加速
これほど金を売る人が多いのはなぜなのか。マーケットアナリストの豊島逸夫氏は「金の流出は日本経済のデフレを映す現象。インフレ懸念が薄いと金よりキャッシュの意識が強くなる。デフレからすぐには脱却できず金の出超はまだ2年は続くと思う」と話す。
物価の下落が続くデフレーションの下では、通貨である円の価値は相対的に上がる。1980年代から90年代にかけて積極的に金を買い付けていた個人投資家が、金を保持するより円で持つ方が有利と考え現金化に動いている格好だ。
■円過大評価が招くシナリオ
こうした金流出の状況を「悪貨は良貨を駆逐する」という観点から解説したのが、ドイツ銀行が昨秋に出したリポート「ゴールド〜アジャスティング・フォー・ゼロ」だ。日本を名指ししてはいないものの、「政府が法定通貨を過大評価すれば“悪貨”として流動性が高まり、逆に過小評価された“良貨”の金は国外などに出て行く」と説いた。
円が“悪貨”のごとく実態以上に評価されるデフレの状態を日本が放置し続ければ、本来なら実物資産として資産保全の効果がある金が目の前から消えていくと指摘しているのだ。
「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉を残したのは16世紀の英王室財務官だったトーマス・グレシャム。当時英国では貨幣の改悪によって貴金属の含有量の低い通貨が出回り、含有量の多い通貨は退蔵されたり、国外に流出したりしてポンドの信用が著しく低下したという。グレシャムは王室に改鋳を進言しポンドの信用を回復させたという。
■流出量が円適正化のバロメーターに
グレシャムにならえば、これ以上の金の流出を防ぐには“悪貨”の状態にある上振れした円を正常な状態に戻す取り組みが必要になる。そのためにはデフレ脱却の政策が欠かせない。
安倍新政権は日銀との連携による強力な金融緩和と積極財政によるデフレ脱却に本腰を入れ始めた。行き過ぎた円高が収束し円の“悪貨”の度合いが弱まれば、“良貨”の金を駆逐する必要がなくなり金の流出量は減っていくだろう。その意味で今後の金の流出量は、円相場の適正水準を測るバロメーターにもなる。(編集委員 浜部貴司)
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDJ2700T_X21C12A2000000/?dg=1
金、12年連続上昇後の不安[日経新聞]
編集委員 村田和彦
2012/12/23 6:00
金の国際価格はおおむね底堅く推移して2012年を終えようとしている。年初と年末を比べた年間の騰落は12年連続の上昇となり、通算の値上がり幅は6倍強になる見通しだ。これまで大口の投資が次々と入ったことで、相場は右肩上がりを続けたが、今後については不透明感もある。
米大手証券のゴールドマン・サックスは今月5日、金の価格予想を引き下げると同時に、「金価格は13年1〜3月に当面のピークをつけ、14年にかけて緩やかな下落基調に転じる」とのリポートを発表した。米国の経済が徐々に回復し、実質金利が上昇するのが金相場のマイナス材料になるのが理由だ。同証券はこれまで強気の姿勢で知られただけに、意外と受け止める市場関係者も多かった。
金価格が上昇を始めた01年、ニューヨーク先物は一時1トロイオンス255ドル台を付けるなど低迷が続いていた。それが4年後の05年12月に500ドルを超し、その3年後の08年3月には1000ドルを突破。11年9月には過去最高値の1923.7ドルを付けた。
この間の上昇は古くから金に携わってきた人にとっては驚きの連続だった。
従来の常識では考えらなかった水準に取引価格帯が移ることを市場では「ステージが変わる」という。新しいプレーヤーが市場に参入したときに起きやすい現象で、価格は過去の経験則が通用しない動きになりやすい。
金の現物市場の伝統的な買い手は宝飾品業者、地金やコインを購入する投資家、電子部品や歯科材料メーカーなどで数十年前からほぼ同じ顔ぶれだ。これらの分野の需要はこの10年余り、年間3000トン強で一進一退を続けている。
ところが2000年以降、新たな超大口の買い手が次々と現れた。
まずは金の鉱山会社だ。カナダや南アフリカ共和国などの鉱山が、金融機関やトレーダーにヘッジ(保険つなぎ)売りしていた大量の金の買い戻しを始めた。
ヘッジ売りとは将来掘り出す金をあてこんで、手元にない金を事前に空売りする取引だ。金相場の下落基調が続いたため、値下がりする前に収益を確定しておく狙いがあった。
ところが、金相場が上昇し始め、事前に売った価格より将来掘り出した時に時価で売ったほうが有利になるのが確実になった。各社は一斉にヘッジ売りの買い戻しに動いた。
ヘッジ売買は将来現物の受け渡しによって決済するのが基本のため、現物の需給に影響する。ヘッジ売りを買い戻すと、将来引き渡されるはずだった金の減少につながるため相場の上昇要因になる。
この動きは10年近く続き、合計3000トン近くが買い戻されたと言われる。
次に現れたのが金の現物に投資する上場投資信託(ETF)だ。代表的なSPDRゴールド・シェアがオーストラリア証券取引所に上場したのが03年。その後追随する商品が相次ぎ、現在の金現物型ETFの運用残高は約2500トンになった。
それまで金投資のネックになっていた現物の保管の手間とコストが省けるため、年金や大学の財団、個人投資家まで幅広い資金の金市場への流入につながった。
そして、最近目立つのは新興国の中央銀行が外貨準備として金を保有する動きだ。ブラジル、ロシア、韓国などが経済成長に伴って増えた外貨準備の一部を金に振り向けている。代表的な外貨である米ドルが「大幅な金融緩和の結果、価値の希薄化が進みかねない懸念がある」(金の情報機関、ワールド・ゴールド・カウンシル、WGC)として、金への資金の分散が広がった。
10年頃までは世界の中央銀行は金利を生まない金を売却して米国債などに置き換える動きが目立っていた。しかし、WGCのまとめでは世界の中央銀行の金の買越量は10〜12年合計で約1000トンになる見通しだ。
大口の買い手が現れたことなどが買い安心感につながり、先物市場には短期間で売買するファンドなどの資金が流入。相場が一段と高騰する循環が生まれた。
市場には「米国の大幅な金融緩和で来年も金は買われやすい状態が続く」(スタンダードバンクの池水雄一東京支店長)との声も多い。
ただ、現在の相場は年初の1600ドルに比べれば高いものの、同値圏のもみ合いが1年3カ月余り続いている。
相場分析の代表的な指標であるサイコロジカルラインでは12連騰は相場の過熱状態を示す重要な節目とされる。
また、SPDRゴールド・シェアの最大の保有者は米著名投資家のジョン・ポールソン氏が率いるヘッジファンドだ。ETFを保有しているのは有事に備えて長期投資している年金などのほかに、有利なタイミングで売却して利益を稼ぐのが狙いの投資家も多いとみられる。
ゴールドマン・サックスのように金相場の先高観が薄れたとの見方をする人が増えれば、利益確定の売りが膨らむ可能性もありそうだ。
http://www.nikkei.com/markets/shohin/view.aspx?g=DGXNMSDJ1902C_20122012000000
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