01. 2012年12月27日 11:09:24
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先進国経済:いつまでも与え続ける贈り物 2012年12月26日(Wed) The Economist (英エコノミスト誌 2012年12月22・29日合併号)先進国の政府が自国民に、そしてそれ以外のあらゆる人々に贈ることのできる季節の贈り物 英エコノミスト誌が考える最高のクリスマスプレゼントとは〔AFPBB News〕
ホリデーシーズンは幅の広がる考えを持てる時期だ。それはウエストの幅が広がる心配だけではない。この時期は、日々の単調な仕事から一歩離れ、違うやり方はできないかと考える時間を人々に与えてくれる。 想像力が足りなかったせいで、簡単な解決策が見えなくなっていたのではないだろうか? 少し努力すれば、2013年をずっと良い年にできるのではないか? 先進国の政府にとって、その答えは「イエス」だ。本誌(英エコノミスト)は、何もしなければかなり暗い1年になりそうな2013年に、景況感を高め、成長を後押しする3つの道を提案したい。 本誌の熱心な読者なら、その3つがすべて貿易自由化に関係していると聞いても驚かないだろう。何しろこれは、1843年に英国の保護貿易主義的な穀物法に反対するために創刊して以来、本誌が繰り返し取り上げてきたテーマなのだから。 だが、停滞している先進国の国境を開き、物品やサービスが自由に行き来できるようにすることで得られる利益は、やはり魅惑的に見える。この世界は、大抵の人が思っているほど統合されていない。そして貿易は、自由主義的な民主主義国家が、世界を繁栄へと導く案内人としての信認を回復するチャンスを与えてくれるものでもある。 クリスマスの最初の日に、愛する人からもらったものは・・・ 国際通貨基金(IMF)によれば、2013年の米国経済の成長率は約2%、日本と英国は1%前後となり、ユーロ圏に至っては、多少なりとも成長すれば幸運だという。この厳しい予測を改善するために、これらの経済圏の政策立案者者たちにできることは山ほどあるが、そのほとんどの選択肢は魅力のないものだ。 追加金融緩和による後押しは、回復に活力を与える役に立つかもしれないが、資産バブルを生み出す恐れがある。財政を拡大すれば、成長を促進する可能性はあるが、政府はさらなる債務に押しつぶされるかもしれない。 それに対して、貿易自由化にはお金がかからない。関係国の政府に求められるのは、少しばかりの法律関係の仕事と、ふんだんな政治的勇気だけだ。また、たとえ農家などの一部の圧力団体が激しく抵抗したとしても、経済全体にとって、障壁――国際市場を妨げる関税、助成金、お役所手続き――をなくすことから生まれる恩恵は大きい。 輸入する物品やサービスのコストが低下することで労働者の賃金の使いでが増す一方、輸出業者の市場は拡大する。貿易自由化のプラスの効果が経済全体に浸透するにつれ、生産性も向上していく。 障壁を打破する大きなチャンスが3つある。太平洋をまたぐ自由貿易協定である環太平洋経済連携協定(TPP)、大西洋をまたぐ米国と欧州連合(EU)の間の自由貿易協定、そして欧州内でのサービスの真の単一市場化だ。 障壁を打破する3つのチャンス いずれもかつては政治的な夢想にすぎなかったが、最近、どの取り組みも現実味を増してきており、今後1〜2年で大きく前進する可能性がある。これらは単独でも、景況感を高め、繁栄を導くだろうが、3つが一緒になれば、先進国の将来展望を一気に変えてしまう力がある。 理想の世界であれば、1つの大きな貿易協定が世界規模で締結されるだろう。すべての国の障壁を撤廃すれば、2国間や地域内で障壁を緩和するよりもはるかに効果がある。だが現実の世界では、最後に実施された世界規模での貿易交渉であるウルグアイ・ラウンドが1994年に終了し、その後継であるドーハ・ラウンドは瀕死の状態だ。 ジュネーブで無駄な骨折りを繰り返すよりも、今はむしろ、貿易交渉にあたる担当者が勢いを持ち、政治家たちが関心を寄せている場所で進展を図るべきだろう。つまり、環太平洋と大西洋の両岸だ。 TPPは、着々と前進している。メキシコ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、米国など、太平洋を囲む11カ国が交渉に参加している。来年には韓国も加わる可能性がある。日本も、新首相となる安倍晋三氏が自国経済の潜在能力を高めようと本気で考えるなら、参加するだろう。 もし日本と韓国が加われば、TPP参加国は、世界貿易で取引される物品とサービスの30%程度を占めることになる。しかもTPPには、関税撤廃以上の大志がある。 その最終目標は、規制から競争政策までを網羅する、はるかに大きな共同のルール集を徹底的に検討してまとめあげることだ。ある試算によれば、この取り決めにより、参加地域の国内総生産(GDP)が1%以上増加する可能性があるという。 大西洋をまたぐ貿易協定は、まだ単なる構想にすぎない。とはいえ、欧州の政治家たちが強力に推し進めようとしており、ヒラリー・クリントン米国務長官も、慎重ながら受け入れる構えを見せている。 こちらも、多くの可能性を秘めている。関税撤廃により、サプライチェーンが効率化し、生産性が高まる。規制基準に整合性を持たせれば、欧州で安全とされる車や薬を米国で再度検査する必要がなくなり、企業の負担が軽減される。ある分析によれば、関税を撤廃するだけでも、GDPが欧州では0.4%程度、米国では1ポイント増加するという。 こうした協定により、さらに広い範囲で世界規模の自由化が促進されれば、まさに大きな恩恵が得られるはずだ。特に、急速に成長する新興の経済大国が加わった時の効果は大きい。 だが、新興大国の参加は、当然と考えることはできない。TPPと米欧間協定により、世界が競い合う地域ブロックに分断され、そこから特に中国が排除されるシナリオもあり得る。だがそうした事態は、両協定の融合を容易にし、他国にも簡単に門戸を開けるようにすれば、避けられるはずだ。 どちらの協定も、同様のひな型を基盤とし、不要な制限規定――資本規制についても知的財産についても――を避け、中国やインドが受け入れを考えられるような一連の規則を策定することが望ましい。 先進国のGDPの増加という贈り物 国内市場に関して言えば、米国には、バラク・オバマ大統領が不要な行政手続きの撤廃に着手できる業界がいくらでもある。だが、欧州こそが域内に最も可能性を残している。 欧州では、域内GDPの70%以上を占めるサービスの大部分が、まだ単一市場から除外されている。例えば、EU内で海路により出荷される物品の40%には、通関手続きにより、過剰なお役所手続きとコストが追加されている。EUのいずれかの国で営業している鉄道会社は、別の国の国内路線を運営することができない。 オンライン市場も悩みの種だ。ヨーロッパ人にとっては、隣国よりも米国からオンラインで商品を購入する方が手っ取り早いケースも多い。撤廃する障壁の数によっては、EUのGDPは2.5%以上も拡大させられる。 政治家は皆、そのことが分かっている。ほとんどの政治家(フランスを除く)は、単一市場の拡大という概念に口先だけでも賛同している。今こそ実際に行動を起こすべき時だ。 貿易自由化と市場開放を支持することで、欧米は世界のほかの地域に対して、成長する方法を示してきた。最近では、グローバル化は、新興国で急増する中流階級と、一部の反自由主義的な独裁国家と関係している。2013年を、欧米がその信条―そして活力――を取り戻す年にしようではないか。 将来世代にツケを回す先進国の姿勢は「投資詐欺」
ドイツの同僚が掲げたすぐ取り組むべき10の打ち手 2012年12月26日(水) 御立 尚資 1920年に、チャールズ・ポンジという男が編み出した投資詐欺の手法がある。当時の急激なインフレ進行で、イタリアで購入する国際郵便の返信用クーポンを、米国で切手に交換すると相当なさや抜きが可能となっていた。ポンジはこれに目をつけ、45日間で50%のリターンを返せる、とうたって、出資者を募った。 実際には、後から出資した人のお金を、先に出資した人への支払いに充てるという単なる自転車操業で、いつかは破綻することは必至だった。しかし、後に「ポンジ・スキーム」と呼ばれるようになったこの仕掛けで、ポンジは数多くの投資家に現在価値で200億円近い損失を被らせたという。 最近、ドイツ人の同僚であるダニエル・ステルターが「現在の先進国経済の状況はポンジ・スキームそのもの、すぐに抜本的な手を打つべし」という趣旨の小論を書いた。ちょうど日本でも選挙が終わり、今後の社会・経済への処方箋の議論が再活性化するタイミングでもあるので、その内容を少しご紹介してみたい。 OECD18カ国の負債合計の対GDP比は30年間で倍増 前提となる認識は、2つに集約される。 第1に、先進国は押しなべて莫大な負債を抱えており、これは到底、通常のやり方では返済不能なレベルに達している。 第2に、一方で先進国の政治リーダーたちは、思い切った手を打つことを避け、結果的に、将来世代に対して大きなツケを回すことを選択している。これは、言い換えれば、後から来る人たちの支払いを当て込んで、今の人たちがメリットを享受するということであり、ステルター本人も認める通り、やや誇張して言えば、ポンジ・スキームそのものである。 国際決済銀行(BIS)の分析によれば、経済協力開発機構(OECD)に加盟している主要18カ国の政府、家計、(非金融)企業、各セクターの負債合計は、1980年にGDP(国内総生産)の160%だったのが、2010年には321%に達しているという。インフレを控除して、実質で見れば、政府の借金は4倍、家計は6倍、企業でも3倍、という恐るべき増え方だ。 当然ながら、借金が将来にメリットを生む投資に向かっていれば、問題は小さい。しかし実際には、増えた負債の多くは、利子の支払い、現在の消費、そして投機的なマネーゲームに費やされてしまった。 こうして、普通のやり方では、順調な返済が不能となった借金は、将来世代から現役世代への富のシフトを生んでいるだけではない。将来の経済成長力を弱める効果もあるため、将来世代の苦労をさらに重いものにしている。 ざっとこういう認識を述べた後、ステルターは、今すぐ思いきって取りかかるべき、10の打ち手を提言している。各国の置かれた状況の違いから、個々の打ち手の詳細については、カスタマイズが必要だとしつつ、大きな方向性は同じはずだ、というのが彼の意見だ。 彼の認識と照らして考えてみると、確かに、日本が直面している課題は先進国のほぼすべてに共通する課題だといえる。断固とした打ち手の策定・実行を先送りしがちな傾向も同様だ。あえて痛みを分かち合うというスタンスで、先送りのサイクルを断ち切らないと、世界的ハードランディングが不可避となる。 ステルターの、「先進国経済が、持続可能な成長軌道に戻るために必要な10のステップ」と題した提言の概略は以下の通りである。 持続可能な成長軌道に戻るための10のステップ (1)過剰な借金に対して、いますぐ断固とした対処を始める。 ポイントは、社会全体での認識共有。打ち手は、一部の借金棒引きとデットリストラクチャリング、財政緊縮、増税、インフレ、というすべて痛みを伴うものとなる。 (2)収入の裏付けのない将来債務を削減する。 最大の問題は年金。退職年齢引き上げ。支給額切り下げ。ヘルスケア改革(特に、治療結果データを重視した方向への抜本改革)。 (3)政府の仕事を効率化する。 社会保障の管理・運営コストを低減する。公的セクターに従事する労働力を削減し、より効率の高い民間へシフトする。政府が経済成長の邪魔をしている領域での政策を変更する。具体的には新規参入を阻害する規制、労働市場のフレキシビリティーを下げる規制、を改廃する。 (4)(少子高齢化による)労働力減少に備える。 高齢者・女性の労働参加率アップ。少子化対策の実行。 (5)「スマート・イミグレーション」政策を構築する。 閉じこもる日本型でも、社会に大きな問題を作ってしまったドイツ型でもない移民政策を構築する。十分に教育を受け、モチベーションが高く、移民先の国の経済成長に貢献できる移民に対して、オープンな政策を取る。手厚いインテグレーション(融合)政策。 (6)教育へ投資する。 平均的教育レベルを質的に底上げし、「教える側」の質も向上する。トップクラスの学生・生徒にイノベーションと起業家精神の重要性を植え付け、そこに向かうインセンティブを付与する。 (7)インフラ資本へ再投資する。 空港・鉄道・道路・電力グリッドなどの公的インフラ施設を近代化する。実行に際しては、民間の力を活用。新興国に投資してきた企業に対し、自国市場への投資を促す税制などのインセンティブを付与する。 (8)資源・エネルギー効率を大幅に改善する。 新エネルギー技術の開発・導入を促進する。原材料・エネルギーを効率的に使う製品と製造プロセスを促進する。 (9)先進国の経済改革へのグローバルな協力体制を構築する。 新興国も交えたグローバル協調の仕組みを作る。資源・エネルギー効率を新興国も含めて向上させるサポートを行う。 (10)「次のコンドラチェフの波」を起こそう! イノベーションのボトルネックを除去する。リスクテイクの奨励。特に欧州でのイノベーションと新技術に対する社会的受容度をアップする。 さて、いかがだろうか。 耳の痛い話を早めに語るのはあらゆるリーダーの役目 コンテクスト(文脈)は違っても、少なくとも中期的には、すべて日本にも必要な打ち手だと思える。 短期的に、金融政策と財政政策を使って、カンフル剤を打つかどうか、という点について、議論の余地はあるだろう。 しかし、もしそういった政策を実行する場合にも、中期的には持続可能な成長につながる、痛みも伴う「借金削減」の施策を、政府・家計・企業のすべてのセクターが協力して進めていかざるを得ないということを「明言し」「共有化する」ことが前提となる。 具体的には、貸し手も損失を享受し、有権者の反発を承知のうえで持続不可能な社会保障給付を削減する、という最も政治家が避けたがるポイントについて、社会全体の共同合意を早く醸成していくことが必須である。この際、全体としてのパイを維持・拡大し、痛みを少しでも和らげるため、規制緩和、教育投資を中心とした成長戦略を同時に実行する必要がある。 耳に痛い話を早めに語り、結果的に予想もしなかったようなハードランディングに巻き込まれることのないよう、この国をリードしていく。これは、政治のトップの仕事であると同時に、すべてのセクターのリーダーの仕事だと思う。 あえて、やや極端に振った議論を吹っ掛け、広い範囲の議論を巻き起こす。これは、長らくボストン・コンサルティング・グループの経営会議の同僚でもあるステルターの得意技だ。彼の今回の提言には日本でも既に議論の俎上に上っている話もあるが、現在の日本の状況を鑑みると、様々な分野のリーダーがこうした議論を仕掛けていく必要があるのではないかと改めて考えさせられ、ご紹介した次第だ。 ご参考:Daniel Stelter,“Ending the Era of Ponzi Finance: Ten Steps Developed Economies Must Take”(全文閲覧には会員登録が必要です) 御立 尚資(みたち・たかし) ボストン コンサルティング グループ日本代表。京都大学文学部卒。米ハーバード大学経営学修士(MBA with High Distinction)。日本航空を経て現在に至る。様々な業界に対し、事業戦略、グループ経営、M&A(合併・買収)などの戦略策定、実行支援、経営人材育成、組織能力向上などのプロジェクトを数多く手がけている。著書に『戦略「脳」を鍛える』(東洋経済新報社、2003年)、『使う力』(PHP研究所、2006年)、『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版社、2009年)など。
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。 【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載 経済成長が見込めない現実に向き合おう
誰のためのスマートシティなのか(その2) 2012年12月26日(水) 田中 芳夫 今回は、EU(欧州連合)によるスマートシティ関連の構想「Cities of tomorrow」から、欧州におけるスマートシティの発想や今後のカギとなるポイントを探ってみましょう。 まず、欧州では日本と同じように人口が減っていく傾向にあります。そして、都市部に人口が集中し、都市部が拡大する方向に進んでいます。これによって、交通渋滞などの課題が生じています。 移民が多いことも大きな課題です。当初は低所得者層に位置していた移民の層が、今後、経済的に中流層まで上がってきた時に、元々の中流層の生活が脅かされ、人種や階層間での敵対関係に発展しかねないといった問題を抱えています。こうした次世代の街の課題を解いていくために実施されるのが、欧州における都市の開発です。 しかも、情報通信技術の応用やスマートシティ化が進んでいった時には、所得の格差がさらに広がってくると予想されています。こうした課題を行政側と一緒に解決していく企業が必要になっています。 「持続的な成長は望めない」ことを自覚する欧州 街における暮らしが便利になることは、社会的な脱落者が生じる要因にもなります。現在の日本でもニートの増加など、社会全体が便利・快適で、裕福になったが故に生じている課題があります。こうした社会的な課題を解決に導いていくのが、本来のスマートシティの考え方です。 Cities of tomorrowには、欧州の弱点や課題が明確に示されています。特に感心したのは、欧州では今後、持続的な成長を望むことができないと断言していることです。日本では、いつまでも経済が成長し、GDP(国内総生産)が増え続けるという発想を捨てきれていません。欧州のように現実に向き合わないと、正しい施策を取ることができないでしょう。 日本には、経済成長原理主義者とでも呼ぶことができそうな、経済規模やGDPが伸び続けるという幻想を抱いている方々が多いです。このため難しいかもしれませんが、現実と正面から向き合うべきです。 欧州の場合、移民が増える一方で、人口は減っていくと予想しています。日本も同じように、人口は減っていきます。人口を減らしながらGDPを増やしていくには、外部からの富の移動、または新しい仕組みが必要になります。 こうした社会で確立された仕組みを輸出しようとしても、うまくいかないでしょう。どの国も、それぞれ自国の利益や発展を第一に考えるからです。 欧州ではこうした課題を、反対にチャンスに変える機会というように、ポジティブに捉えられています。実際、それぞれの都市が異なる時期や手法で開発されてきた経緯があり、それによる多様性を生かす方向で、グローバル経済における競争力と、持続可能な地域経済を融合していこうとしています。これらの都市の課題と、米国や日本などが抱える課題は違います。また、同じ日本の中でも、それぞれの地域によって課題は違います。 例えば、米国や中国のように土地が豊富にある環境であれば、日本の藤沢市のスマートシティのように、新たに街を作り上げるプロジェクトをあちこちで展開できるでしょう。現在でも米国では飛行場を大きくする際、既存の飛行場を拡張するのではなく、隣接地に新たにもう一つ飛行場をつくっています。 こうした開発が可能な国と、日本や欧州のように都市にふさわしい土地に制約があるために、現在の都市を維持しながら、新たな技術で変えていく必要がある国があります。 「ことづくり」に長けた企業がスマートシティを制す 都市をシステムとしてまとめあげていくためには、人材が必要です。そして、都市づくりは「ものづくり」ではなく、まさに「ことづくり」です。 ことづくりの発想に長けた企業と、ものづくりだけに固執している企業の間に大きな違いが出てくるのが、スマートシティの分野でしょう。特に管理や運用の仕組みが変わるために、そこを下支えできるIT企業にとっては大きなチャンスです。このチャンスを見込んで、海外のIT/コンサルティング企業は注力しているのでしょう。 こうした感覚と、「発電所をつくります」「電力を供給します」「逆浸透膜をつくります」などと、ものづくりだけに固執した取り組みとの間には、大きな差が出てくるでしょう。そもそも形のあるものだけで勝負していては、すぐに模倣されるハメになります。日本が今まで何度も経験してきたこと、すなわち欧米を真似てきて起きたことと同じことが起きるだけです。 先日、開催された「Smart City Week 2012」には、スウェーデンABBが参加していました。ABBは電力網関連製品の市場において、世界の約6割を抑えている企業です。また、独シーメンスが約3割となっているのに対して、日本の重電関連企業が占める割合は日立製作所と東芝、三菱重工業の合計で5%くらいです(先ごろ、三菱重工と日立による電力分野での事業統合が発表されました)。 日本の大手企業の合計が世界市場の5%に過ぎない現状では、世界のメーンプレーヤーとは呼べません。それなのにスマートシティのビジネスで、独力で世界の市場を切り開こうとしても実現は難しいでしょう。海外企業と連携して売り込むような工夫が必要です。 そもそも現在、日本の大学では強電系の電気工学科の人気が下がっています。「電気・電子」や「電気・情報」などの学科はあるかもしれませんが、強電系の学科や学生は少なくなっています。こうした背景を考えると、人材の確保を含めて、日本の中で競争している段階ではないのかもしれません。 地方の過疎化にどう臨むのか 日本のスマートシティに関連する課題を見てみましょう。まず、人口は減少していく傾向にあります。これは、欧州と同じ課題です。 また、地方の過疎化が想像していた以上に進んでいます。人が点々としか住んでおらず、しかも高齢化が進んでいるために、定年後は首都圏など大都市で働いてきた人々が過疎化が進む地方に戻って、高齢化世代の面倒を見ていかない限り、何もできない状態になりつつあります。 地方の中には、鉄道の駅の近くに老人ホームのようなマンションを建設して、こうした高齢者を集めようとする動きもあります。ただし、高齢者の皆さんがマンションに住みたがるのかどうかは疑問です。腰の調子が良い日には、畑を見に行ってみたいといった生活を望んでいるはずです。 このように地方の過疎化に対して、どのような解決策を準備できるのか、日本はまず取り組んでみるべきだと感じます。 そこでは現在、コミュニティバスなど注目される取り組みが登場しているほか、産業技術総合研究所(産総研)が宮城県気仙沼市で取り組んでいる「絆プロジェクト」のような、壊滅的な被害を受けた被災地の生活支援のための技術の支援に、研究者が直接取り組む例も出てきました。こういった活動に必要な技術のネタは、産総研などを見ている限り、日本にはたくさんあると感じています。これらの取り組みをさらに伸ばしていくことが、目指すべき方向性の一つでしょう。 田中 芳夫(たなか・よしお) 東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授 昭和48年東京理科大学工学部電気工学科卒業。 IBMにて研究・開発部門企画・事業推進担当理事、マイクロソフトCTOを経て、平成19年1月、青山学院大学大学院客員ビジネス法務専攻客員教授、同年7月独立行政法人 産業技術総合研究所 参与就任。 平成20年より現職。その間、業界団体、官公庁委員会、OECDなどにて委員として参加。 詳細なプロフィールはこちら 田中芳夫の技術と経営の接点・視点
日本の製造業を取り巻く環境が激変し、ものづくり企業が窮地に追い込まれている。 「いいものを作れば売れる」という過去の成功体験に縛られることなく、新たな方向へ踏み出さないと明日はない。 IBMやマイクロソフトなどで研究開発や経営などに深く関わり、現在、東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授の筆者が、MOT(技術経営)の視点を織り込みながら日本の製造業を叱咤激励する。
どうして「前年比」を超えないといけないんですか?
残響の売上高は凸凹です。それで何の問題もありません。 2012年12月27日(木) 河野 章宏 どうも、「バンドマン社長」河野です。 実は今回、僕は日経ビジネスの編集者と“けんか”をしました。 「河野さん、残響の売り上げの数字を出してください」と頼まれ、はいはいと提出したところ、グラフを見た編集者さんが「…うーん、基本的に右肩上がりだけど、ずいぶん波がありますよね。規模も小さいし、これって大企業に勤めている読者さんに、参考になるのかな、読んでもらえるのかなあ」と言われたんですね。これがそのグラフです。 思わずカチンときた僕は、食ってかかりました。
「右肩上がりを暗黙の前提にしてしまう経営は完全に古いと思っています。僕は、縦に伸びる経営より、横に広げる経営を目指したい。失礼ですが、『売上高』に対する考え方が、いまの世の中とずれているんじゃないですか?」 一瞬きょとんとした顔をした後、「…むしろそのお話聞きたいですね」と、食いついてきたのは、さすが編集者さんです(笑)。 とはいえ、彼の反応を見て、これは僕の考えの大前提から分かっていただかないと、すごくシンプルな話をしているのに、理解していただくのがすごく難しくなりそうだ、と感じました。 皆さんはどうでしょう。 上のグラフを見てやっぱり「なんだ、大波小波の中小企業か、参考にならないよ」と思うでしょうか。「売り上げの上下の理由を知りたい」と思うでしょうか。それとも「何を考えて、こういう上下動を許しているのだろう」と考えるでしょうか。 右肩上がりの幻想はいつまで続く? さくっと言ってしまえば、前回お話しした「自分が成功したパターンをすぐ捨てて、次へ行く」なんてことを真面目にやっていれば、売上高が上下動するのはもう当然です。僕はそれが一番確実な生き残りの方法だと思っているので、その考え方のコツや実践方法をお伝えしようと思っていたんですが、「前年割れしちゃうんじゃ、ダメだよ」というところでアタマが止まってしまうのでは、いくらお話ししても絶対伝わりません。 右肩上がりを否定なんてもちろんしません。 でも「会社は右肩上がりで当たり前、それ以外の話は聞く必要なし」というのがあなたの常識だったら、それはもう時代に合っていない。これは僕がいま強く言いたいことの一つではあります。 むしろ、右肩上がり、すなわち「前年比」を働く側、働かせる側が過度に意識すると、社長も、従業員も、外部の人も、そして何よりお客さんも不幸になり、結果前年比割れが待っている、のではないでしょうか。 今回は予定を変えて、皆さんの中に強くインプットされているらしき、「前年比スパイラルの罠」についてお話しさせていただきます。 偉そうなことを言うにはまず、自分の会社についてお話しするのが筋でしょう。 グラフにある売上高のピーク、2009年の数字は「9mm Parabellum Bullet(※)」の「初の武道館単独」による興行収益とグッズ販売で、瞬間風速的な売り上げ増(この興行だけで億単位)が発生したことによるものです。残響の定常的な数字は、2010〜2011年の3億円台後半〜4億円で、2011年は震災の影響で興行の売り上げがだいぶ落ちてこうなっています。 ※9mm Parabellum Bullet:2004年結成。2005年に残響がマネジメントを担当して以降、今や日本のロック・シーン最前線を担うまでに成長を遂げた4人組ロック・バンド。2009年の日本武道館公演の後、2011年には横浜アリーナでも単独公演を成功させている。 でも、僕は全然あわてていません。すごく乱暴に言えばウチの場合、「売上高が欲しいなら、興業を打てばいい」んです。 (写真:大槻 純一、以下同) アーティストの肉体、精神的な疲弊、現場のスタッフのやる気に目をつぶれば、「数千万円の売上を積み増せ?任せとけよ!」です。いくらでもできます。その数字をお見せして、読者の皆様や日経ビジネスの編集者さんを「おおっ!V字回復」と言わせるなんて造作もない。具体的には、ライブハウス規模での興行を10本よけいに打てば、それだけで1000万円の売上が立つ。利益も500万円近く出ます。これを何組かの所属アーティストに、やらせればいいだけの話です。
その代わり、こうした「前年比のお化粧」を行うことで、イベントでの新しい試み、音楽性を拡げる挑戦、といった手間がかかることに割く余裕はどんどんなくなっていき、「前回売れたグッズ」「確実にファンが喜ぶ音楽」に再投資を繰り返すことになるでしょう。これは今、苦境にあえぐ大手レコード会社が、まさに辿ってきた道です。 前年比の事情で発売されるCDたち 皆さんご存じの「年度末になぜか大量のCDリリース」はその実例です。業界の「決算書」を見栄えよくするための都合で、アーティストが犠牲になっているのです。年度末に大量のリリースを行っても、お客さんの数はそれに比例して伸びたりはしません。店頭は一時華やぎますが。決算が終わると大量の返品が付き物です。 もうひとつの例はベスト盤です。アーティストが自ら望んでリリースするなら喜ぶべきことだと思います。しかし、予算の都合でベスト盤を出さなければならないケースもとても多い。 こういうことを聞くと若い方は(僕もまあ、まだ若いですが)「業界の人間が金の亡者で、ミュージシャンを搾取している」と怒るかもしれませんが、そんな単純な話ではありません。音楽業界で働く社員の皆さんは、予算を達成しなければ、自分が応援したいアーティストの仕事を作ることはおろか、自分の席があるかどうかも疑わしい状態で、それでも熱心に「仕事」をしています。 問題は、その「仕事」の熱心さの向きが、前年比の予算合わせになっていることです。結果、きつい言い方をすれば、「自分の席を確保するだけのために、ミュージシャンが駒となって仕事をしなければならない」姿に成り果てています。 ミュージシャンは自分の音楽を愛してくれるお客さんのために曲を作り、詩を書き、演奏し、歌っているのであり、音楽業界の存続のために働いているのではない。 これって、誰が悪いという話ではなく、根本的に仕事の考え方が、過去に作られたシステムに縛られているためではないでしょうか? 僕はたまたま音楽業界にいるので自分が知っている例を挙げましたが、ゲーム、出版そのほか、年末にたくさん商品を出す業界って他にもいっぱいありますよね。起きている事はたぶん同じでしょう。 数字は誰でもが理解できる一番シンプルな指標です。最初は「目標を大勢の人間が共有するには、数字がいちばん誤解が少なくていいよね」というくらいの気持ちで取り決めたはずなのですが、いつのまにか数字が唯一最大の目標に転化してしまい、その達成のためなら、将来の資産をどぶに捨てるような無茶でも許されてしまう。いや、そういう無茶をしないと、手を抜いているかのような目で見られてしまう。 でも「たかが1年前との比較」のために、未来を投じてしまっていいのかな? というのが、僕の単純な疑問なんです。 「この商品を一番いい形で世に出すには?」 この「前年比スパイラル」を脱出するのはすごく簡単。「前年比で考えるの、やめます」と言えばいいんです。じゃ、代わりにどういう考え方をするのか? 数字は「結果だ」というふうに考えます。 我々の場合ならば、先ほど申し上げたとおり、残響の売上高はほとんどアーティストの興行(ライブ)で決まります。売上高の8割がライブ(物販を含みます)、残りがCDという感じです。売上高という数字を最優先するなら、ライブの本数を前年比で増やせば間違いない(その年に限って、ですが)。 数字を結果と捉える場合はどうなるか。「このアーティストを一番いい形で世に出していくのに、どのくらいの数、場所で興業を打つか」だけを考えます。 普通の会社で言えば、商品、サービスを、いちばん多く長く売れるタイミングで世に出すことを最優先し、それが年度をまたごうがどうしようが気にしない。そういうことになります。 このやり方を取って残響は成長してきました。正直に言えば、僕の経営がどう、というより、考え抜いて興業を打つことでアーティストが成長していくので、結果として勝手に毎年、売り上げが上がっているのです。 もちろん最低限の、会社を維持する数字だは決めてあり、それを全員で共有しています。固定費や活動にかかる費用などを計算すると誰でも同じ数字になるシンプルなものです。 それを経費に加えた上で「各アーティストの年間プランをざっくり出す→そこで生じる売り上げや利益を、みんなで持ち寄って計算する」という流れです。これで年間の大まかな収支が簡単に出ます。 この収支が赤字になるのなら、何をプラスするかのアイデアを出すだけ。黒字ならどれだけ黒字にするかを考える。アイデアが出なければ会社は倒産、黒字なら継続。それだけの話です。 成果が上がれば「休んでもいいよ」 僕はいつでも会社をたたむ覚悟はできていますが、社員やアーティストは会社がなくなると困るし、お客さんをがっかりさせたくないので毎年頑張る。 だからといって、「売上を伸ばすためにライブの本数を増やす」とはならないんです。僕は「闇雲に本数をこなしても力はつかない。ちゃんと考えながら1本ずつのライブをこなせないとダメだ」と思っているので、1本のライブのためにリハーサルから録画して詳細に確認し、動きを徹底的に研究しています。そういう取り組み方だと、ライブの本数も「質を保ったまま続けられる数」になる。 (あれ? ライブはその場限りのもので、「質を上げる」ことができるなって思っても見なかった、ですか? ぜひ、残響のバンドのライブに2回以上足を運んでみてください!) 残響の社員は、自分たちの担当するアーティストの成長に責任を持つ一方で、最低限の稼ぎさえ上げれば、「このアーティストは当面、インプットを増やすために休養させよう」という判断もありです。 彼らの打つ施策が常に当たるわけではない。失敗することだってたくさんあります。 僕はいつも「どんどん失敗しろ」と社員に言います。それは「お金を使って失敗することが大切だ」と思っているからです。 以前、ある社員が新しいサービスの企画を出してきました。僕はそれを聞いた時「ほぼ間違いなく失敗する」と思ったので、ストレートにそう言いました。それでも「勝算はある。やらせてほしい」と言うのでやらせてみると案の定失敗しました。で、数十万円の損が出た。 それで僕は「ね、分かったでしょ。勉強になってよかったじゃん」と声をかけた。このスタッフは内心、僕に叱責されるのではないかと思っていたようで、唖然としていましたが(笑)。これは皮肉でもなんでもなく、「失敗して、得られるものはたくさんある」という当たり前の話。うちの会社では、挑戦して失敗した人の方が評価は高いんです。 誰だって失敗はイヤ。だから冒険させるには工夫がいる
なんで失敗するのが分かっていてやらせたのかと言うと、「社員はなかなか冒険しないもの」だからです。 このケースでは、たまたま自分から積極的に提案してきたので、いい機会だと思ったわけです。「成功パターンを捨てろ」と言っても、通常はなかなかやらない。そこに罠が潜んでいます。同じやり方でずっと続けたい、という欲がどうしたって生まれますから。でも成功パターンはどうせすぐに陳腐化します。常に新しい方法論を考える方が、本当はよっぽど安全です。 「見たことのないところへ行く」という残響のモットーを守り、お客さんを驚かせ、愛され続けるには、冒険していいんだ、と、くどいくらい言葉と態度と実行で示さないとダメなんです。無茶ですかねえ。僕に言わせれば「新しいことをやれ、ただし前年比は維持しろ」なんてほうが、よっぽど無茶だと思うんですが。 (次回に続きます) 河野 章宏(こうの・あきひろ) 1974年生まれ。岡山県倉敷市出身。20代はミュージシャンをやりながらフリーター時代を過ごし、2004年に自主レーベル「残響レコード」を立ち上げる。10万円の資金からスタートし、2010年の決算ではグループ年商5億を売り上げる。ロックバンド「te'」のギタリストとしても活躍中。著書に『音楽ビジネス革命』(ヤマハミュージックメディア)。 バンドマン社長の「世界一単純な経営論」
フリーターが立ち上げた音楽レーベル「残響レコード」が、いま、日本のメジャーなレコード会社を翻弄している。音楽不況の時代に若い世代のミュージシャンとファンの心をがっちり掴み、12人の社員★で年商5億円をあっさり突破した。「作り方も売り方も変わった。中間にいる人が変わらなければ存在価値がない」――。実績を背景に語る、“若く”“単純で”“力強い”新しいビジネスの方法論。 |