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海外経済の減速 痛手
2012年の日本経済は、景気の想定外のもたつきが目立った。春ごろからは「ミニ後退局面」に入っていた可能性が高い。海外景気の減速や円高に加え、尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化も響いた。長期デフレからの脱却への展望はみえないままだ。政府は「日銀頼み」の姿勢を強めた。年末にかけ海外に明るさもみえ始めたが、13年の景気も予断を許さない。
辰(たつ)年が終わろうとしている。「昇り竜」のような力強い景気が期待されたが、厳しい経済環境が続いた年として記憶されることになりそうだ。
政府の景気判断をたどると、5〜7月の「復興需要などを背景として緩やかに回復しつつある」がピーク。それ以降、11月まで4カ月連続で下方修正され「弱い動きとなっている」に変わった。エコノミストの間では4月ごろから後退局面だったとの見方が優勢だ。
中国をはじめ海外経済が減速したことが最大の理由だ。債務危機が欧州景気を下押しし、それにつれて中国など新興国から欧州への輸出が低迷。新興国の内需不振につながり、日本をはじめ先進国の新興国向けの輸出、生産の減少を招く。秋にかけ、そんな「負の悪循環」がグローバル経済にじわじわ広がった。
象徴的だったのが自動車メーカー。夏場にかけての円高進行がさらなる痛手になったうえ、国内でもエコカー補助金の終了という逆風が吹いた。9月以降、尖閣諸島をめぐる中国との関係悪化も、現地の販売減に追い打ちをかけた。
日産自動車は11月、13年3月期の連結営業利益の予想を1250億円下方修正した。そのうち中国での販売減による減益要因が600億円に達し、志賀俊之最高執行責任者(COO)は「早い時期に安心して投資や事業ができる関係になることを切に願っている」と真情を吐露した。
デフレの出口もみえない。消費者物価指数の前年同月比をみると、代表的な指標である「生鮮食品を除く総合指数」はこの1年、ほぼゼロ近辺で推移した。一見、デフレ圧力は弱まっているようにもみえる。
だが食料とエネルギーを除いた指数ではマイナス圏に沈んだままだ。総合指数がゼロ近辺でとどまったのは、原子力発電所の稼働停止に端を発した電気代の引き上げなどが背景だ。日銀がめざしている1%程度の物価上昇率の達成にはほど遠い状況にある。
需要不足に根ざした物価下落圧力は衰えていない。日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示す「需給ギャップ」は7〜9月期の年率換算でなお15兆円に及ぶ。4〜6月期の同10兆円からむしろ広がった。昨年秋に東日本大震災からの復興のための予算が本格的に起動。復興需要が内需を押し上げ、ギャップの縮小につながるとみられたが、外需の不振で計算が狂った。
民主党政権の対応は後手に回った。環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への対応やエネルギー関連で政策は迷走が続く。4月にはデフレ対策を検討する閣僚会議をつくったが、まとめた報告書は中期的な問題の羅列に近い。
野田佳彦政権肝煎りの成長戦略である日本再生戦略は12年度からの2年間をデフレ脱却への集中期間と位置づけ、規制改革などの政策総動員をうたった。これも内容に新味は欠け、実行力も伴わなかった。
政権の具体的なアクションは予備費を活用した少額の経済対策だけ。いきおい日銀に対する追加緩和圧力が強まった。師走の衆院選でも、金融政策のあり方は大きな争点となった。
そして12月16日。大胆な金融緩和と公共事業の拡大を掲げた安倍晋三総裁率いる自民党が大勝。政権発足前から10兆円規模の補正予算の方針が叫ばれ、日銀は追加緩和や物価目標の検討表明に追い込まれた。
円安・株高のなかで迎えた年の瀬。海外経済の先行きに明るい兆しも入り交じる。市場では「年末にも景気後退局面が終了する」との見方が浮上。景気好転に向けた期待が漂う。
日銀への政治圧力は時の政権が経済成長への確たる処方箋を持たないことの裏返しにも映る。国債増発を伴う公共事業の拡大も、財政健全化と経済成長の両立が課せられた日本にとって最良の道なのかどうか。年明け以降、安倍政権の経済政策運営は早くも正念場を迎える。
[日経新聞12月31日朝刊P.12]
金融政策 守勢の日銀
政治圧力の高まりで守勢に立たされた日銀。年前半こそ積極姿勢が功を奏したものの、年央以降は苦しい金融政策運営を迫られた。衆院選での自民党大勝で、最後には安倍晋三総裁の要求を「丸のみ」するに至った。日銀総裁の任期も迎える2013年は金融政策のあり方が問われる。
「久しぶりにいいプレゼントをもらった」。円高に神経をとがらせていた財務省の幹部は、円相場の下落を告げるボードを見上げながらつぶやいた。2月14日、日銀が金融政策決定会合で決めた内容は市場に驚きをもたらし、「バレンタイン緩和」と呼ばれた。
資産買い取り枠の10兆円の積み増しに加え、中長期的な物価上昇率の「めど」を当面1%程度とする方針を打ち出した。
それに先立つ1月下旬、米連邦準備理事会(FRB)が長期の物価安定の「ゴール」を2%と公表。組織としての「めざす物価上昇率」を公表していない日銀への批判が高まるのを見越し、機動的に対応した。「日銀は変わった」との印象から円安・株高が進んだ。
この成功体験が日銀を苦しめる。「めど」を海外向けの文書で「ゴール」と英訳したことから「インフレ目標」とみなした海外の投資家も多かった。その後の会合で1%の物価上昇が見通せないのに対応しない日銀の姿に失望が広がり、円高圧力が高まっていく。
4月下旬には基金を5兆円の幅で純増させる追加緩和に動いたが、むしろ「小出し」との批判も生んだ。9月の追加緩和は欧州中央銀行(ECB)が南欧国債の無制限購入を発表し、FRBも量的緩和第3弾(QE3)の導入を決めた直後。「緩和が後手に回っている」との印象を覆すまでには至らなかった。
景気の後退色が強まるなかで、民主党政権内には次第に「バレンタイン緩和は何だったのか」との不満が募っていく。
消費増税の決定という要因も重なる。民主、自民、公明の3党は6月、14年4月からの税率引き上げで合意。「経済状況の好転」が条件となり、最終判断の時期とされる13年秋ごろに向け、景気底上げとデフレ脱却が最優先課題となった。
10月以降の決定会合には経済財政担当相になった前原誠司氏が自ら出席。追加金融緩和を決めた同30日の会合では日銀の白川方明総裁、城島光力財務相との連名で、政府・日銀が協調して早期のデフレ脱却をめざすとする初めての「共同文書」を公表した。
政治の「日銀頼み」は11月の衆院解散以降、さらに加速する。政権奪還をねらった自民党の安倍晋三総裁が繰り返し訴えたのが、「大胆な金融政策」だ。
安倍氏は2%の物価上昇率を目標として掲げ、新政権と協定を結ぶよう強く求めた。一時は日銀法改正にも言及。民主党政権で対日銀の急先鋒(せんぽう)だった前原氏をして「我々はデフレの責任を日銀だけに負わせる考えはない」と言わしめるほどだった。
そして自民党が大勝。「民意」を盾に迫る安倍氏に、白川総裁もゼロ回答は選べなかった。安倍政権は日銀総裁が出席する経済財政諮問会議を復活。担当大臣に甘利明経済再生相を充てた。諮問会議は政府・日銀の政策協定を議論する場になる公算が大きい。
この選択が政府と日銀の緊密な協調に向けた大きな一歩となり、デフレ克服への転機となるのか。日銀の独立性の低下が、やがて市場や経済に弊害をもたらすのか。総裁人事とも絡み、13年の最大の焦点となる。
[日経新聞12月31日朝刊P.12]
<電子版これが読まれた>回り始めた脱円高・デフレの歯車 12月21日公開
1年かけて回り道をした末に、ようやくたどり着いたといったところか。日銀は12月20日の金融政策決定会合で、来年1月に向けて物価目標の導入を検討する方針を打ち出した。野田佳彦首相が11月14日に衆院解散の意向を表明してから1カ月余り。自民党の安倍晋三総裁が主張する「アベノミクス」から生じた円安・株高の流れは、より確かなものになる可能性が強まっている。
円相場は1ドル=84円台まで下落し、日経平均株価は1万円の大台を回復した。9月の経常収支が季節調整値で31年半ぶりの赤字に転落するなかで、思い切った金融緩和を旗頭に円高とデフレからの脱却を目指す「アベノミクス」に市場が反応。ようやく待ち望んだ相場環境が実現したと感じる人も多いはずだ。だが振り返ると2〜3月の相場環境と表面上は何ら変わっていない。当時も84円台、1万円台まで円安・株高が進んだ。背景にあったのも1月の経常収支が赤字に転じ、日銀が事実上の物価目標を導入したこと。今とそっくりの環境だ。
2〜3月の円安・株高が失速したのは、日銀の金融緩和姿勢に市場が疑念を抱いたからだ。だが今回は、新政権が日銀に圧力をかけることで、市場は日銀が積極的な金融緩和を打ち出し続けざるを得ないとの見方を強めている。日銀に対する政治の関与が強まりすぎると、金融政策への信認が揺らぐ懸念も生じる。ただ政府・日銀が一体で取り組む構図が鮮明になったことで、市場が長引く円高・デフレから脱却できるのではないかという期待を抱いていることは間違いない。
(編集委員 小栗太)
=肩書は当時
[日経新聞12月31日朝刊P.12]
<あのとき この一言>白川方明日銀総裁
「次回会合において中長期的な物価の安定について検討することにした」
白川方明日銀総裁が12月20日の金融政策決定会合後の記者会見で、日銀として物価上昇率目標の導入を検討すると明言した。衆院選で2%の物価上昇率目標を強く求めた自民党が圧勝し、それまで慎重だった日銀も導入を検討せざるを得なくなった。
[日経新聞12月31日朝刊P.12]
電機、韓国勢の背中追う
日本の製造業が正念場に立たされている。パナソニックやシャープなど電機メーカーは巨額の赤字に沈み、自動車各社は中国市場で苦戦を余儀なくされている。比較的強い競争力を維持する素材関連企業も海外移転を加速する。安倍政権誕生の前後から円高は一服した感があるものの、企業を取り巻く競争環境は依然、厳しい。今後も国際競争を勝ち抜けるかどうか。各社の成長戦略が問われている。
「デジタル家電の領域で、当社は負け組になっている」。2013年3月期まで2期連続で7000億円以上の連結最終赤字を計上するパナソニック。津賀一宏社長は10月末の記者会見で、自社の現状を厳しく評価した。合理化などの効果で営業利益は前期の3倍強となる1400億円に回復するが、自動車部品などを除く主要部門で軒並み減収となる。
事情はデジタル家電のもう一方の雄であるソニーも似ている。今期は黒字化を見込むが、テレビなどエレクトロニクス事業の不振で12年3月期まで4期連続で連結最終赤字を計上。12年4月に就任した平井一夫社長兼最高経営責任者(CEO)の下で不採算事業の売却や人員削減などを通じた経営効率化を進める。
1ドル=80円前後という歴史的な超円高が定着し、日本企業はアジア勢に対して輸出競争力が大幅に低下した。国内の電力値上げなど、新たな負担も発生している。テレビ世界最大手のサムスン電子や同2位のLG電子など韓国勢との価格競争も激化。サムスンなどはウォン安を追い風に欧米市場でシェアを獲得した。
一方の日本勢は戦線縮小が続く。パナソニックはスマートフォンで米アップルやサムスンの牙城を崩せず、今春に再参入したばかりの欧州市場から今年度に撤退することを決めた。かつて世界最大手だったソニーのテレビ事業は今ではサムスンなどの後じんを拝し3位に沈む。現状、韓国勢の背中は相当遠い。
日本勢の不振の原因は外部環境の悪化だけではなさそうだ。パナソニックの津賀社長は「メーカー視点の技術開発に走り、顧客目線を忘れていた」と指摘。デザインなど、海外企業に劣る点があったと認める。今期4500億円の最終赤字となるシャープの奥田隆司社長も「良い技術があっても、マーケットに受け入れられるかどうかという取り組みが不十分だった」と反省する。
パナソニックは10月に本社部門をスリム化する組織改革を実施。「スピードを上げなければならない」(津賀社長)と意思決定のあり方から見直し、業績の立て直しを急ぐ。
ソニーはサムスンとの液晶パネル合弁事業を12年1月に解消。台湾勢などにも調達先を広げることでパネル調達費の削減を進める。さらに高採算が見込める大型の上級機種に製品数を絞り込むなどして14年3月期のテレビ事業黒字化を目指す。
加えて中小型液晶事業や化学事業の売却、グループ人員1万人の削減など「痛みを伴う改革」(平井CEO)にも積極的に取り組む決意だ。
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
有機ELテレビ、サムスン・LGが発売延期 部品量産に壁、採算合わず
【ソウル=尾島島雄】次世代テレビとして期待される「有機ELテレビ」を巡って、韓国サムスン電子は今年中としていた発売時期を2013年前半に延期する。LG電子も発売を来年に先送りした。高級テレビの需要拡大が見込みにくいうえ、製造コストが下がらず採算を確保できそうにないためだ。韓国勢が次世代のテレビ事業で技術の壁にぶつかっている。
有機ELテレビは表示装置として主流の液晶パネルに代わり、有機ELパネルを搭載した薄型テレビ。電圧をかけると発光するため、背面から照らすバックライトが不要で薄型にできる。薄型テレビ世界首位のサムスンは1月に米ラスベガスで開かれた家電見本市に55型の有機ELテレビを展示し、年内に市場投入すると表明していた。
だが、実際の製造現場では基幹部品である有機ELパネルで「(良品率を示す)歩留まりが上がらない」(関係者)状況だ。現状のまま発売すれば売れば売るほど赤字になる。技術力でイメージを向上させるメリットはあるが、それだけでは大幅な採算悪化を穴埋めしきれず、発売を延期せざるを得なくなった。
リビング用の大型の有機ELテレビは、日本や中国のメーカーも販売していない。サムスンには低消費電力で高画質というイメージが強い有機ELテレビを早期に投入して、高収益につなげる狙いがあった。だが液晶テレビの高画質化も進み、有機ELテレビの優位性は想定より薄れている。サムスン社内では、新たな発売時期について「早ければ来年1〜3月期」という声が出ている。
サムスンと同様に55型品を公表済みのLGも年内としていた発売時期を年明けに見送った。サムスンが赤緑青の三原色をガラス基板上に形成する手法で苦戦しているのに対して、LGはコストが安い別の方式を採用。試作段階ではサムスンに比べて不良品の比率が低いが、採算ラインには届いていないもようだ。
両社が苦戦する間、薄型テレビは新興国での普及の一巡と世界景気の減速により市場が頭打ちになっている。米NPDディスプレイサーチによると、12年の液晶テレビの市場規模は約1004億ドル(約8兆5500億円)と、11年より縮小する見込みだ。
日本勢では、ソニーとパナソニックが共同でテレビ用有機ELパネルを低コストで量産する技術を来年中に確立する方針だ。日本メーカーはサムスンやLGの製品化の時期を見極めたうえで、新市場が拡大する時期にあわせて大型画面の新製品を投入するとみられる。
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
自動車襲った「7重苦」
長引く円高や高い法人税、東日本大震災とそれに伴う電力不足など「6重苦」にあえぐ自動車業界。尖閣諸島問題に端を発する中国での日本車販売の急減が7つ目の課題として、日本の自動車メーカーに重くのしかかっている。
9月中旬、日本政府が沖縄県・尖閣諸島を国有化したことに反発する中国国民が50以上の主要都市で大規模なデモを開始。一部は暴徒化してトヨタ自動車やホンダなど日系メーカーの販売店に放火したり、中国人の乗る日系メーカー製の自動車を破壊したりした。
トヨタや日産自動車、ホンダなど日系大手6社の9、10月の中国での販売台数(工場出荷ベース)は前年同月に比べて4割以上減少した。「日本車が石を投げつけられているのを見て、買う勇気のある人はいないだろう」。ある中堅自動車メーカーの幹部はため息を漏らした。
11月は同26%減と減少幅は縮小したが、前年並みにはほど遠い。1〜11月の累計でも各社とも前年割れしており、2012年通年でも前年を下回ることがほぼ確実になっている。欧米メーカーや韓国の現代自動車は軒並み2ケタの伸びを保っている。中国国内の景気は減速感が強まっており、新車販売台数の伸びも鈍っているが、日系メーカーの顧客を取り込んだ格好だ。
ただ、日系メーカー各社とも、世界最大市場に育った中国を重視する姿勢に変わりはない。11月下旬に開幕した「中国広州国際汽車展覧会(広州モーターショー)」では、トヨタや日産が過去最大規模で出展。マツダや三菱自動車など中堅も前年並みの出展規模を確保した。トヨタの豊田章男社長は「今後もしっかり中国でビジネスをしていく」と強調する。
足元では「ショールームへの来場客はほぼ前年並みまで戻ってきた」(日産の志賀俊之最高執行責任者)というが、販売に結びつくまでは、なお時間がかかりそう。自動車は大きな買い物だけに、どこの国のブランドかよりも燃費や品質を重視して購入を決める消費者も多い。こうした顧客層を丁寧に取り込めるか。日系自動車メーカーの実力が試されている。
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
素材生産拠点、海外移転進む
三井化学は11月、100億円強を投じて食品包装などに使う特殊樹脂の工場をシンガポールに建設することを決めた。ポリエチレンの一種で、液体や粉末を完全に密閉し簡単には破れない機能を加えている。
高度技術を要し現在は千葉県の工場だけで生産する“虎の子”素材。だが「増産のために国内に投資するという選択肢は無かった」(田中稔一社長)という。
日本の製造業のとりでともいえる先端素材の海外移転が止まらない。国内市場が縮小する一方、アジアの新興諸国では生活を豊かにする様々な製品向けの需要が拡大。さらに円高の定着で、輸出は採算性が低下しており、国内生産にこだわっていられなくなった。
生き残りをかけた素材企業にとって、政治的緊張がある中国や韓国であっても有力な移転先だ。
東京応化工業は韓国でサムスン電子グループとの合弁会社を設立し、来夏から半導体向けフォトレジスト(感光性樹脂)の現地生産を始める。住友化学や宇部興産はスマートフォン向けの最新ディスプレー関連素材の韓国生産に着手。東レが韓国に建設中の炭素繊維工場は年明けから稼働を始める予定だ。対ドルの円高、ウォン安に加え、税制上の優遇措置も韓国進出の決め手の一つだ。
潜在需要が圧倒的に大きい中国も引き続き魅力的な進出先。信越化学工業は発光ダイオード(LED)などに使う「シリコーン」の生産を来年1月から始める。これまでは群馬と新潟、福井の国内3カ所で生産していたが、中国と周辺諸国の顧客を囲い込むために海外進出を決意した。新日鉄住金化学は電炉電極材料の新工場を江蘇省に建設する計画だ。
もっぱら国内市場だけに軸足を置いてきた製紙すら、海外展開に本腰を入れようとしている。業界最大手の王子ホールディングスは10月、インド進出を決めた。現地製紙大手のJKペーパーや丸紅と合弁会社をつくり、2014年1月から段ボール箱製造工場を稼働させる計画だ。
「6重苦、7重苦といわれる日本での経営環境が続く限り、我々は海外に活路を求めざるを得ない」(三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長)。安倍政権が発足して円高修正への動きは出ているが、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加議論が遅々として進まないとすれば、日本の産業空洞化はいっそう深刻になる。
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
<電子版これが読まれた>頼みの「プラチナバンド」に暗雲 10月15日公開
イー・アクセスの買収に続き、米携帯電話3位のスプリント・ネクステルの買収で近く合意するソフトバンク。派手な買収劇が注目を集める一方で、通信品質改善の切り札として7月に始めた「プラチナバンド」のサービス計画の先行きに暗雲が漂い始めているという。
「つながりにくい」との悪評に悩まされてきたソフトバンクの携帯電話サービス。ソフトバンクが決断したイー・アクセス買収にはそうした課題を一気に解消する狙いが込められていた。だが、「買収で得られる帯域だけでは間に合わず、通信品質改善は早晩『プラチナバンド』頼みになる」(業界関係者)。プラチナバンドとはソフトバンクが新たに割り当てられた900メガヘルツ帯の電波。ソフトバンクがこれまで使っている帯域よりも電波が届きやすいが、本来の3分の1しか使えていない。
なぜ、そんなことになっているのか。もともと900メガヘルツ帯のうち、3分の2はICタグの通信や業務用無線などの用途で多くの企業・自治体が使っている。既存の利用者に周波数を変えてもらわないとプラチナバンドをフル活用できない。電波法では2018年3月末までに立ち退くことになっていたが、ソフトバンクの希望で、14年3月末までにソフトバンクが利用者に立ち退きをお願いし、全面的にサービスを始める段取りとなっていた。しかし交渉は難航。孫正義社長はイー・アクセス買収会見で、立ち退き交渉を「電波の地上げ」と表現、「一生懸命、これまで使っている人から譲り受けるという行為をしなくてはいけない」と焦りをにじませた。
(松浦龍夫)
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
<あのとき この一言>パナソニックの津賀一宏社長
「いま、普通の会社ではないことを自覚するところからスタートしなければならない」
2012年10月31日、パナソニックの津賀一宏社長が決算説明会で語った。13年3月期に2期連続で7000億円以上の最終赤字という、前例のない業績見通しを発表。危機的状況を脱するには、社内の危機感が足りないとの思いがあった。
[日経新聞12月31日朝刊P.14]
支援巡り南北間で対立
2012年は世界が欧州債務危機の広がりに気をもんだ。スペインで銀行危機が表面化し、ギリシャは財政緊縮策の実行を巡って迷走。一時はユーロ離脱の懸念も膨らんだ。欧州危機の影響は域内にとどまらず、日米やアジア経済にも影を落とす。金融市場は落ち着きを取り戻したものの、新年も難しいかじ取りが続く。
2012年の欧州債務危機の主役は、スペインとギリシャだった。ギリシャのユーロ離脱や、ユーロ圏各国によるスペイン支援の観測が浮上。背景には支援する側の北部と求める側の南部の対立がある。13年も危機収束を模索する各国の駆け引きが続く。
スペインは5月に銀行危機が表面化。大手銀バンキアが不良債権処理に行き詰まり、国に支援を要請し国有化された。他の銀行も多額の不良債権を抱え、スペイン政府は6月にユーロ圏へ銀行部門の支援を申請。ユーロ圏は最大1千億ユーロの支援を決めた。
危機は地方財政にも拡大。財政が悪化した州政府から中央政府への支援要請も相次いだ。中央政府は地方向け基金を設けて州政府の支援に乗り出したが、中央政府の財政事情も苦しく、市場は不安を募らせた。
スペイン危機は、不動産バブルの崩壊が引き金となった。銀行は建設関連や不動産に、州政府も地方空港など公共施設に多額の資金を投資したが、世界的な金融危機でバブルが崩壊し、保有資産の価値が急落。今も負の遺産に苦しむ。
すでに国際通貨基金(IMF)やユーロ圏の支援を受けていたギリシャでは、財政再建策を巡り内政が迷走した。5月の議会選では、財政規律維持派と反緊縮財政派の対立で混乱し内閣を発足できず、再選挙を余儀なくされた。6月の再選挙で新首相に就任したサマラス氏は「国民はユーロ圏残留を選んだ」と財政再建路線の維持を宣言したが、IMFなどに財政再建のペースを緩めることを認めるよう要求した。
ユーロ圏は11月下旬、ようやくギリシャの債務削減で合意。既存融資の金利を引き下げ、返済期限も延長した。ギリシャへの融資凍結を解いて、財政再建を後押しする態勢は整えた。
欧州債務危機の対応を巡って、震源地となった南欧と、支援を担うドイツなど北部欧州の溝が鮮明になった。南欧側は「景気下支えを」と財政出動を要求。一方、メルケル独首相は「ドイツはユーロ圏の安定役」と幾度も反論。北部欧州の財政が悪化すれば、南欧支援の資金の出し手がいなくなると警告を繰り返す。
13年、ユーロ圏の成長率はほぼゼロとなる見通し。景気低迷が改革の足を引っ張る悪循環が、徐々に露見し始めている。危機対応はゆっくりと進んでいるものの、完全な克服への道のりは遠い。(パリ=竹内康雄)
[日経新聞12月31日朝刊P.18]
「ユーロ瓦解」恐怖目前に
市場は欧州債務危機の深刻化を受けて、「ユーロ瓦解」に身構え、幾度も混乱した。5月のギリシャ総選挙では急進左派連合が躍進し、ユーロ離脱が現実味を帯びた。6月にはユーロ圏第4位の経済規模を持つスペインの国債利回りが、ユーロ導入後初めて債務残高の膨張を招く「危険水域」とされる7%を超えた。
スペインでは財政悪化と金融不安の負の連鎖が止まらず、国債利回りの急騰を招いた。銀行から預金の流出が加速、大手格付け会社はスペインの国債の格付けをジャンク(投資不適格)すれすれまで下げた。欧州連合(EU)のファンロンパイ大統領はユーロ共同債の検討を要求し、イタリアのモンティ首相はユーロ圏の預金保険機構の設立を提案した。
市場は、動かない政治に「どこまで危機が広がるかわからない」と混乱を深めた。仏流通大手カルフールはギリシャから撤退を決め、英通信大手ボーダフォンのように運転資金をユーロ圏以外に移す動きも相次いだ。独紙は「通貨をユーロからマルクに戻した場合は失業者が500万人に急増する」という独財務相の分析を報道した。ユーロ結束の揺らぎを感じさせた。
事態が沈静化に転じたのは6月末の首脳会議だ。欧州安定メカニズム(ESM)が各国の問題銀行に直接資本注入できる仕組みをドイツや北部欧州が承認。7月には欧州中央銀行(ECB)が方針を転換し、無制限の国債購入策を打ち出した。一時7%代後半まで上昇したスペインの10年物国債利回りは低下した。
ただ、本格的な危機対策は先送りが目立つ。EU首脳会議は今月14日、銀行監督の一元化で合意したが、導入は2014年春以降となる見通し。ユーロ圏の常設金融安全網の欧州安定メカニズム(ESM)が銀行に直接資本注入する制度も13年中の仕組み作りを目指すが、どんな銀行を対象にするかなど具体論では課題を残している。
さらに、ユーロ圏共通の銀行破綻処理制度の創設では合意したものの、預金保険制度に関しては棚上げしたままだ。欧州全体の「債務の共通化」や「財政移転」については方向性すら定まっていない。危機の本質である財政問題の解決に向けた本格的な議論に入るのは、13年秋のドイツ総選挙まで難しいとの観測が強い。(ロンドン=松崎雄典)
[日経新聞12月31日朝刊P.18]
<電子版これが読まれた>百家争鳴、決められぬ欧州 10月29日公開
ブリュッセルの夜は長い。10月18日の欧州連合(EU)首脳会議も初日の協議は午前3時まで延びた。4カ月前に首脳で合意したユーロ圏の銀行監督の一元化について「いつから実現するか」という入り口論を蒸し返し、南北欧州の対立が先鋭化した。
欧州中央銀行(ECB)が域内の銀行を一括して監督する体制は、安全網の欧州安定メカニズム(ESM)から問題銀行に直接資本を注入する危機対応策の前提だ。
市場を早くなだめたい南の国々。納税者のかぶるリスクを抑えたい北の国々。「2013年1月までに法制度を固めて、同年中に監督一元化を始動させる」という両論併記のEU合意は、6月の基本合意から最小限の進展しかしなかった。何よりも迅速な決断を迫る市場の圧力が一時的に薄れているためだ。
直接資本注入で基本合意した6月末の首脳会議は、財政と金融システムの不安が連鎖を起こすスペイン危機の最中だった。債務負担で苦しい国が問題銀行の資本増強も迫られ、不安視する市場で国債の利回り上昇が止まらない。「銀行と金融の危険な悪循環を断ち切る」という決意表明でユーロ圏首脳は火消ししたはずだった。ところが、ECBの大規模な南欧国債の買い支え方針が効いて市場が落ちつくと、早期決断を迫る圧力は薄れる。欧州はたちまち百家争鳴の状態に逆戻りする。
ユーロ圏を中心に欧州再生への歩みが少しずつ進んでいることは評価できる。だが今のような緩慢さで市場や世界の疑念を払拭できるとはいえない。
(編集委員 菅野幹雄)
[日経新聞12月31日朝刊P.18]
<あのとき この一言>ドラギECB総裁
「通貨ユーロを守るためなら何でもする」
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁が7月26日、ロンドンの講演で表明した。ECBは8月2日の理事会で、財政が悪化したスペイン支援のため無制限の国債購入策などを打ち出した。ドラギ総裁発言を機に、市場の欧州債務問題への不安が和らいだ。
[日経新聞12月31日朝刊P.18]
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